魔園の空に告天子は歌う
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月01日 10時22分59秒
「まさか、この少年と仕合えというのですか?」
魔法学の授業の一環として行われる寮対抗の模擬戦。その決勝――。
白羽・ヒバリは目の前に現れた対戦相手に驚いた。
「ええ、そうよ」
模擬戦の審判、スワン寮寮長ヒルルクが、肩を竦め頷く。
「しかし、彼はどう見ても、ガキじゃないですか。もしかして新入生ではないのですか?」
「そうね、彼の名前はギド・フェルミ。新入生でサーペント寮の大将よ」
「まさか、それほどの実力者なんです……? どう見てもただのガキんちょですけど」
ヒバリは目の前で同じ寮生に愛想を振りまく少年を、じっと見つめた。
1年生という事は12歳。しかし、それよりもずっと幼く見える。
「実力は自分で確かめてね。それをわたしから言うのはフェアじゃないわ」
「……わかりました。まぁ、代表として出てきた以上、手加減はしません」
言うとヒバリはポケットからメリケンサック状の魔装具を取り出し手に装着する。
「『魔拳』ヒバリの実力見せてもらうわ」
「相手が相手なので、お見せできるかどうか」
ヒルルクの声に肩をすくませるヒバリ。すると――。
「おばさん、ちょうしにのってるの?」
「おばっ!?」
目の前の少年からかけられた思いもよらぬ言葉に、ヒバリは目を剝いた。
「あれ、おじさん? どっちでもいいや」
そういって、けらけらと天真爛漫に笑うギド。
「……ヒルルク寮長」
「あ、え? なに?」
「開始の合図を」
「あ……う、うん」
ヒバリから立ち上る魔気に気圧されるように、ヒルルクは開戦の合図を振った。
芝が抉れるほどの踏み込みで地面を蹴ったヒバリが、ギドとの距離を一気に詰める。一方のギドは先ほどからあどけない笑みを絶やさず、向かってくるヒバリを見つめていた。
遮るものの何もない修練場。彼我の距離はすぐに詰まり、ヒバリの射程距離に入った。元々、放出系の魔法より内燃系の魔法を得意とするヒバリは、その戦闘スタイルを近接に特化させている。
二つ名の『魔拳』が示す様に、鉄拳に魔力を込め威力を極大まで増幅させた打撃は、ゴーレムすらも砕く必殺の一撃となる。
そんなものを生者にふるえば――しかし、ヒバリは何の躊躇もなく目の前の少年に叩き込んだ。
空気を撃ち抜く衝突音と衝撃波。凄まじい打撃の余波が地面の芝を薙ぎ倒す。
「わぁ、よくとめたね。もうちょっと手をだしてくれてたら、すっぱりいってたのに」
まるで余裕を崩さないギドの目の前、僅か数cm手前でヒバリの拳が止まっていた。
その拳から一条の血が垂れ、不可視の糸を伝って地面へと吸い込まれていく。
「暗器。そう、それがあなたの武器ですね」
「あは、ばれちゃった? でも、これだけじゃないんだよ。ほかのも見る?」
拳を引き距離を取ったヒバリ。そんな彼女にギドはまるで玩具でも見せびらかすかのように、懐や袖、マントなど至る所から暗器の数々を取り出し、ぼとぼとと地面に落としていった。
「えっと、今日もってきたのはこれだけかな。おきにいりばっかりなんだよ?」
全て出し終えたのか、ギドは人懐っこい笑みを浮かべヒバリに話しかける。
「なぜ魔法学院に暗器使いがいるのかはわかりませんし、自分の手の内を晒す暗器使いも初めて見ました。さてはあなた、可愛い見た目とは裏腹に、かなりの承認欲求クレクレマンですね」
「うわ、このひとさらっとひどいこといった!」
ヒバリの一言にいたく傷ついた――風に見せる――ギドは、袖で涙をぬぐう――ふりをする。
「ふむふむ、酷いこと言われたと理解できると。なるほどなるほど、あなたが大将に選ばれたわけが少しわかってきました」
ぎゅっと拳を握り直し、魔力で傷を塞ぐ。審判で救護員でもあるヒルルクが「続けれる?」と問いかけてくるが、無言で頷いた。
「私も腹をくくりましょう。もう手加減無用。あるのは鉄拳制裁のみです!」
ガンガンと鉄拳同士を打ち付け、ヒバリは再び魔気を纏わせる。
「わぁ、こわい。そんないたそうなものでなぐられたら、ぼく死んじゃうよぉ」
「そうなりたくないのなら、本気を――いえ、本性を見せる事ですね」
言うなり再び地を蹴ったヒバリ。まるで無警戒にギドの元へと飛び込んでいった。
「またとっしんかぁ、こりないなぁ。それともさくせん? ただののうきん? ……どっちでもいいや」
終始笑顔だった表情がすっと消え、ギドはだらりと下げていた腕を無造作に天へと上げた。瞬間、地面に散らばっていた暗器達がまるで意思を持ったかのように、立ち上がり切っ先をヒバリに向ける。
「傀儡。なるほど、それがあなたの本性ですか」
無数の切っ先が自分を標的に捉えるのも気に掛けず、ヒバリは更に速度を上げた。
「むぼうってことば、知ってる?」
呆れる様なギドの声。目の前には無数の暗器達が織成す凶器の壁がヒバリを待ち受ける――。