魔法学院の五不思議

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 十六凪納品 2021年05月01日 21時44分24秒

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 王立アプリーリス魔法学院。
 ビクーニャ王国に存在する最高峰の教育機関だ。
 魔法の才能を持った優秀な生徒たちは、12歳から18歳までの6年間、学院で学びつつ、寮生活によって社会性や協調性を身につけることになる。
 この魔法学院には魔法能力の方向性に合わせて6つの寮が存在し、個性的な寮長達によってとりまとめられている。学生たちは6つの寮のいずれかに所属し日常を過ごすのだ。
 また、時には学生寮対抗戦によって、学生たちはその勉学の成果を競い合うこともある。

 ――だが、ここに、学生寮対抗戦の真っ只中だというのに、それを気にもしない学生たちがいた。
 それが学院非公認『五不思議委員会』のメンバーたちである。

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「夜の学校って楽しそうよね。みんな、早く来ないかしら?」
 寮の消灯時間が過ぎた後。夜の帳が降りた学院に少女の楽しそうな声が響き渡った。
 声の主はドラゴン寮に所属する16歳の少女、ミツキ・アインホルンだ。ミツキは赤い瞳を興味深げに周囲に向ける。
 そこは、普段過ごしている昼間の学校とは違う別世界。漆黒の闇が支配する校舎は、まるで魔物が待ち受けるダンジョンのようだ。
 校舎前の噴水の縁に腰掛けたミツキは楽しげに足を揺らしながら五不思議委員会のメンバーの到着を待っていた。

「ミツキ先輩、はしゃぎすぎではないですか?」
 イタズラっぽい表情できょろきょろするミツキに向かって落ち着いた声をかけたのは、鏑城彰斗(カブラギ アキト)。栗色に染めた髪に縁の黒いスクエアフレームの眼鏡をかけたクールそうな少年である。サーペント寮に所属する14歳の彼は、その几帳面な性格をあらわすように、集合時間のきっちり10分前に集合場所に姿を現した。
 彰斗は眼鏡の奥から花緑青色の瞳をミツキに向けつつ言葉を続ける。
「いいですか、ミツキ先輩。五不思議委員会の目的は学院で囁かれている噂が事実なのかを突き止めることです。生徒たちが噂などに踊らされず学業に専念できるようにするために」
 チャキっと眼鏡のフレームを押し上げる彰斗。
 その冷静沈着な様子からは、彼が内心、肝試し感覚で夜間の学院探索に参加したという事実を窺い知ることはできなかった。

「せんぱーい、こんばんわぁ~。良い夜ですねぇ~」
 噴水前のミツキと彰斗に合流してきたのは、オウル寮からこっそりと抜け出してきた明坂壱之丞(アキサカイチノジョウ)。委員会メンバーの中でも最年少のひとり、のほほんとした雰囲気をまとった12歳の1年生だ。
「夜中に寮を抜け出して不思議の解明とか、五不思議委員会の活動は青春って感じがするよねぇ~」
 よっぽど探検を楽しみにしているのか、魔法の電灯はもとより、手のひらサイズの魔法の映写機――通話機能もついているらしい――や、メモ帳などを手に持つ壱之丞。暗闇に包まれた校舎を探索する準備は万端だ。これらの便利魔法道具の作成こそ、便利魔法に長けたオウル寮に所属する彼の専売特許といえる。

 そんな壱之丞の背後から元気そうな声が上がる。
「あー、壱之丞くん、こっそり寮を抜け出したと思ったら、ミツキさんたちと夜遊びとかずるい……じゃなくて、いけないんだっ」
 各務原瑛梨(カガミハラ エリ)。壱之丞と同じくオウル寮に所属する12歳の1年生にして五不思議委員会最年少の少女である。
 ぶかぶかの帽子とマントを身につけ、背伸びをしている子供という感じの瑛梨は、びしぃっと指を突きつけて宣言する。
「ミツキさん、壱之丞くん! 瑛梨も委員会メンバーなんだから、ちゃんとつれてってよね!」
「うん、みんないっしょに探検できると楽しそうだよねぇ~」
 のほほんとした口調で答える壱之丞を見て、アインホルン家のミツキが嘆息する。
「各務原家の瑛梨さんのご両親から、娘をお願いします、って頼まれているので瑛梨さんには声かけなかったのだけど……。こうなったら私がしっかりと守らないといけないわね」

