泥棒中

キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2021年06月20日 13時19分17秒

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 その日、セロンガード・シュタインドルフは追い詰められていた。
 夕闇が迫りつつあるロモズ旧村内の、とある建屋の陰。
 周辺の村道には黒眼鏡に黒の礼服という、頭から足の先まで黒ずくめの人影――ハンター共の姿が幾つも徘徊している。彼らに発見されれば、事実上そこで終わりだ。とてもではないが、この包囲網の中では逃げ切ることなど出来ない。何とか終了時間まで隠れ続け、逃走し切った状態でタイムアップを待ちたい。
 その為には、ハンター共の司令塔にしてゲームマスターを自称するティトの目から、ひたすらに逃れ続けなければならない。
 果たして今のセロンガードに、ティトの追撃を免れる秘策は残されているのだろうか。
 仲間達は次々と捕らえられ、泥棒小屋に軟禁されている。残っているのは、セロンガードただひとりだけであった。
(俺、この戦いが終わったら、伝えるんだ……正直(懇願)な気持ち(謝罪)を)
 彼はひとつ、大きな過ちをやらかした。その点は素直に認める。
 だが、こんな形で勝負となった以上は、ティトの容赦無い攻めにただじっと耐え、翻弄されるだけで終わらせるつもりはない。
 何が何でも逃げ切ってやると心の内で拳を握り締める。
 否、そもそもこんな勝負をやらされる破目になったのも、元はといえばセロンガードの側に原因があったのだが。

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 日が遡ること、前日。
 ある問題が切欠となり、ロモズ歩兵団遊兵7番隊はふたつの班へと分けられ、ロモズ旧村を舞台とした特殊訓練に臨むこととなった。
 その訓練内容はケンドロ。語源は憲兵泥棒ごっこともいわれているが、正確なところは分からない。
 ルールは単純で、要は集団同士での鬼ごっこ。但し鬼役としての憲兵は固定で、片方のチーム(鬼役)がもう片方のチーム(逃走役)を一方的に追いかける役回りとなる。
 捕まった逃走役(泥棒)は一カ所へと集められる。一般的によく見られるのは、解放ルールだ。未捕縛の逃走役が条件を満たすことで、捕まった仲間を解放することが可能だというもので、これも地方によっては幾つかのバリエーションが存在するらしい。
 今回の特殊訓練では普通の泥棒解放ルールは採択されなかったが、不思議とブーイングのひとつも湧き起こらなかった。
 だが何より恐ろしいのは、泥棒が全員捕まってしまった場合、恐ろしいお仕置きが待っていることだ。
「ひとりでも逃げ切れば、君達の勝ち。今回のことは無罪放免にしてあげる。でも、もしも全員捕まえられたら……とっておきのお仕置き(パカ倫的に不適切な刑罰)だからね」
 昼下がりの練兵場の一角。黒い礼服姿で仁王立ちになるティトは、黒眼鏡の奥で猛禽類の如き獰猛な眼光を煌めかせた。
 セロンガードと数名の遊兵7番隊員達は何故か正座で横一列に座らされ、矢張り同じく黒ずくめ姿となっている残りの7番隊員達に取り囲まれている。
 完全に叱っている側と叱られている側の構図であった。
 一体、何があったのか。
 更にもう半日程度、時間を遡らなければならない。

