とある少女の志した夢
キャラクターノベル制作 百草納品 2025年03月19日 09時43分27秒
帝都崩壊よりも、少しだけ昔のこと。
パンクリアース学園という王国の縮図とも呼ばれる学園で、ゲルダ・クラインは特に目立つことなく、孤独ではあっても平穏な学園生活を過ごしていた。
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この国における異種族は、有り体に言ってしまえば『ひと』ではない。
リーンエス王国の――特に貴族が中心となっているパンクリアース学園内では、常識といっても差支えのない価値観。
王国に名を轟かせる大商会の愛娘とはいえ、ハーフリングであるゲルダも例に漏れることなく。『貴族』と『それ以外』の、『それ以外』として扱われることとなる。
そんな価値観が渦巻く環境の中で。愛されて育った年端もいかないハーフリング少女は。
自分の価値が他者から否定されることに対して、驚くほどになんの抵抗も感じていなかった。
この国における常識を理解した上で。ゲルダは、貴族のことも自分のことも否定せず。
ただ、淡々と受け止めていた。
立場が変われば物の捉え方が変わることは、至極当然のことだから。
この国を支えている多くの貴族にとっては、それが真実なのだろう。
けれど、だからといって『わたし』が『わたし』を否定する理由には足りえない。
そうやって納得ができたのは、ゲルダ自身の『強さ』によるものに他ならない。
事実として、ゲルダは王国の貴族社会の中で己の価値を見失うことなく過ごすことができていた。
とはいえ。
ゲルダはこの国の多くの貴族が抱えている異種族への差別意識が絶対的に正しいものだと認めているわけではなかった。
その差別が、多くの『ひと』に多大な影響を及ぼしていることも知っていた。
自分が特別恵まれていただけで。この国が多くの課題を抱えているということも、きっと本当のことなのだ。
ただし、それはあくまでも自分から見たときの捉え方であり。
彼らが持つ差別意識を頭ごなしに否定することは、悪手以外に他ならないと考えていた。
多くの貴族にとって、数百年に及ぶ王国の歴史は彼らの『誇り』であり、きっと彼らにとって『価値』そのものなのだ。
わたしの中に譲れないものがあるように。
対面する相手にも、譲れないものがあって。
それは、わたしが土足で踏み込んでよいものでは、ない。
この世の中に絶対的に正しいものが存在しない。
すべての物事には因果があり。そこに至るための理由があるものだ。
それを知ろうとしない状態でこの国を批判することなど、できるはずがない。
故に、ゲルダは絶対的な権力を持つ貴族に対して反発も迎合もせず、彼らと常に一定以上の距離を保ち続けることを選んだ。
この国の長い歴史が培ってきたものを、正しく理解するために。
彼らが背負っているものを尊重し、彼らが大切にしているものを否定しないために。
それが、後に『竜』と出会い、目標を得るまでの。学園生活を送るゲルダの指針だった。
例えば、ゲルダの夢が『騎士』だったなら、学園での過ごし方も違っていたかもしれない。この国で騎士を目指すのであれば、自分の価値を認めてもらう必要がある。彼らと距離を取ってばかりはいられないし、そのように振る舞う必要がある。
冒険者として活動をする前のゲルダは確かに騎士を夢見ていたけれど、騎士そのものを目指しているわけではいなかった。
彼女の夢は、あの日に差し伸べられた手であり、あの日の優しい眼差しであり、他者を助けたいと願う、温かな心だった。
わたしの夢は、他者からの評価で左右されるものではない。
そうあれかしと願い、そのように生きることができたのなら。
――わたしは、きっと夢を叶えることができる。
そして、わたしがそうあろうとする限り。
わたしの夢は、終わることなく。きっと、ずっとずっと、続いていくのだ。
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その後。
帝都崩壊を機に《神の祝福》を授かり、冒険者としての活動を経て『竜』への忠誠を誓った後も、ゲルダの根本の部分はさして変わっていない。
自分が選んだ道を、自分の意志で進んでいく。
この国が大切にしてきたものを尊重しながら。この国が、少しずつでも良い方向へと変わっていけるように。
ただ。ひとつだけ増えたものがあるとすれば。
――前を向いて歩くことを諦めてしまった、この国に生きるすべての人たちへ。
もし、わたしが歩んできた夢への軌跡が届いたとして。
それが少しでも彼らが自らの足で再び歩んでいくためのきっかけとなるように。
これからも。ずっとずっと、ひたすらに歩き続ける――という、覚悟。