遍歴医の誕生日
キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2025年02月10日 09時00分15秒
●
「うん、これでもう大丈夫」
病人の処置を完璧に終えた中年男はニッコリ笑った。彼は遍歴医として大陸各地を放浪している。今日はたまたま通りがかった村で「隣村の若い連中が誤って毒キノコを食べてしまい、村が壊滅した」という凶報を聞き、宿を飛び出して往診に向かったのだ。幸いキノコの毒性はそれほど高くはなく、重篤な後遺症が残るものでもなかった。男は手持ちの解毒薬を患者たちに処方し、無事治療に成功した。
「起きたら熱は引いているはずだけど、2、3日はこまめに様子を見てあげて。予備の薬、置いておくね」
「ああ、ありがとう! あんたは村の恩人だ。なんとお礼を言ったらいいか……お医者様、名前は?」
村長が名を問うと、男は頬を掻きながら照れくさそうに答える。
「ディレイン。ディレイン・オールドケイジだ」
●
大陸を放浪しているため、生存確認が難しいディレインは、一か月に一度は友人たちに連絡を入れないと捜索隊を出されることになっている。そして、その連絡手段は主に手紙である。ディレインの友人の一人、ハヤト=ガラン=ヴォルファングとサフィラ・アズラク・ヴォルファング(夫婦)はビッグオウム便で届いた手紙を受け取り、ニヤリと笑った。
「ほほぅ……ディレインが久々に戻ってくんのか……しかも、この日はあいつの誕生日じゃねえか……こいつぁ一肌脱がなきゃだなっ!」
「お。サプライズパーティやる? よっしゃ、アタシも頑張っちゃおうかな! コルネとかレピッピにも手紙届いてると思うから、声かけとくね!」
「おう、頼むぜ、サフィラ! 手分けして声かけよう!」
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サフィラはハヤトと手分けし、さっそくディレインが連絡を取っていそうな冒険者仲間達と連絡を取った。そして当日都合が着いたメンバーと共に、「踊る子熊亭」でディレインの誕生日を祝うサプライズパーティを行うことにした。
「あたしもハヤトもあちこち行くような生活してるけど、ディレおじはふらっと居なくなるよねぇ。うーん、誕生日プレゼント、何がいいかなあ」
ハヤトはなんか準備がしたいとかで帝国方面に出かけたので、留守番のサフィラは腕を組み、うんうんと唸っていた。
「ママ、うんこしたいの?」
「んー? なんで?」
サフィラが悩んでいると、長女が首を傾げた。
「だって、さっきからうんうんいってるから」
「んー。おトイレはまだいいかな……ねえ、もしキャンプに行くなら何が一番欲しい?」
せっかくなので、サフィラは娘から何かヒントが得られないかと聞いてみた。ちなみに二歳年下の息子の方はまだ小さいので、「名もなき小鬼のぬいぐるみ」とか答えるのが関の山だろう。
「うーん……けんとか? かりにつかうから」
「なるほど……剣……確かに刃物は旅の必需品だな……よし、アレにしよう!」
サフィラはニカッと笑い、娘の頭を撫でた。
●
そして約一週間後。ハヤトとサフィラは『踊る子熊亭』の酒場の個室を抑え、ディレインより一足先にパーティ会場に足を運んでいた。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ!」
ウェイトレスに促され、ハヤト一家は個室へと案内される。途中、娘がハヤトをツンツンつつき、ぼそぼそとハヤトに耳打ちした。
「パパ、このウエイトレスさん上玉じゃない?」
「うむ、悪くない……が、胸のボリュームがもうちょっと欲しいな♪」
「ふーん、ママの方がおっぱい大きいもんね」
(あとでおしおきだね、ハヤト。最後の晩餐を楽しむんだな)
その瞬間、ハヤトは後で妻に制裁されることが決定した。残念ながら、親子のナイショ話は愛する妻に全部聞こえていたようだ……。
「おーす! 久しぶりだな!」
朗らかに笑うハヤト。まだ全員は来ていないが、コルネリウス・アーラとペデラ、あと見覚えのあるキジトラが会場入りしていた。
「おっす、ショウガ」
「にゃあ」
ハヤトの息子に話しかけられ、ショウガは欠伸をするように返事をした。そして、ちびっ子たちはしょうがに群がり、にゃんこモフモフタイムが始まった。
「コルネ! 久しぶり!」
サフィラは部屋の飾りつけをしていたコルネリウスを発見し、ハグした。コルネリウスは驚いたが、すぐ我に返り、ぺこりとお辞儀をした。
「お久しぶりです、サフィラさん、ハヤトさん。……自分の誕生日を忘れているの、おじさまらしいといえばらしい、ですけれど……。ふふ、皆でびっくりさせてあげましょうね」
「おう! ルアンナはまだ来てない感じ? ケーキ担当してくれるって言ってたけど」
「ええ。特製のケーキと一緒に来るって言ってました」
「お! それは楽しみ♪」
●
少し時間は巻き戻り、その日の早朝。
「ディレインおじさんへのサプライズ誕生日パーティ! 全力でお祝いさせて頂きますっ!!」
リブラネスタの片隅にあるパン屋「ミュラース」の店主・ルアンナ・ミュラーは燃えていた。彼女もディレインの誕生日を祝うサプライズパーティ開催のお知らせを聞いている。会場は近場のリブラネスタで断る理由もなく、二つ返事で承諾したのだ。
「ケーキならばお任せ下さい!」
誕生日と言えばやはりバースデーケーキだ。ミュラースはパン屋だが、洋菓子とパンは比較的近しい位置にある料理。当然ルアンナはケーキを含め、スイーツの調理についても心得ている。今回は集まる人数が割と多いので、ケーキも直径20センチぐらいは要るだろう。
ごおおおおおお!
