南のエルフ貴族少女と北のスパイ青年家庭教師の出会い
キャラクターノベル(グループ)制作 望月誠司納品 2021年06月17日 12時15分53秒
家庭教師なるものが来るらしい。
(なんで???)
というのが正直な所である。
十四歳のエルフの少女は内心で首を傾げていた。
セリーヌの成績は家庭教師が必要な程悪くは無い。
しかし、伯父曰くだと底上げでは無く、より良い上層を目指す為に必要だとかなんとかで。
(納得いくよーな、いかないよーな、なのよ)
今回は伯父が常と違って妙に強引だったような気がするのも微妙に気にかかる。
しかしながら、伯父は良くしてくれているので普段はあまり気にならないが、セリーヌは実子ではないが養って貰っている、という立場である。
伯父から「とりあえず見て貰いなさい、悪いようにはならないから」と言われれば、断り切れるものでもなかった。
ちなみにこの話を友人であるカーミラなどにした所「殿方なんですのよね? うら若き乙女が殿方と個室に長時間二人きり……何かされたら大声出すんですわよ! わたくしの名をお呼びなさい、すぐに乗り込みますから!」などと息まいていた。
まさかあの子近くの部屋で待機していたりするのだろうか?
(いや、カーミラでも流石にそれはないのよ……ないのよ……ない、のよ?)
もしかしたらあるのかもしれない。
あの性格からして、一度口に出して言ったからには、本当に呼べば飛んで来てくれる位置に待機してくれてそうだ。
あるいは使用人でも手配しているのかもしれない。同じ十四歳の少女であるカーミラが一人踏み込んだ所で武力的には出来る事は知れているから、そっちのがありえそうだ。
ともあれ、そう、やってくる家庭教師というのは男性であるらしいのだ。
セリーヌより二つ年上で十六歳の青年であるらしい。同じパンクリアース学園に通っている生徒なのだとか。
狩猟部のあのフィーネ達と同じ北の大国シルトラースからの留学生で、とても優秀な人であるのだそうな。
(男の人と個室に長時間二人きり……)
カーミラがあんな事言ってたもんだから、セリーヌはそのフレーズを思い出してしまった。
妙に落ち着かない気分になってしまう。
フィルエス大森林で暮らしていた幼い頃は、異性の事なんて特に意識もしていなかったし、伯父に引き取られてからは大切に育てられたからやっぱり異性との交流なんてなかった。
学園に入学してからも、エルフであるという事と派閥問題があり(それとセリーヌは気が付いていないが、カーミラと友人になってからは、実は彼女が怖くて並みの男は近寄れていなかったりする)同年代の男子とはほとんど話をしてこなかった。
セリーヌは男に対して免疫が無い。
(き、緊張して変な事しゃべっちゃったりしないかしら……? 変な子だって思われたらどうしよう……)
自分の挙動に対し自信が持てず、ハラハラするセリーヌである。
なおカーミラが言っていたような事に対する心配は本人は実は本気ではしていない。
個室で二人きりとは言ったって女子寮のど真ん中である訳だから、そうそう不埒な事は出来ないだろうし、そもそも家庭教師に選ばれるような優秀な年上の男の人がそんな事する訳ない、と思っている。おまけに自分は十四歳で子供である。色気たっぷりな年上のお姉さんとかではない。
年下の男子だったら、エルフだからといじわるされたり悪戯されたりする可能性はあるかもしれないが、二つも年上なお兄さんなら大丈夫だろう、上級生達は皆大人だし、という寸法だ。
危険である。
まったくもって危機意識の欠如であり、カーミラが隣の部屋でスタンバりたくなるのもわかろうというものだったが、本人には自分が無防備なのだという自覚はまるでなかった。
ともあれ、セリーヌがドキドキする心臓を抑えつつ寮内の自室でその時を待っていると、やがてノックの音と共に男性の声が響いた。
「こんにちは、家庭教師として遣わされましたセラン・フェルゼンブルクです。セリーヌさんはご在室でしょうか」
「は、はい!」
セリーヌは椅子から立ち上がると素早く部屋の出入り口へと駆け寄り扉を引いた。
現れたのは黒髪黒瞳の青年だった。
小柄なセリーヌよりも頭一つ以上背が高い。
青年はセリーヌの緑瞳と視線を合わせ、にこりと柔らかく微笑すると礼儀正しく貴族の所作で一礼し、
「お初にお目にかかります、私はセラン・フェルゼンブルクと申します。セリーヌさんでいらっしゃいますか?」
「はい、私がセリーヌです。貴方が、セラン殿なのですね。とても優秀な方だとお伺いしています。この度は私の為にお越しくださり、深く感謝を申し上げます」
「いえ、そこまで過分に褒め称えていただける程の者ではございません。セリーヌさんは学業優秀とうかがっておりますし、私でお役に立てれば良いのですが」
そんな会話をかわしつつ挨拶が一段落した所で「どうぞ、お入りになってください」とセリーヌが招くとセラン青年は「失礼します」との一礼と共にセリーヌの部屋の中に入って来てドアをガチャリと閉めた。
いつもより扉の音が良く響いて聞こえ、ドキリとする。
内心ドキドキしていたが、素知らぬ顔でセリーヌは青年を案内するとテーブルへの着席を勧めた。
青年はやはり折り目正しく礼を言って椅子に座り、セリーヌはいつもカーミラと茶会しているように(大体カーミラが振る舞ってくれる側だがセリーヌの側から振る舞う事もある)菓子を出しつつ、
「セラン殿は北のご出身とお聞きしていますが、紅茶に何かお好みなどはお持ちですか?」
「いえ、南のもので大丈夫ですよ。お構いなく」
そんな会話をかわしつつティーカップに紅茶を注いでゆく。
「有難うございます」
セラン青年は紅茶のカップに軽く口をつけた。
良く訓練された貴族の所作だ、とセリーヌは思った。
「とても美味しいですね」
セラン青年はにこりと微笑んだ。とても人の良さそうな笑みだ。だがこの時何故かセリーヌは以前カーミラに対したキャロラインの笑顔を思い出した。
理由はわからない。
やはり同じ北の人間だからなのだろうか?
