新しい家族。その名も――

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年06月18日 15時21分28秒


 ――ザワザワザワザワ。

 その日、屋敷は騒然となっていた。

「あ、あの、エルゼリオ坊ちゃま……」
 メイドの一人が上機嫌のエルゼリオ・レイノーラに恐る恐る問いかける。
「これは一体……」
「あっ、これ? 可愛いでしょ! この間、エドゥノーグの迷宮で捕まえたんだ!」
 檻の中身をそれはもう嬉しそうに眺めるエルゼリオ。
 鉄製の檻の中に入っていたもの。それは――。

 ずんぐりとした胴体に丸みを帯びた三角の頭部。濡れた様にキラキラ輝くオペラピンクのど派手な鱗も艶やかに、大きな真ん丸の瞳はエメラルドグリーン。宝石職人が悪戯で作り上げたとしか思えない造詣なのに、それは確かに動き、生きていた。

「う、動いてますけど……」
 興味があるのか怖いもの見たさかメイドの一人が檻を覗き込む。
「そりゃ動いてるよ。生きてるんだもん」
 そんなメイドにエルゼリオは困ったように答えた。
「これはなんなんですか……?」
「え? 見てわからない?」
「は、はい、残念ながら……」
 意外そうに聞き返すエルゼリオ。しかし、メイドは知らないよねと同僚のメイド達に視線で問い合わせる。もちろん、答えは揃って「知らない」だった。
「これは『迷宮ツチノコ』だよ! 名前はツッチー!」
 そんなメイド達のやり取りに気付いているのかいないのか、エルゼリオは自慢げに胸を張りつつ檻のドアを開けた。
 無警戒に檻に手を突っ込むエルゼリオを、メイド達はあわあわと不安げに見つめる。
「ほら、すごく賢くて大人しいんだ!」
 取り出されたどピンクの生物を愛おしそうに撫でるエルゼリオに、メイド達はびくりと肩をすくませた。
「触りたい人がいるなら、触らせてあげてもいいよ? あんまり知らない人に触られるとストレスで弱っちゃうから、先着で一人だけね!」
 と、エルゼリオはにこにことメイド達を見るが、もちろん手を上げる者などいない。
 メイド達は互いにけん制し合い、「お前行けよ」「嫌だよ、お前こそ!」みたいな感じに生贄リレーを始める始末。
「遠慮しなくてもいいんだよ? あ、キミどう?」
 エルゼリオはふと目が合ったメイドに問いかけるも、メイドは必死の形相で頭を振って遠慮した。
「そう? それじゃ……」
 と、エルゼリオが別の生贄(幸運なメイド)を選びだそうとした、その時だった。

「今帰ったぞ!」

 玄関のドアを必要以上に全開して、当主のハスラム・レイノーラが帰ってきた。
「うん? なんだエルゼリオ、戻ってやがったのか」
 と、エントランスの真ん中で佇む息子の姿を確認し、ハスラムは声をかける。
「お帰りなさい、父上。今日もお城に行ってたの?」
「ああ」
 メイドに外套を手渡しつつ、ハスラムがエルゼリオの元に歩いてきた。
「手前ェこそどうしたよ……って、なんだその気持ちわりぃ生き物は」
 ハスラムはエルゼリオの手に収まっている迷宮ツチノコに視線を落とすと、綺麗な顔をグッとしかめる。
「気持ち悪いってなんなのさ! こんなに可愛いじゃないか!」
 そんな父親の言葉に、エルゼリオは珍しく反論。むすっと口をとがらせるとツッチーをハスラムの前に持ち上げた。
「『迷宮ツチノコ』! エドゥノーグの迷宮で捕まえたんだ!」
「エドゥノーグ? あぁ、迷宮都市か。……しっかし、相変わらず変なもんが湧いてるみてぇだな」
 目の前に持ち上げられたど派手な生物を見つめつつ、ハスラムが零すと――。

 ――キュッ。

 耳慣れない『音』がエントランスに響いた。
「うん? 何の音だ」
 ハスラムはきょろきょろと辺りを伺う。メイド達もつられて周りを見るが、音の発生源がなんなのか見当もつかない。
「はは~ん、父上」
 と、そんなハスラムにエルゼリオがニヤリと笑いながら声をかけた。
「あぁ? なんだ」
「怒らせたね?」
「はぁ? なにをだよ」
「この子だよ」
 と、エルゼリオは再びツッチーをハスラムの前に掲げる。
「一体何の事だ。なんで俺様が……おい、この蛇、俺様を睨んでやがるぞ」
 ハスラムが言うように、エメラルドグリーンの大きな瞳がハスラムをじっと睨み付けている――ようにも見えた。
「蛇じゃないよ、ツッチーだよ。この子頭いいから、父上が邪険にしたことに怒ったのかも。もっとちゃんと接してあげないと」
「なんで俺様がたかだか蛇一匹に気を遣わなきゃならねぇんだよ」
 ツッチー同様、機嫌を悪くしている末息子に、ハスラムは再び眉をしかめた。
「この子賢いから、ヒトの言ってる事がわかるみたいなんだよね。だから、変なこと言わない方がいいよ」
「だからなんで俺様が……もういい、俺様は疲れた。おい、部屋の用意はできてるな!」
 ハスラムは呆れるようにエルゼリオに言い放つと、メイドに向け声をかける。
 メイドはこくりと頷き、ハスラムを先導するよに奥へと足を向けたのだが――。

