景色が色を得る時
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年05月24日 14時25分35秒
王立パンクリアース学園に朝が訪れた。
カーテンを開き、窓から差し込む朝日に目を細めたゲルダ・クラインは、ぱちんと頬を叩き最後の眠気とサヨナラする。
「今日も一日いい天気です」
朝はまだ早く、授業が始まるまでまだまだ時間がある。ゲルダは一瞬思案したものの、すぐにするべき事を思い出した。
ゲルダはルームメイトの安眠を妨げないよう、静かに準備を済ませると、忍び足で部屋を後にする。
しんと静まり返った廊下は、今だ夜の空気を残している。ゲルダはそっとドアを閉めると、音をたてないように注意しながら廊下を歩きだした。
貴族寮とは違い平民寮の造りは質素だ。床も板張り。歩く度にギシギシと音が鳴る。
ゲルダが目指すのは校庭へと続く出口。廊下を慎重に渡り、階段は少し速度を上げ、エントランスで靴を履き替え、鍵が開いたばかりの玄関ドアをいっぱいに開く。
「ふぅ……大冒険でした!」
最後に段差をぴょんと飛び降りたゲルダは、大きく息を吸い込んだ。
「今日は……確か中庭の方でしたね」
ゲルダは朝の新鮮な空気を胸にいっぱい吸い込むと、再び駆け出す。目的地は食堂に併設された中庭。
四年間通った学園の地理はすっかり頭の入っている。ゲルダは迷うことなく中庭へと急行した。
●
「――お疲れ様です、リサちゃん!」
「あ、おはようございます、ゲルダちゃん」
中庭には案の定、リサ・ベイカーの姿があった。
ゲルダはゆっくりと近づいて挨拶をする。
「朝から精が出ますね。今日は結界術の訓練ですか?」
額に汗の浮かぶリサに、持参したタオルを手渡しながらゲルダは問いかけた。
「はい。今日、結界術の講義があるので、予習をと思って」
「ああ、あの教授の講義ですか。これはちょっと難関ですね」
「えっ、そうなんですか……?」
ふむふむと瞳を閉じて頷くゲルダに、リサは不安げに訊き返す。
「ふふ、大丈夫ですよ。わたしがコツを伝授しますから!」
「おぉ! さすが先輩、頼りになります!」
「えへへ。どーんと頼ってください!」
パチパチと手を打つリサに、ゲルダは胸を叩いた。
「リサちゃんはまだ教授の授業を受けた事がないんですよね?」
「はい、入学してからは一度も。一応、得意分野なので心配はないかなと思ってるんですけど、念には念を入れて練習してました」
「えらい! 流石です、リサちゃん!!」
「あ、ありがとうございます」
「そういう小さな努力と積み重ねは、後々きっと役に立ちます。自分の能力に溺れずしっかりと地に足つけて修練を積めば、貴族の人達からもきっと一目置かれますよ!」
と、ゲルダは少し驚いているリサに微笑みかけた。この学園に来たリサのもう一つの目的の為には必要な道だと。
「はい! あ、でもあまりやり過ぎて迷惑がられる……というか陰湿なイジメとか、そういうのがあったりしませんか? それだけがちょっと心配で……」
リサは不安を吐露すると、ちらりとゲルダを見る。
「あります! 大いにありますよ! それは貴族の学校ですから! 平民は苛められる運命です!!」
「え……ええぇっ!?」
心配するなと励ましを貰えると期待していたら逆に全肯定され、リサは思わず大きな声で驚いた。
「だから、わたしがいるんです!」
と、不安に揺れる友人に向け、ゲルダは任せなさいと再び胸を叩く。
「色々とコツがあります。目立たず評価を上げる取って置きのコツが」
そして、ゲルダは驚くリサに顔を寄せると、こそこそと呟いた。
「……え? そんな事でいいんですか?」
