樹夜の英雄譚
キャラクターノベル(グループ)制作 崎田航輝納品 2021年05月01日 21時48分00秒
樹木が視界を満たす暗緑の景色。
枝葉の迷路と天蓋に囲われたそこは、人を異物として排除するかのような魔境だ。
が、その環境にも、飛び交う魔獣の羽音にも――ハヤト=ガラン=ヴォルファングは欠片の物怖じもない。
「……うらぁ!」
飛び出てきた異形、樹海烏を受け止めると鉤爪で一閃。翼ごと斬って捨てていた。
軽く息をついて振り向くと……そこにはギャメル。
「ちょっと待ってな!」
言ってハヤトの傷を癒やすと、開けた一角に荷を下ろしていた。
「今日はここにしようぜ!」
そして杭に紐を結び、骨組みに布をかけてテントを設営。
砂場に石と鍋も置いて――野営の準備を始めた。
サウゼル大樹海。
その奥地に眠ると言われる白妙鉱石の採取依頼を受けて数日。伝承と古代地図は概ね正しかったようで、二人の行軍は順調だった。
野営も数回目で――料理担当のギャメルは慣れたように鍋を火にかけ、良い香りを立ち昇らせていた。
「美味そうだな!」
「もうすぐ出来るよ」
覗くハヤトに、ギャメルは応えつつかき混ぜていく。
干し肉を具材と出汁にして、塩胡椒で調味。魚粉も加えた旨味たっぷりのスープ。弟妹達にも人気の逸品だ。
ハヤトは期待の面持ちで覗き込んでいる。
「今日も沢山動いたからな。腹がぺこぺこだぜ」
「さっきも、すごかったからな」
ギャメルは先刻の戦いぶりを思い返した。
ハヤトは元々、ゴールディの飯屋の店先で出会った間柄。
彼が偉大なるゴブリンの祖、ガランの子孫だと知った時には驚いたものだが――今ではその勇猛さに納得の思いだ。
そうだ、とギャメルは瞳を輝かす。
「ガランの話を聞かせてくれよ! 色々、知りたいと思ってたんだ」
「いいぜ。俺の知る範囲で良ければな」
前置きはするが、ハヤトは紛れもない血族。その口から聞ける話にギャメルはわくわくと身を乗り出した。
ハヤトは笑みつつ、話し始める。
「そもそも、尾ひれもついちゃいるようだが」
と、ハヤトは顎をさする。
偉業を成し得た伝説的存在には、想像や創作が入り混じってしまうもの。
故に知らぬ者は、かの戦士を屈強な大男だとか、比類なき頑強な肉体を持っていたと認識する事も多いけれど――
「実際のとこ、ギャメルより小さかったんじゃねーかな?」
言って手で高さを示した。
「タッパもせいぜい1mくれぇだったって聞いてるぜ。こんなもんだ」
「意外!」
精々が弟達くらいの背丈。思うとギャメルには、尚更偉大に感じられる。
「そんなガランが、すごい活躍をしたんだろ?」
「ああ。名高い『大脱出』さ。尤も、その前から活躍はしてたみたいだ」
小柄ながら時にそれを感じさせず、時にそれを活かし戦場を駆けていたという。
元より危険な敵も多かった地帯だろう。
「そこで生き抜いたってのは、そりゃ凄いもんさ。石の斧や剣を使ってたらしいが、必要となりゃその場で戦いに必要なもんも調達していた」
暮らしの全てがサバイバルだったろう。
その中でガランはいつ敵が現れても状況をすぐに把握し、対応していたのだ。
「体格を頭と腕で補ってたんだろうな」
「強かったんだな」
ギャメルの心にある尊敬の念がより一層強くなる。
ハヤトは頷いた。
「戦いが只の腕力勝負じゃないって事を知ってたんだ」
ガランは敵に囲まれても焦らなかった。
よく見据え、観察し、微かな隙を突いて包囲網をくぐる。そして木々へ跳び、宙を舞い、逆に相手の背中を取って勝利をもぎ取ったものだったという。
「タイマンでも決して弱くはなかった。飛べば旋風、走れば疾風……剣技も風のように鋭く疾かったっていうぜ」
