【夕刻館】友達にはなれずとも
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)牡丹の氏族制作 龍川 那月納品 2025年05月31日 09時15分42秒
「……」
デイビットは夕刻の里に迷いこんでいた。
自分の勤める教会に戻るはずだったが、途中吸血鬼に襲われ道なき道を逃げていたらここに辿り着いたのだ。
里の住人に言われるまま領主の住む夕刻館に招かれドクトルと名乗る領主にゆっくりしていったらいいと言われたものの。
「どこを歩いてもいいのかな」
どこか落ち着くところはないかメイドに問うと庭園やハーブ園はどうかと言われ、ハーブ園へ行ってみることにした。
「確かにここは落ち着くなぁ」
ハーブのほのかな香りのせいか、綺麗に咲く花の色のせいか四ノ月血戦でささくれた心が落ち着いていくのを感じる。
ジョージはいつものように見回りをしていた。
ここには他者に敵意や害意を持つものは入れないとはいえ、術の綻びなどから使い魔や式神が入ってくることがごくまれにあるし、中にいる者が何かのきっかけでそう言った感情を持つこともある。
そう言うものの排除が猟犬である彼の仕事だ。
巡回しているとメイドが声をかけてきた。
どうやら館内をうろうろと徘徊している怪しい人物がいるらしい。
「何やってる」
声をかけると緑の眼がこちらを見た。
「キミは……?」
浮浪者のようないでたち、定まらない視点、けだるげな話し方。
これは流石に色々な客人を相手にしてきたメイドでも多少なり怯えるな、とジョージは思う。
「俺はここの館の者だ」
「……ハーブ園に……行きたいんだ」
よほど疲れているのだろう、と風呂などを勧めるが彼はうわ言の様にそう言うばかりだ。
「わかった。いくぞ」
目を離した隙にどこかに行かれては困ると相手の手を握る。
「いいねここ…落ち着くなあ」
道中、沈梦と名乗った男の目が輝いた。
「薬草が好きなのか?」
「……あぁ、薬の材料を仕入れているところからここのことを聞いて……興味が、わいたんだ……多分」
記憶を手繰り寄せるようにそう話す男に記憶が摩耗する程に古い吸血鬼なのだろうか、とジョージは思う。
まあなんにせよ、館の地図は渡したし概要も話した。
もう徘徊することはないだろう。
と安心していると、
「同じだろ、キミ。……なんとなくわかるよ。なりたくてなったわけじゃないだろ」
ハーブを見ていたはずの目がこちらを見ていた。
「だからどうした。あんたもドクトルの薬が目的なのか?」
「薬……?」
「あいつが研究している吸血鬼を人間に戻す薬だ」
「どうかな……」
そんな薬出来るはずがないと思ったのか沈梦の目がハーブへと戻る。
今日はこの男の監視だな、と思いながらジョージがハーブ園を見渡すとこちらにやってくる男が見えた。
灰のカソックの胸元に白の司祭の紋章が刻まれている。
「何か探してるのか? 客人」
「こんばんは。お邪魔しています。ここの住人の方……ですか? 不思議と落ち着くところなので散策を」
「そうか。俺はここで猟犬をしているジョージ。こっちの方は客人で……」
「沈梦……だよ」
「僕はデイビットです。道に迷ってしまって里に来てしまったんですが、領主さんが少し休憩していったらどうかと言われまして」
「そう言うことならあんたの気が済んだら誰かに街道まで送らせよう」
「助かります」
客人の相手はスティーブンやドクトルの役目だろと思いジョージは小さく溜息をついた。
そう言えば今日はまだ二人の姿を見ていない。
今日は客人が多いのかもしれない。
(なら仕方ないな)
「あんたも薬草が好きなのか?」
「特別好き、というわけではないですが草花を見るのは好きですし興味もあります」
「そうか。俺は詳しくない。詳しい奴を呼んでくるか?」
「今は見るだけで。ん? どうかしましたか?」
(…………)
沈梦が二人の会話をぼんやりと見つめていた。
昔、自分も誰かとこんな穏やかな会話をしていた気がする。
いつ?
誰と?
どこで?
