『キスしないと出られない部屋』sideティト

キャラクターノベル(グループ)制作 夜団子納品 2021年03月10日 20時06分07秒

 ———噂は耳にしていた。とある厄介なダンジョントラップのことを。だが、まさかそれに自分たちがかかるなんて。妄想はしても予想はできなかった。
(ぼく、こういう部屋のこと知ってる……!)
 真っ白な殺風景な部屋、開かない唯一の扉に、意味深に置かれた一通の手紙。間違いない、これは……
(キスとか【規制音】とかしないと出られないやつ、だ……っ)
「くっ、ダメです、どうしても開きそうにありません……」
 どうにかして扉から突破しようと試みるセロンガード・シュタインドルフ。その一方でここがどういう場所か想像を付けてしまったティトはぽぽぽと頬を染めてわたわたしていた。予想が当たっていれば、自分は、セロンガードとあんなことやらこんなことを……
(いっ、いいいいやっまだそうと決まったわけではっ!)
 セロンガードが他の抜け道や隠し扉がないかと探っているうちに、こっそりと意味深な手紙の封を切る。ちょっぴり期待するような、でもやっぱり恥ずかしいような。色んな意味でどきどきと高まる鼓動を押さえて、その中身を開いた。
『この部屋から出たければキスをしてください』
(やっ、やっぱり……っ!!)
 ついに出てしまった決定的なメッセージにティトの顔がぼんっと赤くなった。
(セ、セロンさんとキス……いやじゃ、ないけど……むしろ)
 美味しい……
「ティトさん、大丈夫ですか?」
「ぅ、わっ! だ、だだだいじょうぶだ、よ!」
 白い耳と尻尾をぴーん!と立てて飛びのいたティトに、セロンガードは不思議そうに首を傾げる。そのままティトは、なんでもないから、と咄嗟に手紙を隠してしまった。
「そう……ですか。すみません、ティトさん。いろいろ探索したんですが脱出路らしきものは私では見つけられませんでした」
 どことなく気まずい雰囲気になった空気を振り払うように、セロンガードは話を変える。苦笑しながら頬を掻く彼に(脱出手段は見つかってる、よ……)と心の中で告げた。
 言葉にはできなかった。改まって「この部屋から出るためにキスして」とお願いするなんて、恥ずかしくて死んでしまいそうで。口下手も相まってティトはもごもごと口ごもる。
(でもキスしないと出られない……そ、それなら、セロンさんがぼくにキスしたいって思うようにすれば、いいんじゃ!?)
 ぐるぐると思考する中で叩きだした結論はそれだった。よく考えるとそっちの方が絶対恥ずかしいのだが今のティトに冷静な判断を求めるのは酷な話。その混乱した思考回路を「セロンさんにどうやってキスしてもらうか」を考えるためぐるぐるぐるぐる動かし始めた。
(た、確か……“セロンさんはヤンデレが好きだ”って言ってた……)
 セロンガードと共通の友人から聞いた話を思い出す。キスしてもらうにはやっぱり、彼のタイプに合わせた方がいいはず。ならば、今はヤンデレティトにならなくては!
(ヤンデレ、ヤンデレ……? えっ、と)
「……ティトさん、やっぱり様子がおかしいですよ……? 顔も赤いですし、どこか調子が悪いのでは……」
「…………セロンさん、最近冷たいよ、ね」
「へっ!?」
 ティトの突然の切り出しにセロンガードは思わず抜けた声を上げた。一体どうしたんだ、と彼女の顔を見れば、当のティトはなにやら覚悟を決めたような顔をしている。
「最近、ぼくと依頼一緒に行ってくれなかったり……諜報部隊に居たときの後輩とは仲良くしてるみたい、だし……」
 ティトから溢れる、殺気にも似た黒い澱み(嫉妬心)。じりじりと迫るその様子に圧倒され、セロンガードは一歩、二歩と後退る。
(セロンさん相手だし……これくらいはいいよ、ね?)
 腰に差した細剣をするりと抜けば、セロンガードの表情は明らかに強張った。「落ち着いてください」「なぜ突然そんな話に!?」と焦りながら言葉を紡ぐが、ティトは止まらない。
「ぼくだってもっと一緒にいたいのに、セロンさんが離れるから……どうしてぼくの傍にいてくれない、の? だったらいっそ……」
「だったらいっそ……ってなんですか!? 怖いですよティトさん! と、とりあえず武器をしまって話を聞いてください!」
「だ、だめ!」
 ここで引いたらきっとヤンデレじゃない!
 少々偏った知識と思考で生まれたヤンデレティトは止まりどころが全くわかっていなかった。細剣を突きつけたままじりじりとセロンガードとの距離を縮めていき、下がっていく彼を壁際へと追い詰める。……ここまで来たらセロンガードも対抗で武器を抜いてもよさそうなものだが———それでも彼は、仲間であり友人でもあるティトに刃を向けることはしなかった。
 ついにセロンガードの背が壁まで到達し、逃がさないとでも言うようにティトはそのすぐ横に細剣を突き立てる。同時に逆側へばんっと手をつく、が。
(……っ! 全然届かない……!?)
「えっ……と」
 どうにかセロンガードを追い詰めて壁に手を付けたはいいものの。体格差がありすぎる二人の壁ドンは理想の形とは全く異なっていた。
 細剣効果で多少の緊迫感は出る、が。セロンガードを閉じ込めるように手を伸ばした結果ティトはほとんどセロンガードに抱き着くような形になっていた。
 二人の身長差はおおよそ五十センチほど……ぶっちゃけ、子供が大人に構ってほしくてじゃれついているようにしか見えない。
「その、ティトさんは私と一緒に依頼に行けなかったことが不満だった……ってことですか?」
「そ、そう! だから、その……ぼく、何しでかすかわからない、よ?」
 セロンガードの腹の上に体を押し当てながら脅してももう緊張感など生まれはしない。ティトの理想ではこう、壁に追い詰めて顔を近づけて……キスしないといけない状況を作り出すつもりだったのだが。体格差がありすぎて顔を近づかせるどころか、恫喝することもままならない状況である。
「それでしたら、一緒に依頼に行くことを約束しませんか? 二人だけの約束……素敵だと思います。ティトさんがよろしければ、ぜひ」
「あう……」
 違う。それは確かに素敵だし応じたいけれど、今求めているのはそれとは違うのだ!
 ただ、そう思いつつも差し出された小指を断ることなんてできなくて。思わず己の小指を絡め約束に応じてしまう。指切りをすることで自然とセロンガードの右側は空いてしまうが……彼に逃げる素振りはない。
(うう……これじゃヤンデレじゃないよ、ね)
 指切りをしながら、ぺしょ、とへたるティトの耳。せっかく暴れたのにこれではキスをしてもらえない。キスをしてもらえなかったらこの部屋からは出られない。だが今更ネタバラシをするのも……。
「……ん? あれは……」
 ひとりごにょごにょと悩みだしたティトをよそに、セロンガードはあるものを視界に捉えた。それはこの何もない部屋に唯一ぽつんと落ちている白い紙。先ほどセロンガードが探索した時には見つからなかった———開封済みの手紙だ。ティトがセロンガードを追い詰めるときに落としてしまったもの。
 もしかしてティトさんの突然の行動に関係が、とセロンガードはその目を凝らす。彼の優れた視覚はその手紙をしっかり捉えその上に綴られた文字すらしっかりと、その瞳に映してしまった。
「………………なるほど」
「? セロン、さん?」
 にっこり、と。まるでそう書いてあるかのような彼の笑顔に、ティトは思わず固まった。

 To be continued……

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0