「かっこいいな! まるでハヤトみたいじゃないか!?」
ギャメルが拳を握って言うと、ハヤトは笑う。
「ご先祖さんに並べられるには、俺はまだまださ」
けれど、いつかそうなれば良いとも思う。ハヤトにとってガランはそういう存在でもあった。
だがそんなガランにも最期の時が近づいてくる。
それこそ大脱出――樹海からの脱出を賭けた大猿達との決戦だ。
「敵は圧倒的だ。ご先祖さんは、真正面からの戦いじゃ難しいと悟ったと思うぜ」
その言葉にギャメルは息を呑んだ。
事実、その戦いの壮絶さは今も語り継がれている。敵は巨躯で、巨腕。多くの仲間が苦戦を強いられたろう。
それでもガランは決して逃げず、諦めなかった。
自身が出来る事、成し得る事を考え、答えを導き出したのだ。
「一人、気配を消していたらしい。虎視眈々と敵の首級――『四つ腕』の背後を取りに動いたんだそうな」
影を縫い、足音を殺し。
斃すべき敵だけを見据えて真っ直ぐにそこへ走ったのだ。
「そして機を見計らって、決死の奇襲をかけた」
「それは……上手く行ったんだよな?」
ギャメルが息せき切って促すと、ハヤトはそうだな、と応える。
「巨大な『四つ腕』の背中を駆け上がった。そのまま一撃を加えて奴の片目を奪ってみせたのさ」
「やった!」
ギャメルは声を上げる。自分がその場にいるかのような気持ちで、どきどきとしていた。
実際、それは光明を掴んだ一手。『四つ腕』にとって無視できない痛手だったろう。
それでも、とハヤトは腕を組む。
「本当は両目を狙ったんだろうが――流石に敵も大将だ。片目を潰されたその一瞬に、四本の腕で反撃をしていた」
その豪腕を、ガランが空中で躱しきる事は叶わなかった。
「それを喰らって……命を散らしたんだ」
或いは、ガランはそうなると判っていたのかも知れない。
少なくともそれだけのリスクのある行動だと理解していた筈だ。
それでも、挑んだ。
そして敵を弱らせ、結果として勝利を近づけた。
「たった一人でジャイアントキリングを引き寄せた勇猛果敢なる祖――それがガラン、俺の憧れるご先祖様ってわけだ!」
ハヤトの言葉に、ギャメルは興奮と、そして畏敬にも似た感覚があったろうか。
「一人で巨大な敵に挑む……。本当に怖……勇敢だよな!」
言い直しつつも、思いは強く。
真っ直ぐに先祖を語る、ハヤトのその表情にも思いがこみ上げて。
「ハヤトの傭兵団に“勇気”の意味が込められてるのも納得だぜ」
それは心からの言葉。
ギャメル自身、傭兵団の強さに素直に憧れているから。
けれど――思えば思うほどに、ギャメルは俯いてもいた。
憧れても団員とならないのは、自分の勇気に自信がないから。今だって、偉大な存在の話を聞いてしまったからこそ。
(それに比べて、オレはビビリで……)
同じゴブリンとして、心に擡げるのは自分への情けなさだった。
(……)
でも。
祖先の存在やハヤトの話に、与えられたものもあるのだろう。しょぼんとしていたギャメルは、すぐに気を取り直して顔を上げていた。
「ガランは英雄らしい戦死を遂げたけど。もしその場にオレがいたら――助かるように治療したいぜ」
言って、手元にきらりと魔力の光を煌めかせてみる。
――臆病でヘッポコなオレでも、勇猛に戦う人の支援ならできるかも知れないから。
ハヤトは快活に笑った。
「俺の傷も癒やしてくれたしな。ギャメルなら、きっと出来たぜ」
するとギャメルもその言葉に笑みを返して。
「ハヤト、ご先祖の話を聞かせてくれてありがとなー!」
そうしてスープも出来たからと、共に食事。疲れを癒やす美味に舌鼓を打って――ぐっすりと眠って翌日、行軍を再開する。
