英雄、並び立つ

キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2024年12月21日 15時48分12秒

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 ディレイン・オールドケイジの目の前で、絶望的な破壊波が無力なひとびとを呑み込もうとしている。
 岩蜥蜴とでも呼ぶべき巨大な影が、必死に逃げ惑う集落民に今にも極大の一撃を放とうとしていた。
(くそ……駄目だ……このままじゃ皆が……!)
 何とか己を奮い立たせ、あの中型クリーパーから集落民を守り抜こうとしたディレイン。
 しかし、体が動かない。
 一週間前に現れた目の前の強敵を、集落民らと共に日夜撃退し続けてきたが、これまでに蓄積されてきた疲労と大小幾つもの傷がディレインの肉体を蝕み、彼の行動を阻害している。
 このままでは、折角救った命が失われてしまう。遍歴医として為してきた全ての苦労が水の泡になってしまう――そんな焦燥感がディレインの胸の奥で、彼の心を無残に斬り刻もうとしていた。
(やっぱり、駄目だったかな……)
 ディレインは奥歯を噛み鳴らした。
 如何にあのふたりといえども、流石にこの危急の場には間に合わなかったか。
 否、寧ろそれが当然だろう。
 ディレインが助力を乞うたあのふたり――帝国近衛連隊長マクシミリアン・ミルドと、帝立魔導庁初代長官のクライス・アクバーはいずれも、新生シルトラース帝国では非常に重要な立場にある存在だ。
 そんなふたりが如何に帝国内での事案とはいえ、一集落に出現した中型クリーパー討伐の為にわざわざ時間を割いて駆けつけるなど、あり得ない話であろう。
 だがそれでも一縷の望みを託して、ふたりに緊急支援要請の手紙を送ったディレイン。知らせは既にふたりのもとに届いているだろうが、彼らが即座に動ける立場ではないことも重々承知している。
 だから、これは一種の賭けだった。
 もしも万が一、彼らに自由に動ける僅かな時間があれば、駆けつけてくれるかも知れない――そんなささやかに過ぎる希望を託しての緊急支援要請だったが、矢張り幾ら何でもムシが良過ぎたか。
 仮にふたりが応じてくれたとしても、援軍到着まで自分達が持つかどうかも分からない。
 それら諸々のマイナス要素を考え合わせると、自然と焦りが生じた。
 ディレイン自身、相当に疲弊し、いつ倒れてもおかしくない。それでも、自分が頑張ることで救える命があるのなら、立ち上がらないという選択肢はあり得なかった。
(だったら……俺が自力で、何とかするしか……!)
 しかし、体がいうことを聞かなかった。
 目の前の敵が集落周辺に出現して以降、ディレインは直接この怪物と戦う為に前線に立ち続け、辛うじて撃退が為った後には負傷した集落民の治療に駆け回っていた。
 そうして休息らしい休息も取れないまま、またもや襲って来た眼前の敵に対し、ディレインは動こうとしない体に鞭を入れようとしていた。
(俺が、やらないと……皆が、集落のひと達が、犠牲になってしまう……!)
 全身に力を込め、何とか立ち上がろうとしたディレイン。だがそれよりも早く、岩蜥蜴姿の中型クリーパーは集落民に向けて死の火炎を撒き散らそうとしていた。
 もう、間に合わない――そんな絶望感がディレインの胸に去来した時、黒い人影が弾丸の如き勢いで飛来し、化け物の頭上にひらりと舞った。
 と思った次の瞬間には、魔力を帯びた右脚で鋭い踵落としを叩き込み、火炎を噴き出そうとしていた敵の頭部を地面に這いつくばらせた。
 更に別方向から、巨大な両手剣を携えた屈強な戦士が大地を滑る様に奔り、稲妻の様な一閃で岩蜥蜴の前脚を一本、僅かひと太刀で斬り落としていた。
「済まんディレイン。少々遅くなった」
 最初に踵落としを決めたその人物、クライスが着地と同時にちらりと視線を流してきた。
 そして――。
「悪い悪い。俺も、もうちょっと早く来るつもりだったんだけどさ、色々手間取っちまって」
 大剣を携えた戦士マクシミリアンが、申し訳無さそうに頭を掻いた。
 この時、ディレインは呆然とした表情の中に、これで集落の人々が全員助かったという安堵の色を浮かべていた。
 彼らが来た以上、ここはもう大丈夫だ。
 そう思うと、つい涙腺が緩くなってしまった。

