夜空の向こう

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月01日 10時27分56秒


 夜空を穿つ三角屋根。
 尖った天辺はお月様を刺すの。 
 砕けたお月様はお星さまになって。
 夜空を彩る星座になるの。

「詩人だねぇ」
「ええっ!? そうかしら……いつも夢見がちって言われるんだけれど」
「夢見がちってか、ガキだな」
 星の浮かぶ満天の夜空を特等席(屋根の上)で見上げる三人。
 【オウル寮】所属のクレア・エクレール。【ドラゴン寮】所属のアンネエルカ。そして、【サーペント寮】所属のアーシェル・G・クライン。
 三人は寮の門限も気にせず、学校でも特別高い尖塔の屋根に背を預けていた。
「相変わらず、アーくんは口が悪いねぇ」
「アーくん言うなっ!」
 5年生のクレアに対し、アーシェルは4年生。だが、飛び級で上がってきたので年齢はずっと若い。
「アーくんも、もう12だものね。時が経つのは早いわ」
「アンネ、お前も言うか!」
 アンネエルカはアーシェルと同学年の4年生。三人は同じ【星詠部】の仲間だった。
「ったく……で? 今日の目的は何なんだ」
 子供扱いされたことで気を悪くしたのかアーシェルが、不機嫌に尋ねる。
「私は知らないわ。クレアが呼んだのでしょう?」
 アーシェルに顔を向けられアンネエルカは首を振り、クレアを見る。
「ふふーん、そうです。今日はボクが呼びました!」
 不安定な三角屋根の縁に立ち上がり、クレアが胸を張った。
「門限破ってまで一体何があるんだ?」
「また寮長に怒られるかもしれないけれど、クレアのお誘いだものね。私は嬉しいわ」
 二人はクレアを見上げながら別々の反応を見せる。
「うむうむ。それでは教えてしんぜよう」
 自慢の魔法眼鏡をくいっと持ち上げながら、不敵な笑みを浮かべるクレア。
「えっと、それはゴライアス薬物学教授の真似?」
「似てねぇ……」
「う、うっさいなぁもう! そんな事より! 二人はこの学院の七不思議って覚えてる?」
 指摘され言葉に詰まるクレアは、気を取り直して二人に尋ねた。
「うーん、なんだったかしら……『図書室の闇精霊の花瓶』は覚えてるんだけど」
「『第三校舎の土人形の嘴』とか『朝に吠える一匹鼬の抜け毛』とかだろ? なんだよ、今日はあんな眉唾話を探ろうっていうのか? 悪いが俺はごめんだぞ」
 うーんと唸るアンネエルカとは対照的に、嫌そうに顔をゆがめるアーシェル。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。ほら、ボクもうすぐ6年でしょ。6年は就職活動とかあってほとんど部活動に参加できないからさ。少しでも二人と思い出作りをしたいんだよ」
「そうか……そうよね。あと1年で卒業だものね……うん、私は賛成よ!」
「うぇ、マジかよ。ってか、七不思議を解明した生徒は就職に有利になるっていう、そっちの噂を狙ってるんじゃないのか?」
 学院七光輝。それは学院七不思議を解き明かした者が得られるという証と言われている。一つでも手に入れれば、その実力が認められ卒業後の進路が大いに開けるとされていた。
「うっ……そ、そんなことないよ? 本当だよ?」
「どうだかなぁ」
 可愛らしく首をかしげるクレアに、アーシェルは肩を竦めた。
「三人での思い出ができて、クレアの進路も有利になるなんてとても素晴らしいと思うわ!」
 そんな二人とは対照的に、アンネエルカは既に好奇心が暴走気味。
「それで、どの七不思議を探すの? 私、あまり覚えていないのだけど、夜の空が関係あるものかしら!」
 いつものふんわりとした雰囲気とはまるで別人のように、ぐいぐい押してくるアンネエルカに、二人は一瞬たじろぐ。
「夜の尖塔。星空の下。それなら『第一尖塔の石像鬼(ガーゴイル)の冠』じゃないのか?」
「さっすがアーくん! 正解! やっぱり頭いいね、小さいのに!」
「小さいのには余計だ!」
「えー、可愛くていいと思うんだけどな」
「可愛いとか言うな! 俺は男だ!」
「その背伸びしてるところも可愛いよ?」
「こいつ……話が通じねぇのか!?」

