お姫様抱っこのおまじない
キャラクターノベル(グループ)制作 空色みなも納品 2021年04月21日 22時33分22秒
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お姫様抱っこの呪い。
それは二人の仲を深める、おまじない――。
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セロンガード・シュタインドルフが放った矢で逃げ場を塞いだクリーパーへ、剣を手に肉薄したティトが追い詰めていく。
二人は冒険者ギルドで受けた依頼により、クリーパー退治に赴いていた。
「あっ」
後方へ跳躍したクリーパーを追いかけようとしたティトに向け、クリーパーの瞳が怪しく光る。
赤い光を浴びたティトは足がすくみ、その場に立ち止まってしまった。
その隙をついて、クリーパーはエーテルをその身に収束させ――。
「ティト!」
しかし、セロンガードがそれを許さない。
セロンガードの矢がクリーパーの額を射抜き、それによりクリーパーはどうと後ろへ倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?」
クリーパーが動きを止めたことを確認したセロンガードは、その場にへたり込んでしまったティトへと向け、急いで駆け寄る。
「セロン……ぼく、呪いを受けた、みたい」
「呪い、ですか。困りましたね、私は解呪のための手段がありません」
状況を説明するティトの顔を、セロンガードは心配そうに覗き込む。
「困った、ね……」
セロンガードの顔が、すぐ近くにある――その事実にティトが微かに頬を染めたことに、顔色を確かめているはずのセロンガードは気づいているだろうか。
そのように考えると、ティトの胸は余計に高鳴っていく。
「どのような呪いを受けたか、分かりますか?」
「それは――」
受けた呪いの内容をセロンガードに尋ねられたティトは、ここである悪戯を思いつく。
実際にティトが受けた呪いは、しばらくの間、足が動かなくなるというもので、しばらくすれば治ると予想された。
そのことを正直にセロンガードへと告げてもいいのだが、それでは――面白くない。
ティトはそこで、ちょっとした嘘をついてみることにした。
「『夕暮れまでお姫様抱っこされなければ大変な事になる』呪い、だよ」
「なんと、大変なことに……! それは大変、ですね。して、大変なこととは一体?」
ティトの発表した呪いの内容に、衝撃を受けたように上体を仰け反らせたセロンガード。
セロンガードは呪いの内容をさらにつまびらかにしようと、ティトに尋ねたが――。
「大変なことは、大変なこと、だよ。それはもう、大変なことに、なる」
「そんな……このままお姫様抱っこしなければ、ティトが、それはもう大変なことに」
ピッと人差し指を立ててティトが念押しするものだから、セロンガードの頭の中を一気に様々な想像が駆け巡る。
ティトがあんなことになったり、こんなことになったり……それはそれで見てみたいような気もする――ではなく。
「どうあれ、ティトを大変な目にあわせるわけにはいきませんね」
セロンガードはティトへ本当に酷いことが降りかかったらどうするのだ、とでも思い直したのか、雑念を振り払おうとするようにかぶりを振った。
「では失礼して。よい、しょっと」
「ひゃう……!」
一声かけて屈み込んだセロンガードは、掛け声とともに、ひょいとティトを抱え上げる。
セロンガードが思った以上にあっさりとお姫様抱っこをしてくれたものだから、ティトは思わず声を上げてしまう。
「え、えと、セロン……重く、ない?」
これは、予想以上に照れ臭い――ティトは気恥ずかしさにセロンガードの腕の中で縮こまりながら、照れ隠しのようにセロンガードへと問いかける。
「体の重みなんて気になりませんよ――ティトを守らないといけない、という責任の重さに比べれば」
セロンガードの口をついて出た言葉に、ティトは顔を真っ赤にした。
ティトは慌てて下を向いて、セロンガードから顔を見られないようにしようとするも、なにせお姫様抱っこの真っ最中、セロンガードの顔はすぐそこだ。
気付かれないはずはない――のだが、当のセロンガードは涼しい顔をしているように見える。
「私のことより、大変なのはティトでしょう? 大丈夫ですか?」
心配そうな真顔のまま、セロンガードはティトに体の具合を尋ねてくる。
「ううん、ぼくはぜんぜん平気、だよ」
お姫様抱っこされていることにより、ティトの胸の内はある意味で大変なことになっていたのだが、ティトはどうにか平静を装おうとする。
「いつも支えてくれて、ありがと……ね」
「どういたしまして……おや」
ティトは少しでもセロンガードの腕の負担を軽くしようとするかのように、セロンガードの首の後ろに自らの両腕を回した。
それによりセロンガードの気遣わしげな表情がむずむずと動いた気もしたが、ティトは気付かぬフリをして、そのままグイとセロンガードに顔を寄せる。
