黒塵に奇跡を掴む:後編
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2025年02月27日 11時04分11秒
「はぁはぁ……」
もうどれくらいの敵を倒しただろうか。
50? 80? いや、100以上かもしれない。それでも敵は減るどころかどんどん増え続けている。
郷まで約5里。今ごろ郷はどうなっているのか。
どうか無事でいてと願う度に、胸がぎゅっと締め付けられる――――。
「ティト!」
一際大きな声にはっとなった。
瞬間、眼前に現れた毒牙に慌てて白刃を重ねる。
「少し休んでいなさい。私が支えるから」
クォンが襲い掛かってきた白銀に横槍を突き入れると、落ち着いた声でそう言った。
「……大丈夫、ごめん、ちゃんと、やる、から」
自分の頬をパチンと叩く。
気合を入れろ。まだこんな所で膝をついている場合じゃない。
これは自分の使命。自分が郷を……アンを護らなくて――――。
「あ、貴方はいったい、どこから……!?」
それは頬を叩いた一瞬の間。あるはずのない温もりを背中に感じた。
遂に自分の感覚すら麻痺してしまったのか……そう思ったけど、違うとすぐに分かった。
「すみません、遅くなりました」
「……もっと、遅くても、ぜんぜん、大丈夫……だった、けど?」
「おや、そうでしたか。では、一度出直すとしましょうか。もっと、ピンチになってから駆けつけたほうが効果的で――――アハハ、冗談じゃないですか!? ぬ、抜き身はまずい! あっ、ああっ! 筋繊維の隙間をぬうように急所を狙う冷たい金属の感覚が……ああぁっ!!??」
「……ばか、セロン」
気を抜けば緩んでしまいそうになる涙腺を気合で閉じて振り返ると、そこにはいるはずのない彼が笑顔で佇んでいる。
「ぼろぼろ……だね?」
「それはお互い様でしょう」
肩をすくめるセロンガード・シュタインドルフが普段通り過ぎて、それが耳に心地よくて思わず笑みが漏れた。
「ありが、とう、セロン」
「いえ、ティトもよく頑張りましたね。よしよししてあげましょう」
「む……くすぐっ、たい。お金、取るよ……?」
「それは困りました。今手持ちがないので出世払いでお願いできますか?」
ティトとセロンガードは同時に噴き出すと、互いの額をこすり合わせる。
「あのぉ……お取込み中悪いんだけど……どういうことか説明してくれる?」
槍を地面に突き立てたクォンが呆れながら聞いてくる。
二人は互いに視線を交えると、何方からともなく二人の関係を説明した。
●
「そう、貴方が」
そう言ってセロンガードをじっと見つめるクォン。
「そうですか、貴女が」
返すように、クォンを見つめるセロンガード。
「正式なご挨拶はまた後日に。今はこの状況を打破する必要があります」
「ええ、そうね。それで、貴方は手伝ってくれるのかしら?」
「当然ですよ、お義姉様」
「お、おね……」
セロンガードの呼称に頬を引きつらせるクォンを、ティトがくすくすと笑っている。
「このままおしゃべりしていたいところなのですが、そうもいきません。郷で皆が待っていますしね」
「郷……うん、そ、だね。さっさと、やっちゃ、お」
いつの間にか三人を無視して郷へと向かっていた白銀の群れへ、三人は一気に殺気を膨らませた。
●
ようやく郷の外景が見えた。
郷まで約1里。あと1里だというのに、その距離がとてつもなく遠い。
ティトは疲労の限界を迎え、自分の背で休んでいる。クォンも辛うじて立っているのがやっとだ。
一人の老人の覚悟を背負い加勢に来たというのに、結局このざまだ。
ティトたちと合流して、何度も敵の包囲を突破した。いくつもの危機があったが、二人……いや三人の力を合わせ、何とか潜り抜けてきた。
だが、それもここまでか。このままでは郷まで……守るべきものまで届かない。
セロンガードは折れた弓を投げ捨て、腰の短刀に手をかけた。
「ティト、話があります」
「……なに」
耳元でティトの返事が聞こえる。
「これだけは使いたくなかったのですが、そうも言ってられなくなりました」
「何……なにする、つもり……?」
「幸せな未来を掴み取るのですよ」
「なに……いって……」
満身創痍のティトをゆっくりと地面に降ろすと、セロンガードは彼女の頬に右手を添えた。
「ティト、貴女と過ごしたこの4年間はとても濃い時間でした。今まで生きた中で一番充実した時間でした。ありがとう、ティト。言葉だけではこの感謝の十分の一も伝える事ができませんが、本当に感謝しています。できる事なら、これからの時間も貴女と……ってティト、聞いてますか? ……あの、一体どこを見て……」
じっと自分を見つめていた大きな瞳は、いつしか自分の向こう側に広がる青い空を見ていた。
「セロン、空……」
「空? 一体何を言っているんですか……折角、私が一世一代の名台詞を貴女に贈っていたとい――――」
「違う。降って、くるの」
「だから何を――――」
