モノトーンの夢 つながる未来

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2025年03月20日 09時28分53秒

 光陰は矢の如し。
 あの日から時は過ぎ、50の年を越える――――。

『さぁ、ぼく(私)達の戦いはこれからだっ!』

 拳を握り力強く振り上げると、聴衆から興奮の声が上がった。

「おおぉぉ!! それでそれで、どうなたんだっ!?」
「き、きっと、みんなやっつけちゃったのよ……!」

 聴衆達の興奮は最高潮。話し手の口元を凝視して、次の句を今か今かと待っていた……のだが。

『――――お終い』

 話し手の放った衝撃の一言に聴衆たちはポカン。
 そんな聴衆たちに苦笑しつつ、話し手は手にしていた本を閉じた。

「はぁぁ!? な、なんだよ、そのおわりかた(打ち切りエンド)は!!」
「え? え? けっきょく、どうなっちゃったの……?」

 憤慨する聴衆A、右往左往する聴衆B。二人の反応が可笑しくて、思わず口元が緩んでしまう。

「ふむふむ、お話としてはここがいい区切りなんですが、どうしても続きが知りたいですか?」
「あたりまえだろっ! こんなところでおわるなんて、よるしかねむれなくなるぞ! どうしてくれるんだよっ!」

 きっと話の続きに大逆転劇の夢を見たのだろう聴衆Aは、続きを話せと話し手に詰め寄る、が。

 ――ゴチンっ!!

「こらっ! 大爺様に向かってなんて言葉使ってるのっ!」

 背後から火花が飛びそうな強烈な拳骨を落とされ、聴衆Aはぷっくりと膨れ上がった頭部を押さえながら床に蹲った。

「おかあさん……!」

 一方、聴衆Bは反射ダメージを受けた拳に息を吹きかけている女性に頭から突撃する。
 女性は弾丸と化した聴衆Bを受け止めつつ、話し手に向け深く頭を下げた。

「お爺様、うちの子たちが失礼な口をきいて、すみません」
「気にしてないですよ。そんな事よりも、久しぶりですね。元気にしていましたか?」
「はい、おかげさまで元気にやっております。それよりも留守の間、二人のお守りをありがとうございました」
「いえいえ、私は何もしていませんよ。二人ともいい子でした」

 話し手の言葉に女性はホッと胸をなでおろし、もう一度頭を下げる。
 二人の子供――聴衆Aことベィル。そして聴衆Bことマィリ。齢は共に7つ。男の子と女の子の双子だ。二人の年齢ならもっと色々な事をして遊びたいだろうに、こんな老人の昔話に真剣に耳を傾け、そして話し相手にもなってくれた。迷惑どころか、感謝したいくらいだ。

「ねぇ、かあさんはしってるの? セロンじいのはなしのつづき」

 母親も戻ったし、自分の役目は終わりかと思っていると、ベィルが痛む頭をなでながら女性に問いかけた。
 双子に挟まれて幸せそうに微笑んでいるのが彼らの母親、名をクィエという。彼女は私――セロンガード・シュタインドルフの孫にあたる女性だった。

「ええ、もちろん知っているわよ」
「えっ、ほんと!! おしえておしえてっ!!」
「わたしもしりたいよ?」

 子供たちにキラキラとした純粋な瞳を向けられるクィエがちらりとこちらに視線を向けて、「話しても?」と問いかけてきた。
 私は苦笑しつつ「どうぞ」と首肯すると、クィエは小さく頭を下げて、改めて双子に向き合う。

「続きを話す前に、一つだけ覚えていて。お爺様のお話は、この街で実際に起こったお話なのよ」
「えっ! ホラばな――――おとぎばなしじゃないのか!?」
「わたしも、ものがたりだとおもってた……」
「ふふ、本当の事なのよ。この物語は今から50年程前、この世界が今よりも少しだけ混乱していた頃から始まるわ――――」

