鏖殺せしは、“赤い翼”

四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)薔薇の氏族制作 夜団子納品 2025年05月12日 09時15分18秒

 それは嵐のように突然、しかしあまりに静かにやってきた。
「お前たちを狩りに来た」
 淡々と言い放つのはぞっとするほどの美丈夫だった。長い銀髪をひとつに束ね、左眼には眼帯。つば広帽子に赤いコートはいかにも“赤の吸血鬼狩り”らしい出で立ちで。
 その手には鞭と銃。ひとりでやってくるにはずいぶんと軽装な姿に、私も主も思わず面食らっていた。
 主は、つい先日“狩り”をしたばかりだった。城に乗り込んできた白の司祭を5人ほど屠り、血でこの城を飾り立ててやったのは記憶に新しい。主が暴れれば暴れるほど私もおこぼれに預かれるので、愚かな人間は多い方がいい。
 だから正直落胆していた――たったひとりか、と。
「お前ひとりで乗り込んでくるとは、なかなかの蛮勇よな」
 ふ、と主が笑ったのが見えた。牡丹の一氏族である主は肉弾戦を得意とする。ゆえに鞭という長物と銃という取り回しの悪い武器では、戦いにならないだろう。
「気に入った。今命乞いをするなら氏族に迎え入れてやっても――」
 そこで。
 主の声が止まった。
「……へ?」
 ゆっくりと、主の体が後ろへと傾いていく。
 そのまま床へ伏した彼は……否、彼(・)だ(・)っ(・)た(・)も(・)の(・)は、その首から上を失っていた。
 銀の弾丸が彼の顔を吹き飛ばしたのだと、遅れて気が付いた。おそるおそるその吸血鬼狩り(ナハティガル=ラー)へ視線を向ければ、彼が構えた銃の先端からわずかに煙が上がっている。
 “見敵必殺”。その言葉があまりに似合う、瞬殺っぷりだった。
「よ、よくもわが主を!!」
 他の眷属たちが声を張り上げる。その喚き声に耳を傾ける様子もなく、彼は鞭の柄を握った。
 その様子に神経を逆なでされたのか、眷属たちは雄たけびを上げながら一斉に襲い掛かっていく。

 ――ああ、勝てるわけない。

「グギャッ!」
「ギィッ!?」
「ば、ばけも……ギャアッ!!
 まさに、“鏖殺”。なんの躊躇も躊躇いも隙も遠慮もない、まさに嵐。災厄がその場に訪れたように、次から次へと眷属たちは血祭りにあげられていく。
 まるで吸血鬼が人間たちを弄んで殺し、宴を開いたかのように。かつて主がしたときのように、廃城塞は血みどろに飾り立てられていった。鉄と臓物の匂いがまざりあってくらくらする。
 私は――もはや戦うことすらできず、座り込んでいた。まだ一撃ももらっていない。だが、もう心が折れていた。
「アンタが最後か」
 ぽつりと事務的に呟いた彼の声が。
 私の聞いた最後の音だった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0