One Day
キャラクターノベル(グループ)制作 伊治納品 2021年06月09日 15時12分13秒
●
カッシアは、窓に太陽の光が射し込んで目が覚めた。
前日は近隣の村で魔獣退治に勤しんだ為、本来なら昼前まで寝ている。が、朝に起きるのは、予定があるからだ。
冒険者としても吟遊詩人としても休みのつもりだったが、ヴィナスに料理の誘いを受けた。
異母弟に教えるから、一緒にどうかと。異母弟を紹介したいと。
(料理を習うのはいい機会だからな)
カッシアは、心の中で呟く。
旅の吟遊詩人という触れ込みのカッシアだが、料理の腕はと言うと、何かを切って焼いて、塩を振る位だ。
料理名や実食の経験は多いが、調理技法や調味料については名前を知っている場合はあっても知識も経験も足りない。
外食は主であると主張しても以前を勘繰られる要素になりえるから、料理を身に着けた方がいい――カッシアは自分の中でそう定義した。
そういうことにしないと、休日を共に過ごせるなどと考える自分を認めなくてはいけない。
ベッドの中から抜け出ると、着替え、いつも通りフードを被った。
ヴィナス、というのは、カッシアにとっては不思議な男だ。
見た目は優男だと思うが、中身は堅実だし、安定している。育ちはよく見えるが少なくとも貴族ではなく、けれども、余地を残した言い残しで、人との距離を保つのが上手い。そう見せかけておいて、距離を急に詰めてくる。
食べ物の好みは案外子どもっぽく、けれど、生活能力は案外ある。
(俺は何を考えている)
カッシアは、手で頭の上を軽く払った。
これでは、俺が自覚するより前からずっと――だったみたいじゃないか。
「カッシア?」
そのヴィナスがシェアハウスの共有スペースから顔を出し、カッシアの心臓は跳ねた。心臓に悪い男だ。
カッシアはフードを被り直し、「何だ」とぶっきらぼうに尋ねる。
「おはよう」
「……ああ」
今の俺に気づくなよ。
●
ヴィナスとカッシアは朝食後依頼があるという同居人達を見送り、共有スペースでのんびりしていると、玄関から「ごめんください」と声が聞こえてきた。
「あ、来た」
ヴィナスが立ち上がり、玄関に走っていく。
来客があっても悠然と歩くことが多く、余程のことがなければ叩き出すこともしないヴィナスが声を弾ませて走った時点で、カッシアはヴィナスのブラコンを確信した。
程なく、ヴィナスが顔立ちが似ている少年を連れてくる。
「カッシア、異母弟を紹介するよ」
「ルーンス・ラグネルです! はじめまして!」
「カッシアだ。よろしく」
明るく素直な様子のルーンスが手を差し出してきたので、カッシアは兄の友達であるという態度で握手に応じた。
自己紹介も問題なく終わり、台所へ。
台所には、ある程度の準備ができていた。
どうやら朝の時点でヴィナスが用意していたらしく、野菜は全て洗ってあるらしい。抜かりない。
「にいさま、今日は何を作るのかな」
「今日は、グラーシュを作るよ」
「! 皆で食べられるね」
ルーンスはヴィナスへ嬉しそうに笑う。
ヴィナスがその言葉にちょっと照れたように笑うのを見、案外この兄弟は『皆で食べる』機会はなかったのかもしれないとカッシアは何となく思った。
「始めようか。最初に、皆で手を洗おう」
台所の勝手口を出るとすぐに井戸がある。
ここで手を洗うのも重要らしい。
それもそうかと手を洗ってから、ヴィナスの指導が始まった。
「まず、ジャガイモの皮を剥こうか」
そういえば、野菜は切って焼いたことなかったな。
カッシアは商売道具の手の心配をしたが、ヴィナスは包丁でジャガイモの芽の部分や緑の部分を取ってから、ジャガイモに切れ目を入れていく。
「剥かないのか?」
「うん、水から茹でてそこから剥くよ」
カッシアの質問にヴィナスが答える。
手馴れていれば包丁の方が短時間だが、手馴れていない2人の指とジャガイモの無事を踏まえて、確実なやり方を取るのだろう。
ヴィナスからジャガイモを渡され、カッシアもルーンスも作業開始。
「ルーンスは、料理できるのか?」
「一応、かな。レパートリー少ないし、応用とかできないよ」
「ああ……」
カッシアは何か共感した。
料理の本は読んだことあるが、適量とかひとつまみとかよく判らなかった。……というのを、ヴィナスはそうとしか説明できないと笑っていたが。