 クィエは瞳を閉じてそう囁くと、胸の奥に刻まれた一冊の物語を朗読するように、ゆっくりと話し始めた。

 ――――ある日、帝国のはしっこにある小さな村に訪れた悲劇。それは、一人の悪者が自分の命惜しさにはじめた”わがまま”だったわ。
 永遠の命を求めた悪者は、”それ”があるこの村に沢山の兵士を送り込んできたの。
 地平線を埋め尽くすほどの白銀の兵士たちを前に、村人たちはどうすることもできなくて、家の戸を閉めて閉じこもる事しかなかったわ。
 だって、村人たちは悪者が欲しがっている”それ”が何なのか知らなかったんだもの――――。

「ど、どうなるの……」

 マィリは唇を震わせている。

「さ、さっきセロンじいのはなしきいてなかったのか! ”ヒーロー”がやっつけてくれるんだよ!」

 そんな妹を励ますようにベィルが言った。
 クィエはそんな二人を優しく抱き寄せて、続きを話す。

 そうね、ベィルの言う通りこの小さな村にも、皆を助けてくれる”ヒーロー”がいたの。
 それは5人の勇士たちだったわ。
 一人は、老獪な戦神――どんな硬いものでも粉々に砕いちゃうおじちゃん。
 一人は、魔弾の射手――狙った獲物は逃さない。百発百中の腕前を持った青年くん。
 一人は、神速の双刃――目にも止まらぬ速さで敵を切り刻む、小さな旋風の少女ちゃん。
 一人は、孤高の槍聖――変幻自在の技で敵を翻弄する、美しい旅人さん。
 一人は、影幻の絆盾――絆の為に一人で村を守った、愛の乙女さん。
 彼らは本当のヒーローだったんだけど、そんな彼らでも白銀の兵士たちを相手にするのは、とても大変だったの。
 だって、白銀の兵士は数えきれないほど沢山いるのに、村を守るのはたった5人なのよ?
 どう考えたって、守るなんて無理――――皆はそう思っていたわ。

「で、でも、だいじょうぶだったんでしょ……? ヒーローさんはかったんでしょ……?」
「あ、あたりまえだろ! ひーろーはまけないんだ! まけないからひーろーなんだ!」

 双子はいつの間にか互いの手を取り、まるで自分が物語の登場人物の一人かのようにクィエの話にのめりこんでいた。

 そうね、ヒーローたちはとても頑張ったわ。沢山の白銀の兵士を倒して、村を守り続けたの。
 でもね、いくら強いヒーローたちでも限界はあるの。倒しても倒してもぜんぜん減らない白銀の兵士たちに、少しずつだけど押されていったの。白銀の兵士たちは、ここぞとばかりに数にものを言わせてヒーローたちを追い込んでいったわ。
 結局、村人たちの予想通りに、ヒーローたちは一人、また一人と傷付き、倒れていったの。
 村人たちは絶望したわ。もう、村を守るヒーローはいない。もう、自分達は助からないって。でも、そんな時だった。勇士の一人が沢山の敵の前に立ち塞がったの。
 彼――青年は極限まで高めたエーテルの力を使って、命と引き換えにこの窮地を逆転させるための力を得ようと考えたの。
 他の仲間たちが止めるのも聞かずに、勝手に一人で決めて――――。

「え……」

 マィリが無意識に言葉を漏らす。どうやら彼女は青年射手推しらしい。彼女は、唇を震わせはなしの続きを祈っている。

 青年は目の前まで迫った白銀の兵士たちを見つめながら、想い人だった少女に向けて最後の言葉をかけたの。
『村を守るためにはもうこの方法しかない。だから、泣かないでくれ』って。
 青年は少女の目に溢れた涙を拭うと、敵に向かおうとしたわ。でも、気付いたの。なぜか少女の視線が、西の空に向けられていることに――――。

