再興の光
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2024年10月23日 09時12分01秒
街の至る所で復興の音が鳴り響き、街には人々の喜怒哀楽が戻ってきた。
帝都シルトラースは、”勝者”レイウェストの号令の元、再建へ向け動き出している。
そして、一度は瓦解した帝国の各組織もまた、新たなる指導者の下で再編成に乗り出していた。
「久しぶりだな、セラン――――いや、今は別の名か?」
「セロンガードだ。久しぶりだな」
「そうか、セロンガードか。しかし、よく生きていたものだ」
「其方もな」
分厚い胸板を揺らし、獅子のような男が豪快に笑う。
かつて、”帝国の影”として共に闇を渡り歩いた『同僚』の変わらぬ姿に、セロンガード・シュタインドルフは安堵する。
かつて帝国を襲った大破壊の際、自分が所属していた組織『見えざる見張り番』は壊滅した――――そう思っていた。
しかし、彼らは生きていた。国の崩壊にあってなお、雌伏の時を耐え、しぶとく、強かに、だ。
簡単に死ぬような奴らではないとはわかっていたが、あれほどの災害だ、望みは持たないようにしていた。
だが、全てが終わってみればどうだ。今、この場に”同僚”達の名を記した『名簿』に載っている名前は少なくはない。
「で、お前も復帰するんだろ?」
「そうしたいのは山々だが、私の顔は随分と知られてしまったからな」
「ああ、大活躍だったみたいだな。……そうか、ということは『影』には戻れないか」
「すまないな。だが再建の手伝いはさせてもらうつもりだ。私は『影』の”影”となりお前たちを支えよう」
「はは、そりゃ頼もしい限りだ。期待してるぜ」
「ああ。それよりも、そろそろ時間じゃないのか。結成式に主役の一人が不在だとまずいだろう?」
「おっと、そうだった。それじゃ先に俺は行くぜ。お前は後から『賓客』としてゆっくりきてくれよな」
獅子男はセロンガードの背に豪快な平手打ちを叩き込むと、まさに獅子のような笑い声をあげ別室へと向かっていった。
「おっきな、声、だったね……?」
「……まったくだ、あれでよく諜報部が務まる――――って、ティト」
「うん?」
「どこに行っていたんですか。いつの間にかいなくなっていたので、探しに行こうかと思っていたんですよ」
「ちょっと、お散歩して、た」
「お散歩って……まだ建物は建築中なんですから、あまりうろちょろしては危ないと言ったでしょう」
「大丈夫、だよ? 危ないと思った場所、には行ってない、から」
「まぁ、貴女の事ですからそこは心配していませんでしたが……ここはあくまで帝国の施設なんです。一般人が入ってはいけない場所も多くあるんですよ」
「ぼくも、いちおう、軍籍だったん、だよ?」
「例えそうであっても、です。そもそも、貴女は除籍しているでしょう。それに、諜報部というのは、秘密が多い所なんです。見ちゃいけないものとか聞いちゃいけないものが多いんですよ」
「ふーん……セロンみたい、だね?」
「……どういう意味で言っているのか非常に気になるところですが、今は聞かないでおきましょう。それで、もう満足しましたか?」
「満足って、どういう意味で言っている、のか、非常に気になるところ、だけど、今はうんと、頷いておく、よ?」
「はいはい、真似しなくていいですから。それで、”お散歩”はどうでしたか? 私の要件は概ね終えましたから、ティトが何かやり残したことがあるのなら付き合いますよ」
「うーん……、それじゃ、”しょうかい”、しよ?」
「しょうかい、ですか。ですが、いったい何を”照会”するんです?」
「そんなの、ぼくしか、いない、でしょ……?」
「ティトを照会……? すみません、話が見えないのですが……もしかして、いつの間にか迷子にでもなりましたか?」
「セロン……。目まで悪く、なった? 目の前に、いる、かわいいぼくが、目に入らぬか……?」
「もちろん入っていますよ。入っていますから、直接眼球にぐいぐい来るのはやめましょう」
仲睦まじく、ティトとセロンガードが談笑していると、一人のメイドが彼らに近づいてきた。
「シュタインドルフご夫妻、お部屋のご用意が整いました」
「そ、ありがとう。すぐに、いくね」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げたメイドは、半身を引き二人にを示す。
「セロン、いこ?」
「そうですね、行きましょう――――ってなると思ってるんですか? なんですか今のやり取り。シュタインドルフご夫妻ってどういうことですか?」
「え……?」
「え……? じゃありません。ちゃんと説明してください」
「うーん……これが、一番かな、って」
「ですから、なんの一番か説明を――――」
「ほら、皆、まってる、よ」
何か嫌な予感がして身構えるセロンガードを、ティトは強引に引きずっていく――――。
●
部屋に入ると同時、『シュタインドルフ夫妻』と紹介を受けた二人に会場はざわめき、参加者たちの驚きと好奇の視線が突き刺さった。
(……ティト、これはどういう状況ですか)
ひきつる笑顔で参加者達に応えるセロンガードが、小声で隣で同じように手を振るティトに問いかけた。
「どう、いう?」
かくりと可愛らしく首を傾げたティトは、好機の目を向けてくる参加者たちに笑顔を振りまいている。
(この状況です! 何故、私とティトが”シュタインドルフ夫妻”なんて紹介を受けて、社交界にデビューを果たしてるんですか!?)