ルアンナ自慢のパン焼き竈が火を吹き、スポンジケーキの焼成が完了した。デコレーションケーキはここからが本番。白いクリームをたっぷり塗って、ようやくケーキの土台が出来上がる。ここからどれだけ綺麗に飾り付けられるかが、職人の腕の見せ所だ。
ルアンナは慣れた手つきでイチゴやブドウ、ミカンなどのフルーツをクリームに埋め込んでいく。
「後はディレインおじさんの顔をチョコペンで描いて、ついでにショウガちゃん(レピドの愛猫)の形に整えたチョコの板も載せて、ロウソクを4X本立てて……完成です!」
ぱちぱちぱちぱち!
ルアンナはケーキの出来栄えに満足し、拍手を送ってくれた助手達にサムズアップした。
●
「サプライズ……つまり奇襲のことだな?」
久しぶりに踊る子熊亭に顔を出したレピド・クロサイトがぽんと手を打つと、冒険者ギルド職員のペデラ・ウォーカーは笑顔で「全然違う」と否定した。ペデラも既にハヤトからサプライズパーティの件は聞いている。彼はギルド職員という立場を生かし、ディレインを自然に会場まで誘導するという重要ミッションを遂行する予定だ。
「そうか……誕生日にディレインをみんなで奇襲するのは妙だと思ったんだが。やはり間違いか……」
しょんぼりするレピド。ディレインの冒険者の勘を衰えさせないための訓練かと思ったが、違ったようだ。
「まさかパンクリアース学園でやってないよな? 奇襲」
「ああ。それはもちろん」
ジト目のペデラに問われ、レピドはこくりと頷く。聞くところによるとレピドは学園でうまくやっているらしいが、ペデラとしては彼が無意識で何かやらかしたりはしていないか不安ではあった。
(まあ、コルネリウスも「大丈夫」だと言っていたから大丈夫なんだろうが……こいつは何年経っても妙に心配になる……。おいおい、オレはこいつのお母さんか?)
ペデラは久々に見たレピドの顔を見ながら、自嘲気味にフッと笑った。
「アタックは忘れてサプライズの意味だけ考えてくれ」
「分かった。……サプライズ……驚き……そうか、ディレインを驚かせればいいのだな」
「正解」
ペデラは呆れたように頷いた。
「なら、任せろ」
レピドは自信ありげに頷いた。
(本当に大丈夫なんだろうな……)
やっぱりまだ少し不安なペデラであった。
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「なるほど、おじさん指名での依頼ねえ」
「ああ、どうもそうみたいなんだ。超遍歴医ディレインの力をぜひ借りたいそうで」
「……なんか変な噂が独り歩きしてない? まあ、話を聞くくらいはいいけども」
「助かるよ。依頼人とは踊る子熊亭の個室で落ち合う予定なんだ。オレも立ち会うからとりあえずついてきてくれ」
「ああ、分かった」
こくりと頷くディレイン。
(よし、うまく行った……)
ペデラはほっと胸を撫で下ろしていた。実はこの依頼の話はでっち上げである。ディレインをサプライズパーティの会場に誘導するために、ペデラはディレインを手紙で呼び出し、一計を案じたのだ。ペデラは本物のギルド職員なのでディレインは疑いもしていないだろう。
「うん、ここはあまり変わってないね」
踊る子熊亭の店の前まで来たディレインは微笑んだ。久しぶりに顔を出したが、踊る子熊亭は昔のままだ。
「こっちの部屋だ。お先にどうぞ」
ペデラはコンコンとノックし、ドアを開けた。そしてディレインが扉をくぐると、パンパンという軽快な炸裂音と共に、紙吹雪がディレインの顔の周りを舞った。
「「ディレイン! お誕生日おめでとう!」」
満面の笑顔でディレインを出迎えるコルネリウス、サフィラ、ハヤト、ルアンナ。ディレインはぽかんと口を開けている。部屋の中はたっぷりのお花で飾りつけられており、明らかにパーティ会場の様相を呈していた。
「今日誕生日だろ? ディレイン」
ペデラがニッコリと笑いながら声をかけると、ディレインは目をぱちぱちさせた後、我に返った。
「ペデラさん、知ってたなら教えてよー!」
「言ったらサプライズにならないだろ?」
ペデラはそう言って、ニヤリと笑った。
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「おっす。久しぶりだなディレイン。お前のことだから、自分の誕生日忘れちまってるんじゃないかと思ってな!」
「ディレおじ誕生日おめでとう〜!!!」
ハヤトとサフィラは紙吹雪を撒き散らしながらハイタッチした。彼らの傍らにはサフィラそっくりの小さなエルフの少女とハヤトそっくりの小さなゴブリンがちょこんと座っている。二人の愛の結晶達である。余談だが、二人はレピドの愛猫のショウガと共にコルネリウスとルアンナからも熱烈な歓迎を受けた。いつの世も可愛いは正義であった。
「「おじさん、お誕生日おめでとう」」