「はい、そんな事でいいんです。簡単な事なのに、意外と皆さん気付かないんですよ」
「なるほど、教授に……」
ゲルダから教えられた秘伝に、リサは頭の中で未来の授業風景を思い浮かべる。
「どうですか、出来そうです?」
「……はい、ちょっと自信はありませんけど、ゲルダちゃんのアドバイスですもん。きっとうまくいきますよね!」
「はい! リサちゃんなら絶対うまくいきます! 貴族の顔色を窺うような、つまらない学園生活をお友達のリサちゃんに送らせるわけにはいきません!」
「た、頼もしい……!」
ふふふと、ありもしない眼鏡を持ち上げるゲルダの仕草に、リサは感動のクラップハンズ。
そうこうしていると、起床の鐘の音が中庭にも響いてくる。
「あ、時間ですね。リサちゃんも一度汗を拭いて授業の準備をするといいですよ」
「ですね。すぐ部屋に戻って準備します。……あの、ゲルダちゃん」
と、片付けを終えたリサがゲルタを見た。
「はい?」
「迷惑じゃなかったらでいいんですけど、お昼ご一緒しませんか?」
「……わ、わわっ! うれしいです! もちろん、ご一緒します! させてください!」
「やったっ。わたしも嬉しいです! それじゃ、お昼にここで!」
「はい! なんだか楽しみ過ぎて、もうお腹が空いてきました!」
「ふふ、それは多分朝食を食べてないからだと思いますよ?」
「う……? あ、そうでした。食べてません、朝ご飯! えへへ……」
リサはこの小さく可愛らしい友人の仕草に目を細める。
「もうすぐ購買部も開くと思いますから、一緒に朝食を買いに行きましょうか」
そして、リサはゲルダの手を取ると購買が開かれる校舎へと二人で駆けて行った。
●
時は進み、お昼休み――。
「すごいです、ゲルダちゃん……!」
「えへへ。言った通りだったでしょ?」
約束通り中庭合流した二人。
興奮冷めやらぬリサは、得意げなゲルダに何度も「すごい」を連発していた。
「はいっ! ゲルダちゃんのお話を聞いてなかったら、絶対背伸びしてました」
「ふふ、あの教授さんはスキルのレベルを見ないんですよね。それよりも、正確さや精度、魔力の練り方を見てきます。だから、高レベルの魔法を使うより、低レベルでも精度の高い魔法を見せた方が高評価を貰えるんですっ!」
「はいっ、本当にその通りでした! 授業が終わった後、個別で呼び出しがあって、すごく褒められちゃいました」
「それはリサちゃんの素地が素晴らしいからですよ! 基本だの低レベル魔法だってうまく制御するのは難しいですもん! ……うん、個別?」
「はい、個別で……べ、別にやましい事とかありませんでしたよっ!?」
「え……あ、ち、違いますっ!! あの教授さん、褒める事はあっても個別で話をしてくれるような人じゃないので……リサちゃん、よっぽど気に入られたのかもしれませんよっ!」
「えっ、そうなんですか……?」
「はいっ! もしかしたら、研究室にご招待されるかもしれませんね! あの教授さん、ああ見えても結界術の権威ですから!」
「ええっ! それは、喜んでいい事なんでしょうか……?」
「もちろんですよっ! とっても名誉なことだと思いますよ! って、まだご招待もされていないうちから話すのも変な感じですけど」
「あ……そうでした」
と、二人は互いに笑い合い今日の授業の成功を喜び合った。
「それじゃ、この辺りで座りましょうか」
「はいっ」
ゲルダが中庭の端にある芝生で足を止めた。
「今日はあまり人が居なくてゆっくりできますね」
「いつもはもっと沢山いるんですか?」
「はい。結構人気のスポットなので、お昼時は生徒でいっぱいになる事も多いんですよ」
問いかけてくるリサにゲルダは微笑みながら答えると、先に芝の上に座り込む。
