【瞬感】暗夜の哄然
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)牡丹の氏族制作 鍵島納品 2025年04月16日 14時31分00秒
天照る昊は隠れた。是れよりは今し方を暗夜が支配する刻。
大都市はさんざめく光に溢れていたが、陽光の射さない今、吸血鬼には一片の脅威も感じない。
強いて言うならば、食糧調達の邪魔だてを行う聖職者には多少の警戒を持っても良いか……。
「否、否だ! 人間だろうと同族だろうと、オレにはなんら関係無い!」
明かりの届かない屋根の上、慎重に思案を重ねる傍らの同族に構わず、そう高らかに宣する吸血鬼が居た。
豊かな銀髪を結い上げ、妖しく際立つ夾竹桃の花を飾る シュエファ だ。
艶のある肌膚、爛々とした瞳、自信に溢れた顔からして、血を啜ることに苦労した覚えはないと見える。
同族から多少配慮してくれ、と。慌てたような声が横面に飛ばされるが、聞く耳を持たず。
目下の街をゆく"今宵の目標"を定めたシュエファは、自慢の脚力を以って夜風を裂いた。
●
その者は暗がりに溶け込まない白を基調にした服を着込んでいた。壮年の男だ。
錫杖めいた武器を介して発動される法術は、まるで絵画に描き起こされた無憂樹の花を彷彿とさせる美しさであった。
以前に出くわしたどの聖職者よりも美しい御業を見せてくれた。そこらに咲く春の花をも霞ませるほど、綺麗だった。
此方へ伸びる花々を足で散らすのは無礼だったかもしれないが、ああしないと一瞬で焼かれてしまうから。
供は三人連れていた。
年若い男が二人、これらは何れも体術に心得があったが、如何せん経験が浅くすぐに使い物にならなくなった。多少の小手調べにはなったが。
もう一人は女。男より技術は劣るが、法術を繰り出す速さ、行使の切り替えは巧みな物で……ただ距離を詰めた瞬間、うっかり見誤って蹴り殺してしまった。実に惜しいことをしたと思う。
「さぁ、アンタにたかる羽虫を落としてやったんだ。またあの術を……技巧の凡てをオレに見せてくれ」
踏み散らした花を後ろ背に、心の奥底から憎悪を沸き立たせる男の視線がシュエファを刺す。
まるでこの世の徳を寄せて集めて塗り固めたような、怨敵たる吸血鬼を前にしても穏やかな顔をしていた者ですら。
近傍の花を散らしてやると簡単に感情を露わにする。幾ら隠し誤魔化そうと、真に心ばかりは強く在れまい。
「夜はまだまだ長い。楽しくやり合おうじゃないか」
一切の迷いを捨てた法術が此方目掛けて飛来する。
眩い光に身構え、地に足を頑と着けたシュエファの哄然たる声が、人間の街に轟いた。
大都市はさんざめく光に溢れていたが、陽光の射さない今、吸血鬼には一片の脅威も感じない。
強いて言うならば、食糧調達の邪魔だてを行う聖職者には多少の警戒を持っても良いか……。
「否、否だ! 人間だろうと同族だろうと、オレにはなんら関係無い!」
明かりの届かない屋根の上、慎重に思案を重ねる傍らの同族に構わず、そう高らかに宣する吸血鬼が居た。
豊かな銀髪を結い上げ、妖しく際立つ夾竹桃の花を飾る シュエファ だ。
艶のある肌膚、爛々とした瞳、自信に溢れた顔からして、血を啜ることに苦労した覚えはないと見える。
同族から多少配慮してくれ、と。慌てたような声が横面に飛ばされるが、聞く耳を持たず。
目下の街をゆく"今宵の目標"を定めたシュエファは、自慢の脚力を以って夜風を裂いた。
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その者は暗がりに溶け込まない白を基調にした服を着込んでいた。壮年の男だ。
錫杖めいた武器を介して発動される法術は、まるで絵画に描き起こされた無憂樹の花を彷彿とさせる美しさであった。
以前に出くわしたどの聖職者よりも美しい御業を見せてくれた。そこらに咲く春の花をも霞ませるほど、綺麗だった。
此方へ伸びる花々を足で散らすのは無礼だったかもしれないが、ああしないと一瞬で焼かれてしまうから。
供は三人連れていた。
年若い男が二人、これらは何れも体術に心得があったが、如何せん経験が浅くすぐに使い物にならなくなった。多少の小手調べにはなったが。
もう一人は女。男より技術は劣るが、法術を繰り出す速さ、行使の切り替えは巧みな物で……ただ距離を詰めた瞬間、うっかり見誤って蹴り殺してしまった。実に惜しいことをしたと思う。
「さぁ、アンタにたかる羽虫を落としてやったんだ。またあの術を……技巧の凡てをオレに見せてくれ」
踏み散らした花を後ろ背に、心の奥底から憎悪を沸き立たせる男の視線がシュエファを刺す。
まるでこの世の徳を寄せて集めて塗り固めたような、怨敵たる吸血鬼を前にしても穏やかな顔をしていた者ですら。
近傍の花を散らしてやると簡単に感情を露わにする。幾ら隠し誤魔化そうと、真に心ばかりは強く在れまい。
「夜はまだまだ長い。楽しくやり合おうじゃないか」
一切の迷いを捨てた法術が此方目掛けて飛来する。
眩い光に身構え、地に足を頑と着けたシュエファの哄然たる声が、人間の街に轟いた。