「ありがとう。二人とも、大きくなったね」
ディレインは目を細めている。
「お水、ご用意いたしました」
ディレインとペデラ(実は今日は非番)が席に着くと、赤毛のウェイトレスが音もなく登場し、ススッと水を置いた。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さいませ」
ウェイトレスは部屋のすみっこに移動し、待機モードに入った。
「さあ、主役も来たことだし、そろそろ始めましょうか」
コルネリウスはパンと手を叩く。すると、ハヤトが「待った」をかけた。
「あれ、レピドはどこ行ったんだ? にゃんこがいるならあいつも来てるだろ?」
ハヤトの視線の先には、ハヤトの娘の膝の上にいるキジトラがいた。猫だけがお祝いに来るはずがないので、飼い主も一緒に来ていなければおかしい。
「そういえばレピドがいないな? 誰か見たか?」
ペデラも首を捻る。サフィラにもらった参加者名簿に名前は載っていたので、来るのは間違いないはずなのだが……。
「いや、来てるぞ」
その時、部屋の入り口の方からレピドの声がした。冒険者達が振り向くと、そこにはさっきの赤毛のウエイトレスさんが立っていた。
「お誕生日おめでとう、ディレイン」
ウエイトレスはレピドの声でぱちぱちと拍手を送った。
「!?」
驚愕に目を見開くハヤト、と飲んでいた水をむせるディレイン。既に知っていたサフィラ、コルネリウス、ルアンナはくすくす笑っている。そしてウエイトレスはウィッグとカチューシャをバッと外した。
「れ、レピド!?」
「ああ、俺だ」
擬態をやめたレピドは真顔でサムズアップした。入り口にいた赤毛のウエイトレスの正体は女装したレピドだったのだ。
「なん……だと……?」
ハヤトはまだショックを受けているようだ。さっき胸がどうとか言ってた気がするが、まさか男(しかも知り合い)だったとは……。
「……知ってたのか?」
ハヤトはサフィラの方を見ると、サフィラはこくりと頷いた。
「うん、知ってた。黙ってた方が面白いかなって」
「いや……驚いたけどよ!?」
「いやあ、確かに驚いたな。化けたね……レピド君」
ディレインは口元を拭き、レピドを賞賛した。
「こうすれば驚くだろうと思って」
「ディレインはいいとして、誘導役のオレには事前に言っとけよ……心臓に悪い」
「あ、すまん。もう伝わっていると思っていた」
ペデラに突っ込まれ、レピドは弁解した。
(何故驚かせることがお祝いになるのかはいまいちよく分からなかったが……まあみんな喜んでいるようなのでよしとしよう)
●
「こほん。……というわけで、全員揃いましたので、お誕生日パーティを始めましょう!」
コルネリウスは咳払いし、仕切り直した。
「じゃあ、みんなで乾杯しましょう」
コルネリウスの音頭取りで冒険者達はグラスを打ち合わせた(ちびっ子の二人は果実ジュースである)。
「かんぱーい!」
冒険者達はグッとグラスを飲み干す。
「肉頼んどいた! 皆で焼いて食おう!」
「「おー!」」
陽気に声を上げる冒険者達。そして加熱された鉄板がテーブルに運びこまれ、パーティが始まった。
(皆で集まれる機会もそうないですし、友人のお誕生日を祝えるというのは嬉しいです)
コルネリウスはちょっとしんみりしていた。幽界樹との戦いの後、仲間達はそれぞれの道に進んだため、馴染みの冒険者達が集まる機会もめっきり減った。それは世界が平和な証なので結構なことなのだが、それはそれとして、友人とあまり会えないのはやはり寂しいものだ。
「ディレおじ! あたしからのプレゼントはメタルマッチとナイフだよっ! 開けてみて!」
サフィラは満面の笑みで小さな箱を取り出した。受け取ったディレインが箱を開けると、中には鉄製の小さな棒と、短めで刃の厚いナイフが出てきた。
「旅してるとさ、火が必要な場面って多いでしょ?」
「ああ、確かに。これは便利そうだ。ありがとう、サフィラちゃん」
ディレインは嬉しそうに笑い、ナイフとマッチのセットを受け取った。
「よっしゃ、次は俺だな!」
続いて、ハヤトが持参した袋を開けた。中から出てきたのはたくさんの酒瓶だ。
「俺からはこれだ。祝い酒。本当は帝国近衛連隊長に手紙と秘伝のタレも貰いたかったんだけど、さすがに準備期間が短すぎたな……アポが取れんかった」
ハヤトはそうぼやくと、ドワーフ仕込みの蒸留酒や都市同盟産の赤ワイン等をどっさりテーブルの上に置いた。そして、ディレインのグラスに酒を注いでやる。
「ありがとう、ハヤト。お酒だけで十分嬉しいよ。でも、彼にもいつかまた会いたいな……」
しんみりとした表情で、ディレインはグラスを煽った。
「うん、おいしい」
「ああ、(レピドの衝撃で)すっかり忘れてた。俺からもプレゼントだ」
