呪い・閉ざされた者と解き放たれた者
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)薔薇の氏族制作 九弐ニデル納品 2025年04月21日 13時13分57秒
“お前がこの家を継ぐのだよ”と。ナハティガル=ラーはそう言われて育っていた。イルミテラにいくつもある貴族の家系、そのうちでも高位なこの家を保たせることの重要性と、彼の果たすべき役割については、彼が小さいうちから飽きるほど聞かされていたものだった。それはいわゆる嫡男への当然の教育であり、ナハティガル自身もそれ自体に疑問は持っていなかった。
だが、彼はこの家にもうひとり子供がいるらしいことも知っていた。年若い弟妹ではない。ナハティガルと同じころの子供。ただし“あれは違うのだよ”と。“お前は遊んではいけないのだ”と。大人たちはそう彼に教えた。子供がいるというのはどうやって知ったのだか、もうナハティガルの記憶にはないが……迂闊な誰かが口を滑らせたのだろう。名を知ったのはもっと後だろう。 ドライデン=ツヴァイ。どうせもう誰もいやしないのだ、気にしてもしょうがない。
ナハティガルはその“忌み子”をいつも心の片隅に置きつつ、広い屋敷や領地で惜しみなく手間と資源をかけられて時間を過ごし、期待通りの美しく逞しい貴族になった。
ある日ナハティガルがいつもの習慣で屋敷の周辺に散歩に出たときのことだった。傍らの木に止まった大きな鴉が、彼を呼ぶように鳴いた。鴉はまるで彼を導くように、飛び降りてはこちらを振り向き、歩いてはまた飛び、を繰り返す。彼は不思議に思いながらも鴉の後を追った。
やがて現れたのは古い塔だった。崩れそうにも見えたが、階段を1段ずつ跳んでいく鴉の足取りは彼がついてくることを確信している様子だった。彼は息をひそめて暗い塔の中へ入った。
思っていたよりずっと長い螺旋階段を、冷たい石壁に手をつきながら上る。いつの間にか、ナハティガルはこの先にあるものを知っている気になった。先を行く鴉がコツ、コツ、と行き止まりの踊り場で嘴を動かす。彼らの前に、重そうな鉄扉が立ちはだかっていた。
「誰か……いるのか」
扉には、厳重に錠前がつけられている。それもただの金属製ではない。法術の光がうっすらこぼれるほど強く掛けられた、特別なものだった。それは彼に、この扉の向こうにあるもの――いるもの――をますます強く確信させた。
「いるだろう?」
塔を満たす反響が収まってずっと経ってから、扉の向こうで小さな笑い声がした。
だが、彼はこの家にもうひとり子供がいるらしいことも知っていた。年若い弟妹ではない。ナハティガルと同じころの子供。ただし“あれは違うのだよ”と。“お前は遊んではいけないのだ”と。大人たちはそう彼に教えた。子供がいるというのはどうやって知ったのだか、もうナハティガルの記憶にはないが……迂闊な誰かが口を滑らせたのだろう。名を知ったのはもっと後だろう。 ドライデン=ツヴァイ。どうせもう誰もいやしないのだ、気にしてもしょうがない。
ナハティガルはその“忌み子”をいつも心の片隅に置きつつ、広い屋敷や領地で惜しみなく手間と資源をかけられて時間を過ごし、期待通りの美しく逞しい貴族になった。
ある日ナハティガルがいつもの習慣で屋敷の周辺に散歩に出たときのことだった。傍らの木に止まった大きな鴉が、彼を呼ぶように鳴いた。鴉はまるで彼を導くように、飛び降りてはこちらを振り向き、歩いてはまた飛び、を繰り返す。彼は不思議に思いながらも鴉の後を追った。
やがて現れたのは古い塔だった。崩れそうにも見えたが、階段を1段ずつ跳んでいく鴉の足取りは彼がついてくることを確信している様子だった。彼は息をひそめて暗い塔の中へ入った。
思っていたよりずっと長い螺旋階段を、冷たい石壁に手をつきながら上る。いつの間にか、ナハティガルはこの先にあるものを知っている気になった。先を行く鴉がコツ、コツ、と行き止まりの踊り場で嘴を動かす。彼らの前に、重そうな鉄扉が立ちはだかっていた。
「誰か……いるのか」
扉には、厳重に錠前がつけられている。それもただの金属製ではない。法術の光がうっすらこぼれるほど強く掛けられた、特別なものだった。それは彼に、この扉の向こうにあるもの――いるもの――をますます強く確信させた。
「いるだろう?」
塔を満たす反響が収まってずっと経ってから、扉の向こうで小さな笑い声がした。