【捧在】懐かしき紅薔薇よ
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)赤の吸血鬼狩り制作 夕惑まひる納品 2025年04月20日 10時12分39秒
微睡から現実へと引き戻された頭は、未だ儚い幻を追い求めている。
意識して大きく息を吸って、吐いて。呼気と一緒に夢で見た彼女の事も全てこの頭から追い出してしまえればいいのに。そう強く願えば願うほど、記憶に強く刻まれていく甘い紅薔薇の香り。
小さく首を振って椅子から立ち上がると、エリシュカは、凝り固まった体をほぐした。
甘い紅薔薇の香りは、夢から醒めた今でも未だ香り続けている。
服を着替え、髪に櫛を通す。周りから見ればきっといつものエリシュカ。けれどその頭の中には解けない疑問がぐるぐると渦巻き、複雑に絡み合っていく。
(どうしてあの日、吸血鬼なんかの手を取ったの)
太陽の下を歩く時間も、聖女としての名声も……エリシュカ達の事も全てを捨てて。
あの吸血鬼には、彼女がそこまでするような何かがあったというのだろうのか。愛する夫がいたエリシュカにすら未だわからない。記憶の中で微笑む彼女は、エリシュカのように吸血鬼のせいで絶望した人達に心から寄り添う事が出来るような優しいひとだったのに、どうして。
(――違う。きっと優しいから)
優しいからこそ、彼女は罪深い存在ですら突き放すことが出来なかった。あの卑しい吸血鬼は、その優しさに付け込んで誑かしたのだ。
デスクの上に置かれた武骨なボウガンを手に取り、握りこむ。体よりも心にずしりと重たいそれ。彼女の為に何か作ろうと裁縫針を手にした日は、今ではもうこんなにも遠い。彼女が聖女の名を捨て、吸血鬼に心を寄せたあの日も。
――もしもあのひとと再び相まみえる日が来たとして。
あの甘い紅薔薇の香りに鉄錆の臭いが混ざったことを悟ったとして、その時自分はこのボウガンであのひとを撃つことが出来るのだろうか。
「……吸血鬼は滅ぼす」
低く、静かに。命じるように、確かめるように、自らに言い聞かせるようにひとつ、決意を口にする。けれどそれは微睡の中で見た夢のように儚く歪んで確固とした形を失い、頭の中でゆらゆらと揺れる。
自分は名前をくれた姉を殺した恩知らずで、愛する我が子の命すら繋いであげることができなかったゴミだ。あの時の絶望も、無力感も、一片残らず未だエリシュカの中にある。
だからこそ、吸血鬼を狩ることにこの命をすべて使う。
そう決めたのだ。
そう決めたはずなのに。
懐かしい甘い紅薔薇の香りは、エリシュカの心の中でいつまでも香り続ける。
意識して大きく息を吸って、吐いて。呼気と一緒に夢で見た彼女の事も全てこの頭から追い出してしまえればいいのに。そう強く願えば願うほど、記憶に強く刻まれていく甘い紅薔薇の香り。
小さく首を振って椅子から立ち上がると、エリシュカは、凝り固まった体をほぐした。
甘い紅薔薇の香りは、夢から醒めた今でも未だ香り続けている。
服を着替え、髪に櫛を通す。周りから見ればきっといつものエリシュカ。けれどその頭の中には解けない疑問がぐるぐると渦巻き、複雑に絡み合っていく。
(どうしてあの日、吸血鬼なんかの手を取ったの)
太陽の下を歩く時間も、聖女としての名声も……エリシュカ達の事も全てを捨てて。
あの吸血鬼には、彼女がそこまでするような何かがあったというのだろうのか。愛する夫がいたエリシュカにすら未だわからない。記憶の中で微笑む彼女は、エリシュカのように吸血鬼のせいで絶望した人達に心から寄り添う事が出来るような優しいひとだったのに、どうして。
(――違う。きっと優しいから)
優しいからこそ、彼女は罪深い存在ですら突き放すことが出来なかった。あの卑しい吸血鬼は、その優しさに付け込んで誑かしたのだ。
デスクの上に置かれた武骨なボウガンを手に取り、握りこむ。体よりも心にずしりと重たいそれ。彼女の為に何か作ろうと裁縫針を手にした日は、今ではもうこんなにも遠い。彼女が聖女の名を捨て、吸血鬼に心を寄せたあの日も。
――もしもあのひとと再び相まみえる日が来たとして。
あの甘い紅薔薇の香りに鉄錆の臭いが混ざったことを悟ったとして、その時自分はこのボウガンであのひとを撃つことが出来るのだろうか。
「……吸血鬼は滅ぼす」
低く、静かに。命じるように、確かめるように、自らに言い聞かせるようにひとつ、決意を口にする。けれどそれは微睡の中で見た夢のように儚く歪んで確固とした形を失い、頭の中でゆらゆらと揺れる。
自分は名前をくれた姉を殺した恩知らずで、愛する我が子の命すら繋いであげることができなかったゴミだ。あの時の絶望も、無力感も、一片残らず未だエリシュカの中にある。
だからこそ、吸血鬼を狩ることにこの命をすべて使う。
そう決めたのだ。
そう決めたはずなのに。
懐かしい甘い紅薔薇の香りは、エリシュカの心の中でいつまでも香り続ける。