ペデラはニッと笑うと、リブラネスタ産のそこそこ高級な酒をディレインに渡した。
「私からはこれを。どうぞ、おじさま」
コルネリウスがにっこり笑って差し出したのは、赤いスイートピーを中心に、飾り付けられた、色とりどりの花束だった。
「ありがとう。これはコルネちゃんが育てた花かな?」
「はい。竜邸の庭園で育てました」
「そうか。幸せそうで何よりだ」
感慨深そうに笑うディレインが花束を受け取ると、フルーティな香りが彼を満たしていった。
「次は私ですね! 私からはこれをプレゼントです!」
ルアンナは大きなズンドウ鍋をテーブルの上に置いた。フタを少し開けると、芳しいクリームシチューの香りが部屋中に広がった。
「アツアツの特製シチューです。美味しいですよ」
「おお、シチューじゃないか!」
ディレインは鍋を覗き込み、歓喜した。
「はい。前に思い出の料理の話をした時に、お母さんが作ってくれたシチューの話をしてくれましたから」
「ああ、そんなこともあったね……うん、おいしい。おいしいよ……」
シチューをすくって食べるディレインの目元は少し涙が滲んでいた。ディレインは食べ物の好き嫌いはあまりないが、シチューは別格に好きな料理だった。シチューはさっきルアンナが言ったように、ディレインの養母がよく作ってくれた料理だったからである。
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「いやあ、焼き肉もシチューも美味しかったね。そろそろデザートでも頼もうかな」
料理の皿が空になり、宴席もそろそろ終わりが近づいていた。腹八分目のディレインはまったりしている。店員さんが空のお皿を持って行った時、ルアンナがすっくと立ちあがった。
「もちろん、バースデーケーキもありますよ!」
ルアンナは「ミュラース」と書かれた白い箱を取り出し、テーブルの上に置いた。箱から出てきたのは、綺麗な細工が施された丸いバースデーケーキだ。
「「おおっ!」」
「「おっきいケーキだー!」」(ミニハヤト&ミニサフィラ)
普段あまりお目にかかることのない、パーティサイズの立派なケーキに一同は目を丸くする。
「私からのもう一つの贈り物です」
「ありがとう。ルアンナちゃん。おじさん、とても嬉しいよ」
ディレインの目にはまたちょっと涙が滲んでいた。
「ああ、素晴らしいケーキだ」(特にショウガのチョコレート部分が)
レピドはうんうんと頷いた。そしてショウガがギラギラした眼でケーキを狙っていることに気付き、慌ててショウガをホールドした。すると、気を利かせたペデラが小声で「食べている間はショウガは隔離しようか」と耳打ちし、猫用のカゴを持ってきてくれた。
「これ、あたしの分もあるよね!?」
「俺、猫のプレート欲しい!」
興奮した様子のミニサフィラとミニハヤトに詰め寄られ、ルアンナはニッコリ笑った。
「はいはい、後で切り分けましょう。でも先にみんなで歌を歌いましょう!」
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部屋の照明が落とされた後、ルアンナはマッチでロウソクに火を点けた。40本を超える数のろうそくがゆらゆらと燃える中、冒険者達は大陸でポピュラーなバースデーソングを歌う。そして、ディレインは歌の終わりに一息でろうそくの火を吹き消した。
「「ハッピーバースデー! ディレイン!」」
盛大な拍手が鳴り響く中、ディレインは目にうっすらと涙を溜めていた。
(孤児である俺の本当の誕生日は分からない。けれど、今日は養父母を親と呼べるようになった大切な日だ。ずっと旅としていると、日付をあまり気にしなくなっちゃうからすっかり忘れていたけど……)
サプライズパーティだったので自分には返せるものが何もなかったが、せめて、精いっぱいのお礼を言おう。
「みんな、本当にありがとう。今日は最高の日だよ」
「うん、これでもう大丈夫」
病人の処置を完璧に終えた中年男はニッコリ笑った。彼は遍歴医として大陸各地を放浪している。今日はたまたま通りがかった村で「隣村の若い連中が誤って毒キノコを食べてしまい、村が壊滅した」という凶報を聞き、宿を飛び出して往診に向かったのだ。幸いキノコの毒性はそれほど高くはなく、重篤な後遺症が残るものでもなかった。男は手持ちの解毒薬を患者たちに処方し、無事治療に成功した。
「起きたら熱は引いているはずだけど、2、3日はこまめに様子を見てあげて。予備の薬、置いておくね」
「ああ、ありがとう! あんたは村の恩人だ。なんとお礼を言ったらいいか……お医者様、名前は?」
村長が名を問うと、男は頬を掻きながら照れくさそうに答える。
「ディレイン。ディレイン・オールドケイジだ」
●
