星と星を結ぶよう
キャラクターノベル(グループ)制作 白葉うづき納品 2024年08月24日 09時20分17秒
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「今日は忙しい中、集まってくれてありがとう。よろしくね」
パンクリアース学園、学園交流部が部室として使っている一室、部員であるルーンス・ラグネルがそう話を始めた。
「いや、構わないよ。君からのお呼ばれだ、心が踊るよ」
同じく部員のシルヴィア・A・カペルが楽しそうに視線を向ける。シルヴィアは多忙の身ではあるが、部活や後輩たちの様子を見に時折学園に顔を出すことがあった。侯爵が頻繁に来るとバランス取りが難しいこと、王都近郊の領であるため貴族学園生とのトラブルがあれば対処できるように、といったさまざまな理由も孕んでいる。今回、たまたま訪れたタイミングにルーンスが声をかけた形だ。
「僕からひとつ提案があるんだ。いい人材が見つかったからね」
「人材……この部に入ってほしい人だよね」
メモを取っていたアルド・シャウアーが確認する。新入部員である彼は、自分も力になれればと気合十分だ。といっても部長たちが所用でいない今、この場にいるのは三名だけなのだが。ルーンスは優しく後輩に答える。
「そう。この部には出来るだけ色々な人が入ってほしい。他種族や身分の相互理解に役立つし、縁が出来るというのはお互いに利のある点が多いし」
「お互いが納得し合った上で協力しあえるのは、学園交流部にとっても嬉しいからね。それで、その人物とは?」
シルヴィアの問いに、ルーンスは告げる。
「フェクダ・ドゥーベだ」
「フェクダさん!」
「ほう。彼か」
その名はアルドとシルヴィアにとって聞き覚えがあった。三人の共通の友人であるカイン・ステラ。その血縁者ということが最近発覚している。
「カインを探しに来たって話だけれど、その目的は済んでるし、学園へ編入してまだ籍もあるっていうし。どうかな?」
「私に異論はない。彼とも会ってみたかったしね」
シルヴィアは噂に聞くだけだったが、友人の血縁者だ。挨拶もしておきたい。
「それに彼は嫡男だと聞いた。忙しい身ではあるだろうが、部長を支えられる人材が欲しい」
「僕も全面的に同意だ」
今はただの印象で話すことになるが、部長と部員との調整役も期待したい。
「お兄さん候補、になるのかな」
「彼は17歳で四年生だから、そうなるね」
学園交流部では兄妹姉妹制度という独自の制度を採用していた。下級生と上級生、気の合う者がいれば、より深い絆を結んでもらう機会も作ることが出来る。
「彼は以前、交流部にも顔を出してくれていたね。活動に興味を持ってもらっていたら僥倖だ」
「決まりだね」
●
「――それで、俺を?」
机の上に広げた書類を片付けながら、フェクダ・ドゥーベは不思議そうに尋ねる。学園内の休憩スペース、その一角で彼を見つけた。
「ああ。それと不躾に申し訳ない。私は部員のシルヴィア。お会い出来て光栄だ」
「こちらこそ。前回は楽しいカードゲームをプレイさせていただきました。普段は交流のない方々とお会いでき、知見が深まった思いです」
フェクダは紳士然と答える。無理や皮肉を通して言っている様子はない。そういえば獣人であるアルドとも仲良くカードゲームをしたと言っていたか。あえて家名を名乗らなかったシルヴィアにも好意的に対応をしていた。彼もまた稀有な人材のように見える。
「私は、同じく交流部部員のルーンス・ラグネルと申します。お会いできて嬉しいです」
「フェクダです。お初にお目にかかります」
細めた瞳は、灰がかった赤といえるだろうか。近くで見るとますます彼に似ているとルーンスは感じた。
「そちらの君は確か、アルドでしたか」
「はい! またお会いできましたね」
「俺も嬉しいですよ」
にこにこと挨拶をするアルドはすっかり懐いているように見えた。よく似た容姿もあるかもしれないが、カインの一件で話す機会が多かったことも関係しているだろう。フェクダも親しげに表情を柔らかくしていた。
「今はお忙しいですか? それならまた、時間を空けてきます!」
