BRAVE FANG
キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2021年03月09日 20時15分52秒
●
「団長、冒険者ギルドからオレ達に名指しの依頼が来てるぜ」
始まりは、ティラミス・ノーレッジが一枚の手配書を持ってきたことだった。
「あん? 名指し?」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは肉をかじりながら、ティラミスに聞き返した。テーブルの上には肉や芋など、様々な料理が並んでいる。ハヤトたち「ブレイブファング傭兵団」は冒険者の店で夕食の途中だったのだ。大所帯なのでメンバー全員が揃っているわけではないが、そこそこの数がこの場にいた。
「オーダーは『アルゴン盗賊団』の討伐。数は百人規模。頭を含め、授恵者も何人か混ざってるみてえだな」
ティラミスは皿を脇にどけ、パサリと、依頼書をテーブルの上に放った。
アルゴン盗賊団。それは100名規模に膨れ上がり、昨今王国を騒がせている盗賊団だ。
元はシルトラース帝国で収監中の刑罰執行待ちだった凶悪犯達が、帝国崩壊の混乱に乗じ脱走したのが始まりだった。囚人たちは授恵者だったアルゴン・バルザックという男を筆頭に、ごろつきや野盗を取り込んで大集団を形成し、難民や王国国境付近を襲う様になった。盗賊団の首領含めた幹部数名は授恵者であり、危険な集団と化したのだ。現在は襲撃した開拓村に拠点を構え、強奪した品々が尽きるまで好き勝手に横暴の限りを尽くしているという。
「酷い話ですね……。でも、その規模の連中なら王国正規軍か地元の領主が討伐に動き出すのでは?」
横で二人の話を聞いていたアルマン・アルスターが口を挟んだ。
「それがよぉ、奴らが拠点にした村がどっかの貴族の領地の境目にあるらしくてな。軍隊出せば大事になるから、王国も領主も静観してるんだと。たぶん、連中は分かっててそこに陣取ってやがるんだろうな」
ティラミスは冷笑した。
「成る程な。それで冒険者ギルドに依頼が回ってきたってわけか」
「まあ、そういうわけで、ヴァイセントラフ砦で活躍した我らブレイブファング傭兵団が適任だろうと、ギルドからご指名がかかったってわけだ。派遣人数は最大十名程度を希望。ま、そこは依頼人の予算の都合だろうな。……どうだ? 団長」
ティラミスはニヤリと笑いながら、ハヤトに問うた。答えなど、聞く前から分かり切っているのだろう。
「面白そうじゃねえか」
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そして数日後、ブレイブファング傭兵団のメンバー、総勢十名は件の村の近くまで来ていた。
「あの村で間違いない。人相の悪い連中がウジャウジャいるよ」
岩山の上から荒野のど真ん中にある村を観察しながら、シャンテ・フーケが言った。彼の天眼にはカタギではなさそうな武装集団が村をうろうろしている様子がはっきりと映っている。あの連中がアルゴン盗賊団とやらで間違いないだろう。
(100名規模の盗賊団ねぇ……数が膨れ上がりすぎじゃないかい? やれやれ、大掛かりな仕事になりそうだなぁ……まぁ、うん)
「『勇牙の救士』としての務めは果たさないとね」
余りの数の多さに辟易としているが、恐れはない。引き受けた以上は依頼を全うするつもりだ。
「この地形じゃ奇襲は難しそうだな。これ以上近づいたら気づかれそうだよね。もう正面突破でいいんじゃない?」
メンバー最年少の少年、アステルはあっけらかんと言った。というのも、この村は荒野に建設された開拓村のせいか、クリーパー避けの高いバリケードが村をぐるりと取り囲んでいて入口が一か所しかない上に、四方に見張り台まであるのだ。要塞とまではいかないが、地の利は向こうにあると見ていいだろう。
「おいらたちなら問題ないと思うッス」
バルー・キップリングは頷いた。
「えっ」
一方アルマンは青ざめていた。百人規模の盗賊団相手に正面突破? 冗談でしょ!? アルマンは盗賊団の所業を聞き、「なんて酷い奴らなんだ!」と義憤に駆られて参戦を志願したはいいが、いざ盗賊たちを目の前にして、すっかり怖気づいていたのだった。
「まあ待て二人共。もうすぐ偵察に行った『ファ』が戻ってくる」
すると、カイン・ステラが逸る二人を制止した。その言葉を聞き、アルマンは胸を撫で降ろした。
「キキィ」
しばらく待っていると、小さなリスが戻ってきた。彼女が『ファ』。契約でカインと繋がり、五感を共有する小さな斥候だ。カインはファの視界を借りながら作っていた村の見取り図を地面に広げた。
「んー。だいたいこんな感じだな。全部で約百二十人……情報より少し増えてやがる」
カイン製の地図と実際の地形を見比べながら、ハヤトが尋ねる。
「親玉の他に強そうな奴はいたか?」
「何人か、な。いかにも魔法使いって感じの、ローブを着た奴も一人いたぜ。もしヒーラーなら先に潰した方がいいかもな」
「盗賊団に捕らえられている村人はいませんか? 生き残っている方がいるのなら救出しましょう」
スィーリーンが口を挟んだ。カインは頷くと、地図に筆を走らせた。
「この辺りに、風車小屋を改造した牢屋がある。そこに十人ぐらい捕らえられてる人がいるはずだ」
それを聞き、アルマンとシルク・メイプルリーフは捕らえられた村人の救出チームに志願した。
「じゃ、アルマンとシルクは捕まってる人を助けに向かってくれ。俺らは派手に暴れて敵の注意を惹きつけとくからよ」
「人質にとられても厄介だしね。救出は急いだほうがいいだろうね」
ハヤトの言葉にシャンテは頷いた。
「よし。決まりだな。ブレイブファング傭兵団、出撃だ!」
「「おう!」」
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「お頭~! 妙な奴らがまっすぐこっちに突っ込んできますぜ!」
見張り台の上にいた盗賊が大声を張り上げた。
「なぁにぃ? 官憲か? 数は?」
「違うと思いますぜ! 奴ら、明らかに軍隊とは動きが違う! きっと冒険者ですぜ! 数は……十人!」
「チッ……たぶん授恵者だな。だが、十人だと? こっちは百二十人だぞ? ずいぶん舐められたもんだな」
盗賊団の大頭、アルゴンはぺっと唾を吐いた。たとえ全員が授恵者だったとしても、その程度の人数ならば問題ない。自分も含めてこちらには五名の授恵者がいるし、略奪した武器や兵器も豊富にある。この村の地形も防御に適した構造だし、入口で皆殺しにできるだろう――。アルゴンはそう考えた。
だがアルゴン達は知らない。ハヤト率いるブレイブファング傭兵団は、ヴァイセントラフ砦防衛戦で四万もの数の亡者アンデッドと戦ったということを。
そして、指揮官の吸血鬼の一体を含む多数の敵を葬った歴戦の傭兵達だと言うことを!
バシュッ!