意気揚々と出発する二人には、依頼の完遂ももう目の前だった。
枝葉の迷路と天蓋に囲われたそこは、人を異物として排除するかのような魔境だ。
が、その環境にも、飛び交う魔獣の羽音にも――ハヤト=ガラン=ヴォルファングは欠片の物怖じもない。
「……うらぁ!」
飛び出てきた異形、樹海烏を受け止めると鉤爪で一閃。翼ごと斬って捨てていた。
軽く息をついて振り向くと……そこにはギャメル。
「ちょっと待ってな!」
言ってハヤトの傷を癒やすと、開けた一角に荷を下ろしていた。
「今日はここにしようぜ!」
そして杭に紐を結び、骨組みに布をかけてテントを設営。
砂場に石と鍋も置いて――野営の準備を始めた。
サウゼル大樹海。
その奥地に眠ると言われる白妙鉱石の採取依頼を受けて数日。伝承と古代地図は概ね正しかったようで、二人の行軍は順調だった。
野営も数回目で――料理担当のギャメルは慣れたように鍋を火にかけ、良い香りを立ち昇らせていた。
「美味そうだな!」
「もうすぐ出来るよ」
覗くハヤトに、ギャメルは応えつつかき混ぜていく。
干し肉を具材と出汁にして、塩胡椒で調味。魚粉も加えた旨味たっぷりのスープ。弟妹達にも人気の逸品だ。
ハヤトは期待の面持ちで覗き込んでいる。
「今日も沢山動いたからな。腹がぺこぺこだぜ」
「さっきも、すごかったからな」
ギャメルは先刻の戦いぶりを思い返した。
ハヤトは元々、ゴールディの飯屋の店先で出会った間柄。
彼が偉大なるゴブリンの祖、ガランの子孫だと知った時には驚いたものだが――今ではその勇猛さに納得の思いだ。
そうだ、とギャメルは瞳を輝かす。
「ガランの話を聞かせてくれよ! 色々、知りたいと思ってたんだ」
「いいぜ。俺の知る範囲で良ければな」
前置きはするが、ハヤトは紛れもない血族。その口から聞ける話にギャメルはわくわくと身を乗り出した。
ハヤトは笑みつつ、話し始める。
「そもそも、尾ひれもついちゃいるようだが」
と、ハヤトは顎をさする。
偉業を成し得た伝説的存在には、想像や創作が入り混じってしまうもの。
故に知らぬ者は、かの戦士を屈強な大男だとか、比類なき頑強な肉体を持っていたと認識する事も多いけれど――
「実際のとこ、ギャメルより小さかったんじゃねーかな?」
言って手で高さを示した。
「タッパもせいぜい1mくれぇだったって聞いてるぜ。こんなもんだ」
「意外!」
精々が弟達くらいの背丈。思うとギャメルには、尚更偉大に感じられる。
「そんなガランが、すごい活躍をしたんだろ?」
「ああ。名高い『大脱出』さ。尤も、その前から活躍はしてたみたいだ」
小柄ながら時にそれを感じさせず、時にそれを活かし戦場を駆けていたという。
元より危険な敵も多かった地帯だろう。
「そこで生き抜いたってのは、そりゃ凄いもんさ。石の斧や剣を使ってたらしいが、必要となりゃその場で戦いに必要なもんも調達していた」
暮らしの全てがサバイバルだったろう。
その中でガランはいつ敵が現れても状況をすぐに把握し、対応していたのだ。
「体格を頭と腕で補ってたんだろうな」
「強かったんだな」
ギャメルの心にある尊敬の念がより一層強くなる。
ハヤトは頷いた。
「戦いが只の腕力勝負じゃないって事を知ってたんだ」
ガランは敵に囲まれても焦らなかった。
よく見据え、観察し、微かな隙を突いて包囲網をくぐる。そして木々へ跳び、宙を舞い、逆に相手の背中を取って勝利をもぎ取ったものだったという。
「タイマンでも決して弱くはなかった。飛べば旋風、走れば疾風……剣技も風のように鋭く疾かったっていうぜ」
「かっこいいな! まるでハヤトみたいじゃないか!?」