「ああ、いえ。これは自主的なものですから」
アルドの視線は、彼の手元にある書類に向けられていた。フェクダは首を振り、ぺらぺらと捲ってみせてくれる。
「図書館で借りた本で、領内で有用になりそうな箇所をまとめていたんです……っと、お話をするなら、場所を移動しましょうか。ここを長々と占拠するのも申し訳ありませんから」
「それなら、一緒にお茶でもいかがかな? ちょうどそんな時間だしね」
シルヴィアの誘いに、喜んでと穏やかに返った。
「ドゥーベの血は濃い」
容姿はそっくり、背丈もフェクダの方が少し低いくらいで背格好も似ている。よく知るルーンスたちでさえ、遠目に見たらカインと声をかけてしまうかもしれない。
そうルーンスが楽しげに言うと、フェクダはほんの少し戸惑ったように瞳を揺らした。
「変な感じです。カインを知る人からそう声をかけてもらうことが多いし、俺が思うよりも短い期間で親しい目を向けてくれる」
「君にとって歓迎はできないかな」
「そういうことでは。言葉にするのは難しいですが……彼のものを勝手に借りている気分になります」
カインが築き上げ、繋がりを作ってきたものの一端を覗き見ているような、そんな感覚らしい。提供された紅茶を飲みながら、フェクダは頷いた。
「美味しいですね」
「気に入ってくれてよかった。この部屋の過ごし心地もどうかな?」
「そうですね……俺には過ごしやすい場所だと思います」
シルヴィアの問いに、フェクダは真摯に答えていく。まだ部員でもないが、真剣に考えてくれるのは彼の性格からだろうか。レイアウトや置いてある物についての賛辞を一通りフェクダがしたところで、アルドが問いかける。
「フェクダさんは、カイン兄ちゃんとあれから会ったんですか?」
「いえ。ひいおじい様が亡くなってからは会っていません。せっかく繋がった縁ですし、俺も仲良く出来ればと思っていますが……いきなり手紙を送っても良いものでしょうか」
フェクダの一族は、天涯孤独だと考えられていたカインの血縁者だ。その彼が真剣に悩み、仲良くなりたいと考えているのは、傍から見て微笑ましく思える。シルヴィアも瞳を細めた。
「ぜひ送ってほしい。カインもきっと喜ぶだろうから」
「カインは友人ですが、僕たち兄弟の恩人でもあります。僕の兄、それから僕と僕の妻、そしてアーダベルト商会の従業員一同で感謝しているんです。きっと彼がいなかったら、兄は商人に戻っていませんでしたから」
それはまるで母親のようにかいがいしかったとルーンスは話し、小さく笑う。
「俺はママじゃねえ、と言われてしまいましたが」
「人が好きなんですね、彼は。困っている者を放っておけない」
フェクダも同じように笑う。そうして、居住まいを正した。
「ドゥーベは、先々代から慈善事業に積極的に関わってきました。それは領内に目を配り、民たちのやりたいことを助け、支えていく。そうした地道な活動が産業を支え、今のドゥーベを作っています。俺も、俺の妹弟も幼い頃からその考えの中育ってきているので、困っている者を助けるということを当然のように思っています」
現伯爵である彼の父親も、事業を拡大しながらも基本とした慈善事業には力を入れているらしい。
「もし彼が興味を持ってくれたなら、ドゥーベにも力を貸してほしいところです。もちろん本人の気持ちもありますし、まだその時期ではないのでしょうが……ですよね、シルヴィア」
「おや、バレていたか」
「王国で貴領を知らない人はいませんよ。……もっとも、俺も貴方がそうだと最初から分かってはいませんでしたが」
確認を求めるような視線にシルヴィアは頷く。カインがカペル領で療養しているというのはフェクダ自身も知っていた。治る見込みが立ったとはいえ、安定している今を崩すことは得策ではないだろう。
「彼に会ってから、俺に会う前はどんな人だったのだろうと、よく想像します。もう少し……彼についてお話を聞かせてもらえませんか? 俺は彼のことを何も知らないので。話せる範囲でいいので、……ぜひ」
それは切実な言葉に思えた。シルヴィアは頷く。