「がはっ!」
「な、なんだ!?」
カインの放った『貫通衝撃射』が見張り台ごと、見張り役の盗賊を薙ぎ倒したのだ。宣戦布告代わりにぶちこまれた一撃に、盗賊たちは色めき立つ。
「舐めやがって! 野郎共、戦争だ! 泣く子も黙るアルゴン盗賊団の恐ろしさ、教えてやれ!」
●
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!」
先陣を切って突撃したのは、団長のハヤトだった。両手に双剣を持ち、雄叫びを上げながら臆することなく盗賊団がひしめく村へと突っ込んでいく。
エーテルの力で加速したハヤトは、一陣の風となって盗賊たちを薙ぎ倒しながら、村へと突入していった。
「ッシャオラ! 行くぜオイ!! うっかりドジ踏むんじゃねぇぜ? 団長!」
ハヤトと共に、先頭を駆け抜けているのは猫の獣人のティラミスだ。獰猛な笑みを浮かべ、双剣を振るうその姿はまさしく天性の狩人の姿であった。
「これ以上進ませるな! 矢で頭をぶち抜いてやれ!」
村の中で待機していた盗賊たちは侵入者達を射殺さんと一斉に放つ。しかし、俊足が売りのハヤトとティラミスには矢は掠りもしなかった。ティラミスは油断している村の奥の盗賊にエーテルで加速して肉薄する。慌てて盗賊が剣を振り上げるが、剣を振り下ろすより先に一撃で突き殺した。
「あんまりにも腑抜けな剣筋じゃスローすぎて欠伸が出ちまうぜ?」
「ほら、『輝腕』だ!」
「ありがとよ、シャンテ!」
ハヤト達に続いて入口を突破したシャンテは仲間達に強化魔法をかけていく。
彼はヒーラーだ。血の香りで多少獰猛になっていても、仲間の支援が本分であることは忘れていない。
「くたばれやああ!」
その時、斧を手にした盗賊がシャンテへと躍りかかってきた。シャンテはひらりと身を躱すと、エーテルブローを叩き込んであっさり盗賊を返り討ちにした。ヒーラーは支援向けのクラスだが、それでもただの盗賊との戦力差は歴然たるものだ。
「ん、数だけ多い、烏合の衆。気負わず冷静、何時も通り、やる」
独特のイントネーションで呟きながら、大槍を振るっているのはゴブリナのTalaraだ。エーテルの纏った大槍で軽く5メートルは離れている敵を突き穿ち、五、六体の盗賊を一振りで纏めて薙ぎ払う。パワーファイターと見せかけ、要所要所で毒も打ち込んでいく。
エーテルブレードにより常識外れのリーチとなったTalaraの振るう槍は、まるで小さな暴風雨のようであった。
「傭兵団、初めて大仕事。Talara、頑張る」
「よーし、いっくぞー!」
屋根の上から勢いよく降ってきたアステルは、すれ違い様に盗賊に毒撃を打ち込んだ。アステルも団長ハヤト達と同じくスピードタイプの傭兵だが、彼はそこまで筋肉質というわけではない。パワー不足は毒と工夫で補っているのだ。とはいえ、ただの盗賊相手ならエーテルを消耗して毒撃を撃つ必要はなさそうだと判断したアステルは、速さと技で敵を翻弄する戦術にシフトした。自分たちはチームだ。自分は囮役になった方が効率がいい。
「この野郎!」
盗賊の一体が攻撃直後のハヤトの背中目掛け、円月刀を振り上げた。
「――させん!」
しかし、その剣が振り降ろされるより先に、民家の屋根から飛来した矢が手首ごと盗賊の剣を弾き飛ばした。カインの仕業だ。獣のように暴れているように見えて、ハヤトはしっかり味方の位置も計算に入れていたのだ。
「一丁上がりだ」
「サンキュ! カイン!」
カインはその後も盗賊の脚や腕を狙い、敵の戦闘力を奪うことを念頭において狙撃を繰り返していた。暴れている地上の連中だけでも厄介なのに、上からの狙撃も警戒しなくてもならないという状況は、盗賊たちの集中を大いに乱した。
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「数はすげぇけど」
ぶんっ。
バルーが腕を振るうたび、エーテルの衝撃波が飛び、盗賊がまとめて吹き飛んでいく。手数の多さと機動力で攻めるハヤトやアステル達とは違い、ウォーリアであるバルーはパワーファイターだ。クロクマのハーフビーストという出自を持ち、強靭な肉体を持つバルーは、盗賊たちの攻撃を多少喰らってもびくともしなかった。逆に、盗賊たちの方はバルーの鉤爪の一撃で軽々と吹っ飛んでいく。
「うーん、なんか、吹けば吹っ飛ぶ埃のようだよ」
「クソッ! この熊野郎が!」
盗賊達は負け惜しみのように悪態をつくが、力の差は歴然であった。
しかし――。
「ガハハハ! 力自慢ならワシも負けんぞ!」
ぬっと前に出てきたのは、戦槌ウォーハンマーを持った象人間だった。バルーと同じ獣人に違いない。
「やっちまってくだせえ! ガーネシアさん!」
「そりゃあ!」
ガーネシアは戦槌を振りかざし、全速力でバルーに突っ込んできた。バルーは腰に差していた剣を抜くと、闘気の塊を放ってガーネシアを迎撃した。
「がはぁ!」
爆風のような闘気が地面に叩きつけられ、ガーネシアは周りの盗賊ごと一撃でひとたまりもなく吹っ飛んだ。盗賊達は逃げ回る一般人を追い立てることはあっても、互角以上の力量の相手と戦った経験には乏しかったのだ。
「防御が甘い。実戦不足なんだな」
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その頃、アステルは十人近い盗賊たちに包囲されていた。ちょっと囮役を張り切り過ぎたらしい。だが――。
「クソッ! 攻撃が当たらねえ!」
「なんてすばしっこい奴だ!」
「おまけに妖術まで使いやがる!」
アステルは敵に囲まれた状態のまま敵の間をすり抜けるようにして 、盗賊たちを一人ずつ倒していた。彼はどう見ても素手なのだが、彼が両腕を振るうたびに鋭い一撃が走るのだ。その奇妙な攻撃のせいで間合いの感覚を狂わされた盗賊たちは、次々と倒れていった。
アステルの攻撃の正体はダマスカス製の『暗針』。シーフ特有の暗殺用武器である。極めて視認がしにくいように工夫されたアステルの武器は、盗賊たちに防御を許さず、一撃必殺を可能としていた。
「くそ、このままじゃお頭のところに――」
「タイダルストリーム」
盗賊たちが狼狽していると、スィーリーンの詠唱が響いた。杖から放たれた激流は盗賊たちをまとめて吹き飛ばし、戦列に穴を開けた。
「脱走した凶悪犯、しかも盗賊団と化し狼藉を働いているなら放置してはおけません。これ以上被害が広がる前に退治いたしましょう!」
使命感に燃えるスィーリーンは盗賊たちに手心を加えるつもりなどない。盗賊たちの戦列が崩れた隙を突き、稲妻の結界で進路を塞ぎ、乱戦にメテオライトを打ち込み、盗賊たちを倒していく。仲間たちと共に、ここで一人残らず仕留める!
「くそっ! こいつらとんでもなく強えぞ! 逃げろ!」
「ダメだ、通れねえ! どうなってやがる!?」
勘のいい連中は戦力差を悟り、早くも敗走を始めた。だが、アーケインテンペストに遮られ、逃げ遅れた盗賊たちはアステルとスィーリーンの餌食となったのだった。
●
「GYAHAHahaha!! ゴブリナ、倒せぬ、一人倒せぬ、間抜け共! GYAHAHAha!!」
盗賊よりも蛮族バルバロイらしい高笑いをしながらTalaraは盗賊たちを蹴散らしていた。叫び声は趣味でもあるが、囮として敵の注意を惹きつけるという戦術的な意味もある。
「みんなから奪ったもの、全部返してもらうからな!」
派手に注意を引くTalaraの傍らで、アステルの白い影が戦場を駆け抜け、盗賊たちを切り倒していく。アステルの民家の死角とハイディングを駆使した奇襲殺法に盗賊達は成す術もなかった。
「そこまでだ、このバケモン共が! こいつでペシャンコにしてやるぜ!」
ギャリリリリリ! ブモオオオオオオ!