大陸を放浪しているため、生存確認が難しいディレインは、一か月に一度は友人たちに連絡を入れないと捜索隊を出されることになっている。そして、その連絡手段は主に手紙である。ディレインの友人の一人、ハヤト=ガラン=ヴォルファングとサフィラ・アズラク・ヴォルファング(夫婦)はビッグオウム便で届いた手紙を受け取り、ニヤリと笑った。
「ほほぅ……ディレインが久々に戻ってくんのか……しかも、この日はあいつの誕生日じゃねえか……こいつぁ一肌脱がなきゃだなっ!」
「お。サプライズパーティやる? よっしゃ、アタシも頑張っちゃおうかな! コルネとかレピッピにも手紙届いてると思うから、声かけとくね!」
「おう、頼むぜ、サフィラ! 手分けして声かけよう!」
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サフィラはハヤトと手分けし、さっそくディレインが連絡を取っていそうな冒険者仲間達と連絡を取った。そして当日都合が着いたメンバーと共に、「踊る子熊亭」でディレインの誕生日を祝うサプライズパーティを行うことにした。
「あたしもハヤトもあちこち行くような生活してるけど、ディレおじはふらっと居なくなるよねぇ。うーん、誕生日プレゼント、何がいいかなあ」
ハヤトはなんか準備がしたいとかで帝国方面に出かけたので、留守番のサフィラは腕を組み、うんうんと唸っていた。
「ママ、うんこしたいの?」
「んー? なんで?」
サフィラが悩んでいると、長女が首を傾げた。
「だって、さっきからうんうんいってるから」
「んー。おトイレはまだいいかな……ねえ、もしキャンプに行くなら何が一番欲しい?」
せっかくなので、サフィラは娘から何かヒントが得られないかと聞いてみた。ちなみに二歳年下の息子の方はまだ小さいので、「名もなき小鬼のぬいぐるみ」とか答えるのが関の山だろう。
「うーん……けんとか? かりにつかうから」
「なるほど……剣……確かに刃物は旅の必需品だな……よし、アレにしよう!」
サフィラはニカッと笑い、娘の頭を撫でた。
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そして約一週間後。ハヤトとサフィラは『踊る子熊亭』の酒場の個室を抑え、ディレインより一足先にパーティ会場に足を運んでいた。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ!」
ウェイトレスに促され、ハヤト一家は個室へと案内される。途中、娘がハヤトをツンツンつつき、ぼそぼそとハヤトに耳打ちした。
「パパ、このウエイトレスさん上玉じゃない?」
「うむ、悪くない……が、胸のボリュームがもうちょっと欲しいな♪」
「ふーん、ママの方がおっぱい大きいもんね」
(あとでおしおきだね、ハヤト。最後の晩餐を楽しむんだな)
その瞬間、ハヤトは後で妻に制裁されることが決定した。残念ながら、親子のナイショ話は愛する妻に全部聞こえていたようだ……。
「おーす! 久しぶりだな!」
朗らかに笑うハヤト。まだ全員は来ていないが、コルネリウス・アーラとペデラ、あと見覚えのあるキジトラが会場入りしていた。
「おっす、ショウガ」
「にゃあ」
ハヤトの息子に話しかけられ、ショウガは欠伸をするように返事をした。そして、ちびっ子たちはしょうがに群がり、にゃんこモフモフタイムが始まった。
「コルネ! 久しぶり!」
サフィラは部屋の飾りつけをしていたコルネリウスを発見し、ハグした。コルネリウスは驚いたが、すぐ我に返り、ぺこりとお辞儀をした。
「お久しぶりです、サフィラさん、ハヤトさん。……自分の誕生日を忘れているの、おじさまらしいといえばらしい、ですけれど……。ふふ、皆でびっくりさせてあげましょうね」
「おう! ルアンナはまだ来てない感じ? ケーキ担当してくれるって言ってたけど」
「ええ。特製のケーキと一緒に来るって言ってました」
「お! それは楽しみ♪」
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少し時間は巻き戻り、その日の早朝。
「ディレインおじさんへのサプライズ誕生日パーティ! 全力でお祝いさせて頂きますっ!!」
リブラネスタの片隅にあるパン屋「ミュラース」の店主・ルアンナ・ミュラーは燃えていた。彼女もディレインの誕生日を祝うサプライズパーティ開催のお知らせを聞いている。会場は近場のリブラネスタで断る理由もなく、二つ返事で承諾したのだ。
「ケーキならばお任せ下さい!」
誕生日と言えばやはりバースデーケーキだ。ミュラースはパン屋だが、洋菓子とパンは比較的近しい位置にある料理。当然ルアンナはケーキを含め、スイーツの調理についても心得ている。今回は集まる人数が割と多いので、ケーキも直径20センチぐらいは要るだろう。
ごおおおおおお!
