【藍館】白花の拒絶
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)赤の吸血鬼狩り制作 九弐ニデル納品 2025年04月20日 00時47分16秒
エルゼリオ・レイノーラは息を飲んだ。目の前では月光を浴び、季節外れのオレンジの花が白々と香っている。
「此処ってもしかして――噂の“青冥公”の館なんじゃ……」
彼は深手を負わせた吸血鬼を追っていた最中だった。この館の庭に面した窓がひとりでに開き、そいつを招いてすぐ閉じるのを見たのだ。ならばここも誰か吸血鬼の塒だろうが……主がかの青冥公だというなら警戒に値する。それに敵中に単身殴り込むのは彼の主義に反してもいた。しかし。
――このまま獲物を逃がすのは癪に障るしね。
腹をくくったエルゼリオは、それでも庭に細工をしてから進む用心は忘れなかった。
「……今夜は客が多いな」
エルゼリオがさっき見た窓に手をかけると、それは簡単に開いた。中には黒衣の男がひとり立っている。明らかに、彼の追っていた者ではない。夕食を終えたところか、その足元には鎧を着た若い男と――灰がひと山。
「藍冥だね」
「挨拶もなしか」
狩人の挨拶は銃声であることなどどちらもよく知っている。エルゼリオが2丁拳銃を抜きざま藍冥の頭めがけて撃つと、相手は横跳びに鎧の死体を蹴り上げた。弾が弾かれる固い音がしたが、その時には彼はナイフに持ち換えている。
「夕食になりに来たなら遅かった」
振り抜いた刃先は、藍冥の靴底に止められていた。そのまま刃ごと蹴り飛ばされる勢いに乗って、エルゼリオは庭に転がりまた銃を抜く。撃つのが目的ではない。
「……とどめを刺すにも遅かった」
「それ、褒めてる? 奴はここに助かりに来たのにね」
相手を引き付けるための、作った隙。
「私はもう医師ではない」
案の定跳んできた藍冥の胸元に小刀を突きつける。祝福されたての白い刃は、かすり傷でも吸血鬼には脅威だろう。すんでのところで止まった藍冥に掴まれた頸椎が軋む。弔いでつけた襟飾りがひしゃげているのを感じて、エルゼリオは眉を寄せた。
「首を潰すぞ」
「ボク、が、刺す、ほうが、早いよ」
言いながら、下がっていた片手でベルトに挟んだ光明の護符を触る。藍冥の指の力を感じたと同時、仕込んでおいた法術の爆発が作動した。
「……っ!」
一瞬緩んだ手から逃れ、一散に駆け出す。吸血鬼1名の討伐と、本拠1件の偵察。戦果は充分だろう。
「此処ってもしかして――噂の“青冥公”の館なんじゃ……」
彼は深手を負わせた吸血鬼を追っていた最中だった。この館の庭に面した窓がひとりでに開き、そいつを招いてすぐ閉じるのを見たのだ。ならばここも誰か吸血鬼の塒だろうが……主がかの青冥公だというなら警戒に値する。それに敵中に単身殴り込むのは彼の主義に反してもいた。しかし。
――このまま獲物を逃がすのは癪に障るしね。
腹をくくったエルゼリオは、それでも庭に細工をしてから進む用心は忘れなかった。
「……今夜は客が多いな」
エルゼリオがさっき見た窓に手をかけると、それは簡単に開いた。中には黒衣の男がひとり立っている。明らかに、彼の追っていた者ではない。夕食を終えたところか、その足元には鎧を着た若い男と――灰がひと山。
「藍冥だね」
「挨拶もなしか」
狩人の挨拶は銃声であることなどどちらもよく知っている。エルゼリオが2丁拳銃を抜きざま藍冥の頭めがけて撃つと、相手は横跳びに鎧の死体を蹴り上げた。弾が弾かれる固い音がしたが、その時には彼はナイフに持ち換えている。
「夕食になりに来たなら遅かった」
振り抜いた刃先は、藍冥の靴底に止められていた。そのまま刃ごと蹴り飛ばされる勢いに乗って、エルゼリオは庭に転がりまた銃を抜く。撃つのが目的ではない。
「……とどめを刺すにも遅かった」
「それ、褒めてる? 奴はここに助かりに来たのにね」
相手を引き付けるための、作った隙。
「私はもう医師ではない」
案の定跳んできた藍冥の胸元に小刀を突きつける。祝福されたての白い刃は、かすり傷でも吸血鬼には脅威だろう。すんでのところで止まった藍冥に掴まれた頸椎が軋む。弔いでつけた襟飾りがひしゃげているのを感じて、エルゼリオは眉を寄せた。
「首を潰すぞ」
「ボク、が、刺す、ほうが、早いよ」
言いながら、下がっていた片手でベルトに挟んだ光明の護符を触る。藍冥の指の力を感じたと同時、仕込んでおいた法術の爆発が作動した。
「……っ!」
一瞬緩んだ手から逃れ、一散に駆け出す。吸血鬼1名の討伐と、本拠1件の偵察。戦果は充分だろう。