永久の花道

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2025年01月11日 09時03分56秒

 初春の柔らかな風に深緑を揺らす中、バージンロードを一組の男女が歩いてくる。
 男性は軍装に似た黒の礼装を装い、対照的に女性は純白のドレスを纏う。

「……なんだか、不思議」
「不思議ですか?」
「うん……不思議。だって……ここは、ヴォルケで、隣には、セロンがいて……あそこ、には知ってる、人いっぱいで……ねぇ、セロン。ここ(バージンロード)、歩いてるの……ぼく、だよね?」
「他に誰がいるのですか。幸せ過ぎてついに幻覚でも……いえ、なんでもありません。ありませんのでブーケでぐりぐりはやめましょう。ほら、向こうから皆さんが不思議そうにこちらを見ていますよ。もっと淑女として――――ティ、ティトさん? なぜか硬いものがわき腹に当たっているのですが……まさかドレスにそんなものを仕込んだのですか……? 確か事前にボディチェックしたはずな……」
「……人生って、塞翁が、馬、だよね」
「わぁ、すごい難しい言葉知ってますね」

 道の先には郷の住民たちの姿。それぞれ籠を持ち、今か今かと二人を待ち構えている。
 
「しかし、まさかこの郷で式をすることになるとは思いませんでした」
「帝都、とか、リブラネスタの方が、よかった……?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、ティトにとって、その……いい思い出ばかりではないでしょう?」
「……それは、そう。でも……ここは、ぼくの、始まりの場所、だから」

 そう呟くとティトはちらりと視線を後ろに向ける。そこには今も復興途中の村の様子が見えた。
 この郷はティトが生まれ育った故郷だ。帝国を襲った大事件に巻き込まれて、一度は崩壊したが、今は元住民たちの努力と献身によって、元の姿を取り戻しつつある。

「なるほど、再スタートするにはもってこいですね」
「そういう、こと」

 セロンガード・シュタインドルフは澄ました表情の裏で笑い、ティトはヴェールの下で口元をほころばせる。
 更に歩くこと数分。ようやく声も届く距離までやってきた二人を出迎えたのは、青空を埋めつくさんばかりの花吹雪だった。
 粛々と道を進む二人を両サイドから囲む住民たちは、花吹雪の洗礼と共に祝福の言葉をかけていく。
 二人はそれに応えるように住民たち一人一人と目を合わせた。

「ティト、セロン! ”けっこん”おめでとう!! ……おめでとう? ねぇねぇ、グェン」
「ううぅ、ティトぉぉぉぉ……! 綺麗になって! じいちゃんは……じいちゃんは嬉しいぞ!!」
「ねぇグェンってば」
「ティトぉぉぉぉ!!!」
「……むむ、聞こえてないのかな」

 こちらに向かってくる新婦の姿を見つめむせび泣く老ハーフビーストは、少女の話をまったく聞いていない。

「グェン!」

 少女は音もなく老人の背後に回り込むと、頭の天辺に突き出た白い耳に向かって思いっきり叫んだ。

「うう、うおぉぉぉっ!? ななな、なんじゃ!!」
「やっと聞こえた。ねぇグェン、”けっこん”ってなぁに?」
「……は? なんじゃアンはそんな事も知らんで祝っておったのか」

 キーンとなる耳をぶんぶん振ってから、グェンは純粋な瞳で見上げてくるアンに説明を始めた。

「男女が番となる事……といっても分からんか」
「”つがい”?」
「じゃよな。うーむ、なんと説明したもんか」

 グェンは白い顎髭を撫つけながら思案する。

「死ぬまで傍を離れない契約を結ぶ……いや、これも難しいか。うーむ……」
「……んー、それって”なかよし”ってこと?」
「そうじゃな、もちろんそれもある。じゃが、それだけでもないのが夫婦関係の複雑な所であって――――」
「あ、ティト! おーい! アンはここだよーー!!」