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 深夜、ロモズ旧村内――兵舎内の、とある一室にて。
(ふっ……矢張り部隊でこそこそとやる賭博はやめられないな……癖になる)
 木椅子の背もたれに上体を預けているセロンガードは配られたカードの組み合わせにじっと視線を落としながら、内心で苦笑を漏らす。
 彼の前には数名の遊兵7番隊員達の姿がある。全員、年若い男性だ。いずれもセロンガードと同じく、カードを複数枚、手にしていた。
 今、ここで開かれているのはセロンガード主催の秘密の賭場であった。他の隊はいざ知らず、少なくとも遊兵7番隊では隊長ティトが発令した方針のもと、賭博の類は一切禁止されている。
 賭博以外にも隊内の風紀を乱す行為は軒並み禁止となっており、兵舎内には時折、見回りが放たれる程の徹底した管理が行われている。
 いつでも次の見回りの接近時刻を把握し、ティトの動きを警戒しているセロンガード。その抜け目無さに、賭場に誘われた若い隊員達はすっかり安心し切っていた。
「さぁ次は君の番だ。どのカードを交換する……やばい、隊長だッ!」
 燭台の薄明かりの中で、セロンガードは珍しく慌てた。ティトの気配が思いもよらぬタイミングで室の周辺に出現したのである。現場を押さえられたら、流石に弁解の余地無しだ。
「全員ずらかるぞッ! 早く逃げ……」
「どこに逃げるっていうんだい?」
 セロンガードの声はしかし、その背後から突然投げかけられてきた低いトーンに遮られた。
 その場の全員が恐る恐る視線を這わせてゆくと、室の隅に置かれた椅子に、いつの間にかティトが腰かけている姿があった。
「あ……やぁティト。怖い顔をしてどうしたのですか?」
 何とかその場を取り繕おうと頑張るセロンガード。しかし完全なる現行犯だ。言い訳も出来ない。

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 過日、ティトはセロンガードが一部の若い隊員達と賭場を開いているとの報告に耳を疑った。
(そんな、セロンが……ぼくのセロンが、ぼくの知らないところで、ぼくの部下といけないことをしていた……ぼくの……ぼくの……)
 隊長用執務室でひとり、まるでこの世の終わりでも見た様な青ざめた表情で、ティトはぐるぐると思考を回転させていた。
 信じられない、信じたくない。あのセロンガードが、ティトの大事な兵を悪の道に誘い込むなど、あろう筈が無い。きっと何かの間違いだ。そうだ、そうに違いない。
 だが、フランクス商会から手渡された借用書には、セロンガードの名が明記されている。借入額は些細な数字だが、セロンガードがティトに隠れて借金を申し込んでいたという事実は、彼女のメンタルを大いに打ちのめしていた。
(そうだ……自分の目で確かめよう)
 そしてその日の夜。
 ティトは賭場に参加していた若い隊員のひとりを無理矢理説き伏せ、賭場が開かれている室の隅に早い段階から潜伏していた。
 そうとは知らず、セロンガード達は呑気に賭場を開いた。最初から最後まで、全部ティトに見られていたのである。
 最早言い訳無用。ティトは粛清することを決めた。
「セロンガード・シュタインドルフ。ぼくと勝負をしよう。明日の午後一から半日、ケンドロする、よ」
 こうしてその翌日、セロンガードと共犯の隊員達は練兵場で正座させられていた、という訳である。

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 泥棒役の隊員達は次々とハンター(憲兵役)の餌食となった。
 ティトはあらゆる技能を駆使し、泥棒役の隊員達を片っ端から追い詰め、最後は部下のハンター達に仕留めさせる。場合によってはティト自ら体を張り、生足を披露して泥棒役の意識をハンターから逸らすなどの芸当もやってのけた。
 これに対しセロンガードは、ロモズ歩兵団長の仮住まいである旧村長宅を逃げ込み場所に選定していた。流石にここまでは追ってこれないだろうと高をくくっていたセロンガードだが、何とかその軒先に逃げ込んだ時には驚愕の余り、その場に凍り付いてしまった。
「そんな……嘘……だろ……?」
 旧村長宅の玄関扉を開け放ったその向こう側に、ティトの黒装束がそこにあった。
 セロンガード、最後の最後で、見つかった。
「ゲェムオゥヴァァ」
 わざとらしく顎をしゃくり、変な発音でセロンガードに死刑宣告を放つティト。
 そこへ黒ずくめのハンター達が左右からそっと忍び寄り、セロンガードを連行していった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0