ギャメルが拳を握って言うと、ハヤトは笑う。
「ご先祖さんに並べられるには、俺はまだまださ」
けれど、いつかそうなれば良いとも思う。ハヤトにとってガランはそういう存在でもあった。
だがそんなガランにも最期の時が近づいてくる。
それこそ大脱出――樹海からの脱出を賭けた大猿達との決戦だ。
「敵は圧倒的だ。ご先祖さんは、真正面からの戦いじゃ難しいと悟ったと思うぜ」
その言葉にギャメルは息を呑んだ。
事実、その戦いの壮絶さは今も語り継がれている。敵は巨躯で、巨腕。多くの仲間が苦戦を強いられたろう。
それでもガランは決して逃げず、諦めなかった。
自身が出来る事、成し得る事を考え、答えを導き出したのだ。
「一人、気配を消していたらしい。虎視眈々と敵の首級――『四つ腕』の背後を取りに動いたんだそうな」
影を縫い、足音を殺し。
斃すべき敵だけを見据えて真っ直ぐにそこへ走ったのだ。
「そして機を見計らって、決死の奇襲をかけた」
「それは……上手く行ったんだよな?」
ギャメルが息せき切って促すと、ハヤトはそうだな、と応える。
「巨大な『四つ腕』の背中を駆け上がった。そのまま一撃を加えて奴の片目を奪ってみせたのさ」
「やった!」
ギャメルは声を上げる。自分がその場にいるかのような気持ちで、どきどきとしていた。
実際、それは光明を掴んだ一手。『四つ腕』にとって無視できない痛手だったろう。
それでも、とハヤトは腕を組む。
「本当は両目を狙ったんだろうが――流石に敵も大将だ。片目を潰されたその一瞬に、四本の腕で反撃をしていた」
その豪腕を、ガランが空中で躱しきる事は叶わなかった。
「それを喰らって……命を散らしたんだ」
或いは、ガランはそうなると判っていたのかも知れない。
少なくともそれだけのリスクのある行動だと理解していた筈だ。
それでも、挑んだ。
そして敵を弱らせ、結果として勝利を近づけた。
「たった一人でジャイアントキリングを引き寄せた勇猛果敢なる祖――それがガラン、俺の憧れるご先祖様ってわけだ!」
ハヤトの言葉に、ギャメルは興奮と、そして畏敬にも似た感覚があったろうか。
「一人で巨大な敵に挑む……。本当に怖……勇敢だよな!」
言い直しつつも、思いは強く。
真っ直ぐに先祖を語る、ハヤトのその表情にも思いがこみ上げて。
「ハヤトの傭兵団に“勇気”の意味が込められてるのも納得だぜ」
それは心からの言葉。
ギャメル自身、傭兵団の強さに素直に憧れているから。
けれど――思えば思うほどに、ギャメルは俯いてもいた。
憧れても団員とならないのは、自分の勇気に自信がないから。今だって、偉大な存在の話を聞いてしまったからこそ。
(それに比べて、オレはビビリで……)
同じゴブリンとして、心に擡げるのは自分への情けなさだった。
(……)
でも。
祖先の存在やハヤトの話に、与えられたものもあるのだろう。しょぼんとしていたギャメルは、すぐに気を取り直して顔を上げていた。
「ガランは英雄らしい戦死を遂げたけど。もしその場にオレがいたら――助かるように治療したいぜ」
言って、手元にきらりと魔力の光を煌めかせてみる。
――臆病でヘッポコなオレでも、勇猛に戦う人の支援ならできるかも知れないから。
ハヤトは快活に笑った。
「俺の傷も癒やしてくれたしな。ギャメルなら、きっと出来たぜ」
するとギャメルもその言葉に笑みを返して。
「ハヤト、ご先祖の話を聞かせてくれてありがとなー!」
そうしてスープも出来たからと、共に食事。疲れを癒やす美味に舌鼓を打って――ぐっすりと眠って翌日、行軍を再開する。
意気揚々と出発する二人には、依頼の完遂ももう目の前だった。