ずっと空を見上げるティトに若干苛立ちながらも、セロンガードはゆっくりと振り返った。
「なっ……なんですか、あれは……」
「えっ、見え、るの……?」
「ええ、見えます……見えますとも。眩い光がこちらに墜ちてくる。あれは一体……何なんですか」
「……わぁ、びっくり。でも、そっか、見える、んだ。えへへ……なんだか、ちょっぴり、嬉しい、ね」
「喜んでいるところ大変申し訳ないのですが、知っているのなら説明してください。あれは……あの光り輝く巨星はいったい何なんですか」
「……んと、ね。あれは……覚醒の星。ぼくを、授恵者に、導いて、くれた……光の星、だよ」
無邪気な笑顔を見せたティトは、すっと立ち上がると、二人にしか見えない巨星に向け両手を掲げた。
巨星は更に光を増し、ゆっくりと二人の下へと墜ちてくる。
そして、眩い光の星は、二人を包み込んだ――――。
●
「なぜ、アンがここに……?」
セロンガードの声が震えている。
「驚いたけど……そう、”呪い”が解けたのね」
「一体どういうことですか。なぜここにアンがここに……ティトは何処へ行ったのですか」
「驚くのも無理はないわ。彼女がティトだもの」
「……は?」
クォンの言葉にセロンガードは目を見張り、再び目の前の女性を見る。
その姿はやはりアンと瓜二つである。
「ティトとアンは、生き別れた双子の姉妹なの。そして、今、なぜか彼女にかけられた『呪い』が解けた」
「……えっ」
クォンは急成長と共に露になったティトの肌にマントをかけてやりつつ、彼女に話しかける。
「調子はどう?」
「んー、不思議な感じ。でもなんとなく絶好調、かな」
「そう、それは頼もしいわね」
血の通った力強い笑顔を向けてくる従妹に微笑んで、クォンは呆然とするセロンガードの背を叩いた。
「セロンガードくん、もう私は戦えない。でも、この子がいれば何とかなるかもしれない」
「え……」
「後は頼んだわ」
そして、全てを二人に託すように瞳を閉じ、その場へと座り込んだ。
「セロン、大丈夫?」
「え、ええ……ですが……ええっ!?」
「うるさいよ。大きな声出さなくても聞こえてる」
「あ、ああ、すみません……いや、あの……もう何が何だか」
「まぁ、ぼくもあんまりよくわかってないんだけど、何とかなりそうかも」
「かもって……いや、そうですね。貴女がそういうのならそうなのでしょう」
「ふふ、そういう事。だから、行こうセロン」
「いえ、行きましょうか、ティト」
二人は何方からともなく互いの手を取ると、立ち上がる。
「「さぁ、ぼく達の戦いはこれからだ!!」」
もうどれくらいの敵を倒しただろうか。
50? 80? いや、100以上かもしれない。それでも敵は減るどころかどんどん増え続けている。
郷まで約5里。今ごろ郷はどうなっているのか。
どうか無事でいてと願う度に、胸がぎゅっと締め付けられる――――。
「ティト!」
一際大きな声にはっとなった。
瞬間、眼前に現れた毒牙に慌てて白刃を重ねる。
「少し休んでいなさい。私が支えるから」
クォンが襲い掛かってきた白銀に横槍を突き入れると、落ち着いた声でそう言った。
「……大丈夫、ごめん、ちゃんと、やる、から」
自分の頬をパチンと叩く。
気合を入れろ。まだこんな所で膝をついている場合じゃない。
これは自分の使命。自分が郷を……アンを護らなくて――――。
「あ、貴方はいったい、どこから……!?」
それは頬を叩いた一瞬の間。あるはずのない温もりを背中に感じた。
遂に自分の感覚すら麻痺してしまったのか……そう思ったけど、違うとすぐに分かった。
「すみません、遅くなりました」
「……もっと、遅くても、ぜんぜん、大丈夫……だった、けど?」
「おや、そうでしたか。では、一度出直すとしましょうか。もっと、ピンチになってから駆けつけたほうが効果的で――――アハハ、冗談じゃないですか!? ぬ、抜き身はまずい! あっ、ああっ! 筋繊維の隙間をぬうように急所を狙う冷たい金属の感覚が……ああぁっ!!??」
「……ばか、セロン」
気を抜けば緩んでしまいそうになる涙腺を気合で閉じて振り返ると、そこにはいるはずのない彼が笑顔で佇んでいる。
「ぼろぼろ……だね?」
「それはお互い様でしょう」
肩をすくめるセロンガード・シュタインドルフが普段通り過ぎて、それが耳に心地よくて思わず笑みが漏れた。
「ありが、とう、セロン」
「いえ、ティトもよく頑張りましたね。よしよししてあげましょう」
「む……くすぐっ、たい。お金、取るよ……?」
「それは困りました。今手持ちがないので出世払いでお願いできますか?」
ティトとセロンガードは同時に噴き出すと、互いの額をこすり合わせる。
「あのぉ……お取込み中悪いんだけど……どういうことか説明してくれる?」
槍を地面に突き立てたクォンが呆れながら聞いてくる。
二人は互いに視線を交えると、何方からともなく二人の関係を説明した。
●
「そう、貴方が」