リサも同じように腰を下ろしたことを確認すると、ゲルダは購買で買ってきたサンドウィッチを広げた。
カーテンを開き、窓から差し込む朝日に目を細めたゲルダ・クラインは、ぱちんと頬を叩き最後の眠気とサヨナラする。
「今日も一日いい天気です」
朝はまだ早く、授業が始まるまでまだまだ時間がある。ゲルダは一瞬思案したものの、すぐにするべき事を思い出した。
ゲルダはルームメイトの安眠を妨げないよう、静かに準備を済ませると、忍び足で部屋を後にする。
しんと静まり返った廊下は、今だ夜の空気を残している。ゲルダはそっとドアを閉めると、音をたてないように注意しながら廊下を歩きだした。
貴族寮とは違い平民寮の造りは質素だ。床も板張り。歩く度にギシギシと音が鳴る。
ゲルダが目指すのは校庭へと続く出口。廊下を慎重に渡り、階段は少し速度を上げ、エントランスで靴を履き替え、鍵が開いたばかりの玄関ドアをいっぱいに開く。
「ふぅ……大冒険でした!」
最後に段差をぴょんと飛び降りたゲルダは、大きく息を吸い込んだ。
「今日は……確か中庭の方でしたね」
ゲルダは朝の新鮮な空気を胸にいっぱい吸い込むと、再び駆け出す。目的地は食堂に併設された中庭。
四年間通った学園の地理はすっかり頭の入っている。ゲルダは迷うことなく中庭へと急行した。
●
「――お疲れ様です、リサちゃん!」
「あ、おはようございます、ゲルダちゃん」
中庭には案の定、リサ・ベイカーの姿があった。
ゲルダはゆっくりと近づいて挨拶をする。
「朝から精が出ますね。今日は結界術の訓練ですか?」
額に汗の浮かぶリサに、持参したタオルを手渡しながらゲルダは問いかけた。
「はい。今日、結界術の講義があるので、予習をと思って」
「ああ、あの教授の講義ですか。これはちょっと難関ですね」
「えっ、そうなんですか……?」
ふむふむと瞳を閉じて頷くゲルダに、リサは不安げに訊き返す。
「ふふ、大丈夫ですよ。わたしがコツを伝授しますから!」
「おぉ! さすが先輩、頼りになります!」
「えへへ。どーんと頼ってください!」
パチパチと手を打つリサに、ゲルダは胸を叩いた。
「リサちゃんはまだ教授の授業を受けた事がないんですよね?」
「はい、入学してからは一度も。一応、得意分野なので心配はないかなと思ってるんですけど、念には念を入れて練習してました」
「えらい! 流石です、リサちゃん!!」
「あ、ありがとうございます」
「そういう小さな努力と積み重ねは、後々きっと役に立ちます。自分の能力に溺れずしっかりと地に足つけて修練を積めば、貴族の人達からもきっと一目置かれますよ!」
と、ゲルダは少し驚いているリサに微笑みかけた。この学園に来たリサのもう一つの目的の為には必要な道だと。
「はい! あ、でもあまりやり過ぎて迷惑がられる……というか陰湿なイジメとか、そういうのがあったりしませんか? それだけがちょっと心配で……」
リサは不安を吐露すると、ちらりとゲルダを見る。
「あります! 大いにありますよ! それは貴族の学校ですから! 平民は苛められる運命です!!」
「え……ええぇっ!?」
心配するなと励ましを貰えると期待していたら逆に全肯定され、リサは思わず大きな声で驚いた。
「だから、わたしがいるんです!」
と、不安に揺れる友人に向け、ゲルダは任せなさいと再び胸を叩く。
「色々とコツがあります。目立たず評価を上げる取って置きのコツが」
そして、ゲルダは驚くリサに顔を寄せると、こそこそと呟いた。
「……え? そんな事でいいんですか?」
「はい、そんな事でいいんです。簡単な事なのに、意外と皆さん気付かないんですよ」
「なるほど、教授に……」