「お口にあったようで良かった」
「ところで、私がシルトラース帝国の留学生だというのを……」
「はい、お聞きしております」
「なるほど。それでしたら話が早い、というのもなんですが、なにぶん、北は武辺の国でありますから、いささか礼に欠いた言動をしてしまったら、平原の田舎者が成す事であると御目溢しいただけましたらと」
「いえ、そんな、私も根っからの王国貴族という訳ではありませんから、作法には詳しくありませんし……シルトラースの方々はご立派でらっしゃると思いますよ。セラン殿はフィーネ・メローヴィング殿をご存じでしょうか?」
「ええ、銀髪赤眼のフィーネでしたら、共に北から留学してきた間柄です。良く知っていますよ」
「あぁやっぱり、フィーネ殿は狩猟部の先輩で、いつもご親切に弓や乗馬の事を教えていただいているんですよ」
「フィーネが人に親切に教える…………? 失礼、そのフィーネさんは、私の知っているフィーネとは別人かもしれませんね、もしかしたら」
「えっ? そんな事はないと思うんですけど……あ、あとキャロライン殿にも良くしていただいています」
「あぁキャロならそうでしょうね」
共通の知人がいるというのは初対面の時には話の種になりやすいものである。
フィーネやキャロラインとの狩猟部での活動を話しながら、セリーヌはセラン青年と互いの紹介を進めてゆくのだった。
(なんで???)
というのが正直な所である。
十四歳のエルフの少女は内心で首を傾げていた。
セリーヌの成績は家庭教師が必要な程悪くは無い。
しかし、伯父曰くだと底上げでは無く、より良い上層を目指す為に必要だとかなんとかで。
(納得いくよーな、いかないよーな、なのよ)
今回は伯父が常と違って妙に強引だったような気がするのも微妙に気にかかる。
しかしながら、伯父は良くしてくれているので普段はあまり気にならないが、セリーヌは実子ではないが養って貰っている、という立場である。
伯父から「とりあえず見て貰いなさい、悪いようにはならないから」と言われれば、断り切れるものでもなかった。
ちなみにこの話を友人であるカーミラなどにした所「殿方なんですのよね? うら若き乙女が殿方と個室に長時間二人きり……何かされたら大声出すんですわよ! わたくしの名をお呼びなさい、すぐに乗り込みますから!」などと息まいていた。
まさかあの子近くの部屋で待機していたりするのだろうか?
(いや、カーミラでも流石にそれはないのよ……ないのよ……ない、のよ?)