けたたましい牛の鳴き声と車輪の音と共に姿を現したのはなんと、水牛のような魔獣が牽引する巨大な戦車チャリオットだった。
「幾ら腕が立っても生身で戦車には叶うまい! ヒャハハハ!」
戦車に乗り込んでいる盗賊達は、勝ち誇った笑い声を上げた。
「あいつら、盗賊の癖にあんなもんまで! どっから盗んできたんだよ!?」
「魔獣の戦車、初めて、見た」
驚くアステルとTalara。Talaraの方はあまり驚いているように見えないが、彼女にしては驚いている方だ。
「オラァ! 二人まとめてバラバラになれや!」
御者の鞭がしなり、戦車が猛スピードで二人へと突進する。アステルは足にエーテルを集中させ、常人離れした脚力で戦車の突進を回避した。Talaraは鉄の盾で突進を受け止めたが、あまりの衝撃で数メートル後ろへと弾き飛ばされた。
「そらそらそらァ! 次は外さねーぞォ!」
逃げたアステルを追い、方向転換した戦車が再び突進してくる。アステルは側転で緊急回避に成功したが、轟音と共に戦車がさっきまでアステルの後ろにあった民家に激突し、大きな穴が空いた。
「この野郎! 人ん家をぶっ壊しやがって!」
アステルが高速機動しながら怒鳴る。
しかし、今のはなんとか回避できたが、足にエーテルを集中させ、脚力を高める『疾風足』はあまり長時間は使えない。俊足を誇るアステルも戦車相手に長期戦は不利だ。
「こーいうのは、センテヒッショウ、シップウドトウ、ギョフノリ……あれ? うん、とにかく頑張るぞ!」
何か作戦があるのだろうか。聞いている分にはかなり不安だったが、アステルは迷いのない動きで戦車に向かって突撃していく!
「やる事、いつも通り。攪乱、遊撃、嫌がらせ」
突撃してくる戦車を見据えながら、Talaraは冷静に呟いた。シーザーロアをかけ、戦車の注意を自身へと引き付ける。
「ヒャッハー! ブッ潰れろォ! まずはてめぇからだゴブリン!」
Talaraを轢き潰さんと、戦車は一直線に突撃してくる。激突の瞬間、Talaraはエーテルを解放し、戦車の下部へと『破脚砕』を打ち込んだ。
槍から放たれたエーテルが魔牛に直撃し、戦車の動きが止まった。その瞬間を狙い、アステルは御者台に飛び乗ると、飛び蹴りで御者を戦車から叩き落とした!
「おごあわあああ!」
「GYAHAHahaha!!」
すかさずTalaraが完全に停止した戦車を薙ぎ払い、バラバラに粉砕した。
●ヘタレとシスター
「今のうちに急ごう……」
シルクと共に、少し迂回して村に侵入したアルマンはおっかなびっくり村を進んでいた。入口の方では今も傭兵団と盗賊達が激しく戦っている音が聞こえる。さっさと捕まっている人を助けなければ。
もし盗賊と鉢合わせしたらどうしよう。そう思うと、体が震えるのであった。
「見つけたぜぇ! こんなことにもいやがったか!」
「うわっ! 出たぁ!」
アルマンはびっくりしながらも、しっかりと杖から魔法を飛ばし、盗賊をダウンさせた。
一方、シルクの方は盗賊相手に大暴れしていた。
「豊穣神スマッシュ!」
ばこーん。
「豊穣神ボンバー!」
どげしっ。
シルクの修道服が風にたなびき、エーテルに包まれた拳が光って唸る。アルマンの相方となったシルクは盗賊たち相手に大暴れしていた。頼もしい限りである。
「豊穣神ヘッドロック!」
「ぐごごごご」
シルクは脇で盗賊の頭を固定し、ギリギリと締め上げる。3カウントを待たずして、盗賊は(幸せそうな顔で)グロッキーになった。
「その程度ですか。豊穣神の加護はまだまだありますよ」
殴る蹴る投げるの暴行を加え、盗賊たちを片付けたシルクは大きな胸を張った。
「さぁ隠し持ってる食料を出すのデス」
「あの、シルクさん。それではこちらが強盗なのでは」
「いえ私がいただくわけではなく善良な人々に還元するためにいただくのです。ほんの少しおすそ分けはされるかもしれませんが」
そういうシルクの口元からは涎が垂れていた。
盗賊たちから食料の在処と生存者の場所を聞き出した二人は、カインの説明にあった風車小屋へと辿り着いた。
そこには、ぼろ布のような服を着せられた村娘たちが監禁されていた。顔に痣のある者や、明らかに骨折している者もいた。
「助けに来てくれたんですか……!?」
涙を浮かべ、二人に近づいてくる村娘たち。
「シルクさん!」
「はい、すぐに手当てをします!」
だが、その時――。
「こんなところにもいやがったか! 俺達の奴隷は渡さねえぞ!」
「うわあ、いっぱい来たぁ!」
その時、タイミング悪く、総勢十数名の盗賊たちが姿を現した。しかも、その内のモヒカンは明らかに授恵者だ。肌で感じ取れるほど身に纏っているエーテルが強い。
「てめえら、生きて帰れると思うなよ!」
授恵者と思しき男は、馬鹿でかいナタを構えて凄んだ。
「民に行った罪を悔い改めてください」
シルクは村人の治療を一旦諦め、勇ましくファイティングポーズを取る。臆病なアルマンの方はというと――。
しっかりと敵を見据え、杖を構えていた。
(しっかりしろアルマン! ここで逃げたら誰がこの人達を助けるんだ!)
授恵者に加え、盗賊が十名。こちらは二人。確実に勝てる保障なんてない。
(でも、俺だって傭兵だ。助けを求めている人を前に、自分だけ逃げ出すなんてことができるものか!)
「死ねええええ!」
ナタを構え、突っ込んでくるモヒカン。ほぼ同時に、シルクが飛び出した!
アルマンは杖を構え、炎の魔法を発動する!
「フレイムゲイズ!」
杖から迸った火炎はシルクを避け、盗賊たちだけを黒焦げにした。
「ぐわあああああ!」
「覚悟しなさい! 豊穣神スイング!」
ギュルギュルギュルギュル!