「石像鬼(ガーゴイル)の冠……それって、あそこの石像が冠をかぶっているっていう事かしら?」
 ガミガミと言い争っている二人を置いて、アンネエルカは今いる場所から第一尖塔を見る。
 月明かりに照らされたそこには、4体の石像鬼(ガーゴイル)が塔を護る様に配置されていた。
「4体居るけど、どれかしら……」
 石像鬼(ガーゴイル)は東西南北に配置され、どれが七不思議にまつわる石像なのか一目では判別がつかない。
「どれかが冠をかぶっているのかしら」
 そう呟いたアンネエルカは、屋根に立てかけてあった自慢の箒を手に取る。
「ちょっと見てくるわね」
 まだ言い争っている二人にそう言い残し、アンネエルカは身を宙に躍らせた。

●
「……うーん、どれも違いが無いように見えるのだけれど」
 尖塔の周りをゆっくりと飛びながら、アンネエルカは首を捻る。
「見ただけでわかりゃぁ、七不思議になんて数えられねぇよ」
 そんなアンネにいつの間にか追いついてきていたアーシェルが答えた。
「冠っていうくらいだから、見ればわかると思ったんだけど……どれもかぶってないね」
 アーシェルに続きクレアも駆けつけ、三人は箒に跨りくるくると尖塔の周りをゆっくりと飛ぶ。
「なんだよ、何か確証でも掴んだからこの七不思議にしたんじゃないのか?」
「え? そんなものないよ。でも、これこそが我々【星詠部】に相応しい七不思議だと思ったんだよね」
 そう言ってクレアはグッと拳を握った。
「はぁ? 動機も不純すぎる上にヒントもなしかよ。一体どうやって見つける気だ?」
「え? それはほら……愛と友情と魔力でこう、ちょちょいっと……」
 「ね?」とすがる様に見つめてくるクレアに、あんぐりと口を開けたアーシェル。
「……帰ろ」
「ちょっ!? アーくん待ってよ! 帰らないでー!!」
 くるりと箒の先を下に向けたアーシェルに、クレアが必死に手を伸ばした。

「……」
 相変わらずな二人の騒がしさにも動じず、アンネエルカは四方の石像鬼(ガーゴイル)をじっくりと見比べていく。何か違いはないか。どこか変わったことはないか。そんな事を思いつつ調べるもやはり見当たらない。
「流石は学院七不思議ね。一筋縄ではいかないわっ!」
 それが逆にアンネエルカを燃え上がらせた。
「もう一度、像をじっくりと調べてみないと――ううん、像だけじゃなくて尖塔自体にも何かあるのかもしれないわ」
 そういうとアンネエルカは、ふと尖塔の先を見上げた。
「……あれ?」
 何気なく見上げたそこに違和感を感じアンネエルカは視線を戻す。
「ねぇ、二人とも――」

「わかったって! 帰らねぇから! いてぇっ! 頬っぺた抓るな!!」
「ぷにぷに柔らかいねぇ、いいねぇぴちぴちでぇ」
「うわっ! くっつくな、落ちるって!!」
「なぁに、怖いの? ボクの箒に乗せてあげようか?」
「どう聞いたらそうなんだよ! 頭の耳は節穴か!?」

「むむ」
 視線を向けた二人はずっとそんな調子でじゃれ合っている。
 アンネエルカは腰から魔法の杖を取り出すと、夜空にくるりと光の円を描く。
 更に二重三重と円を描くと、最後に円の中心をポンと杖で叩いた。

 円の中心から吐き出された光の粒子がキラキラと月光を反射しながら二人に降り注ぐ。

「いい加減に――うん?」
「もぉ、照れちゃってかわい――え?」
 じゃれていた二人も周りを囲む光に気付き、言い争いを止める。そして――。

「「へ、へ、へっくしょーーい!!」」

 光の粒子に覆われた二人は、収まる事のない激しいくしゃみに襲われた。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0