もしかしたらあるのかもしれない。
あの性格からして、一度口に出して言ったからには、本当に呼べば飛んで来てくれる位置に待機してくれてそうだ。
あるいは使用人でも手配しているのかもしれない。同じ十四歳の少女であるカーミラが一人踏み込んだ所で武力的には出来る事は知れているから、そっちのがありえそうだ。
ともあれ、そう、やってくる家庭教師というのは男性であるらしいのだ。
セリーヌより二つ年上で十六歳の青年であるらしい。同じパンクリアース学園に通っている生徒なのだとか。
狩猟部のあのフィーネ達と同じ北の大国シルトラースからの留学生で、とても優秀な人であるのだそうな。
(男の人と個室に長時間二人きり……)
カーミラがあんな事言ってたもんだから、セリーヌはそのフレーズを思い出してしまった。
妙に落ち着かない気分になってしまう。
フィルエス大森林で暮らしていた幼い頃は、異性の事なんて特に意識もしていなかったし、伯父に引き取られてからは大切に育てられたからやっぱり異性との交流なんてなかった。
学園に入学してからも、エルフであるという事と派閥問題があり(それとセリーヌは気が付いていないが、カーミラと友人になってからは、実は彼女が怖くて並みの男は近寄れていなかったりする)同年代の男子とはほとんど話をしてこなかった。
セリーヌは男に対して免疫が無い。
(き、緊張して変な事しゃべっちゃったりしないかしら……? 変な子だって思われたらどうしよう……)
自分の挙動に対し自信が持てず、ハラハラするセリーヌである。
なおカーミラが言っていたような事に対する心配は本人は実は本気ではしていない。
個室で二人きりとは言ったって女子寮のど真ん中である訳だから、そうそう不埒な事は出来ないだろうし、そもそも家庭教師に選ばれるような優秀な年上の男の人がそんな事する訳ない、と思っている。おまけに自分は十四歳で子供である。色気たっぷりな年上のお姉さんとかではない。
年下の男子だったら、エルフだからといじわるされたり悪戯されたりする可能性はあるかもしれないが、二つも年上なお兄さんなら大丈夫だろう、上級生達は皆大人だし、という寸法だ。
危険である。
まったくもって危機意識の欠如であり、カーミラが隣の部屋でスタンバりたくなるのもわかろうというものだったが、本人には自分が無防備なのだという自覚はまるでなかった。
ともあれ、セリーヌがドキドキする心臓を抑えつつ寮内の自室でその時を待っていると、やがてノックの音と共に男性の声が響いた。
「こんにちは、家庭教師として遣わされましたセラン・フェルゼンブルクです。セリーヌさんはご在室でしょうか」
「は、はい!」
セリーヌは椅子から立ち上がると素早く部屋の出入り口へと駆け寄り扉を引いた。
現れたのは黒髪黒瞳の青年だった。
小柄なセリーヌよりも頭一つ以上背が高い。
青年はセリーヌの緑瞳と視線を合わせ、にこりと柔らかく微笑すると礼儀正しく貴族の所作で一礼し、
「お初にお目にかかります、私はセラン・フェルゼンブルクと申します。セリーヌさんでいらっしゃいますか?」
「はい、私がセリーヌです。貴方が、セラン殿なのですね。とても優秀な方だとお伺いしています。この度は私の為にお越しくださり、深く感謝を申し上げます」
「いえ、そこまで過分に褒め称えていただける程の者ではございません。セリーヌさんは学業優秀とうかがっておりますし、私でお役に立てれば良いのですが」
そんな会話をかわしつつ挨拶が一段落した所で「どうぞ、お入りになってください」とセリーヌが招くとセラン青年は「失礼します」との一礼と共にセリーヌの部屋の中に入って来てドアをガチャリと閉めた。
いつもより扉の音が良く響いて聞こえ、ドキリとする。
内心ドキドキしていたが、素知らぬ顔でセリーヌは青年を案内するとテーブルへの着席を勧めた。
青年はやはり折り目正しく礼を言って椅子に座り、セリーヌはいつもカーミラと茶会しているように(大体カーミラが振る舞ってくれる側だがセリーヌの側から振る舞う事もある)菓子を出しつつ、
「セラン殿は北のご出身とお聞きしていますが、紅茶に何かお好みなどはお持ちですか?」
「いえ、南のもので大丈夫ですよ。お構いなく」
そんな会話をかわしつつティーカップに紅茶を注いでゆく。
「有難うございます」
セラン青年は紅茶のカップに軽く口をつけた。
良く訓練された貴族の所作だ、とセリーヌは思った。
「とても美味しいですね」
セラン青年はにこりと微笑んだ。とても人の良さそうな笑みだ。だがこの時何故かセリーヌは以前カーミラに対したキャロラインの笑顔を思い出した。
理由はわからない。
やはり同じ北の人間だからなのだろうか?
「お口にあったようで良かった」
「ところで、私がシルトラース帝国の留学生だというのを……」
「はい、お聞きしております」
「なるほど。それでしたら話が早い、というのもなんですが、なにぶん、北は武辺の国でありますから、いささか礼に欠いた言動をしてしまったら、平原の田舎者が成す事であると御目溢しいただけましたらと」
「いえ、そんな、私も根っからの王国貴族という訳ではありませんから、作法には詳しくありませんし……シルトラースの方々はご立派でらっしゃると思いますよ。セラン殿はフィーネ・メローヴィング殿をご存じでしょうか?」
「ええ、銀髪赤眼のフィーネでしたら、共に北から留学してきた間柄です。良く知っていますよ」
「あぁやっぱり、フィーネ殿は狩猟部の先輩で、いつもご親切に弓や乗馬の事を教えていただいているんですよ」
「フィーネが人に親切に教える…………? 失礼、そのフィーネさんは、私の知っているフィーネとは別人かもしれませんね、もしかしたら」
「えっ? そんな事はないと思うんですけど……あ、あとキャロライン殿にも良くしていただいています」
「あぁキャロならそうでしょうね」
共通の知人がいるというのは初対面の時には話の種になりやすいものである。
フィーネやキャロラインとの狩猟部での活動を話しながら、セリーヌはセラン青年と互いの紹介を進めてゆくのだった。