そんな会話を挟みつつ、カッシアとルーンスはジャガイモに切れ目を入れ終えた。
「じゃあ、お水から茹でるから」
いつの間に鍋の準備をしていたヴィナスに促され、カッシアとルーンスはジャガイモを鍋の中に入れた。
で、その間に他の野菜を準備するそうで、人参、玉葱、パプリカが並べられていく。微塵切りにするらしい。が、微塵切りそのものはヴィナスがするらしい(両者の料理のレベルを考慮したらしい)言うまでもなく、お手伝いはしてもらうそうで。
ヴィナスに言われた通り、人参を輪切り、玉葱とパプリカを縦半分に切っていく。パプリカは更にへたを取る工程があったが、こちらも教わった通りに何とかできている。
「ヴィナは慣れてるんだな」
「結構好きでね」
準備が終わった野菜を微塵切りにする手つきは慣れていて、カッシアは感心してしまう。
ヴィナスはそう笑っているが、ルーンスはちょっと苦笑していた。
そうこうしている内にジャガイモの準備が終わったそうで、冷水を取る粗熱へジャガイモが移動していく。
「後は切れ目から手で剥けるから、手間はかからないよ」
ヴィナスの言う通り、両の親指で切れ目を開くように押すと、あっさりと剥けた。
「こんな簡単に剥けるのか?」
「すごい……」
カッシアとルーンスの感心した声にヴィナスは上手くいっていると目を細める。
ヴィナスの見立てでは、カッシアは料理をしたことなどない立場の人間だ。吟遊詩人なのは嘘ではないだろうが、その前の立場があったと思う。ルーンスもあの親の目を盗んで、ある程度のことはどうにかできるなっているようだが、応用ができない分冒険者生活では苦労してしまうかもしれない。
それが料理教室の動機だ。大切な者と休暇を過ごしたい希望もあるが、大切な者の役に立ちたい想いが根底にある。
(ヴィンにはバレてるけど)
初見で自分のカッシアへの好意に気づいた異母弟のカッシアに向ける目は、将来の家族に対する目だとヴィナスは気づいている。
……好意の種類が俺と同じかなんて俺にだって判ってないのに。本当に俺想いの子だ。
「にいさま、ジャガイモ剥き終えたよ」
「で、次は何だ」
「それじゃ――」
2人に声を掛けられ、ヴィナスは料理教室の先生へ戻った。
人参、玉葱、一口大に切った後調味料で下味をつけた牛の脛肉を炒める工程は、カッシアとルーンスが交替で行った。
ルーンスの方が自分よりマシな手つきをしているとカッシアは思ったが、ルーンスはペーストにしたパプリカとトマトを加えて、さっと炒める、の、『さっ』がよく判らないらしく、ヴィナスから教えを乞うていた。
(解るぞ。俺も解らない)
『さっ』って何だ。アレンジする気などないが、そもそもの意味が解らないとどうしようもない。
その後ペーストにしたトマトとは別のトマト、パプリカ、水が入る。
ジャガイモは形が崩れてしまうから最後に入れるそうで、ここで皮を剥く為に茹でた状態が生きるらしい。
「時々かき混ぜながら、ゆっくり煮込むよ」
ヴィナスがそう言うのでどの位だろうと思っていたら、お昼くらいになるよと言われた。
ルーンスも結構早く来ていたし、料理もヴィナス曰く順調だと聞いていただけに、カッシアは目を瞬かせる。
そんなに手間がかかるものなのか――改めて自分は何も知らないのだと思う。
(……それを教えてもらうのが、嬉しいとは俺も大概だ)
相手がどのような好きであるかなんて判らないのに。
ヴィナスの好意は疑う余地もないが、自覚した自分の好意のそれと同じとは限らない。
だから、今はこれでいいとしよう。
やがて、グラーシュが完成した。
●
できあがったグラーシュを盛り付け、全員でテーブルに着いた。
(こんな食卓は俺にあっただろうか)
カッシアは思い返すが、思い出の中にない。
いただきますと食べたグラーシュも格別の味だった。
「どう? 美味しい?」
「食べてみろ」
ヴィナスが食べないで眺めているから、味の評価が欲しいカッシアはスプーンをヴィナスに近づけた。
一瞬目を丸くしたヴィナスで我に返ったカッシアはスプーンを引っ込めようとしたがもう遅い、カッシアの手首をつかんで引き寄せると、顔を近づけて、食べた。
「~~!!」
「うん。美味しい。皆で作ったしね。ありがとう、カッシア」
「た、ただの味見だからな!! 他意は無いからな!」
ルーンスが水を取りに席を立っていなかったら、異母弟の前で何してるんだ案件になっていた!
