遭遇戦《side:青の聖騎士》
四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)青の聖騎士団制作 弓月 蒼納品 2025年05月06日 23時18分54秒
「……大丈夫、ですか?」
――――現実的な話。差し出したその手が、掴まれることは滅多にない。
人と、吸血鬼は、良く似ている。人が、吸血鬼に変ずる事もある。
だから、吸血鬼の脅威に晒された人は、全く同じ理屈で以って人をも恐れる。
それは目に見えて似ているのだから仕方が無い。種族的な違いがあるとか、特性が違うとか。
そんな事は、“恐怖”――――と言う至極単純な動機を前にして何の意味も、持たない。
夜空の下、まさしく絹を裂いた様な悲鳴が上がる。
■
「はぁ……また、やってしまいました」
嘆息しながら歩く。『聖騎士』ゲルダ・クラインは多くの戦いを経験した遍歴の騎士だ。
負った背丈ほどの大槍も、我が身を完全に隠す大楯も、それらを自在に操る技巧も。
そこらの聖騎士に劣る物ではない。戦闘に特化した『聖職者』として十分な信頼を得るに足る。
ただ一点。恐怖に怯える子羊たちを落ち着けるのだけが、どうにも得意になれなかった。
彼女は人に仇名す吸血鬼を狩る。狩れば当然返り血を盛大に浴びる。血肉で穢れる。
それを厭うた事はない。聖騎士の生業は彼女の資質とも合っていた。嬉しくはないけれど割り切れる。
けれど、小柄な少女の様な外観と、その残酷無慈悲とも見える戦いっぷりは余りに不釣り合いで。
ただでさえ心を傷付けられた吸血鬼被害者達の心象に、多大な悪印象を齎した。
彼女の所為、ばかりとも言えない。半ば以上は偶然の産物だ。
けれど、同時に。それが彼女の側に全く理由がないか――――と言えば、そうとも言えないのが難題だった。
(……吸血鬼も、人間も、そんなに変わらない)
それは、本来『聖職者』としてはあるまじき物の考え方だ。
けれどゲルダは常々思っていた。吸血鬼とは対話が通じる。知性もある。姿も似ている。
にも関わらず……どうして殺し合い続けなければいけないのだろう。
『聖騎士』とは教団の防衛装置だ。である以上、時に弱人を護る為に悪人と戦う事もある。
その手応えは……強い弱いの差はあれど人間も吸血鬼も変わらない。
(もしかすると、こんなことばかり考えているから……)
他の聖騎士仲間たちに、こんな相談は出来ない。異端思想待ったなしだ。
けれど、その懊悩は長く彼女を悩ませ続け……だからだろうか。
ある日街の郊外で行き倒れていた。一柱の吸血鬼を拾ってなどしまったのは。
思えば、それが全ての発端だった。
――――現実的な話。差し出したその手が、掴まれることは滅多にない。
人と、吸血鬼は、良く似ている。人が、吸血鬼に変ずる事もある。
だから、吸血鬼の脅威に晒された人は、全く同じ理屈で以って人をも恐れる。
それは目に見えて似ているのだから仕方が無い。種族的な違いがあるとか、特性が違うとか。
そんな事は、“恐怖”――――と言う至極単純な動機を前にして何の意味も、持たない。
夜空の下、まさしく絹を裂いた様な悲鳴が上がる。
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「はぁ……また、やってしまいました」
嘆息しながら歩く。『聖騎士』ゲルダ・クラインは多くの戦いを経験した遍歴の騎士だ。
負った背丈ほどの大槍も、我が身を完全に隠す大楯も、それらを自在に操る技巧も。
そこらの聖騎士に劣る物ではない。戦闘に特化した『聖職者』として十分な信頼を得るに足る。
ただ一点。恐怖に怯える子羊たちを落ち着けるのだけが、どうにも得意になれなかった。
彼女は人に仇名す吸血鬼を狩る。狩れば当然返り血を盛大に浴びる。血肉で穢れる。
それを厭うた事はない。聖騎士の生業は彼女の資質とも合っていた。嬉しくはないけれど割り切れる。
けれど、小柄な少女の様な外観と、その残酷無慈悲とも見える戦いっぷりは余りに不釣り合いで。
ただでさえ心を傷付けられた吸血鬼被害者達の心象に、多大な悪印象を齎した。
彼女の所為、ばかりとも言えない。半ば以上は偶然の産物だ。
けれど、同時に。それが彼女の側に全く理由がないか――――と言えば、そうとも言えないのが難題だった。
(……吸血鬼も、人間も、そんなに変わらない)
それは、本来『聖職者』としてはあるまじき物の考え方だ。
けれどゲルダは常々思っていた。吸血鬼とは対話が通じる。知性もある。姿も似ている。
にも関わらず……どうして殺し合い続けなければいけないのだろう。
『聖騎士』とは教団の防衛装置だ。である以上、時に弱人を護る為に悪人と戦う事もある。
その手応えは……強い弱いの差はあれど人間も吸血鬼も変わらない。
(もしかすると、こんなことばかり考えているから……)
他の聖騎士仲間たちに、こんな相談は出来ない。異端思想待ったなしだ。
けれど、その懊悩は長く彼女を悩ませ続け……だからだろうか。
ある日街の郊外で行き倒れていた。一柱の吸血鬼を拾ってなどしまったのは。
思えば、それが全ての発端だった。