「寮を抜け出すなんて、いけない子たちだね……。まあ、私も同じだけどね」
 長いウェーブのかかった黒髪の少女が音もなく暗闇の中から姿を現した。
 ミステリアスな雰囲気をまとう少女は、五不思議委員会のメンバーであり、サーペント寮に所属する15歳の4年生、漆原・香墨(ウルハラ・カスミ)である。
「ふふ、五不思議か……。謎を解明するのは楽しそうだ。私も混ぜておくれよ」
 イタズラっぽい笑みを浮かべる香墨。

 ――こうして、五不思議委員会のメンバーが揃ったのだった。

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「さて、みんな、事前に言っておいた通り、五不思議の情報は集めてきたかしら?」
 最年長であり、メンバーを招集したミツキが一同をぐるりと見回した。
 その瞳は、これからの探検に想いを馳せて悪戯っぽく輝いている。
「ミツキ先輩。剣道部の活動や勉強では優等生と呼ばれているのに、こういう時は生き生きしますよね」
「もっちろん。イベントや楽しいことは楽しまないと損じゃない?」
 同じ体育会系の部活である弓道部に所属している彰斗から呆れた声で指摘されるが、ミツキは気にもしていないようだ。
 ため息を漏らしつつ、彰斗が口を開く。
「それでは、まずは僕が調べた五不思議から報告しよう」
 居住まいを正した彰斗の言葉に、一同は耳を傾ける。

「僕が調べてきたのは、『夜になると描かれている少女が抜け出す絵』の噂だ」
「へえ~、自由に絵の中に出入りできたら、かくれんぼのときに便利そうだよねぇ~」
 壱之丞がのんびりとした口調で感想を述べる。
 その言葉に苦笑しながらも、彰斗は説明を続けていく。
「まあ、あくまで噂だけど、夜になると何の変哲もない絵から少女が抜け出し、学院内を徘徊しているらしい。放置しておいても問題はないが、事実なら原因は何なのか是非知りたいな」
 そこまで説明すると、彰斗は取ってつけたように言葉を付け加える。
「ああ、もちろん、学生たちが学業に専念できるように、だ」
 
 続いて立ち上がったのは、壱之丞である。
「それじゃあ、次は僕の番かな~。えっと、僕はね~、『誰かの過去や未来が映る鏡』の噂を聞いてきたよ~」
「過去や未来っ!?」
 瑛梨が驚きの声を上げたのを聞き、壱之丞は先を続ける。
「うん、その映る過去や未来は、自分のものかもしれないし、他人のものかもしれないらしいよ~。自分の未来とか見れたら便利そうだよねぇ~。明日の夕飯なにかな~、とか毎日気にしなくて済むし。……あ、けど、メニューを楽しみにすることもできなくなっちゃうのかなぁ」
 便利かどうか悩みだす壱之丞だった。

「では、瑛梨も知っている不思議な話を紹介するわ」
 ずり落ちそうになった帽子をかぶり直しつつ、瑛梨はマントをバサリとなびかせた。首からかけた魔法の懐中時計が月光を反射して煌めく。
「瑛梨が知っている噂は――『解錠の魔法をかけても開かない扉』よ」
「ふふ、魔法でも開かない扉ねぇ、いったい何を封印してるんだろうね」
 扉の奥を想像した香墨が妖艶な笑みを浮かべた。
「解錠の魔法でも開かないなんて、なにかの悪だくみをしている証拠だわ! 真実を明らかにするべきね!」
 ぐっと拳を握りしめ、瑛梨は気合を入れた。

「では、次は私の番だね。私が調べた噂は、『廊下に飾られている底なしの壺』だよ」
「底なし……!?」
 香墨が静かに語った五不思議を聞き、ミツキがごくりと喉を鳴らした。
「ああ、なんでも花を活けようした花が飲み込まれてしまったらしいよ? おずおずと壺の中を覗いたら底が見えなかったとか……」
 興味深げな笑みを浮かべ、香墨が続ける。
「壺に飲み込まれたものは、どこへ消えたんだろうね?」

「みんな、調査してくれてありがとう。では、最後の5つ目の不思議ね」
 4つの不思議が語り終えられたところで、ミツキが立ち上がり一同を振り仰いだ。
「私が調べてきた噂……。それは『ガーゴイルでもないのに勝手に動く石像』よ」

 こうして、すべての五不思議が明らかになった。
 ――夜になると描かれている少女が抜け出す絵。
 ――誰かの過去や未来が映る鏡。
 ――解錠の魔法をかけても開かない扉。
 ――廊下に飾られている底なしの壺。
 ――ガーゴイルでもないのに勝手に動く石像。

「それでは、謎の解明に向かいましょう!」
 五不思議委員会のメンバーたちは、夜の校舎へと入っていった。

 そこで何が待ち受けているかも知らずに。

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 ――五不思議の探索を終え、校舎前の噴水に戻ってきた五不思議委員会の一行。