が、カッシアは台所からルーンスが覗き見ていたことに気づいていない。
(気づかぬは当事者同士ばかりってところかな)
ルーンスは双方好意の方向を見極めていることに気づいていた。その方向が恐らく同じであることも。
けれど、当事者同士だからこそ確信する瞬間まで推測で動かない。
(時間の問題とは思うけど)
何故なら、異母兄は、グラーシュを教えたのだ。
それは、異母兄の実の母も作った料理でありながら、1人では食べられない料理である為に作らなかったであろう料理。異母兄とっては失われた幸せの中に存在していた料理だ。
――その料理を共に作り、共に味わって良いと思える相手というのは明白だ。
(そもそも目線と声で判ったけど)
誰よりも大切な異母兄が、大切な人を見つけていて、本当に嬉しい。
けれども、ルーンスはカッシアの為何も知らない振りをして戻る。
「皆の分のお水も汲んできたよ」
異母兄の大切な人よ、どうか共に歩いてほしい。
一息ついた昼下がりは、カッシアの音色で時が流れていく。
彼らの、穏やかなある日の話。
カッシアは、窓に太陽の光が射し込んで目が覚めた。
前日は近隣の村で魔獣退治に勤しんだ為、本来なら昼前まで寝ている。が、朝に起きるのは、予定があるからだ。
冒険者としても吟遊詩人としても休みのつもりだったが、ヴィナスに料理の誘いを受けた。
異母弟に教えるから、一緒にどうかと。異母弟を紹介したいと。
(料理を習うのはいい機会だからな)
カッシアは、心の中で呟く。
旅の吟遊詩人という触れ込みのカッシアだが、料理の腕はと言うと、何かを切って焼いて、塩を振る位だ。
料理名や実食の経験は多いが、調理技法や調味料については名前を知っている場合はあっても知識も経験も足りない。
外食は主であると主張しても以前を勘繰られる要素になりえるから、料理を身に着けた方がいい――カッシアは自分の中でそう定義した。
そういうことにしないと、休日を共に過ごせるなどと考える自分を認めなくてはいけない。
ベッドの中から抜け出ると、着替え、いつも通りフードを被った。
ヴィナス、というのは、カッシアにとっては不思議な男だ。
見た目は優男だと思うが、中身は堅実だし、安定している。育ちはよく見えるが少なくとも貴族ではなく、けれども、余地を残した言い残しで、人との距離を保つのが上手い。そう見せかけておいて、距離を急に詰めてくる。
食べ物の好みは案外子どもっぽく、けれど、生活能力は案外ある。
(俺は何を考えている)
カッシアは、手で頭の上を軽く払った。
これでは、俺が自覚するより前からずっと――だったみたいじゃないか。
「カッシア?」
そのヴィナスがシェアハウスの共有スペースから顔を出し、カッシアの心臓は跳ねた。心臓に悪い男だ。
カッシアはフードを被り直し、「何だ」とぶっきらぼうに尋ねる。
「おはよう」
「……ああ」
今の俺に気づくなよ。
●
ヴィナスとカッシアは朝食後依頼があるという同居人達を見送り、共有スペースでのんびりしていると、玄関から「ごめんください」と声が聞こえてきた。
「あ、来た」
ヴィナスが立ち上がり、玄関に走っていく。
来客があっても悠然と歩くことが多く、余程のことがなければ叩き出すこともしないヴィナスが声を弾ませて走った時点で、カッシアはヴィナスのブラコンを確信した。
程なく、ヴィナスが顔立ちが似ている少年を連れてくる。
「カッシア、異母弟を紹介するよ」
「ルーンス・ラグネルです! はじめまして!」
「カッシアだ。よろしく」
明るく素直な様子のルーンスが手を差し出してきたので、カッシアは兄の友達であるという態度で握手に応じた。