「ねえ、セロン……このまま、ギュッってしてて、いい?」
耳元でティトがそんなことを囁くものだから、セロンガードもいよいよ息を飲み、その音がティトにもハッキリと聞こえた。
「それは……しないと、大変なことになりますか?」
「うん、なる」
セロンガードがずいぶん真剣な声色で問い返したものだから、ティトも厳かな表情を作って頷いてみせた。
「なら仕方ないですね。お好きなだけ、どうぞ」
「ありがと、セロン……」
ふっと表情を和らげたセロンガードから許しが得られ、ティトはぎゅっとセロンガードへ体を寄せた。
ティトの胸に、セロンガードの温もりが伝わってくる――。
この胸の高鳴りは、セロンガードの耳にも届いているだろうか。
そのようなことを思い浮かべながら、ティトはセロンガードに抱きかかえられたまま、依頼の帰路についたのだった。
●
「夕暮れ、ですね」
「ここまで、ありがと……呪いは、もう、大丈夫、だから」
沈みかけの太陽により朱に染め上げられた空を見上げ、ポツリと呟いたセロンガード。
その腕に抱えられたティトの頬に朱が差して見えるのは、なにも夕焼けのせいとばかりも言えないだろう。
「もう歩けますか? では、名残惜しくもありますが、今日はここまでと致しましょう」
「うん、もう足は、動く……って、あれ?」
セロンガードが返した言葉に、違和感を感じたティトは、その正体を探ろうと首を捻り――。
「あっ、ひょっと、して……セロン、気付いて」
そう、ティトは呪いの本当の効果をセロンガードに伝えていなかったはずなのだ。
セロンガードがそのことに気付いていながら、お姫様抱っこを続けていたのだとすれば、ティトの嘘を知りながらノリノリで付き合っていたことになる。
「えっ、と……その、いつから?」
「それはですね……内緒です!」
もはや動揺を隠すことも忘れてティトが問いただすも、セロンガードにはぐらかされる。
「い、いじわる……」
「始めに嘘をついたのはティトですからね、お互い様です」
可愛らしく頬を膨らませたティトに、セロンガードは悪戯っぽく微笑み返す。
「それと、嘘なんかつかなくても、ティトのお願いなら、お姫様抱っこもお安い御用ですよ。またして欲しくなったら、正直にそう言ってくださいね」
「セロン……じゃあ、もう一つ、我儘、いい?」
自らの重みを支え続けてくれたセロンガードの柔らかい笑みに、ティトは潤んだ瞳を向けて、乞う。
「やっぱり、もうちょっと、だけ。このまま、で」
「おやおや。では、ティトが大変なことにならないように、もうしばらく、このままでいましょうか」
こうしてティトの気が済むまで、セロンガードはいつまでも、それはもういつまでもティトを支え続けたのだった。
お姫様抱っこの呪い。
それは二人の仲を深める、おまじない――。
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セロンガード・シュタインドルフが放った矢で逃げ場を塞いだクリーパーへ、剣を手に肉薄したティトが追い詰めていく。
二人は冒険者ギルドで受けた依頼により、クリーパー退治に赴いていた。
「あっ」
後方へ跳躍したクリーパーを追いかけようとしたティトに向け、クリーパーの瞳が怪しく光る。
赤い光を浴びたティトは足がすくみ、その場に立ち止まってしまった。
その隙をついて、クリーパーはエーテルをその身に収束させ――。
「ティト!」
しかし、セロンガードがそれを許さない。
セロンガードの矢がクリーパーの額を射抜き、それによりクリーパーはどうと後ろへ倒れ込んだ。
「大丈夫ですか?」
クリーパーが動きを止めたことを確認したセロンガードは、その場にへたり込んでしまったティトへと向け、急いで駆け寄る。
「セロン……ぼく、呪いを受けた、みたい」
「呪い、ですか。困りましたね、私は解呪のための手段がありません」
状況を説明するティトの顔を、セロンガードは心配そうに覗き込む。
「困った、ね……」
セロンガードの顔が、すぐ近くにある――その事実にティトが微かに頬を染めたことに、顔色を確かめているはずのセロンガードは気づいているだろうか。
そのように考えると、ティトの胸は余計に高鳴っていく。
「どのような呪いを受けたか、分かりますか?」
「それは――」
受けた呪いの内容をセロンガードに尋ねられたティトは、ここである悪戯を思いつく。
実際にティトが受けた呪いは、しばらくの間、足が動かなくなるというもので、しばらくすれば治ると予想された。
そのことを正直にセロンガードへと告げてもいいのだが、それでは――面白くない。
ティトはそこで、ちょっとした嘘をついてみることにした。
「『夕暮れまでお姫様抱っこされなければ大変な事になる』呪い、だよ」
「なんと、大変なことに……! それは大変、ですね。して、大変なこととは一体?」
ティトの発表した呪いの内容に、衝撃を受けたように上体を仰け反らせたセロンガード。
セロンガードは呪いの内容をさらにつまびらかにしようと、ティトに尋ねたが――。