「うーん……えっと、それには、とーーっても、長く険しい、冒険があって……ね?」
(冒険者は廃業しましたよね!?)
「心には、いつも冒険を。だよ……?」
(そんな少年心をくすぐるフレーズを吐いても、納得しませんからね!?)
「おいおい、セロンガード! どういうことだ、初耳だぞ!」
「まさか、あの堅物が……」
「僕はやる奴だと思ってたけどね!」
なんて小言の応酬を繰り広げていたら、いつの間にか”元同僚”達に取り囲まれていた。
「い、いや、これはその……」
「皆様、その節は主人が大変お世話になりました」
返答に困るセロンガードを置いて、ティトは貴族の礼節をもって”元同僚”達に首を垂れる。
「皆々様の、ご無事の生還をまずはお喜び申し上げます」
突然聞こえた流暢な帝国語に目を見開くセロンガードを置いて、ティトは”元同僚”に笑顔を向けた。
「そして、我が夫セロンガードの帰還に、これほど多くの方々の祝福を賜りましたことに妻として感謝いたします。これもひとえに、皆々様の――――」
その姿からは想像もできぬ凛とした口上に、”元同僚”だけでなく会場の参加者までその言葉に耳を傾ける。
「皆様はこれから新皇帝の下で帝国復興、そして新たなる栄華へ向けその手腕を発揮されるのだと主人より聞き及んでおります。
しかし、まことに残念ながら、我らシュタインドルフが皆様へ直接的なお手伝いをすることは叶いません。
我らは影ながら皆々様のご健勝とご栄達。そして何よりも帝国に大いなる幸が訪れんことを願っております」
そう締めくくり、優雅に膝を折ったティトに、会場中から拍手喝さいが贈られた。
「……ティト」
「ん? どうした、の、セロン」
「私、今朝、占いをしたんです」
「へぇ……珍しい、ね。で、なんて、でたの?」
「”今日は平穏な一日になるでしょう”。と」
「ふーん……当たった、かな?」
「……はは、当たった、みたいですね」
鳴りやまぬ喝さいの中、観念したセロンガードは参加者へ向け、帝国紳士に相応しく優雅で自信に満ちた礼を返したのだった――――。
帝都シルトラースは、”勝者”レイウェストの号令の元、再建へ向け動き出している。
そして、一度は瓦解した帝国の各組織もまた、新たなる指導者の下で再編成に乗り出していた。
「久しぶりだな、セラン――――いや、今は別の名か?」
「セロンガードだ。久しぶりだな」
「そうか、セロンガードか。しかし、よく生きていたものだ」
「其方もな」
分厚い胸板を揺らし、獅子のような男が豪快に笑う。
かつて、”帝国の影”として共に闇を渡り歩いた『同僚』の変わらぬ姿に、セロンガード・シュタインドルフは安堵する。
かつて帝国を襲った大破壊の際、自分が所属していた組織『見えざる見張り番』は壊滅した――――そう思っていた。
しかし、彼らは生きていた。国の崩壊にあってなお、雌伏の時を耐え、しぶとく、強かに、だ。
簡単に死ぬような奴らではないとはわかっていたが、あれほどの災害だ、望みは持たないようにしていた。
だが、全てが終わってみればどうだ。今、この場に”同僚”達の名を記した『名簿』に載っている名前は少なくはない。
「で、お前も復帰するんだろ?」
「そうしたいのは山々だが、私の顔は随分と知られてしまったからな」
「ああ、大活躍だったみたいだな。……そうか、ということは『影』には戻れないか」
「すまないな。だが再建の手伝いはさせてもらうつもりだ。私は『影』の”影”となりお前たちを支えよう」
「はは、そりゃ頼もしい限りだ。期待してるぜ」
「ああ。それよりも、そろそろ時間じゃないのか。結成式に主役の一人が不在だとまずいだろう?」
「おっと、そうだった。それじゃ先に俺は行くぜ。お前は後から『賓客』としてゆっくりきてくれよな」
獅子男はセロンガードの背に豪快な平手打ちを叩き込むと、まさに獅子のような笑い声をあげ別室へと向かっていった。
「おっきな、声、だったね……?」
「……まったくだ、あれでよく諜報部が務まる――――って、ティト」
「うん?」
「どこに行っていたんですか。いつの間にかいなくなっていたので、探しに行こうかと思っていたんですよ」
「ちょっと、お散歩して、た」
「お散歩って……まだ建物は建築中なんですから、あまりうろちょろしては危ないと言ったでしょう」
「大丈夫、だよ? 危ないと思った場所、には行ってない、から」
「まぁ、貴女の事ですからそこは心配していませんでしたが……ここはあくまで帝国の施設なんです。一般人が入ってはいけない場所も多くあるんですよ」
「ぼくも、いちおう、軍籍だったん、だよ?」
「例えそうであっても、です。そもそも、貴女は除籍しているでしょう。それに、諜報部というのは、秘密が多い所なんです。見ちゃいけないものとか聞いちゃいけないものが多いんですよ」