「いいだろう。あくまで私たちから見た彼、という話になるけれどね」
そこからは、しばらくカインの話でもちきりとなった。冒険の話、料理の話、教会を助けた話、シルヴィアの結婚式で料理を振る舞った話――三者三様に持つ思い出が色鮮やかに語られる。それを、フェクダは楽しそうに聞いていた。
●
「――それでね、兄ちゃんが色々教えてくれたんだ。僕にも何かできるんだって思えたのは、兄ちゃんが切欠なんだと思う」
「そうなんですね。俺もよく孤児院には顔を出しますが、そう思ってもらえたら幸せに思います」
アルドは誇らしげにカインについて語る。彼との出会いから今まで、カインに感謝する言葉ばかりだ。
「ここには、すごくて、優しくて、強い人がたくさんいるよ。ルーンスさんは全体のことを考えて何が必要か、そうでないかを冷静に分析してくれるし、シルヴィアさんは人をまとめる力がすごいんだ。言葉を聞いてるだけで勇気を貰えて、頑張ろうって気持ちになる」
「皆さんがお好きなんですね、アルドは」
そう聞かれると、目をぱちぱちと瞬かせてから嬉しそうに大きく頷く。
「僕、学園に来れて、皆と会えてよかった。もっともっと出来ることを増やして、皆の役に立ちたい」
「アルドの知識も行動力も、俺はすごいと思います。よかったらまたドゥーベにきてくださいね」
「おっと、その話はここまでにしておこうか」
「ああすみません。不躾でしたね」
遮るシルヴィアに、フェクダは笑顔を作る。抜け目もない人物らしい。ルーンスがカップを置き、改めて言葉にする。
「学園交流部はどうでしょうか」
「僕たち、フェクダさんも部員になってくれたら嬉しいな、という話をしてたんだ」
きらきらとした瞳を向けるアルドに、ルーンスも続けた。
「この部は、あなたがカインへ行き着いたように、誰かにとって大切な縁も見つける場所であってほしいと願っております。もっとも僕が商人ですので、縁という血流が滞れば、いずれ経済という肉体が破綻することも憂慮していますが」
人の流れ、物の流れ、時代の流れ。留まることのない世界の中で、誰かと出会うことは奇跡といっても過言ではない。ここは人と人とが出会い、優しい縁を結ぶ場所。そうであってほしいとルーンスは願う。
「もし君が入部したいと思ってくれるなら、心から歓迎するよ。後継ともなると忙しいのは身に染みているが、ぜひ後世を見守ってほしい」
シルヴィアも期待を込めて続ける。卒業している身ではあるが、だからこそ自身の目で見極めた人材は貴重だ。
フェクダはそれぞれの顔を見回し――しばらくして頷いた。
「わかりました、入部します。何が出来るかは、これから模索していければと」
三人は顔を見合わせ、表情を明るくする。
「一番心を動かされたのは、やはりさまざまな方と出会える面です。その中で得難い縁も期待してしまいます。後継を見守れることも、俺自身の意欲に繋がりますから」
僅かに表情を緩め、フェクダは続ける。
「実を言うと、ドゥーベの教えにも似たところがあるんです。『繋がることは創造の第一歩だ』、と」
一人では出来ないことも、誰かと手を取り合うことで開ける道があるのだ、と。
「すごく素敵な言葉だね」
「ありがとう。そうだ、ひとつお願いが」
「何だろうか」
シルヴィアが首を傾げた。
「……早速、制度を利用できれば、と」
「兄妹姉妹制度ですか?」
「それです。いえ、本当に結ばなくともよいのですが……出来れば力を貸していただきたく」
「僕でよければ力になるよ! それで、どうしたらいいのかな」
すっかり敬語が抜けたアルド、そして二人に、フェクダは申し訳なさそうに告げた。
「学園内の案内を。そして出来れば、俺を寮の近くまで連れて行っていただけますか」
――フェクダはまだ学園に来て日が浅く、学園内の設備や施設について疎い。それでいて少し道に迷いやすいらしく道案内を欲していた。喜んで、と引き受けたアルドとフェクダが話す様子を見ながら、シルヴィアは口元を緩める。
「お互いに助け合いが出来るという光景は、いつ見ても良いものだね」
「そうだね。交流部ももっと賑やかになりそう」
次の催しは何にしようか。縁が作りだすきらめく未来を考えると、自然と頬が緩んだ。