そう言ってセロンガードをじっと見つめるクォン。
「そうですか、貴女が」
返すように、クォンを見つめるセロンガード。
「正式なご挨拶はまた後日に。今はこの状況を打破する必要があります」
「ええ、そうね。それで、貴方は手伝ってくれるのかしら?」
「当然ですよ、お義姉様」
「お、おね……」
セロンガードの呼称に頬を引きつらせるクォンを、ティトがくすくすと笑っている。
「このままおしゃべりしていたいところなのですが、そうもいきません。郷で皆が待っていますしね」
「郷……うん、そ、だね。さっさと、やっちゃ、お」
いつの間にか三人を無視して郷へと向かっていた白銀の群れへ、三人は一気に殺気を膨らませた。
●
ようやく郷の外景が見えた。
郷まで約1里。あと1里だというのに、その距離がとてつもなく遠い。
ティトは疲労の限界を迎え、自分の背で休んでいる。クォンも辛うじて立っているのがやっとだ。
一人の老人の覚悟を背負い加勢に来たというのに、結局このざまだ。
ティトたちと合流して、何度も敵の包囲を突破した。いくつもの危機があったが、二人……いや三人の力を合わせ、何とか潜り抜けてきた。
だが、それもここまでか。このままでは郷まで……守るべきものまで届かない。
セロンガードは折れた弓を投げ捨て、腰の短刀に手をかけた。
「ティト、話があります」
「……なに」
耳元でティトの返事が聞こえる。
「これだけは使いたくなかったのですが、そうも言ってられなくなりました」
「何……なにする、つもり……?」
「幸せな未来を掴み取るのですよ」
「なに……いって……」
満身創痍のティトをゆっくりと地面に降ろすと、セロンガードは彼女の頬に右手を添えた。
「ティト、貴女と過ごしたこの4年間はとても濃い時間でした。今まで生きた中で一番充実した時間でした。ありがとう、ティト。言葉だけではこの感謝の十分の一も伝える事ができませんが、本当に感謝しています。できる事なら、これからの時間も貴女と……ってティト、聞いてますか? ……あの、一体どこを見て……」
じっと自分を見つめていた大きな瞳は、いつしか自分の向こう側に広がる青い空を見ていた。
「セロン、空……」
「空? 一体何を言っているんですか……折角、私が一世一代の名台詞を貴女に贈っていたとい――――」
「違う。降って、くるの」
「だから何を――――」
ずっと空を見上げるティトに若干苛立ちながらも、セロンガードはゆっくりと振り返った。
「なっ……なんですか、あれは……」
「えっ、見え、るの……?」
「ええ、見えます……見えますとも。眩い光がこちらに墜ちてくる。あれは一体……何なんですか」
「……わぁ、びっくり。でも、そっか、見える、んだ。えへへ……なんだか、ちょっぴり、嬉しい、ね」
「喜んでいるところ大変申し訳ないのですが、知っているのなら説明してください。あれは……あの光り輝く巨星はいったい何なんですか」
「……んと、ね。あれは……覚醒の星。ぼくを、授恵者に、導いて、くれた……光の星、だよ」
無邪気な笑顔を見せたティトは、すっと立ち上がると、二人にしか見えない巨星に向け両手を掲げた。
巨星は更に光を増し、ゆっくりと二人の下へと墜ちてくる。
そして、眩い光の星は、二人を包み込んだ――――。
●
「なぜ、アンがここに……?」
セロンガードの声が震えている。
「驚いたけど……そう、”呪い”が解けたのね」
「一体どういうことですか。なぜここにアンがここに……ティトは何処へ行ったのですか」
「驚くのも無理はないわ。彼女がティトだもの」
「……は?」
クォンの言葉にセロンガードは目を見張り、再び目の前の女性を見る。
その姿はやはりアンと瓜二つである。
「ティトとアンは、生き別れた双子の姉妹なの。そして、今、なぜか彼女にかけられた『呪い』が解けた」
「……えっ」
クォンは急成長と共に露になったティトの肌にマントをかけてやりつつ、彼女に話しかける。
「調子はどう?」
「んー、不思議な感じ。でもなんとなく絶好調、かな」
「そう、それは頼もしいわね」
血の通った力強い笑顔を向けてくる従妹に微笑んで、クォンは呆然とするセロンガードの背を叩いた。
「セロンガードくん、もう私は戦えない。でも、この子がいれば何とかなるかもしれない」
「え……」
「後は頼んだわ」
そして、全てを二人に託すように瞳を閉じ、その場へと座り込んだ。
「セロン、大丈夫?」
「え、ええ……ですが……ええっ!?」
「うるさいよ。大きな声出さなくても聞こえてる」
「あ、ああ、すみません……いや、あの……もう何が何だか」
「まぁ、ぼくもあんまりよくわかってないんだけど、何とかなりそうかも」
「かもって……いや、そうですね。貴女がそういうのならそうなのでしょう」
「ふふ、そういう事。だから、行こうセロン」
「いえ、行きましょうか、ティト」
二人は何方からともなく互いの手を取ると、立ち上がる。
「「さぁ、ぼく達の戦いはこれからだ!!」」