 と、その時、丁度ティトが二人の近くまで来た。
 アンはグェンの話をほっぽり出して、ぶんぶんと手を振る。

「ほら、グェンもおめでとうしないと、ティト、行っちゃうよ?」
「うおぉぉぉ、ティトぉぉぉ!!」
「うおおーーーティトぉぉ!!」
「真似せんでいいっ!」

●
「にぎやか、だね」
「みな、ティトの門出を祝福しているのですよ」
「二人の、だよ」
「そうでしたね」

 元気いっぱいに手を振るアン、そして涙鼻水塗れのグェンの前も通り過ぎると、二人はそのまま住民たちの輪を抜け、再び無人の道を歩み続けた。
 平坦だった道は終わり、丘へと続く坂道へと差し掛かる。

「そういえばティト、私はこの後の流れを窺ってないのですが、どうすればいいのですか?」
「んと……この坂の先、に祭壇があるから……そこで、誓いを、立てる、の」
「ふむ」

 道中も話は尽きない。
 二人は、ここに至るまでの軌跡を懐かしく語りながら、ゆっくりと坂を上っていった。
 そして、歩くこと十数分。二人の目の前に小さな祭壇が現れる。
 ここが目的地かと尋ねるセロンガードの目の前で、ティトはくるりとドレスを翻した。

「セロン」
「はい――――ティト、とても綺麗ですよ」
「……ん」

 ひらりとドレスの裾が戻るよりも早く、セロンガードが放った真っ直ぐな言葉に、ティトは満足げに頷く。

「それじゃ、”誓い”を、しよう、か」
「はい。……とはいっても、結局何をすればいいのですか?」
「んと、ここで、一族の象徴の……尻尾、を絡ませな、がら、お互いに、結婚宣言する、んだけど……セロン、いますぐ尻尾はや、せる?」
「うん、無理ですね」
「……意気地なし」
「意気地で尻尾が生えたら、それこそ奇跡ですよ?」
「ぼくのため、なら、起こせる、よね? 奇跡」
「ええ、あなたの為なら奇跡すら起こしてみせる……と言いたいところですが、もし仮に起こせるのだとしても、起こすのなら”尻尾を生やす”以外がいいですね」
「そう……セロンは、ぼくと結ばれたくない、んだ……」
「そういう話ではなくて――――こういう事ですよ」
「ひゃ」

 わざとらしくしゅんとしょげて見せるティトの身体を、突然セロンガードが抱え上げた。

「一族の象徴である部分を絡ませ永遠を誓うという風習はとても素敵だと思います。ですが、私には尻尾がありません。しかし、象徴的な部分ならば、私にもなくはないですよ?」
「それって……もう、セロンの、エッチ」
「いったい何と勘違いしているのか小一時間ほど問い詰めたいところではありますが……これこそが私の生きてきた証――私の象徴です」

 ティトを抱き上げたセロンガードの腕にぐっと力が籠る。

「ティト、これでは”誓い”に不足でしょうか?」
「……セロン、ずるい」
「ずるくないでしょう。ティトが差し出せと言ったから、差し出――――」

 不満を訴えようとしたセロンガードの言葉は、ティトの実力行使によって止められた。
 そして、ふらふらと宙を揺れていたティトの尻尾が、セロンガードの逞しい腕に絡む。

「……セロン、ぼくの言葉、復唱、して」
「……わかりました」

 少しだけ頬を紅潮させたティトの瞳をじっと見つめ、セロンガードは頷いた。

「今、大地と空に、誓おう」
「今、大地と空に誓おう」

 小さく、だけど力強いティトの言葉を、セロンガードが復唱していく。

「我ら、今日、この日をもって……生涯の、伴侶と、なる」
「我ら、今日この日をもって、生涯の伴侶となる」
「互いの、名を心に、刻み……永久に、忘れず」
「互いの名を心に刻み、永久に忘れず」
「死が、二人を分かつ、まで――――」
「死が二人を分かつまで――――」

「「貴方を愛し続けると誓います」」

 ”誓い”の言葉を言い終えた二人は、どちらからともなく顔を寄せ、再び唇を重ねたのだった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0