追跡戦《side:赤の吸血鬼狩り》

四ノ月血戦 イベントノベル(テーマ)薔薇の氏族制作 弓月 蒼納品 2025年05月06日 23時18分13秒

 ――――『血竜王(リンドブルム)』ルヴィアルド。
 仰々しい2つ名、と言うのは吸血鬼狩り(ヴァンパイアハンター)には付き物だ。

 力こそ正義の側面が強い、いわゆる無法者(アウトロー)の側面を持つ狩人達にとって。
 名前を売る事そのものが、彼らの目的達成の手段の一つであるとすら言える。

 だが、それにした所で度を越している。長くを生きる夜の一族(ヴァンパイア)であればともかく。 
 唯人が名乗るには、その名は余りにも不遜であり。仮にも聖職者の一派の人間が『王』を名乗るなど本来有り得ない。

 ルクサプリス教団に於ける『王』は『法王』その人(アレクサンドラ13世)であり、それ以外で有ってはならない。そんな事は常識の範疇だ。
 にも拘らず。その男は自ら『竜王』を名乗り。そしてその異名を以て狩人として一定の地位を築いていた。

 強かったからだ。ただ只管に、強かった。法力による補強があった所で。ただの人間が。
 大剣一本で吸血鬼(ヴァンパイア)を挽き肉(ミンチ)へ変じせしめる。そんな人類が一体どれ程居るだろう。

「カハハハハハ、雑魚が! 雑魚が! 雑魚がッ!! せめて血肉になってみせろ雑魚がァッ!!」

 図抜けた。圧倒的。と言う他ない暴力の怪物だ。人望が無いが故に脅威度を軽く見積もられているが。
 単純戦力として見れば、幾多居る吸血鬼狩りに中でも“屈指”と呼んで良い実力者だった。

 ただ力が強い。ただ動きが速い。ただ戦い慣れており。ただ手加減を知らない。それは余りに理不尽だった。
 眼帯を付けた鴉(デクステラ)の眼を通じて観察を続けていた『赤い翼(ロート・フリューゲル)』ナハティガル=ラー。

 吸血鬼でありながら、歴戦の吸血鬼狩りである彼から見ても――――否。彼だからこそ。
 その“暴力”が、果たしてどれ程人の手に余るものか理解出来る。畏怖ではなく、現実的脅威として。

「……アル」

 そんな人外の域に両足を突っ込んでいる男の傍らには、線が細く色も白い車椅子の青年が付き添っている。
 深い碧の眼差しが……す――――っと。まるで当然の様に彼の使い魔へ向けられた瞬間。

 ナハティガルは即、使い魔との意識の共有を断った。

「何だカーク! 見ろ! 見ろ! また1つ世の穢れたる雑魚が潰えたぞッ!」

「素晴らしい事ですね。では次へ行きましょう。まだ、夜は長いですから」

 使い魔を通した視線の色の変化。そんな物を探知出来る者など特別鋭敏な五感を有する吸血鬼にすらそう居ない。
 それをあの車椅子の男は十度に十度察してみせる。その異質を、隠し通している事を含めて。

 たった2人。教会と吸血鬼の長き戦いに於いて、それほど影響など無い様に見える例外(イレギュラー)。
 けれどその異常さに気付いて以来、ナハティガルは彼らから目を離す事が出来なくなっていた。

 ■

「カークス・フォルクラード、と言うそうです」

「……やはり聞かない名だな……何者なんだ」

「それが、名前以外は出自も含めて何も……」

 ゆっくり頭を振るのは『聖騎士』ゲルダ・クライン。所属こそ異なれどナハティガルの同行者だ。
 紆余曲折あり共に旅をする様になって数ヶ月。『血竜王』の監視を続ける彼を見定める為、彼女は此処に居る。

(今の所……人に危害を加える素振りは見られない……)

 ゲルダとて聖騎士の端くれ。吸血鬼は人類の天敵であり討つべき者。と言う認識は、当然ある。
 けれど同時に。知性を持ち対話出来る以上、根絶やしにするべき邪悪な存在でもない。とも思っていた。

 教会至上主義とは相反する思想であり、主流の『聖職者』達からは眉を顰められて文句は言えない訳だが……

「……一戦交えてみるしかないか」

「正気ですか? あちらの気質的にも小競り合いでは済まないでしょう」

「だが、あんな化け物が跳梁跋扈していては、人と吸血鬼は対話の糸口すら掴めまい」

 ナハティガルが吸血鬼狩りとして活動しているのは、いずれ脅威となる人類の情報収集の為。
 そしてゲルダが彼に同道しているのは。これから先の人と吸血鬼との関係性改善の為。

 両者の利害は完全に一致している訳ではない。
 それでも。危険性の有無を問わず吸血鬼を根絶やしにするが如く活動する『血竜王』は。

 両者いずれにとっても、看過し難い危険因子だと言ってしまう事が出来た。

「……はぁ、仕方ありませんね」

 嘆息するゲルダは、それでも自らの背丈ほどもある大槍を引き寄せる。
 それは彼女が。栄光ある聖騎士が、吸血に与し『聖職者』である吸血鬼狩りと矛を交える。

 そんな余りにもリスクしかない決断を行うには、十分とは言い難い逡巡だった訳だが。

「……ゲルダ、アンタは俺の事が……恐ろしくはないのか?」

 種の違い。その断絶は深い。ナハティガルとて血を分けた血族と人類。選べと言われたら前者を選ぶ。
 ……だからこそ。

「恐ろしいですよ?」

 きょとんと瞬いたゲルダは。大楯を背負い直してさらりと応じた。

「でも、恐れてばかりじゃ分かり合えないじゃないですか」

 だからこそ。そんな彼を信じ共に戦おうとするゲルダの決意が、彼には未だ上手く呑み込めないでいる。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0