「ふーん……セロンみたい、だね?」
「……どういう意味で言っているのか非常に気になるところですが、今は聞かないでおきましょう。それで、もう満足しましたか?」
「満足って、どういう意味で言っている、のか、非常に気になるところ、だけど、今はうんと、頷いておく、よ?」
「はいはい、真似しなくていいですから。それで、”お散歩”はどうでしたか? 私の要件は概ね終えましたから、ティトが何かやり残したことがあるのなら付き合いますよ」
「うーん……、それじゃ、”しょうかい”、しよ?」
「しょうかい、ですか。ですが、いったい何を”照会”するんです?」
「そんなの、ぼくしか、いない、でしょ……?」
「ティトを照会……? すみません、話が見えないのですが……もしかして、いつの間にか迷子にでもなりましたか?」
「セロン……。目まで悪く、なった? 目の前に、いる、かわいいぼくが、目に入らぬか……?」
「もちろん入っていますよ。入っていますから、直接眼球にぐいぐい来るのはやめましょう」
仲睦まじく、ティトとセロンガードが談笑していると、一人のメイドが彼らに近づいてきた。
「シュタインドルフご夫妻、お部屋のご用意が整いました」
「そ、ありがとう。すぐに、いくね」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げたメイドは、半身を引き二人にを示す。
「セロン、いこ?」
「そうですね、行きましょう――――ってなると思ってるんですか? なんですか今のやり取り。シュタインドルフご夫妻ってどういうことですか?」
「え……?」
「え……? じゃありません。ちゃんと説明してください」
「うーん……これが、一番かな、って」
「ですから、なんの一番か説明を――――」
「ほら、皆、まってる、よ」
何か嫌な予感がして身構えるセロンガードを、ティトは強引に引きずっていく――――。
●
部屋に入ると同時、『シュタインドルフ夫妻』と紹介を受けた二人に会場はざわめき、参加者たちの驚きと好奇の視線が突き刺さった。
(……ティト、これはどういう状況ですか)
ひきつる笑顔で参加者達に応えるセロンガードが、小声で隣で同じように手を振るティトに問いかけた。
「どう、いう?」
かくりと可愛らしく首を傾げたティトは、好機の目を向けてくる参加者たちに笑顔を振りまいている。
(この状況です! 何故、私とティトが”シュタインドルフ夫妻”なんて紹介を受けて、社交界にデビューを果たしてるんですか!?)
「うーん……えっと、それには、とーーっても、長く険しい、冒険があって……ね?」
(冒険者は廃業しましたよね!?)
「心には、いつも冒険を。だよ……?」
(そんな少年心をくすぐるフレーズを吐いても、納得しませんからね!?)
「おいおい、セロンガード! どういうことだ、初耳だぞ!」
「まさか、あの堅物が……」
「僕はやる奴だと思ってたけどね!」
なんて小言の応酬を繰り広げていたら、いつの間にか”元同僚”達に取り囲まれていた。
「い、いや、これはその……」
「皆様、その節は主人が大変お世話になりました」
返答に困るセロンガードを置いて、ティトは貴族の礼節をもって”元同僚”達に首を垂れる。
「皆々様の、ご無事の生還をまずはお喜び申し上げます」
突然聞こえた流暢な帝国語に目を見開くセロンガードを置いて、ティトは”元同僚”に笑顔を向けた。
「そして、我が夫セロンガードの帰還に、これほど多くの方々の祝福を賜りましたことに妻として感謝いたします。これもひとえに、皆々様の――――」
その姿からは想像もできぬ凛とした口上に、”元同僚”だけでなく会場の参加者までその言葉に耳を傾ける。
「皆様はこれから新皇帝の下で帝国復興、そして新たなる栄華へ向けその手腕を発揮されるのだと主人より聞き及んでおります。
しかし、まことに残念ながら、我らシュタインドルフが皆様へ直接的なお手伝いをすることは叶いません。
我らは影ながら皆々様のご健勝とご栄達。そして何よりも帝国に大いなる幸が訪れんことを願っております」
そう締めくくり、優雅に膝を折ったティトに、会場中から拍手喝さいが贈られた。
「……ティト」
「ん? どうした、の、セロン」
「私、今朝、占いをしたんです」
「へぇ……珍しい、ね。で、なんて、でたの?」
「”今日は平穏な一日になるでしょう”。と」
「ふーん……当たった、かな?」
「……はは、当たった、みたいですね」
鳴りやまぬ喝さいの中、観念したセロンガードは参加者へ向け、帝国紳士に相応しく優雅で自信に満ちた礼を返したのだった――――。