シルクに足を掴まれて投げ飛ばされたたモヒカンは螺旋を描いて飛んでいき、民家の壁に激突して動かなくなった。
決着が付き、アルマンはぺたんと地面に座り込む。
「うわぁ~こわかったよぉ~!」
●
「この辺の奴らはだいたい片付いたか」
入口付近の敵の掃討が終わった後、カインは屋根から降り、村の奥を目指して歩き出した。せっかちな仲間達は奥へと突撃してしまったが、至る所で剣戟の音が聞こえる。追い付くのはそう難しくはないだろう。
カインが歩き出したその時だった。
家の中に隠れていた盗賊の一人が槍を振り上げ、飛び出してきた。カインは盗賊に対して背中を晒している。今ならば殺せると判断したのだ。
「!」
しかし、カインはくるりと振り向くと、正確な射撃で盗賊の腹を貫き、返り討ちにした。カインの背後は、リスのファがちゃんと見ていたのだ。
盗賊は地を這い、カインから距離を取ろうとした。
「頼む、見逃して――」
「お前だったらどう答える?」
カインは盗賊が命乞いを終えるより前に言葉を遮った。
盗賊はその時、自分たちが殺してきた弱者たちの姿を思い出していた。
命乞いをした奴はいくらでもいたが、見逃したことなんて一度も――
「俺も同じだ。気が合うな」
●
互いの背中を庇い合いながら、村の奥へと進んでいくハヤトとティラミス。
突如として二人に向かってエーテルの刃が飛んできた。
「!」
ギリギリで身を躱す二人。刃の飛んできた方から、全身筋肉の塊のような大男と、黒いローブを纏った女が姿を現した。
「手配書の男……! てめえがアルゴンだな! 覚悟しやがれ!」
「ああ、この俺様がアルゴン様だ! 殺す前に名前ぐらいは聞いてやるぜ」
「ブレイブファング傭兵団団長、ハヤト=ガラン=ヴォルファングだ」
「ティラミス・ノーレッジ。てめえらの悪行もここまでだ!」
ハヤトとティラミスは疾風足で距離を詰め、ほぼ同時に三連撃をアルゴンへとお見舞いした。
殺れる! 必殺のコンビネーションはアルゴンの全身をバラバラに切り刻むはずであったが――。
『鋼蛸』
ガキィン!
「!?」
謎の金属的な衝撃を感じ、ハヤトとティラミスは後ろに飛び退いた。いつの間にか、アルゴンの周囲に銀色のタコのような巨大生物が出現し、二人の攻撃を受け止めたのだ。
銀色のタコは二人の攻撃を受け止めると、フッと姿を消した。
「召喚術か――!」
ティラミスが呟いた。召喚術。それは、ほんの一瞬だけアストラル界の門をこじ開け、予め契約を結んでいたクリーパーを召喚・使役する術だ。
「危ないところでしたね、アルゴン」
ローブを纏った女はくすりと笑った。どうやらこの女は召喚士であるらしい。
「ああ、助かったぜ。ありがとよ、ミランダ」
「二人とも、無事ですか!?」
「そいつらが頭だな!」
その時、カインとスィーリーンが戦場に姿を現した。だが二人を追い、生き残りの盗賊たちもぞろぞろと姿を現す。
戦いの場は、再び乱戦へと突入しつつあった。
●
「うるぁ!」
「チッ!」
ハヤトのトリプルファングが再び閃く。アルゴンは大剣で防御を試みるが、刹那の間に放たれた三連撃を全て防ぐことは叶わず、胴を切り裂かれた。
「そこだ!」
アルゴンはハヤトの攻撃後の隙を突き、大剣を振り上げる。だがその瞬間、カインが放った『重撃射』がアルゴンの膝を貫き、態勢を崩した。
「クソッ……! ミランダは何をやってやがる!」
「メテオライト!」
「てやぁ!」
「くっ……! 鋼蛸! 私を守れ!」
スィーリーンのメテオライトが閃き、ティラミスの連撃が閃く。。
先刻ハヤトとティラミスの攻撃を防いだ鋼のような強度を持つ銀タコのクリーパーは、術者ミランダを守るので精一杯だ。アルゴンが頼みとしていた召喚士は、もはやティラミスとスィーリーンに抑えられていた。
数多くいた部下たちももはや大半が傭兵たちに倒され、残るはあと数名。アルゴン盗賊団はもはや大敗の様相を呈しつつあった。
「団長! 多分あとはそいつらだけだ!」
村を一周してきたアステルが戦場に姿を現した。時を同じくして、アルマン、Talara、シャンテ、バルーも到着した。
その様子を見て、アルゴンは青ざめる。
「ぜ、全滅したのか!? 百二十人いた俺の手下たちが!? 信じられん!」
「くっ! 鋼蛸! 墨を吐け!」
ボシュウウウ!
黒い霧が広がる。ミランダはアルゴンに見切りをつけ、タコの墨を目晦ましにして逃亡を図った。しかし、その背中に追いついた傭兵達の集中砲火が火を吹き、ミランダはあっさりと討ち取られた。
いよいよ最後の一人となったアルゴンと切り結びながら、ハヤトは笑う!
「よっしゃ! いよいよ年貢の納め時だな! 俺達は無敵だぜ!」
「クッソぉオオオオオ!」
火事場の馬鹿力か。ヤケクソになったアルゴンの斬撃は今日一番の鋭さでハヤトへと放たれた。大剣はハヤトの兜を吹き飛ばし、切り裂かれた額からは一筋の血が零れる。だが、ハヤトは負傷をものともせず、カウンターの三連撃をアルゴンへとお見舞いした!
「ごふっ」
血溜まりに沈むアルゴン。ここに、ブレイブファング傭兵団の盗賊団討伐任務は完了したのだった。
●エピローグ
「ライスお代わり、大盛で!」
「オムライスとハンバーグのお代わりもお願いします!」
依頼を達成した後、ブレイブファング傭兵団は冒険者の店で祝勝会を行っていた。ハヤトが額に受けた傷もシャンテによって治療され、今はすっかり塞がっている。こんなこともあろうかと、ヒーリングオーラを温存してくれていたらしい。
「おい、ハヤト。肉ばかりではなく野菜もちゃんと食べろ。さっきからサラミばかり注文しているだろう。それに、食べ方が汚いぞ。一度口の周りを拭け」
カインはナプキンをハヤトへと差し出した。冷徹に任務を遂行した彼も、戦闘が終わればまたいつものオカンモードである。
「はいはい。てめえは俺のオカンかよ」
打ち上げの席だというのに小言を言われたハヤトは憮然としつつ、カインから渡されたナプキンで口元を拭いた。
「誰も大怪我しなくて良かったです」
アルマンは無事に帰還できた喜びを食事と共に噛みしめ、涙を流していた。生きてるって素晴らしい。
「働いた後のごはんはうまいッス」
バルーは蜂蜜をたっぷり付けたピザをむしゃむしゃ食べていた。こんな風にのんびり食事をしている姿だけ見ると、盗賊相手に大暴れしていた人物と同一人物とは思えない。
「そういや、略奪された品はどうなったんだ?」
「元の持ち主に返されるそうです。少しでも悲しみを癒やせればいいのですけれど」
ティラミスの問いにスィーリーンは物憂げに答えた。
何しろ、帝国からはるばる逃げ延びてきた大盗賊団だ。被害の範囲も広い。失われた命は戻らないが、せめて金銭的な被害だけでも解決されて欲しいものだ。
団員たちは少しトーンダウンし、被害者たちの今後に想いを馳せた。
「帝国が崩壊してから、色々とキナくさいからね。またこういう仕事が来るかもなぁ……」