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 数日前。
 冒険者ギルドを介して、一通の手紙がマクシミリアンの手元に届いた。
 それは友人ディレインからの急を要する知らせだった。
 シルトラース帝国南部鎮守都市ヴィントの近衛連隊宿舎内にある自室でその手紙に目を走らせたマクシミリアンは、端正な面を幾分引き締めてディレインが知らせてきた内容を頭の中で整理した。
 手紙は、シンプルな文面で綴られていた。
 冒頭にまず、久し振りの連絡がこんな内容で申し訳ないという律儀な一文。そこから先は、現在の危機的状況が簡潔に記されていた。
 ディレインは遍歴医として今も各地を巡っているらしいのだが、最近は帝国内のとある集落に腰を落ち着けているとの由。
 ところが、この集落近くに岩蜥蜴の様な外観の中型クリーパーが出現したのだという。
 件の集落には多少戦力になり得る人材も居るのだが、いかんせん相手は中型クリーパーだ。何とか日々撃退して耐え凌いでいるが、それもいつまで持つか分からないのだという。
「斃し切ろうにも、決定打が無くてさ。何とか応援欲しいなぁ」
 そんな意味の言葉で手紙を締めくくっていたディレイン。
 余り切羽詰まった書きっぷりでないのは、下手にマクシミリアンを焦らせてはならぬというディレインなりの心遣いなのだろう。
 しかしマクシミリアンが見るところ、状況は切迫している。これは今すぐにでも救援に向かうべきだ。
 問題は、今のマクシミリアンの立場だ。地方の一集落への救援に、近衛連隊長自ら足を運ぶには、それなりの名分が必要となる。
(けど、悩んでる場合じゃないな……ディレインを見捨てるなんて出来る訳がない)
 そこで彼は、クライスのもとへと足を走らせた。彼ならきっと何か妙案を出してくれるに違いない。
 そうして帝立魔導庁ヴィント支部の長官室へと足を急がせたマクシミリアン。
 するとどういう訳か、クライスは短期出張の準備を進めている真っ最中だという。いつもはヴィントや帝都からそう簡単に離れることはない彼が、こんなタイミングで出張を決めるとはどういうことであろう。
「おいクライス。それどころじゃないぞ。ディレインが大変なんだ」
「分かっている。だからこれから救援に向かうんだ。下らないことで邪魔をするな」
 その応えに、マクシミリアンは目が点になった。クライスは出張に出かける筈ではなかったのか。
「そんなものは救援に向かう為の口実だ。お前も立場ある人間なら、それぐらいのことは考えろ」
 曰く、実はクライスの元にもディレインからの緊急支援要請の手紙が届いていたらしい。
 クライスは速攻で、ディレイン救援に駆けつけることを決めたのだという。
 そこで彼は、新たな龍脈分岐が発見された可能性がある為、自ら調査に向かうなどという適当な理由をでっち上げて、調査出張という形でディレインの救援に駆けつける腹積もりだったらしい。
「何だよそれ……だったら俺にもひと声、かけてくれよぉ!」
「お前は話がくどい上に決断力が遅い。そんな奴にいちいち構ってられるか」
 バッサリと斬り捨てたクライスに、マクシミリアンはうぐぐぐと喉の奥で低く唸った。
「で、来るのか来ないのか、どうするんだ? 来るならさっさと鎮守府に届けを出してこい。新兵の巡回訓練地の事前視察とでもいっておけば、誰も文句はいわん」
「あー、成程! その手があったか! よし、じゃあ先に行っててくれ、俺も後から追いかける!」
 それだけいい残すと、マクシミリアンはクライスの自室を飛び出した。
 名分さえ用意出来れば、今すぐにでもディレインを助けに行くことが出来る。
 流石はクライスだと感心すると同時に、きっと今頃は、
「どうしてあいつはその程度のことにも頭が廻らんのだ」
 などとボヤいていることだろう。
 それはそれでも構わない。兎に角今は何としてでも、大事な友人の危機を救う為、自ら駆け付けたい。
 その想いだけで、マクシミリアンは鎮守府を目指して大急ぎで駆けていった。

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 岩蜥蜴姿の中型クリーパーは、中々の強敵だった。
「ディレイン、回復支援、頼んだぜ!」
 マクシミリアンが大剣を振りかざしながら敵の真正面に立つと、クライスも、
「俺とマックスで仕留める。ディレインは集落民への後退指示を」
 と、いつもと変わらぬ淡々とした口ぶりで語り掛けてきた。
 それにしても、何とも豪勢な布陣だ。
 帝国軍最強の近衛連隊長と、大陸屈指の頭脳とも呼べる帝立魔導庁長官が、一介の冒険者の為だけに自ら駆け付け、その力を存分に発揮しようとしているのだ。
 集落民は誰もが驚くと同時に、歓喜に湧いていた。
 そしてディレインも、己の立場などに拘らず、ただ友人の危機の為だけに駆けつけてくれたふたりの心遣いに嬉しさが込み上げていた。
 これ程の戦力が揃っている以上、中型クリーパー如きに後れを取る筈が無い。
 ディレインは頬が緩んでしまいそうになるのを必死に堪えながら、声を張り上げて集落民に後退の指示を出しつつ、敵の攻撃を真正面から受け止めているマクシミリアンに回復支援を仕掛け続けた。
 中型クリーパーの猛攻を受けてもまるで動じないマクシミリアンの戦闘力は流石のひと言で、更に魔力を帯びた拳と蹴りで敵の耐久力を瞬く間に削り取ってゆくクライスの格闘魔導師としての雄姿は、それだけでひとつの英雄譚と呼ぶに相応しかった。
 やがて、敵は斃れた。
 数日に亘って苦しめられてきたあの強敵が、ふたりの超人の参戦で、僅か数分で片付いたのである。
 集落民が大いに沸いたのは当然の話であろう。
 そしてディレインも、ほっと安堵の吐息を漏らした。
 ふたりが今も、自分を友人として認めてくれていることが、何より嬉しかった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0