自己紹介も問題なく終わり、台所へ。
台所には、ある程度の準備ができていた。
どうやら朝の時点でヴィナスが用意していたらしく、野菜は全て洗ってあるらしい。抜かりない。
「にいさま、今日は何を作るのかな」
「今日は、グラーシュを作るよ」
「! 皆で食べられるね」
ルーンスはヴィナスへ嬉しそうに笑う。
ヴィナスがその言葉にちょっと照れたように笑うのを見、案外この兄弟は『皆で食べる』機会はなかったのかもしれないとカッシアは何となく思った。
「始めようか。最初に、皆で手を洗おう」
台所の勝手口を出るとすぐに井戸がある。
ここで手を洗うのも重要らしい。
それもそうかと手を洗ってから、ヴィナスの指導が始まった。
「まず、ジャガイモの皮を剥こうか」
そういえば、野菜は切って焼いたことなかったな。
カッシアは商売道具の手の心配をしたが、ヴィナスは包丁でジャガイモの芽の部分や緑の部分を取ってから、ジャガイモに切れ目を入れていく。
「剥かないのか?」
「うん、水から茹でてそこから剥くよ」
カッシアの質問にヴィナスが答える。
手馴れていれば包丁の方が短時間だが、手馴れていない2人の指とジャガイモの無事を踏まえて、確実なやり方を取るのだろう。
ヴィナスからジャガイモを渡され、カッシアもルーンスも作業開始。
「ルーンスは、料理できるのか?」
「一応、かな。レパートリー少ないし、応用とかできないよ」
「ああ……」
カッシアは何か共感した。
料理の本は読んだことあるが、適量とかひとつまみとかよく判らなかった。……というのを、ヴィナスはそうとしか説明できないと笑っていたが。
そんな会話を挟みつつ、カッシアとルーンスはジャガイモに切れ目を入れ終えた。
「じゃあ、お水から茹でるから」
いつの間に鍋の準備をしていたヴィナスに促され、カッシアとルーンスはジャガイモを鍋の中に入れた。
で、その間に他の野菜を準備するそうで、人参、玉葱、パプリカが並べられていく。微塵切りにするらしい。が、微塵切りそのものはヴィナスがするらしい(両者の料理のレベルを考慮したらしい)言うまでもなく、お手伝いはしてもらうそうで。
ヴィナスに言われた通り、人参を輪切り、玉葱とパプリカを縦半分に切っていく。パプリカは更にへたを取る工程があったが、こちらも教わった通りに何とかできている。
「ヴィナは慣れてるんだな」
「結構好きでね」
準備が終わった野菜を微塵切りにする手つきは慣れていて、カッシアは感心してしまう。
ヴィナスはそう笑っているが、ルーンスはちょっと苦笑していた。
そうこうしている内にジャガイモの準備が終わったそうで、冷水を取る粗熱へジャガイモが移動していく。
「後は切れ目から手で剥けるから、手間はかからないよ」
ヴィナスの言う通り、両の親指で切れ目を開くように押すと、あっさりと剥けた。
「こんな簡単に剥けるのか?」
「すごい……」
カッシアとルーンスの感心した声にヴィナスは上手くいっていると目を細める。
ヴィナスの見立てでは、カッシアは料理をしたことなどない立場の人間だ。吟遊詩人なのは嘘ではないだろうが、その前の立場があったと思う。ルーンスもあの親の目を盗んで、ある程度のことはどうにかできるなっているようだが、応用ができない分冒険者生活では苦労してしまうかもしれない。
それが料理教室の動機だ。大切な者と休暇を過ごしたい希望もあるが、大切な者の役に立ちたい想いが根底にある。
(ヴィンにはバレてるけど)