ルアンナ自慢のパン焼き竈が火を吹き、スポンジケーキの焼成が完了した。デコレーションケーキはここからが本番。白いクリームをたっぷり塗って、ようやくケーキの土台が出来上がる。ここからどれだけ綺麗に飾り付けられるかが、職人の腕の見せ所だ。
ルアンナは慣れた手つきでイチゴやブドウ、ミカンなどのフルーツをクリームに埋め込んでいく。
「後はディレインおじさんの顔をチョコペンで描いて、ついでにショウガちゃん(レピドの愛猫)の形に整えたチョコの板も載せて、ロウソクを4X本立てて……完成です!」
ぱちぱちぱちぱち!
ルアンナはケーキの出来栄えに満足し、拍手を送ってくれた助手達にサムズアップした。
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「サプライズ……つまり奇襲のことだな?」
久しぶりに踊る子熊亭に顔を出したレピド・クロサイトがぽんと手を打つと、冒険者ギルド職員のペデラ・ウォーカーは笑顔で「全然違う」と否定した。ペデラも既にハヤトからサプライズパーティの件は聞いている。彼はギルド職員という立場を生かし、ディレインを自然に会場まで誘導するという重要ミッションを遂行する予定だ。
「そうか……誕生日にディレインをみんなで奇襲するのは妙だと思ったんだが。やはり間違いか……」
しょんぼりするレピド。ディレインの冒険者の勘を衰えさせないための訓練かと思ったが、違ったようだ。
「まさかパンクリアース学園でやってないよな? 奇襲」
「ああ。それはもちろん」
ジト目のペデラに問われ、レピドはこくりと頷く。聞くところによるとレピドは学園でうまくやっているらしいが、ペデラとしては彼が無意識で何かやらかしたりはしていないか不安ではあった。
(まあ、コルネリウスも「大丈夫」だと言っていたから大丈夫なんだろうが……こいつは何年経っても妙に心配になる……。おいおい、オレはこいつのお母さんか?)
ペデラは久々に見たレピドの顔を見ながら、自嘲気味にフッと笑った。
「アタックは忘れてサプライズの意味だけ考えてくれ」
「分かった。……サプライズ……驚き……そうか、ディレインを驚かせればいいのだな」
「正解」
ペデラは呆れたように頷いた。
「なら、任せろ」
レピドは自信ありげに頷いた。
(本当に大丈夫なんだろうな……)
やっぱりまだ少し不安なペデラであった。
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「なるほど、おじさん指名での依頼ねえ」
「ああ、どうもそうみたいなんだ。超遍歴医ディレインの力をぜひ借りたいそうで」
「……なんか変な噂が独り歩きしてない? まあ、話を聞くくらいはいいけども」
「助かるよ。依頼人とは踊る子熊亭の個室で落ち合う予定なんだ。オレも立ち会うからとりあえずついてきてくれ」
「ああ、分かった」
こくりと頷くディレイン。
(よし、うまく行った……)
ペデラはほっと胸を撫で下ろしていた。実はこの依頼の話はでっち上げである。ディレインをサプライズパーティの会場に誘導するために、ペデラはディレインを手紙で呼び出し、一計を案じたのだ。ペデラは本物のギルド職員なのでディレインは疑いもしていないだろう。
「うん、ここはあまり変わってないね」
踊る子熊亭の店の前まで来たディレインは微笑んだ。久しぶりに顔を出したが、踊る子熊亭は昔のままだ。
「こっちの部屋だ。お先にどうぞ」
ペデラはコンコンとノックし、ドアを開けた。そしてディレインが扉をくぐると、パンパンという軽快な炸裂音と共に、紙吹雪がディレインの顔の周りを舞った。
「「ディレイン! お誕生日おめでとう!」」
満面の笑顔でディレインを出迎えるコルネリウス、サフィラ、ハヤト、ルアンナ。ディレインはぽかんと口を開けている。部屋の中はたっぷりのお花で飾りつけられており、明らかにパーティ会場の様相を呈していた。
「今日誕生日だろ? ディレイン」
ペデラがニッコリと笑いながら声をかけると、ディレインは目をぱちぱちさせた後、我に返った。
「ペデラさん、知ってたなら教えてよー!」
「言ったらサプライズにならないだろ?」
ペデラはそう言って、ニヤリと笑った。
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「おっす。久しぶりだなディレイン。お前のことだから、自分の誕生日忘れちまってるんじゃないかと思ってな!」
「ディレおじ誕生日おめでとう〜!!!」