魚の燻製をつまみながら、シャンテが言った。彼の言う通り、帝国の崩壊は様々な争いの火種となっており、世界の情勢は不安定だ。バルバロイや盗賊の活動が活発化しているという情報もある。
「どんな相手だろうが、依頼がありゃまた皆で戦いに行くさ。それがブレイブファング傭兵団だろ?」
ハヤトの言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
ブレイブファング傭兵団の戦いは、続く。
「団長、冒険者ギルドからオレ達に名指しの依頼が来てるぜ」
始まりは、ティラミス・ノーレッジが一枚の手配書を持ってきたことだった。
「あん? 名指し?」
ハヤト=ガラン=ヴォルファングは肉をかじりながら、ティラミスに聞き返した。テーブルの上には肉や芋など、様々な料理が並んでいる。ハヤトたち「ブレイブファング傭兵団」は冒険者の店で夕食の途中だったのだ。大所帯なのでメンバー全員が揃っているわけではないが、そこそこの数がこの場にいた。
「オーダーは『アルゴン盗賊団』の討伐。数は百人規模。頭を含め、授恵者も何人か混ざってるみてえだな」
ティラミスは皿を脇にどけ、パサリと、依頼書をテーブルの上に放った。
アルゴン盗賊団。それは100名規模に膨れ上がり、昨今王国を騒がせている盗賊団だ。
元はシルトラース帝国で収監中の刑罰執行待ちだった凶悪犯達が、帝国崩壊の混乱に乗じ脱走したのが始まりだった。囚人たちは授恵者だったアルゴン・バルザックという男を筆頭に、ごろつきや野盗を取り込んで大集団を形成し、難民や王国国境付近を襲う様になった。盗賊団の首領含めた幹部数名は授恵者であり、危険な集団と化したのだ。現在は襲撃した開拓村に拠点を構え、強奪した品々が尽きるまで好き勝手に横暴の限りを尽くしているという。
「酷い話ですね……。でも、その規模の連中なら王国正規軍か地元の領主が討伐に動き出すのでは?」
横で二人の話を聞いていたアルマン・アルスターが口を挟んだ。
「それがよぉ、奴らが拠点にした村がどっかの貴族の領地の境目にあるらしくてな。軍隊出せば大事になるから、王国も領主も静観してるんだと。たぶん、連中は分かっててそこに陣取ってやがるんだろうな」
ティラミスは冷笑した。
「成る程な。それで冒険者ギルドに依頼が回ってきたってわけか」
「まあ、そういうわけで、ヴァイセントラフ砦で活躍した我らブレイブファング傭兵団が適任だろうと、ギルドからご指名がかかったってわけだ。派遣人数は最大十名程度を希望。ま、そこは依頼人の予算の都合だろうな。……どうだ? 団長」
ティラミスはニヤリと笑いながら、ハヤトに問うた。答えなど、聞く前から分かり切っているのだろう。
「面白そうじゃねえか」
●
そして数日後、ブレイブファング傭兵団のメンバー、総勢十名は件の村の近くまで来ていた。
「あの村で間違いない。人相の悪い連中がウジャウジャいるよ」
岩山の上から荒野のど真ん中にある村を観察しながら、シャンテ・フーケが言った。彼の天眼にはカタギではなさそうな武装集団が村をうろうろしている様子がはっきりと映っている。あの連中がアルゴン盗賊団とやらで間違いないだろう。
(100名規模の盗賊団ねぇ……数が膨れ上がりすぎじゃないかい? やれやれ、大掛かりな仕事になりそうだなぁ……まぁ、うん)
「『勇牙の救士』としての務めは果たさないとね」
余りの数の多さに辟易としているが、恐れはない。引き受けた以上は依頼を全うするつもりだ。
「この地形じゃ奇襲は難しそうだな。これ以上近づいたら気づかれそうだよね。もう正面突破でいいんじゃない?」
メンバー最年少の少年、アステルはあっけらかんと言った。というのも、この村は荒野に建設された開拓村のせいか、クリーパー避けの高いバリケードが村をぐるりと取り囲んでいて入口が一か所しかない上に、四方に見張り台まであるのだ。要塞とまではいかないが、地の利は向こうにあると見ていいだろう。
「おいらたちなら問題ないと思うッス」
バルー・キップリングは頷いた。
「えっ」
一方アルマンは青ざめていた。百人規模の盗賊団相手に正面突破? 冗談でしょ!? アルマンは盗賊団の所業を聞き、「なんて酷い奴らなんだ!」と義憤に駆られて参戦を志願したはいいが、いざ盗賊たちを目の前にして、すっかり怖気づいていたのだった。
「まあ待て二人共。もうすぐ偵察に行った『ファ』が戻ってくる」
すると、カイン・ステラが逸る二人を制止した。その言葉を聞き、アルマンは胸を撫で降ろした。
「キキィ」
しばらく待っていると、小さなリスが戻ってきた。彼女が『ファ』。契約でカインと繋がり、五感を共有する小さな斥候だ。カインはファの視界を借りながら作っていた村の見取り図を地面に広げた。
「んー。だいたいこんな感じだな。全部で約百二十人……情報より少し増えてやがる」
カイン製の地図と実際の地形を見比べながら、ハヤトが尋ねる。
「親玉の他に強そうな奴はいたか?」
「何人か、な。いかにも魔法使いって感じの、ローブを着た奴も一人いたぜ。もしヒーラーなら先に潰した方がいいかもな」
「盗賊団に捕らえられている村人はいませんか? 生き残っている方がいるのなら救出しましょう」
スィーリーンが口を挟んだ。カインは頷くと、地図に筆を走らせた。
「この辺りに、風車小屋を改造した牢屋がある。そこに十人ぐらい捕らえられてる人がいるはずだ」
それを聞き、アルマンとシルク・メイプルリーフは捕らえられた村人の救出チームに志願した。
「じゃ、アルマンとシルクは捕まってる人を助けに向かってくれ。俺らは派手に暴れて敵の注意を惹きつけとくからよ」
「人質にとられても厄介だしね。救出は急いだほうがいいだろうね」
ハヤトの言葉にシャンテは頷いた。
「よし。決まりだな。ブレイブファング傭兵団、出撃だ!」
「「おう!」」
●
「お頭~! 妙な奴らがまっすぐこっちに突っ込んできますぜ!」
見張り台の上にいた盗賊が大声を張り上げた。
「なぁにぃ? 官憲か? 数は?」
「違うと思いますぜ! 奴ら、明らかに軍隊とは動きが違う! きっと冒険者ですぜ! 数は……十人!」
「チッ……たぶん授恵者だな。だが、十人だと? こっちは百二十人だぞ? ずいぶん舐められたもんだな」
盗賊団の大頭、アルゴンはぺっと唾を吐いた。たとえ全員が授恵者だったとしても、その程度の人数ならば問題ない。自分も含めてこちらには五名の授恵者がいるし、略奪した武器や兵器も豊富にある。この村の地形も防御に適した構造だし、入口で皆殺しにできるだろう――。アルゴンはそう考えた。
だがアルゴン達は知らない。ハヤト率いるブレイブファング傭兵団は、ヴァイセントラフ砦防衛戦で四万もの数の亡者アンデッドと戦ったということを。
そして、指揮官の吸血鬼の一体を含む多数の敵を葬った歴戦の傭兵達だと言うことを!
バシュッ!