「きたーーーー!!!」

 クィエが西を向いたのに合わせ、ベィルが拳を握った。

「なになに? なにがきたの……?」
「そんなの”きしかいせーのいって”にきまってるだろ!」
「き、きっしー? だれ、それ」

 大興奮のベィルに比べ、マィリは状況がよく呑み込めていないのか、母と兄の間で視線を往ったり来たりさせている。

「クィエ、なんだか脚色が過ぎませんか?」

 興奮と戸惑いの渦中にある兄妹を微笑ましく見つめていたクィエに、セロンガードがそっと耳打ちした。

「あら、そうですか? 私はお爺様からこの話を聞いてから、ずっとこのように解釈していましたよ?」
「いえ、大筋はそれでいいのですが……誇張が過ぎると言いますか、そこまで感動的なものでは――――」
「ねぇねぇ! 続きは! 続きは!」

 セロンガードのささやかな抵抗は、ベィルの興奮に退けられる。
 クィエは再び双子に視線を戻すと、セロンガードに小さく微笑んでから物語の続きを話し始めた。

 西の空に現れたそれは、光り輝く『星』だったわ。それは絶体絶命だった勇士たち5人……いえ、正確には2人、青年と少女の元に堕ちてきたの。
 それは少女がかつて見た”覚醒の星”。少女だけの特別な光だったはずのそれが、その時なぜか2人の元へと堕ちてきたの。

「ぱわーあっぷあいてむき――――んぐんぐっ!?」

 ベィルが興奮気味に叫ぶが、マィリがムッとした表情で邪魔するなと口を塞いだ。

 ”覚醒の星”の力を得て、少女は再覚醒を果たしたわ。

「おおきく、なったんだよね……?」

 マィリが恐る恐るそう問いかけると、クィエはこくりと頷く。

 そう、マィリの言うとおり。少女は再覚醒と同時に”本当の姿”を取り戻したの。

「ほんとうのすがた……つよくなったの?」
「あったりまえだろ! ここからはんげきのはじまりだ!」

 ええ、そうね。少女の覚醒を切っ掛けに、本当の”奇跡”が起きたわ。
 少女が本当の力を取り戻して強くなったのはもちろん、”星の光”は敵にも影響を与えたの。

「えっ! つよくなったのか!?」

 いいえ、逆よ。見えない光に照らされた白銀の兵士たちは、いっせいに動きを止めたの。

「そんなことって……あるの?」
「まさに”奇跡”ですよね」

 マィリの呟きに、私はそう答えた。

 動きを止めた白銀の兵士たちに、5人は反撃を開始したわ。
 再覚醒を果たした少女の力が、他の4人にも伝わったのか、やられる寸前だったとは思えないくらいの力を発揮して、5人の勇士たちはあれだけ沢山いた白銀の兵士たちを全部倒してしまったの。もちろん、悪者も一緒にね。
 そして、5人の勇士たちは、本当に村を守り切ったのよ。

 『おしまいおしまい』と話を締めくくったクィエの声に合わせ、双子は大きく息を吐いた。

「すげぇ……すげぇ!! やっぱり、ヒーローはかつんだ!」
「うんうん、むらがまもられてほんとうによかった……。あ、おかあさん、その5にんって、ひろばのどうぞうのひと、だよね……?」
「ええ、そうよ。村は5人の勇士たちへの感謝を形にするために、できたばかりの広場に彼らの像を建てたの」
「その5人ってどんなひとだったの?」
「5人の勇士? そうね、実際の人物像はお爺様に聞く方が早いのだけど……」

 確かめるように視線を向けたクィエに、私は小さく首を振った。

「ふふ、あまり話したくないようだから、私が知っていることを教えてあげるわね。
 まず旅人さんと乙女さん。広場の南東と南西にいる人たちね。彼女たちは街を救った後、それぞれ旅に出たそうよ。その後、彼女たちがどうなったのかは残念ながら伝わっていないわ」
「おうちにかえっちゃったの……?」
「どうかしらね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも彼女は、とても幸せそうだったって伝わってるわ」
「そう、なんだ……よかった」
「ほかのひとは!?」
「それじゃ次は戦神のおじいちゃんね。彼の像は広場に北に建っているわ」
「いちばんおおきなぞうだよな!」
「そうね。彼は声も人柄も、そして見た目も全て豪快な人だったそうよ。少しベィルに似ているかしら?」
「ええっ! おれっ!?」
「少しだけね。まあ、あなたは戦神さんの血を引いてるから似てても不思議じゃないんだけどね」
「……えええええっ!!!???」

