仮想戦域002023
4周年イベントノベル(テーマ)制作 弓月 蒼納品 2024年09月26日 14時09分27秒
●002023::Cyber Front Appleri
「――――ゲルダ!? 何だ、その姿は!!?」
システムにログインするまでは、確かに彼女は『ゲルダ・クライン』だった筈だ。
けれど、ログイン時に組み込まれた設定の密度の問題か。
そんなナハティガル=ラーの問い掛けに、ゲルダは淡い笑いを浮かべて応じた。
同時に、ナハティガルもまた自分の姿が『ナハティガル=ラー』のそれでない事に気付く。
(……いや、俺も人の事は言えないらしい)
明滅した表示がモニターを通して網膜に直接投影される。
BattleType:Straight
Player:『Na8-T:Gall』/ Enemy:『GR-033.rda』
Player:『GR-033.rda』/ Enemy:『Na8-T:Gall』
ゲルダの脳裏に今の自分を形成する情報が流れ込む。
逐一憶えてなくてもそれが自分の事だと自然と理解が進むのは単純に便利だった。
ナハティガルは強い自意識でこれを"なりきり"と解釈した様だが、ゲルダは違う。
心が順応していた。今の自分の姿、出来ること、すべきことが、情報の蓄積と共に組みあがって行く。
遊戯に対する受取り方の違いだ。彼は『演技型』だが彼女は『憑依型』だった。
元々合理的である彼女が、合理的な役割と共鳴するとどうなるかの結論が――――其処にある。
"――――これは真実の法廷である"
判定システムの電子音が応じる。脳裏に知識が過ぎる。これが、この遊戯の開始の合図。
「法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実」
それを受けて、"Na8-T:Gall"もまた漸く覚悟を決めたようだった。
「それが真実以外の何物でもないことを、我々は全ての証人の前に宣言する……!」
2人の宣告を受理したシステムが双方の武装制限を解除。
それは即ち、この"仮想戦域"の開始を意味する。
“参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。セッション・スタート!”
性能に優れる"Na8-T:Gall"には"GR-033.rda"の動きが見えていた。
『ナハティガル』と『ゲルダ』の戦闘能力は、伯仲していると言って良い。
であるなら、操作する電脳体の性能はそのまま勝敗に直結する要素たり得る。
これは戦いの基本原則であり、1対1であるならその影響は一層大きい。
紛れの発生し難い近接距離からの開戦。作為的なほど"Na8-T:Gall"優位の戦場。
反射神経も行動速度も彼の方が勝っていた。けれどそれでも――――眼前の小柄な影が虚空を蹴った時。
その三次元的な高速機動に、彼は一瞬確かに相手の姿を見失った。
■
『冒険者』ナハティガルの認識は、"Na8-T:Gall"の機能を活かし切れていない。
其処を"GR-033.rda"は見逃さない。紫電を放つ光刃を踵落しの要領で振り下ろす。
持ち前の反射神経で間一髪避ける物の、崩れた姿勢へ思い切り良く踏み込む"GR-033.rda"。
彼女は彼我の実力差を正確に分析していた。“距離を広げられたら確実に負ける”
性能差が戦力に決定的に反映されない短期決戦。それが彼女が見出した僅かな、だが存在する勝機だ。
油断はしない手加減も出来ない。外套を迷彩に双手首の出力体から放たれる光刃が追い打ち掛ける。
2で足りないなら3手。3で足りないなら4手。舞う様に放たれる四肢の連撃を。
"Na8-T:Gall"は時に愛銃で逸らし、時に間一髪で見切り、僅かなダメージで躱し続ける。
しかし其処まで含めて"GR-033.rda"の戦術。このままでは埒が明かないと後方に跳んだ。
――――"Na8-T:Gall"の着地点は、戦場の境界線だ。
直接戦は狭い戦場が指定される事がままある。と言う知識はあった。
それを、"GR-033.rda"は開戦直後から読み切り戦術に組み込んでいた。
「……負け、ません!」
―――― ここで 強さを 証明すれば 未だ 一緒にいられる。
何故、そう想ったのかは『ゲルダ』にも分からない。けれど、それは決死の、決め手の一閃。
だが、詰めまでが長過ぎた。『ナハティガル』が"Na8-T:Gall"を把握するには十分なほど。
彼はもう、自分の能力を理解していた。"GR-033.rda"の火力では、一撃で敗北はしない。
なら、《攻撃を受けてしまえば逃がさない》。手首を掴むのと銃口を向けるのは完全に同時。
「これが『裁き』ならば、それでも良いと思った。だが――――」
それは自然と口を付いて出た。『ナハティガル』の認識を、“なりきり”を超えて。
「――――アンタの前で、誓いに背く事だけは出来ない。戦った事しか残らない人生ならば」
引き金を引く。一度、二度、三度――――四度。銃の連射可能ランプが0になるまで。
残HPを削り切られた"GR-033.rda"がゆっくり倒れるのを、"Na8-T:Gall"が抱き留める。
「えへへ、勝てませんでした……悔しいな……」
「その無念も俺が連れて行こう。裁きが下る時が来るまで……もう一度、無敗である事を此処に誓う」
静寂の中、"GR-033.rda"の電脳体が解れて消え。明滅した表示がモニターに投影される。