ハヤトとサフィラは紙吹雪を撒き散らしながらハイタッチした。彼らの傍らにはサフィラそっくりの小さなエルフの少女とハヤトそっくりの小さなゴブリンがちょこんと座っている。二人の愛の結晶達である。余談だが、二人はレピドの愛猫のショウガと共にコルネリウスとルアンナからも熱烈な歓迎を受けた。いつの世も可愛いは正義であった。
「「おじさん、お誕生日おめでとう」」
「ありがとう。二人とも、大きくなったね」
ディレインは目を細めている。
「お水、ご用意いたしました」
ディレインとペデラ(実は今日は非番)が席に着くと、赤毛のウェイトレスが音もなく登場し、ススッと水を置いた。
「ご注文が決まりましたらお呼び下さいませ」
ウェイトレスは部屋のすみっこに移動し、待機モードに入った。
「さあ、主役も来たことだし、そろそろ始めましょうか」
コルネリウスはパンと手を叩く。すると、ハヤトが「待った」をかけた。
「あれ、レピドはどこ行ったんだ? にゃんこがいるならあいつも来てるだろ?」
ハヤトの視線の先には、ハヤトの娘の膝の上にいるキジトラがいた。猫だけがお祝いに来るはずがないので、飼い主も一緒に来ていなければおかしい。
「そういえばレピドがいないな? 誰か見たか?」
ペデラも首を捻る。サフィラにもらった参加者名簿に名前は載っていたので、来るのは間違いないはずなのだが……。
「いや、来てるぞ」
その時、部屋の入り口の方からレピドの声がした。冒険者達が振り向くと、そこにはさっきの赤毛のウエイトレスさんが立っていた。
「お誕生日おめでとう、ディレイン」
ウエイトレスはレピドの声でぱちぱちと拍手を送った。
「!?」
驚愕に目を見開くハヤト、と飲んでいた水をむせるディレイン。既に知っていたサフィラ、コルネリウス、ルアンナはくすくす笑っている。そしてウエイトレスはウィッグとカチューシャをバッと外した。
「れ、レピド!?」
「ああ、俺だ」
擬態をやめたレピドは真顔でサムズアップした。入り口にいた赤毛のウエイトレスの正体は女装したレピドだったのだ。
「なん……だと……?」
ハヤトはまだショックを受けているようだ。さっき胸がどうとか言ってた気がするが、まさか男(しかも知り合い)だったとは……。
「……知ってたのか?」
ハヤトはサフィラの方を見ると、サフィラはこくりと頷いた。
「うん、知ってた。黙ってた方が面白いかなって」
「いや……驚いたけどよ!?」
「いやあ、確かに驚いたな。化けたね……レピド君」
ディレインは口元を拭き、レピドを賞賛した。
「こうすれば驚くだろうと思って」
「ディレインはいいとして、誘導役のオレには事前に言っとけよ……心臓に悪い」
「あ、すまん。もう伝わっていると思っていた」
ペデラに突っ込まれ、レピドは弁解した。
(何故驚かせることがお祝いになるのかはいまいちよく分からなかったが……まあみんな喜んでいるようなのでよしとしよう)
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「こほん。……というわけで、全員揃いましたので、お誕生日パーティを始めましょう!」
コルネリウスは咳払いし、仕切り直した。
「じゃあ、みんなで乾杯しましょう」
コルネリウスの音頭取りで冒険者達はグラスを打ち合わせた(ちびっ子の二人は果実ジュースである)。
「かんぱーい!」
冒険者達はグッとグラスを飲み干す。
「肉頼んどいた! 皆で焼いて食おう!」
「「おー!」」
陽気に声を上げる冒険者達。そして加熱された鉄板がテーブルに運びこまれ、パーティが始まった。
(皆で集まれる機会もそうないですし、友人のお誕生日を祝えるというのは嬉しいです)
コルネリウスはちょっとしんみりしていた。幽界樹との戦いの後、仲間達はそれぞれの道に進んだため、馴染みの冒険者達が集まる機会もめっきり減った。それは世界が平和な証なので結構なことなのだが、それはそれとして、友人とあまり会えないのはやはり寂しいものだ。
「ディレおじ! あたしからのプレゼントはメタルマッチとナイフだよっ! 開けてみて!」
サフィラは満面の笑みで小さな箱を取り出した。受け取ったディレインが箱を開けると、中には鉄製の小さな棒と、短めで刃の厚いナイフが出てきた。
「旅してるとさ、火が必要な場面って多いでしょ?」
「ああ、確かに。これは便利そうだ。ありがとう、サフィラちゃん」
ディレインは嬉しそうに笑い、ナイフとマッチのセットを受け取った。
「よっしゃ、次は俺だな!」
続いて、ハヤトが持参した袋を開けた。中から出てきたのはたくさんの酒瓶だ。