「がはっ!」
「な、なんだ!?」
カインの放った『貫通衝撃射』が見張り台ごと、見張り役の盗賊を薙ぎ倒したのだ。宣戦布告代わりにぶちこまれた一撃に、盗賊たちは色めき立つ。
「舐めやがって! 野郎共、戦争だ! 泣く子も黙るアルゴン盗賊団の恐ろしさ、教えてやれ!」
●
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!」
先陣を切って突撃したのは、団長のハヤトだった。両手に双剣を持ち、雄叫びを上げながら臆することなく盗賊団がひしめく村へと突っ込んでいく。
エーテルの力で加速したハヤトは、一陣の風となって盗賊たちを薙ぎ倒しながら、村へと突入していった。
「ッシャオラ! 行くぜオイ!! うっかりドジ踏むんじゃねぇぜ? 団長!」
ハヤトと共に、先頭を駆け抜けているのは猫の獣人のティラミスだ。獰猛な笑みを浮かべ、双剣を振るうその姿はまさしく天性の狩人の姿であった。
「これ以上進ませるな! 矢で頭をぶち抜いてやれ!」
村の中で待機していた盗賊たちは侵入者達を射殺さんと一斉に放つ。しかし、俊足が売りのハヤトとティラミスには矢は掠りもしなかった。ティラミスは油断している村の奥の盗賊にエーテルで加速して肉薄する。慌てて盗賊が剣を振り上げるが、剣を振り下ろすより先に一撃で突き殺した。
「あんまりにも腑抜けな剣筋じゃスローすぎて欠伸が出ちまうぜ?」
「ほら、『輝腕』だ!」
「ありがとよ、シャンテ!」
ハヤト達に続いて入口を突破したシャンテは仲間達に強化魔法をかけていく。
彼はヒーラーだ。血の香りで多少獰猛になっていても、仲間の支援が本分であることは忘れていない。
「くたばれやああ!」
その時、斧を手にした盗賊がシャンテへと躍りかかってきた。シャンテはひらりと身を躱すと、エーテルブローを叩き込んであっさり盗賊を返り討ちにした。ヒーラーは支援向けのクラスだが、それでもただの盗賊との戦力差は歴然たるものだ。
「ん、数だけ多い、烏合の衆。気負わず冷静、何時も通り、やる」
独特のイントネーションで呟きながら、大槍を振るっているのはゴブリナのTalaraだ。エーテルの纏った大槍で軽く5メートルは離れている敵を突き穿ち、五、六体の盗賊を一振りで纏めて薙ぎ払う。パワーファイターと見せかけ、要所要所で毒も打ち込んでいく。
エーテルブレードにより常識外れのリーチとなったTalaraの振るう槍は、まるで小さな暴風雨のようであった。
「傭兵団、初めて大仕事。Talara、頑張る」
「よーし、いっくぞー!」
屋根の上から勢いよく降ってきたアステルは、すれ違い様に盗賊に毒撃を打ち込んだ。アステルも団長ハヤト達と同じくスピードタイプの傭兵だが、彼はそこまで筋肉質というわけではない。パワー不足は毒と工夫で補っているのだ。とはいえ、ただの盗賊相手ならエーテルを消耗して毒撃を撃つ必要はなさそうだと判断したアステルは、速さと技で敵を翻弄する戦術にシフトした。自分たちはチームだ。自分は囮役になった方が効率がいい。
「この野郎!」
盗賊の一体が攻撃直後のハヤトの背中目掛け、円月刀を振り上げた。
「――させん!」
しかし、その剣が振り降ろされるより先に、民家の屋根から飛来した矢が手首ごと盗賊の剣を弾き飛ばした。カインの仕業だ。獣のように暴れているように見えて、ハヤトはしっかり味方の位置も計算に入れていたのだ。
「一丁上がりだ」
「サンキュ! カイン!」
カインはその後も盗賊の脚や腕を狙い、敵の戦闘力を奪うことを念頭において狙撃を繰り返していた。暴れている地上の連中だけでも厄介なのに、上からの狙撃も警戒しなくてもならないという状況は、盗賊たちの集中を大いに乱した。
●
「数はすげぇけど」
ぶんっ。
バルーが腕を振るうたび、エーテルの衝撃波が飛び、盗賊がまとめて吹き飛んでいく。手数の多さと機動力で攻めるハヤトやアステル達とは違い、ウォーリアであるバルーはパワーファイターだ。クロクマのハーフビーストという出自を持ち、強靭な肉体を持つバルーは、盗賊たちの攻撃を多少喰らってもびくともしなかった。逆に、盗賊たちの方はバルーの鉤爪の一撃で軽々と吹っ飛んでいく。
「うーん、なんか、吹けば吹っ飛ぶ埃のようだよ」
「クソッ! この熊野郎が!」
盗賊達は負け惜しみのように悪態をつくが、力の差は歴然であった。
しかし――。
「ガハハハ! 力自慢ならワシも負けんぞ!」
ぬっと前に出てきたのは、戦槌ウォーハンマーを持った象人間だった。バルーと同じ獣人に違いない。
「やっちまってくだせえ! ガーネシアさん!」
「そりゃあ!」
ガーネシアは戦槌を振りかざし、全速力でバルーに突っ込んできた。バルーは腰に差していた剣を抜くと、闘気の塊を放ってガーネシアを迎撃した。
「がはぁ!」
爆風のような闘気が地面に叩きつけられ、ガーネシアは周りの盗賊ごと一撃でひとたまりもなく吹っ飛んだ。盗賊達は逃げ回る一般人を追い立てることはあっても、互角以上の力量の相手と戦った経験には乏しかったのだ。
「防御が甘い。実戦不足なんだな」
●
その頃、アステルは十人近い盗賊たちに包囲されていた。ちょっと囮役を張り切り過ぎたらしい。だが――。
「クソッ! 攻撃が当たらねえ!」
「なんてすばしっこい奴だ!」
「おまけに妖術まで使いやがる!」
アステルは敵に囲まれた状態のまま敵の間をすり抜けるようにして 、盗賊たちを一人ずつ倒していた。彼はどう見ても素手なのだが、彼が両腕を振るうたびに鋭い一撃が走るのだ。その奇妙な攻撃のせいで間合いの感覚を狂わされた盗賊たちは、次々と倒れていった。
アステルの攻撃の正体はダマスカス製の『暗針』。シーフ特有の暗殺用武器である。極めて視認がしにくいように工夫されたアステルの武器は、盗賊たちに防御を許さず、一撃必殺を可能としていた。
「くそ、このままじゃお頭のところに――」
「タイダルストリーム」
盗賊たちが狼狽していると、スィーリーンの詠唱が響いた。杖から放たれた激流は盗賊たちをまとめて吹き飛ばし、戦列に穴を開けた。
「脱走した凶悪犯、しかも盗賊団と化し狼藉を働いているなら放置してはおけません。これ以上被害が広がる前に退治いたしましょう!」
使命感に燃えるスィーリーンは盗賊たちに手心を加えるつもりなどない。盗賊たちの戦列が崩れた隙を突き、稲妻の結界で進路を塞ぎ、乱戦にメテオライトを打ち込み、盗賊たちを倒していく。仲間たちと共に、ここで一人残らず仕留める!
「くそっ! こいつらとんでもなく強えぞ! 逃げろ!」
「ダメだ、通れねえ! どうなってやがる!?」
勘のいい連中は戦力差を悟り、早くも敗走を始めた。だが、アーケインテンペストに遮られ、逃げ遅れた盗賊たちはアステルとスィーリーンの餌食となったのだった。
●
「GYAHAHahaha!! ゴブリナ、倒せぬ、一人倒せぬ、間抜け共! GYAHAHAha!!」
盗賊よりも蛮族バルバロイらしい高笑いをしながらTalaraは盗賊たちを蹴散らしていた。叫び声は趣味でもあるが、囮として敵の注意を惹きつけるという戦術的な意味もある。
「みんなから奪ったもの、全部返してもらうからな!」
派手に注意を引くTalaraの傍らで、アステルの白い影が戦場を駆け抜け、盗賊たちを切り倒していく。アステルの民家の死角とハイディングを駆使した奇襲殺法に盗賊達は成す術もなかった。
「そこまでだ、このバケモン共が! こいつでペシャンコにしてやるぜ!」
ギャリリリリリ! ブモオオオオオオ!