記憶をどんなに手繰り寄せてもどの糸も切れてしまって何も出てこない。
「キミも薬草に興味が……?」
「ええ。少しですけど。そういう物も扱えたらいいなと」
「それなら……キミ、俺の友人にならないか。……そうすれば薬について教えてあげられるよ」
沈梦の笑った口元で牙が光る。
「あぁ……お気持ちは嬉しいです」
デイビットは困ったような微笑みを浮かべた。
「ですが、お互いに会うのはこれきりのほうがいいでしょう」
そっか、と自嘲気味に笑う沈梦に申し訳なさそうにデイビットは頭を下げる。
「それでは、僕はこれで……。別の場所であなた方と出会わないことを祈ります」
「待てよ」
立ち去ろうとした彼を止めたのはジョージだった。
「折角出会ったんだ。このままお別れってのは沈梦も俺も寂しい。デイビットも薬に詳しい奴の話を聞きたいだろ」
「でも……」
そう言う二人にジョージはいたずらっ子の様に笑う。
「別れるまではこれきり、つまりこの場かぎりの範疇内だ。そうだろ、デイビット」
「ふふっ……これは一本取られましたね」
デイビットは夕刻の里に迷いこんでいた。
自分の勤める教会に戻るはずだったが、途中吸血鬼に襲われ道なき道を逃げていたらここに辿り着いたのだ。
里の住人に言われるまま領主の住む夕刻館に招かれドクトルと名乗る領主にゆっくりしていったらいいと言われたものの。
「どこを歩いてもいいのかな」
どこか落ち着くところはないかメイドに問うと庭園やハーブ園はどうかと言われ、ハーブ園へ行ってみることにした。
「確かにここは落ち着くなぁ」
ハーブのほのかな香りのせいか、綺麗に咲く花の色のせいか四ノ月血戦でささくれた心が落ち着いていくのを感じる。
ジョージはいつものように見回りをしていた。
ここには他者に敵意や害意を持つものは入れないとはいえ、術の綻びなどから使い魔や式神が入ってくることがごくまれにあるし、中にいる者が何かのきっかけでそう言った感情を持つこともある。
そう言うものの排除が猟犬である彼の仕事だ。
巡回しているとメイドが声をかけてきた。
どうやら館内をうろうろと徘徊している怪しい人物がいるらしい。
「何やってる」
声をかけると緑の眼がこちらを見た。
「キミは……?」
浮浪者のようないでたち、定まらない視点、けだるげな話し方。
これは流石に色々な客人を相手にしてきたメイドでも多少なり怯えるな、とジョージは思う。
「俺はここの館の者だ」
「……ハーブ園に……行きたいんだ」
よほど疲れているのだろう、と風呂などを勧めるが彼はうわ言の様にそう言うばかりだ。
「わかった。いくぞ」
目を離した隙にどこかに行かれては困ると相手の手を握る。
「いいねここ…落ち着くなあ」
道中、沈梦と名乗った男の目が輝いた。
「薬草が好きなのか?」
「……あぁ、薬の材料を仕入れているところからここのことを聞いて……興味が、わいたんだ……多分」
記憶を手繰り寄せるようにそう話す男に記憶が摩耗する程に古い吸血鬼なのだろうか、とジョージは思う。
まあなんにせよ、館の地図は渡したし概要も話した。
もう徘徊することはないだろう。
と安心していると、
「同じだろ、キミ。……なんとなくわかるよ。なりたくてなったわけじゃないだろ」
ハーブを見ていたはずの目がこちらを見ていた。
「だからどうした。あんたもドクトルの薬が目的なのか?」
「薬……?」
「あいつが研究している吸血鬼を人間に戻す薬だ」
「どうかな……」
そんな薬出来るはずがないと思ったのか沈梦の目がハーブへと戻る。
今日はこの男の監視だな、と思いながらジョージがハーブ園を見渡すとこちらにやってくる男が見えた。
灰のカソックの胸元に白の司祭の紋章が刻まれている。
「何か探してるのか? 客人」
「こんばんは。お邪魔しています。ここの住人の方……ですか? 不思議と落ち着くところなので散策を」
「そうか。俺はここで猟犬をしているジョージ。こっちの方は客人で……」
「沈梦……だよ」
「僕はデイビットです。道に迷ってしまって里に来てしまったんですが、領主さんが少し休憩していったらどうかと言われまして」
「そう言うことならあんたの気が済んだら誰かに街道まで送らせよう」
「助かります」
客人の相手はスティーブンやドクトルの役目だろと思いジョージは小さく溜息をついた。
そう言えば今日はまだ二人の姿を見ていない。
今日は客人が多いのかもしれない。
(なら仕方ないな)
「あんたも薬草が好きなのか?」
「特別好き、というわけではないですが草花を見るのは好きですし興味もあります」
「そうか。俺は詳しくない。詳しい奴を呼んでくるか?」
「今は見るだけで。ん? どうかしましたか?」
(…………)
沈梦が二人の会話をぼんやりと見つめていた。
昔、自分も誰かとこんな穏やかな会話をしていた気がする。
いつ?
誰と?
どこで?
記憶をどんなに手繰り寄せてもどの糸も切れてしまって何も出てこない。
「キミも薬草に興味が……?」
「ええ。少しですけど。そういう物も扱えたらいいなと」
「それなら……キミ、俺の友人にならないか。……そうすれば薬について教えてあげられるよ」
沈梦の笑った口元で牙が光る。
「あぁ……お気持ちは嬉しいです」
デイビットは困ったような微笑みを浮かべた。
「ですが、お互いに会うのはこれきりのほうがいいでしょう」
そっか、と自嘲気味に笑う沈梦に申し訳なさそうにデイビットは頭を下げる。
「それでは、僕はこれで……。別の場所であなた方と出会わないことを祈ります」
「待てよ」
立ち去ろうとした彼を止めたのはジョージだった。
「折角出会ったんだ。このままお別れってのは沈梦も俺も寂しい。デイビットも薬に詳しい奴の話を聞きたいだろ」
「でも……」
そう言う二人にジョージはいたずらっ子の様に笑う。
「別れるまではこれきり、つまりこの場かぎりの範疇内だ。そうだろ、デイビット」
「ふふっ……これは一本取られましたね」