「俺からはこれだ。祝い酒。本当は帝国近衛連隊長に手紙と秘伝のタレも貰いたかったんだけど、さすがに準備期間が短すぎたな……アポが取れんかった」
ハヤトはそうぼやくと、ドワーフ仕込みの蒸留酒や都市同盟産の赤ワイン等をどっさりテーブルの上に置いた。そして、ディレインのグラスに酒を注いでやる。
「ありがとう、ハヤト。お酒だけで十分嬉しいよ。でも、彼にもいつかまた会いたいな……」
しんみりとした表情で、ディレインはグラスを煽った。
「うん、おいしい」
「ああ、(レピドの衝撃で)すっかり忘れてた。俺からもプレゼントだ」
ペデラはニッと笑うと、リブラネスタ産のそこそこ高級な酒をディレインに渡した。
「私からはこれを。どうぞ、おじさま」
コルネリウスがにっこり笑って差し出したのは、赤いスイートピーを中心に、飾り付けられた、色とりどりの花束だった。
「ありがとう。これはコルネちゃんが育てた花かな?」
「はい。竜邸の庭園で育てました」
「そうか。幸せそうで何よりだ」
感慨深そうに笑うディレインが花束を受け取ると、フルーティな香りが彼を満たしていった。
「次は私ですね! 私からはこれをプレゼントです!」
ルアンナは大きなズンドウ鍋をテーブルの上に置いた。フタを少し開けると、芳しいクリームシチューの香りが部屋中に広がった。
「アツアツの特製シチューです。美味しいですよ」
「おお、シチューじゃないか!」
ディレインは鍋を覗き込み、歓喜した。
「はい。前に思い出の料理の話をした時に、お母さんが作ってくれたシチューの話をしてくれましたから」
「ああ、そんなこともあったね……うん、おいしい。おいしいよ……」
シチューをすくって食べるディレインの目元は少し涙が滲んでいた。ディレインは食べ物の好き嫌いはあまりないが、シチューは別格に好きな料理だった。シチューはさっきルアンナが言ったように、ディレインの養母がよく作ってくれた料理だったからである。
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「いやあ、焼き肉もシチューも美味しかったね。そろそろデザートでも頼もうかな」
料理の皿が空になり、宴席もそろそろ終わりが近づいていた。腹八分目のディレインはまったりしている。店員さんが空のお皿を持って行った時、ルアンナがすっくと立ちあがった。
「もちろん、バースデーケーキもありますよ!」
ルアンナは「ミュラース」と書かれた白い箱を取り出し、テーブルの上に置いた。箱から出てきたのは、綺麗な細工が施された丸いバースデーケーキだ。
「「おおっ!」」
「「おっきいケーキだー!」」(ミニハヤト&ミニサフィラ)
普段あまりお目にかかることのない、パーティサイズの立派なケーキに一同は目を丸くする。
「私からのもう一つの贈り物です」
「ありがとう。ルアンナちゃん。おじさん、とても嬉しいよ」
ディレインの目にはまたちょっと涙が滲んでいた。
「ああ、素晴らしいケーキだ」(特にショウガのチョコレート部分が)
レピドはうんうんと頷いた。そしてショウガがギラギラした眼でケーキを狙っていることに気付き、慌ててショウガをホールドした。すると、気を利かせたペデラが小声で「食べている間はショウガは隔離しようか」と耳打ちし、猫用のカゴを持ってきてくれた。
「これ、あたしの分もあるよね!?」
「俺、猫のプレート欲しい!」
興奮した様子のミニサフィラとミニハヤトに詰め寄られ、ルアンナはニッコリ笑った。
「はいはい、後で切り分けましょう。でも先にみんなで歌を歌いましょう!」
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部屋の照明が落とされた後、ルアンナはマッチでロウソクに火を点けた。40本を超える数のろうそくがゆらゆらと燃える中、冒険者達は大陸でポピュラーなバースデーソングを歌う。そして、ディレインは歌の終わりに一息でろうそくの火を吹き消した。
「「ハッピーバースデー! ディレイン!」」
盛大な拍手が鳴り響く中、ディレインは目にうっすらと涙を溜めていた。
(孤児である俺の本当の誕生日は分からない。けれど、今日は養父母を親と呼べるようになった大切な日だ。ずっと旅としていると、日付をあまり気にしなくなっちゃうからすっかり忘れていたけど……)
サプライズパーティだったので自分には返せるものが何もなかったが、せめて、精いっぱいのお礼を言おう。
「みんな、本当にありがとう。今日は最高の日だよ」