けたたましい牛の鳴き声と車輪の音と共に姿を現したのはなんと、水牛のような魔獣が牽引する巨大な戦車チャリオットだった。
「幾ら腕が立っても生身で戦車には叶うまい! ヒャハハハ!」
戦車に乗り込んでいる盗賊達は、勝ち誇った笑い声を上げた。
「あいつら、盗賊の癖にあんなもんまで! どっから盗んできたんだよ!?」
「魔獣の戦車、初めて、見た」
驚くアステルとTalara。Talaraの方はあまり驚いているように見えないが、彼女にしては驚いている方だ。
「オラァ! 二人まとめてバラバラになれや!」
御者の鞭がしなり、戦車が猛スピードで二人へと突進する。アステルは足にエーテルを集中させ、常人離れした脚力で戦車の突進を回避した。Talaraは鉄の盾で突進を受け止めたが、あまりの衝撃で数メートル後ろへと弾き飛ばされた。
「そらそらそらァ! 次は外さねーぞォ!」
逃げたアステルを追い、方向転換した戦車が再び突進してくる。アステルは側転で緊急回避に成功したが、轟音と共に戦車がさっきまでアステルの後ろにあった民家に激突し、大きな穴が空いた。
「この野郎! 人ん家をぶっ壊しやがって!」
アステルが高速機動しながら怒鳴る。
しかし、今のはなんとか回避できたが、足にエーテルを集中させ、脚力を高める『疾風足』はあまり長時間は使えない。俊足を誇るアステルも戦車相手に長期戦は不利だ。
「こーいうのは、センテヒッショウ、シップウドトウ、ギョフノリ……あれ? うん、とにかく頑張るぞ!」
何か作戦があるのだろうか。聞いている分にはかなり不安だったが、アステルは迷いのない動きで戦車に向かって突撃していく!
「やる事、いつも通り。攪乱、遊撃、嫌がらせ」
突撃してくる戦車を見据えながら、Talaraは冷静に呟いた。シーザーロアをかけ、戦車の注意を自身へと引き付ける。
「ヒャッハー! ブッ潰れろォ! まずはてめぇからだゴブリン!」
Talaraを轢き潰さんと、戦車は一直線に突撃してくる。激突の瞬間、Talaraはエーテルを解放し、戦車の下部へと『破脚砕』を打ち込んだ。
槍から放たれたエーテルが魔牛に直撃し、戦車の動きが止まった。その瞬間を狙い、アステルは御者台に飛び乗ると、飛び蹴りで御者を戦車から叩き落とした!
「おごあわあああ!」
「GYAHAHahaha!!」
すかさずTalaraが完全に停止した戦車を薙ぎ払い、バラバラに粉砕した。
●ヘタレとシスター
「今のうちに急ごう……」
シルクと共に、少し迂回して村に侵入したアルマンはおっかなびっくり村を進んでいた。入口の方では今も傭兵団と盗賊達が激しく戦っている音が聞こえる。さっさと捕まっている人を助けなければ。
もし盗賊と鉢合わせしたらどうしよう。そう思うと、体が震えるのであった。
「見つけたぜぇ! こんなことにもいやがったか!」
「うわっ! 出たぁ!」
アルマンはびっくりしながらも、しっかりと杖から魔法を飛ばし、盗賊をダウンさせた。
一方、シルクの方は盗賊相手に大暴れしていた。
「豊穣神スマッシュ!」
ばこーん。
「豊穣神ボンバー!」
どげしっ。
シルクの修道服が風にたなびき、エーテルに包まれた拳が光って唸る。アルマンの相方となったシルクは盗賊たち相手に大暴れしていた。頼もしい限りである。
「豊穣神ヘッドロック!」
「ぐごごごご」
シルクは脇で盗賊の頭を固定し、ギリギリと締め上げる。3カウントを待たずして、盗賊は(幸せそうな顔で)グロッキーになった。
「その程度ですか。豊穣神の加護はまだまだありますよ」
殴る蹴る投げるの暴行を加え、盗賊たちを片付けたシルクは大きな胸を張った。
「さぁ隠し持ってる食料を出すのデス」
「あの、シルクさん。それではこちらが強盗なのでは」
「いえ私がいただくわけではなく善良な人々に還元するためにいただくのです。ほんの少しおすそ分けはされるかもしれませんが」
そういうシルクの口元からは涎が垂れていた。
盗賊たちから食料の在処と生存者の場所を聞き出した二人は、カインの説明にあった風車小屋へと辿り着いた。
そこには、ぼろ布のような服を着せられた村娘たちが監禁されていた。顔に痣のある者や、明らかに骨折している者もいた。
「助けに来てくれたんですか……!?」
涙を浮かべ、二人に近づいてくる村娘たち。
「シルクさん!」
「はい、すぐに手当てをします!」
だが、その時――。
「こんなところにもいやがったか! 俺達の奴隷は渡さねえぞ!」
「うわあ、いっぱい来たぁ!」
その時、タイミング悪く、総勢十数名の盗賊たちが姿を現した。しかも、その内のモヒカンは明らかに授恵者だ。肌で感じ取れるほど身に纏っているエーテルが強い。
「てめえら、生きて帰れると思うなよ!」
授恵者と思しき男は、馬鹿でかいナタを構えて凄んだ。
「民に行った罪を悔い改めてください」
シルクは村人の治療を一旦諦め、勇ましくファイティングポーズを取る。臆病なアルマンの方はというと――。
しっかりと敵を見据え、杖を構えていた。
(しっかりしろアルマン! ここで逃げたら誰がこの人達を助けるんだ!)
授恵者に加え、盗賊が十名。こちらは二人。確実に勝てる保障なんてない。
(でも、俺だって傭兵だ。助けを求めている人を前に、自分だけ逃げ出すなんてことができるものか!)
「死ねええええ!」
ナタを構え、突っ込んでくるモヒカン。ほぼ同時に、シルクが飛び出した!
アルマンは杖を構え、炎の魔法を発動する!
「フレイムゲイズ!」
杖から迸った火炎はシルクを避け、盗賊たちだけを黒焦げにした。
「ぐわあああああ!」
「覚悟しなさい! 豊穣神スイング!」
ギュルギュルギュルギュル!