初見で自分のカッシアへの好意に気づいた異母弟のカッシアに向ける目は、将来の家族に対する目だとヴィナスは気づいている。
……好意の種類が俺と同じかなんて俺にだって判ってないのに。本当に俺想いの子だ。
「にいさま、ジャガイモ剥き終えたよ」
「で、次は何だ」
「それじゃ――」
2人に声を掛けられ、ヴィナスは料理教室の先生へ戻った。
人参、玉葱、一口大に切った後調味料で下味をつけた牛の脛肉を炒める工程は、カッシアとルーンスが交替で行った。
ルーンスの方が自分よりマシな手つきをしているとカッシアは思ったが、ルーンスはペーストにしたパプリカとトマトを加えて、さっと炒める、の、『さっ』がよく判らないらしく、ヴィナスから教えを乞うていた。
(解るぞ。俺も解らない)
『さっ』って何だ。アレンジする気などないが、そもそもの意味が解らないとどうしようもない。
その後ペーストにしたトマトとは別のトマト、パプリカ、水が入る。
ジャガイモは形が崩れてしまうから最後に入れるそうで、ここで皮を剥く為に茹でた状態が生きるらしい。
「時々かき混ぜながら、ゆっくり煮込むよ」
ヴィナスがそう言うのでどの位だろうと思っていたら、お昼くらいになるよと言われた。
ルーンスも結構早く来ていたし、料理もヴィナス曰く順調だと聞いていただけに、カッシアは目を瞬かせる。
そんなに手間がかかるものなのか――改めて自分は何も知らないのだと思う。
(……それを教えてもらうのが、嬉しいとは俺も大概だ)
相手がどのような好きであるかなんて判らないのに。
ヴィナスの好意は疑う余地もないが、自覚した自分の好意のそれと同じとは限らない。
だから、今はこれでいいとしよう。
やがて、グラーシュが完成した。
●
できあがったグラーシュを盛り付け、全員でテーブルに着いた。
(こんな食卓は俺にあっただろうか)
カッシアは思い返すが、思い出の中にない。
いただきますと食べたグラーシュも格別の味だった。
「どう? 美味しい?」
「食べてみろ」
ヴィナスが食べないで眺めているから、味の評価が欲しいカッシアはスプーンをヴィナスに近づけた。
一瞬目を丸くしたヴィナスで我に返ったカッシアはスプーンを引っ込めようとしたがもう遅い、カッシアの手首をつかんで引き寄せると、顔を近づけて、食べた。
「~~!!」
「うん。美味しい。皆で作ったしね。ありがとう、カッシア」
「た、ただの味見だからな!! 他意は無いからな!」
ルーンスが水を取りに席を立っていなかったら、異母弟の前で何してるんだ案件になっていた!
が、カッシアは台所からルーンスが覗き見ていたことに気づいていない。
(気づかぬは当事者同士ばかりってところかな)
ルーンスは双方好意の方向を見極めていることに気づいていた。その方向が恐らく同じであることも。
けれど、当事者同士だからこそ確信する瞬間まで推測で動かない。
(時間の問題とは思うけど)
何故なら、異母兄は、グラーシュを教えたのだ。
それは、異母兄の実の母も作った料理でありながら、1人では食べられない料理である為に作らなかったであろう料理。異母兄とっては失われた幸せの中に存在していた料理だ。
――その料理を共に作り、共に味わって良いと思える相手というのは明白だ。
(そもそも目線と声で判ったけど)
誰よりも大切な異母兄が、大切な人を見つけていて、本当に嬉しい。
けれども、ルーンスはカッシアの為何も知らない振りをして戻る。
「皆の分のお水も汲んできたよ」
異母兄の大切な人よ、どうか共に歩いてほしい。
一息ついた昼下がりは、カッシアの音色で時が流れていく。
彼らの、穏やかなある日の話。