 小さな家に響き渡ったベィルの大声に、マィリは頭の上の耳を押さえている。

「どどど、どういうこと!? おれって、ごせんぞさまなの!?」
「ちょっと違うけど、そう言う事。しかも、このおじいちゃんはすごいのよ?」
「え……! まだなんかあるの!?」
「ええ。だって敵の悪者を倒したのは、この戦神さんなんだもの」
「う、うおぉぉぉぉっ!?」

 「すげぇすげぇ……」と何度も呟いているベィルの頭をポンポンしたクィエは、「他の二人は?」と問いかけてくるマィリに向けて話を続けた。

「そうね、少女ちゃんはマィリにているかも」
「え……?」

 クィエが「どうですか?」と視線で問いかけてくるので、私は苦笑しつつ「少し」と返した。

「お爺様のお墨付きよ。よかったわね」
「どういう、こと……?」
「ふふ、少女ちゃんは、あなたのおばあちゃんだもの。だから、お爺様に聞くのが一番なのよ」
「……え?」

 状況を飲み込めないマィリがクィエとセロンガードの間で目を回していると、ようやく興奮が収まったのかベィルが最後の一人の事を聞いてくる。

「青年さん?」
「そう、その人! つよかったんだよね? まあ、せんじんのおじいちゃんほどじゃないとおもうけど! あ、でも……おじいちゃんって、もういないんだよね……?」
「もういませんね。彼はあの戦いでとてもひどい傷を負ってしまいましたから。とても豪快で厳しく、そして破天荒な御仁でしたよ」
「なんかよくわからないけど、なんかすげーひとだったんだよね!」
「ええ、すげーひとでした」

 折角、質問したのに別の答えに満足してしまったベィルに代わり、マィリがクィエの袖を引いた。

「ねぇ……せいねんさん、って、もしかして……」
「マィリは気付いたのね。そう、青年さんはセロンお爺様のことよ」
「やっぱり……すごい、セロンじいってすごいひと、だったんだ……」
「ええ、とてもすごい人なのよ。だから、マィリももっとおじいさん孝行するのよ?」
「うん……!」

 マィリは力強く頷くと、私の下へとてとてと駆けてくる。

「セロンじい。なにかしてほしいこと、ない?」
「気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ。今がとても幸せですから」

 セロンガードはそう応えると、マィリの小さな体を抱き上げ、自分の膝に座らせた。
 そして、”彼女”とそっくりな銀色の耳を優しく撫でながら囁きかける。

「”彼女”もきっと同じことを思っていますから」
「それって、おばあちゃん……?」
「ええ。彼女は今はいませんが、きっと二人の成長を楽しみにしているはずですよ」
「そうなんだ……おばあちゃんと、もっと、たくさんおはなししたかった……」

 クィエが戸惑うような視線を向けてくるが、私は子供たちに気付かれないようにウィンクを返した。
 そんな時だ、家のドアが勢いよく開いたのは。

「ただいま、セロン」

 薄暗かった部屋に西日が差し、一気に明るくなる。

「あ、みんなも来てたんだね。丁度良かった、今日はたくさん獲れたんだよ」

 西日を背に扉の前に佇む人影が、丸々と肥えた野兎を3匹も吊るした槍を壁に立てかけ、部屋へと入ってきた。
 どうだ凄いだろうと自慢げに胸を張る人影に向けて、私は最大級の賛辞を送ろうとしてやめた。
 不思議そうに首をかしげる彼女に向けて、改めて口にした。

「おかえりなさい、――――」

 かつての”ヒーロー”の名前を――――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0