シルクに足を掴まれて投げ飛ばされたたモヒカンは螺旋を描いて飛んでいき、民家の壁に激突して動かなくなった。
決着が付き、アルマンはぺたんと地面に座り込む。
「うわぁ~こわかったよぉ~!」
●
「この辺の奴らはだいたい片付いたか」
入口付近の敵の掃討が終わった後、カインは屋根から降り、村の奥を目指して歩き出した。せっかちな仲間達は奥へと突撃してしまったが、至る所で剣戟の音が聞こえる。追い付くのはそう難しくはないだろう。
カインが歩き出したその時だった。
家の中に隠れていた盗賊の一人が槍を振り上げ、飛び出してきた。カインは盗賊に対して背中を晒している。今ならば殺せると判断したのだ。
「!」
しかし、カインはくるりと振り向くと、正確な射撃で盗賊の腹を貫き、返り討ちにした。カインの背後は、リスのファがちゃんと見ていたのだ。
盗賊は地を這い、カインから距離を取ろうとした。
「頼む、見逃して――」
「お前だったらどう答える?」
カインは盗賊が命乞いを終えるより前に言葉を遮った。
盗賊はその時、自分たちが殺してきた弱者たちの姿を思い出していた。
命乞いをした奴はいくらでもいたが、見逃したことなんて一度も――
「俺も同じだ。気が合うな」
●
互いの背中を庇い合いながら、村の奥へと進んでいくハヤトとティラミス。
突如として二人に向かってエーテルの刃が飛んできた。
「!」
ギリギリで身を躱す二人。刃の飛んできた方から、全身筋肉の塊のような大男と、黒いローブを纏った女が姿を現した。
「手配書の男……! てめえがアルゴンだな! 覚悟しやがれ!」
「ああ、この俺様がアルゴン様だ! 殺す前に名前ぐらいは聞いてやるぜ」
「ブレイブファング傭兵団団長、ハヤト=ガラン=ヴォルファングだ」
「ティラミス・ノーレッジ。てめえらの悪行もここまでだ!」
ハヤトとティラミスは疾風足で距離を詰め、ほぼ同時に三連撃をアルゴンへとお見舞いした。
殺れる! 必殺のコンビネーションはアルゴンの全身をバラバラに切り刻むはずであったが――。
『鋼蛸』
ガキィン!
「!?」
謎の金属的な衝撃を感じ、ハヤトとティラミスは後ろに飛び退いた。いつの間にか、アルゴンの周囲に銀色のタコのような巨大生物が出現し、二人の攻撃を受け止めたのだ。
銀色のタコは二人の攻撃を受け止めると、フッと姿を消した。
「召喚術か――!」
ティラミスが呟いた。召喚術。それは、ほんの一瞬だけアストラル界の門をこじ開け、予め契約を結んでいたクリーパーを召喚・使役する術だ。
「危ないところでしたね、アルゴン」
ローブを纏った女はくすりと笑った。どうやらこの女は召喚士であるらしい。
「ああ、助かったぜ。ありがとよ、ミランダ」
「二人とも、無事ですか!?」
「そいつらが頭だな!」
その時、カインとスィーリーンが戦場に姿を現した。だが二人を追い、生き残りの盗賊たちもぞろぞろと姿を現す。
戦いの場は、再び乱戦へと突入しつつあった。
●
「うるぁ!」
「チッ!」
ハヤトのトリプルファングが再び閃く。アルゴンは大剣で防御を試みるが、刹那の間に放たれた三連撃を全て防ぐことは叶わず、胴を切り裂かれた。
「そこだ!」
アルゴンはハヤトの攻撃後の隙を突き、大剣を振り上げる。だがその瞬間、カインが放った『重撃射』がアルゴンの膝を貫き、態勢を崩した。
「クソッ……! ミランダは何をやってやがる!」
「メテオライト!」
「てやぁ!」
「くっ……! 鋼蛸! 私を守れ!」
スィーリーンのメテオライトが閃き、ティラミスの連撃が閃く。。
先刻ハヤトとティラミスの攻撃を防いだ鋼のような強度を持つ銀タコのクリーパーは、術者ミランダを守るので精一杯だ。アルゴンが頼みとしていた召喚士は、もはやティラミスとスィーリーンに抑えられていた。
数多くいた部下たちももはや大半が傭兵たちに倒され、残るはあと数名。アルゴン盗賊団はもはや大敗の様相を呈しつつあった。
「団長! 多分あとはそいつらだけだ!」
村を一周してきたアステルが戦場に姿を現した。時を同じくして、アルマン、Talara、シャンテ、バルーも到着した。
その様子を見て、アルゴンは青ざめる。
「ぜ、全滅したのか!? 百二十人いた俺の手下たちが!? 信じられん!」
「くっ! 鋼蛸! 墨を吐け!」
ボシュウウウ!
黒い霧が広がる。ミランダはアルゴンに見切りをつけ、タコの墨を目晦ましにして逃亡を図った。しかし、その背中に追いついた傭兵達の集中砲火が火を吹き、ミランダはあっさりと討ち取られた。
いよいよ最後の一人となったアルゴンと切り結びながら、ハヤトは笑う!
「よっしゃ! いよいよ年貢の納め時だな! 俺達は無敵だぜ!」
「クッソぉオオオオオ!」
火事場の馬鹿力か。ヤケクソになったアルゴンの斬撃は今日一番の鋭さでハヤトへと放たれた。大剣はハヤトの兜を吹き飛ばし、切り裂かれた額からは一筋の血が零れる。だが、ハヤトは負傷をものともせず、カウンターの三連撃をアルゴンへとお見舞いした!
「ごふっ」
血溜まりに沈むアルゴン。ここに、ブレイブファング傭兵団の盗賊団討伐任務は完了したのだった。
●エピローグ
「ライスお代わり、大盛で!」
「オムライスとハンバーグのお代わりもお願いします!」
依頼を達成した後、ブレイブファング傭兵団は冒険者の店で祝勝会を行っていた。ハヤトが額に受けた傷もシャンテによって治療され、今はすっかり塞がっている。こんなこともあろうかと、ヒーリングオーラを温存してくれていたらしい。
「おい、ハヤト。肉ばかりではなく野菜もちゃんと食べろ。さっきからサラミばかり注文しているだろう。それに、食べ方が汚いぞ。一度口の周りを拭け」
カインはナプキンをハヤトへと差し出した。冷徹に任務を遂行した彼も、戦闘が終わればまたいつものオカンモードである。
「はいはい。てめえは俺のオカンかよ」
打ち上げの席だというのに小言を言われたハヤトは憮然としつつ、カインから渡されたナプキンで口元を拭いた。
「誰も大怪我しなくて良かったです」
アルマンは無事に帰還できた喜びを食事と共に噛みしめ、涙を流していた。生きてるって素晴らしい。
「働いた後のごはんはうまいッス」
バルーは蜂蜜をたっぷり付けたピザをむしゃむしゃ食べていた。こんな風にのんびり食事をしている姿だけ見ると、盗賊相手に大暴れしていた人物と同一人物とは思えない。
「そういや、略奪された品はどうなったんだ?」
「元の持ち主に返されるそうです。少しでも悲しみを癒やせればいいのですけれど」
ティラミスの問いにスィーリーンは物憂げに答えた。
何しろ、帝国からはるばる逃げ延びてきた大盗賊団だ。被害の範囲も広い。失われた命は戻らないが、せめて金銭的な被害だけでも解決されて欲しいものだ。
団員たちは少しトーンダウンし、被害者たちの今後に想いを馳せた。
「帝国が崩壊してから、色々とキナくさいからね。またこういう仕事が来るかもなぁ……」
魚の燻製をつまみながら、シャンテが言った。彼の言う通り、帝国の崩壊は様々な争いの火種となっており、世界の情勢は不安定だ。バルバロイや盗賊の活動が活発化しているという情報もある。
「どんな相手だろうが、依頼がありゃまた皆で戦いに行くさ。それがブレイブファング傭兵団だろ?」
ハヤトの言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
ブレイブファング傭兵団の戦いは、続く。
登場キャラクター
シルク・メイプルリーフ
ティラミス・ノーレッジ
アルマン・アルスター
スィーリーン
バルー・キップリング
Talara
ハヤト=ガラン=ヴォルファング
カイン・ステラ
アステル
シャンテ・フーケ