――――Winner Na8-T:Gall。
「――――ゲルダ!? 何だ、その姿は!!?」
システムにログインするまでは、確かに彼女は『ゲルダ・クライン』だった筈だ。
けれど、ログイン時に組み込まれた設定の密度の問題か。
そんなナハティガル=ラーの問い掛けに、ゲルダは淡い笑いを浮かべて応じた。
同時に、ナハティガルもまた自分の姿が『ナハティガル=ラー』のそれでない事に気付く。
(……いや、俺も人の事は言えないらしい)
明滅した表示がモニターを通して網膜に直接投影される。
BattleType:Straight
Player:『Na8-T:Gall』/ Enemy:『GR-033.rda』
Player:『GR-033.rda』/ Enemy:『Na8-T:Gall』
ゲルダの脳裏に今の自分を形成する情報が流れ込む。
逐一憶えてなくてもそれが自分の事だと自然と理解が進むのは単純に便利だった。
ナハティガルは強い自意識でこれを"なりきり"と解釈した様だが、ゲルダは違う。
心が順応していた。今の自分の姿、出来ること、すべきことが、情報の蓄積と共に組みあがって行く。
遊戯に対する受取り方の違いだ。彼は『演技型』だが彼女は『憑依型』だった。
元々合理的である彼女が、合理的な役割と共鳴するとどうなるかの結論が――――其処にある。
"――――これは真実の法廷である"
判定システムの電子音が応じる。脳裏に知識が過ぎる。これが、この遊戯の開始の合図。
「法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実」
それを受けて、"Na8-T:Gall"もまた漸く覚悟を決めたようだった。
「それが真実以外の何物でもないことを、我々は全ての証人の前に宣言する……!」
2人の宣告を受理したシステムが双方の武装制限を解除。
それは即ち、この"仮想戦域"の開始を意味する。
“参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。セッション・スタート!”
性能に優れる"Na8-T:Gall"には"GR-033.rda"の動きが見えていた。
『ナハティガル』と『ゲルダ』の戦闘能力は、伯仲していると言って良い。
であるなら、操作する電脳体の性能はそのまま勝敗に直結する要素たり得る。
これは戦いの基本原則であり、1対1であるならその影響は一層大きい。
紛れの発生し難い近接距離からの開戦。作為的なほど"Na8-T:Gall"優位の戦場。
反射神経も行動速度も彼の方が勝っていた。けれどそれでも――――眼前の小柄な影が虚空を蹴った時。
その三次元的な高速機動に、彼は一瞬確かに相手の姿を見失った。
■
『冒険者』ナハティガルの認識は、"Na8-T:Gall"の機能を活かし切れていない。
其処を"GR-033.rda"は見逃さない。紫電を放つ光刃を踵落しの要領で振り下ろす。
持ち前の反射神経で間一髪避ける物の、崩れた姿勢へ思い切り良く踏み込む"GR-033.rda"。
彼女は彼我の実力差を正確に分析していた。“距離を広げられたら確実に負ける”
性能差が戦力に決定的に反映されない短期決戦。それが彼女が見出した僅かな、だが存在する勝機だ。
油断はしない手加減も出来ない。外套を迷彩に双手首の出力体から放たれる光刃が追い打ち掛ける。
2で足りないなら3手。3で足りないなら4手。舞う様に放たれる四肢の連撃を。
"Na8-T:Gall"は時に愛銃で逸らし、時に間一髪で見切り、僅かなダメージで躱し続ける。
しかし其処まで含めて"GR-033.rda"の戦術。このままでは埒が明かないと後方に跳んだ。
――――"Na8-T:Gall"の着地点は、戦場の境界線だ。
直接戦は狭い戦場が指定される事がままある。と言う知識はあった。
それを、"GR-033.rda"は開戦直後から読み切り戦術に組み込んでいた。
「……負け、ません!」
―――― ここで 強さを 証明すれば 未だ 一緒にいられる。
何故、そう想ったのかは『ゲルダ』にも分からない。けれど、それは決死の、決め手の一閃。
だが、詰めまでが長過ぎた。『ナハティガル』が"Na8-T:Gall"を把握するには十分なほど。
彼はもう、自分の能力を理解していた。"GR-033.rda"の火力では、一撃で敗北はしない。
なら、《攻撃を受けてしまえば逃がさない》。手首を掴むのと銃口を向けるのは完全に同時。
「これが『裁き』ならば、それでも良いと思った。だが――――」
それは自然と口を付いて出た。『ナハティガル』の認識を、“なりきり”を超えて。
「――――アンタの前で、誓いに背く事だけは出来ない。戦った事しか残らない人生ならば」
引き金を引く。一度、二度、三度――――四度。銃の連射可能ランプが0になるまで。
残HPを削り切られた"GR-033.rda"がゆっくり倒れるのを、"Na8-T:Gall"が抱き留める。
「えへへ、勝てませんでした……悔しいな……」
「その無念も俺が連れて行こう。裁きが下る時が来るまで……もう一度、無敗である事を此処に誓う」
静寂の中、"GR-033.rda"の電脳体が解れて消え。明滅した表示がモニターに投影される。
――――Winner Na8-T:Gall。