「大変なことは、大変なこと、だよ。それはもう、大変なことに、なる」
「そんな……このままお姫様抱っこしなければ、ティトが、それはもう大変なことに」
ピッと人差し指を立ててティトが念押しするものだから、セロンガードの頭の中を一気に様々な想像が駆け巡る。
ティトがあんなことになったり、こんなことになったり……それはそれで見てみたいような気もする――ではなく。
「どうあれ、ティトを大変な目にあわせるわけにはいきませんね」
セロンガードはティトへ本当に酷いことが降りかかったらどうするのだ、とでも思い直したのか、雑念を振り払おうとするようにかぶりを振った。
「では失礼して。よい、しょっと」
「ひゃう……!」
一声かけて屈み込んだセロンガードは、掛け声とともに、ひょいとティトを抱え上げる。
セロンガードが思った以上にあっさりとお姫様抱っこをしてくれたものだから、ティトは思わず声を上げてしまう。
「え、えと、セロン……重く、ない?」
これは、予想以上に照れ臭い――ティトは気恥ずかしさにセロンガードの腕の中で縮こまりながら、照れ隠しのようにセロンガードへと問いかける。
「体の重みなんて気になりませんよ――ティトを守らないといけない、という責任の重さに比べれば」
セロンガードの口をついて出た言葉に、ティトは顔を真っ赤にした。
ティトは慌てて下を向いて、セロンガードから顔を見られないようにしようとするも、なにせお姫様抱っこの真っ最中、セロンガードの顔はすぐそこだ。
気付かれないはずはない――のだが、当のセロンガードは涼しい顔をしているように見える。
「私のことより、大変なのはティトでしょう? 大丈夫ですか?」
心配そうな真顔のまま、セロンガードはティトに体の具合を尋ねてくる。
「ううん、ぼくはぜんぜん平気、だよ」
お姫様抱っこされていることにより、ティトの胸の内はある意味で大変なことになっていたのだが、ティトはどうにか平静を装おうとする。
「いつも支えてくれて、ありがと……ね」
「どういたしまして……おや」
ティトは少しでもセロンガードの腕の負担を軽くしようとするかのように、セロンガードの首の後ろに自らの両腕を回した。
それによりセロンガードの気遣わしげな表情がむずむずと動いた気もしたが、ティトは気付かぬフリをして、そのままグイとセロンガードに顔を寄せる。
「ねえ、セロン……このまま、ギュッってしてて、いい?」
耳元でティトがそんなことを囁くものだから、セロンガードもいよいよ息を飲み、その音がティトにもハッキリと聞こえた。
「それは……しないと、大変なことになりますか?」
「うん、なる」
セロンガードがずいぶん真剣な声色で問い返したものだから、ティトも厳かな表情を作って頷いてみせた。
「なら仕方ないですね。お好きなだけ、どうぞ」
「ありがと、セロン……」
ふっと表情を和らげたセロンガードから許しが得られ、ティトはぎゅっとセロンガードへ体を寄せた。
ティトの胸に、セロンガードの温もりが伝わってくる――。
この胸の高鳴りは、セロンガードの耳にも届いているだろうか。
そのようなことを思い浮かべながら、ティトはセロンガードに抱きかかえられたまま、依頼の帰路についたのだった。
●
「夕暮れ、ですね」
「ここまで、ありがと……呪いは、もう、大丈夫、だから」
沈みかけの太陽により朱に染め上げられた空を見上げ、ポツリと呟いたセロンガード。
その腕に抱えられたティトの頬に朱が差して見えるのは、なにも夕焼けのせいとばかりも言えないだろう。
「もう歩けますか? では、名残惜しくもありますが、今日はここまでと致しましょう」
「うん、もう足は、動く……って、あれ?」
セロンガードが返した言葉に、違和感を感じたティトは、その正体を探ろうと首を捻り――。
「あっ、ひょっと、して……セロン、気付いて」
そう、ティトは呪いの本当の効果をセロンガードに伝えていなかったはずなのだ。
セロンガードがそのことに気付いていながら、お姫様抱っこを続けていたのだとすれば、ティトの嘘を知りながらノリノリで付き合っていたことになる。
「えっ、と……その、いつから?」
「それはですね……内緒です!」
もはや動揺を隠すことも忘れてティトが問いただすも、セロンガードにはぐらかされる。
「い、いじわる……」
「始めに嘘をついたのはティトですからね、お互い様です」
可愛らしく頬を膨らませたティトに、セロンガードは悪戯っぽく微笑み返す。
「それと、嘘なんかつかなくても、ティトのお願いなら、お姫様抱っこもお安い御用ですよ。またして欲しくなったら、正直にそう言ってくださいね」
「セロン……じゃあ、もう一つ、我儘、いい?」
自らの重みを支え続けてくれたセロンガードの柔らかい笑みに、ティトは潤んだ瞳を向けて、乞う。
「やっぱり、もうちょっと、だけ。このまま、で」
「おやおや。では、ティトが大変なことにならないように、もうしばらく、このままでいましょうか」
こうしてティトの気が済むまで、セロンガードはいつまでも、それはもういつまでもティトを支え続けたのだった。