ゲルダから教えられた秘伝に、リサは頭の中で未来の授業風景を思い浮かべる。
「どうですか、出来そうです?」
「……はい、ちょっと自信はありませんけど、ゲルダちゃんのアドバイスですもん。きっとうまくいきますよね!」
「はい! リサちゃんなら絶対うまくいきます! 貴族の顔色を窺うような、つまらない学園生活をお友達のリサちゃんに送らせるわけにはいきません!」
「た、頼もしい……!」
ふふふと、ありもしない眼鏡を持ち上げるゲルダの仕草に、リサは感動のクラップハンズ。
そうこうしていると、起床の鐘の音が中庭にも響いてくる。
「あ、時間ですね。リサちゃんも一度汗を拭いて授業の準備をするといいですよ」
「ですね。すぐ部屋に戻って準備します。……あの、ゲルダちゃん」
と、片付けを終えたリサがゲルタを見た。
「はい?」
「迷惑じゃなかったらでいいんですけど、お昼ご一緒しませんか?」
「……わ、わわっ! うれしいです! もちろん、ご一緒します! させてください!」
「やったっ。わたしも嬉しいです! それじゃ、お昼にここで!」
「はい! なんだか楽しみ過ぎて、もうお腹が空いてきました!」
「ふふ、それは多分朝食を食べてないからだと思いますよ?」
「う……? あ、そうでした。食べてません、朝ご飯! えへへ……」
リサはこの小さく可愛らしい友人の仕草に目を細める。
「もうすぐ購買部も開くと思いますから、一緒に朝食を買いに行きましょうか」
そして、リサはゲルダの手を取ると購買が開かれる校舎へと二人で駆けて行った。
●
時は進み、お昼休み――。
「すごいです、ゲルダちゃん……!」
「えへへ。言った通りだったでしょ?」
約束通り中庭合流した二人。
興奮冷めやらぬリサは、得意げなゲルダに何度も「すごい」を連発していた。
「はいっ! ゲルダちゃんのお話を聞いてなかったら、絶対背伸びしてました」
「ふふ、あの教授さんはスキルのレベルを見ないんですよね。それよりも、正確さや精度、魔力の練り方を見てきます。だから、高レベルの魔法を使うより、低レベルでも精度の高い魔法を見せた方が高評価を貰えるんですっ!」
「はいっ、本当にその通りでした! 授業が終わった後、個別で呼び出しがあって、すごく褒められちゃいました」
「それはリサちゃんの素地が素晴らしいからですよ! 基本だの低レベル魔法だってうまく制御するのは難しいですもん! ……うん、個別?」
「はい、個別で……べ、別にやましい事とかありませんでしたよっ!?」
「え……あ、ち、違いますっ!! あの教授さん、褒める事はあっても個別で話をしてくれるような人じゃないので……リサちゃん、よっぽど気に入られたのかもしれませんよっ!」
「えっ、そうなんですか……?」
「はいっ! もしかしたら、研究室にご招待されるかもしれませんね! あの教授さん、ああ見えても結界術の権威ですから!」
「ええっ! それは、喜んでいい事なんでしょうか……?」
「もちろんですよっ! とっても名誉なことだと思いますよ! って、まだご招待もされていないうちから話すのも変な感じですけど」
「あ……そうでした」
と、二人は互いに笑い合い今日の授業の成功を喜び合った。
「それじゃ、この辺りで座りましょうか」
「はいっ」
ゲルダが中庭の端にある芝生で足を止めた。
「今日はあまり人が居なくてゆっくりできますね」
「いつもはもっと沢山いるんですか?」
「はい。結構人気のスポットなので、お昼時は生徒でいっぱいになる事も多いんですよ」
問いかけてくるリサにゲルダは微笑みながら答えると、先に芝の上に座り込む。
リサも同じように腰を下ろしたことを確認すると、ゲルダは購買で買ってきたサンドウィッチを広げた。