「これで全ての五不思議は解明できましたね」
 ミツキの言葉に、メンバーが首肯する。
 メンバーの手には、各々、カラフルな石が握られていた。
「この石、なんなんだろうね~?」
「五不思議にそれぞれ隠されてたから、何か意味がありそうよね!」
 壱之丞の呟きに反応し、瑛梨が興味深げに手に持った石を掲げる。
 ――とその時、5人が持つ石が光を放ち始めた。
「ふふふ、どうやら五不思議には続きがあったみたいだね」
 香墨の視線の先、噴水の正面に描かれた紋様が、石と同じ色の光に輝く。
「これは噴水に施された五芒星の封印魔法陣だ! 何か――出るぞっ!」
 彰斗の警告の声と共に、噴水が崩れ落ち、あたりが光に包まれた――。

『ほほう、我の封印を解いてくれたのはお主らか』
 委員会の面々を見下ろすのは、漆黒のローブを纏った魔女姿の美女だった。
 魔力で空中に浮かびながら、魔女は妖しげな笑みを浮かべる。
『我の絶大なる魔力を用いて世界征服をしようとしていたら、初代魔法学院長に封印されてしまってな……。封印を解いてくれた礼に、お前たちから黒焦げにしてやろう!』
 魔女から放たれるは強烈な雷撃。
 五不思議委員会のメンバーは、散会してそれを回避した。

「まさか、五不思議にこんな秘密が隠されていたなんて……。けれど、ここは魔法学院の生徒として、私たちが決着をつけるわよ!」
 すらり、と長剣を抜き放ったミツキが魔女に向かって言い放つ。
 その隣に並ぶのは、弓を取り出した彰斗だ。
「そうだな。僕らが封印を解いてしまったというなら、再封印するまでだ」
 ミツキが稲妻を纏った長剣――魔法剣で魔女に斬りかかり、魔女が生み出した魔力障壁と激突。激しい火花が弾け飛ぶ。
 そこに彰斗が放った矢が風を裂いて飛翔し、綻びのできた魔力障壁の隙間から魔女へと襲いかかった。
『ぐぬうっ!?』
「僕の矢に込められた毒は、簡単には解毒できないぞ」
 彰斗の口に冷笑が浮かんだ。

『おのれ、ひよっこのくせに生意気なっ!』
 魔女が口の中で呪文の詠唱をおこなうと両手の上に巨大な火球が現れた。
 それが解き放たれようとした瞬間――。

「ふふふ、そうはさせないよ」
 香墨の声とともに周囲に満ちるのは魔法の香の匂い。
 周囲に紫色の霧のようなものが漂い、魔女の魔力障壁の中へと侵入していく。
『な、なんだとっ!? 我の魔力が拡散していく!?』
「どうかな、この霞の魔術師の香魔術。香りに注意しないのは油断大敵だったね?」
 香炉を持った香墨が余裕の態度で告げた。

「それじゃあ~、オウル寮の連携プレー、見せてあげようかぁ~」
 壱之丞が取り出したのは、便利アイテムである玩具の銃。一見ただの玩具だが、魔女に向け引き金を引くと、飛び出すのは魔法の弾丸だ。
『ぬおっ!?』
「お爺様、力を貸してっ!」
 怯んだ魔女に向かって、瑛梨は祖父からもらった魔法の懐中時計を掲げた。
 月光に輝く懐中時計を見た魔女の表情が凍りつく。
『バカなっ、何故、我を封じる『鍵』を、こんな小娘が持っておるのだ!?』
「各務原家に代々伝わる魔法の懐中時計よ、邪悪な魔女を封じてっ!」
 瑛梨の懐中時計から眩い光が放たれ――。
『ぬわあああっ!』
 光が収まったときには、魔女の姿は消えていたのだった。

「なんとか、魔女は封印できたみたいね」
「これで五不思議――いや、六不思議は解明だな」
 ミツキが剣を収め、彰斗も弓をしまいながら呟く。
「わ~、楽しい探検だったね~」
「お爺様、各務原家の努め、果たしたよっ」
 楽しそうに笑顔を浮かべる壱之丞と、懐中時計を誇らしげに握りしめる瑛梨。
「このようなスリリングな体験なら大歓迎だ。また誘ってくれ」
 微笑んだ香墨も、そっと言の葉を紡ぐのだった。

 ――だが、学院の不思議はこれで終わりではない。
 いずれ7番目の不思議が彼らの前に立ちふさがることだろう――。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0