 ――ピョン。

「うおぉぉっ!?」
 突然ツッチーが、エルゼリオの脇を通り過ぎようとしたハスラムの頭に向かって大きく跳躍した。
 ハスラムは家人の誰も聞いた事のない様な声を上げ、慌ててツッチーを払い落そうともがくも、ツッチーはしてやったりとエルゼリオの手へと再び跳躍し戻っている。
「……このくそ蛇。俺様の頭に乗っかるとはいい度胸だ」
 足を止めたハスラムがゆっくりとエルゼリオの手元へ視線を向ける。
 めらめらと燃える様な炎を瞳に宿し、ツッチーを睨み付けながら、腰に下げた剣の柄に手を添えた。
「ち、父上!?」
 今にも剣を抜きそうなハスラムに、エルゼリオがツッチーを慌てて背後に隠す。
「エルゼリオ、そいつを差し出せ。今ならお前は斬らないでおいてやる」
 そう言いつつじりじりと距離を詰めるハスラム。
「で、出来るわけないでしょ! ちょっと悪戯したくらいで大人げないよ、父上!」
 一方、エルゼリオはツッチーを背中に隠し、じりじりと後退した。
 一触即発。授恵者同士の親子喧嘩に、一般人である家人たちは手を出せる訳もなく、ドキドキハラハラと成り行きを見守るしかない。
「エルゼリオ、手前ェはヒーラーだ。身体が半分にぶった切れても治るよなぁ」
「いや、治らないし!? 離れたものがくっつくわけないでしょ!!??」
「大丈夫だ、切り口もわからないくらいスパッと綺麗に斬ってやる。ありがたく思えよ?」
「不穏!? って言うか目が本気なんだけど!!」
 ついに剣を抜き放ったハスラムに、エルゼリオは思わず【堅甲】をかけ防御を固めた。

 ――ピョン……ぺちゃ。

「ふぉぉぉぉっ!!??」

 そんな時だった、再びジャンプしたツッチーが、エルゼリオを飛び越えハスラムの顔面にぷにぷにお腹で張り付いた。
 ハスラムはいきなり飛び込んできたぷにぷに感触と鱗の肌触りに、背筋に悪寒を走らせ悲鳴を上げる。
「こ、こいつ、離れろぉぉっ!! うううぉぉぉっっ!!??」
 愛剣をほっぽりだし、ハスラムは必死で顔面に張り付くツッチーを引きはがしにかかった。
 しかし、どういう原理かツッチーは一向にハスラムの顔から剥がれない。
「父上がこんなに取り乱すなんて……もしかして、蛇が苦手だったりする……?」
 今まで見た事もない父の醜態を、エルゼリオはぽかんと口を開けて見つめる。
「うおぉぉぉ!! なんかぬるぬるするぞぉぉぉ!!!」
 なおも続くハスラムの悲鳴ともがき。家人たちも初めて見るであろうハスラムの姿に困惑を隠せない。
「ツッチー、それくらいにしてあげて」
 と、エルゼリオが名を呼ぶと、ツッチーはハスラムと遊んでやるのを止め、再びぴょんと飛んでエルゼリオの元へと戻った。

 ツッチーはエルゼリオの頭の上に戻るや、ゾワゾワと身震いするハスラムをキリッと睨み付ける。やるなら相手をしてやると言わんばかりの迫力で。

「エ~ル~ゼ~リ~オ~……!!」

 解放されたハスラムの怒気が爆発的に膨らんだ。まるで可視できそうなほど膨れ上がった殺気がハスラムの身体から湧き立っている。そんな強烈な殺気に当てられたメイドの何人かは気を遣っていたほどに。

「なにかな、父上」

 それだけで強烈な殺気を一身に浴びるエルゼリオだったが、本人は意外なほどに平気。
 小さな笑みを浮かべながらハスラムに対峙する。

「そいつを寄こせ……ぶっ殺す!」

 ボキボキと拳を鳴らしながら距離を詰めるハスラム。

「そんなに近づいたらまた飛び掛かるよ?」

 ――ぴたっ。

「手前ェ……!」

「まさか父上が蛇を嫌いだったなんて、意外だったよ」
 距離を詰められない事をいい事に、エルゼリオはいつものお返しだとばかりに父に向かう。
「ねぇ、父上。この子、この屋敷で飼っていいかな?」
「はぁ!? いい訳ねぇだろうが! 何で蛇なんか飼わなきゃなんねぇんだ!!」
「蛇じゃないよ、迷宮ツチノコのツッチーだよ」
「どっちも一緒だ! とっとと捨ててこい!!」

 ――シャァ!

「ほら、そんな事言うからツッチーも怒っちゃったよ」
「うぐっ……!」
 エルゼリオの頭の上で低く唸り声を上げるツッチーに、ハスラムは一気に怒気を萎めた。
「眼につくとこでは飼わないからさ。お願い、父上! この通り! 家の皆もきっと歓迎してくれるよ! だって、こんなに父上に懐いているんだから」
 と、エルゼリオはチラリとメイド達を見やる。
 家人たちは最初どういう意味か分からず困惑していたが、ハスラムに無茶振りされた時に役に立つのではと閃いたようで、エルゼリオの提案にこくこくと頭を上下させていた。
「手前ェら……」
 そんな家人たちを忌々しくも見つめながらハスラムはエルゼリオを見る。
「……俺様の眼に触れたら捨てるからな」
「うんっ! わかった、絶対触れないようにする! ありがとう父上!!」
 小さく呟いてさっさと自室に引き上げていくハスラムに、エルゼリオは嬉しそうに礼を言った。

「やったね、ツッチー! これでお前もこの家の仲間だよ!」

 頭の上でキュイと返事するツッチーの頭を撫でながら、エルゼリオは嬉しそうにそう言った。

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