「今日は忙しい中、集まってくれてありがとう。よろしくね」
パンクリアース学園、学園交流部が部室として使っている一室、部員であるルーンス・ラグネルがそう話を始めた。
「いや、構わないよ。君からのお呼ばれだ、心が踊るよ」
同じく部員のシルヴィア・A・カペルが楽しそうに視線を向ける。シルヴィアは多忙の身ではあるが、部活や後輩たちの様子を見に時折学園に顔を出すことがあった。侯爵が頻繁に来るとバランス取りが難しいこと、王都近郊の領であるため貴族学園生とのトラブルがあれば対処できるように、といったさまざまな理由も孕んでいる。今回、たまたま訪れたタイミングにルーンスが声をかけた形だ。
「僕からひとつ提案があるんだ。いい人材が見つかったからね」
「人材……この部に入ってほしい人だよね」
メモを取っていたアルド・シャウアーが確認する。新入部員である彼は、自分も力になれればと気合十分だ。といっても部長たちが所用でいない今、この場にいるのは三名だけなのだが。ルーンスは優しく後輩に答える。
「そう。この部には出来るだけ色々な人が入ってほしい。他種族や身分の相互理解に役立つし、縁が出来るというのはお互いに利のある点が多いし」
「お互いが納得し合った上で協力しあえるのは、学園交流部にとっても嬉しいからね。それで、その人物とは?」
シルヴィアの問いに、ルーンスは告げる。
「フェクダ・ドゥーベだ」
「フェクダさん!」
「ほう。彼か」
その名はアルドとシルヴィアにとって聞き覚えがあった。三人の共通の友人であるカイン・ステラ。その血縁者ということが最近発覚している。
「カインを探しに来たって話だけれど、その目的は済んでるし、学園へ編入してまだ籍もあるっていうし。どうかな?」
「私に異論はない。彼とも会ってみたかったしね」
シルヴィアは噂に聞くだけだったが、友人の血縁者だ。挨拶もしておきたい。
「それに彼は嫡男だと聞いた。忙しい身ではあるだろうが、部長を支えられる人材が欲しい」
「僕も全面的に同意だ」
今はただの印象で話すことになるが、部長と部員との調整役も期待したい。
「お兄さん候補、になるのかな」
「彼は17歳で四年生だから、そうなるね」
学園交流部では兄妹姉妹制度という独自の制度を採用していた。下級生と上級生、気の合う者がいれば、より深い絆を結んでもらう機会も作ることが出来る。
「彼は以前、交流部にも顔を出してくれていたね。活動に興味を持ってもらっていたら僥倖だ」
「決まりだね」
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「――それで、俺を?」
机の上に広げた書類を片付けながら、フェクダ・ドゥーベは不思議そうに尋ねる。学園内の休憩スペース、その一角で彼を見つけた。
「ああ。それと不躾に申し訳ない。私は部員のシルヴィア。お会い出来て光栄だ」
「こちらこそ。前回は楽しいカードゲームをプレイさせていただきました。普段は交流のない方々とお会いでき、知見が深まった思いです」
フェクダは紳士然と答える。無理や皮肉を通して言っている様子はない。そういえば獣人であるアルドとも仲良くカードゲームをしたと言っていたか。あえて家名を名乗らなかったシルヴィアにも好意的に対応をしていた。彼もまた稀有な人材のように見える。
「私は、同じく交流部部員のルーンス・ラグネルと申します。お会いできて嬉しいです」
「フェクダです。お初にお目にかかります」
細めた瞳は、灰がかった赤といえるだろうか。近くで見るとますます彼に似ているとルーンスは感じた。
「そちらの君は確か、アルドでしたか」
「はい! またお会いできましたね」
「俺も嬉しいですよ」
にこにこと挨拶をするアルドはすっかり懐いているように見えた。よく似た容姿もあるかもしれないが、カインの一件で話す機会が多かったことも関係しているだろう。フェクダも親しげに表情を柔らかくしていた。
「今はお忙しいですか? それならまた、時間を空けてきます!」
「ああ、いえ。これは自主的なものですから」
アルドの視線は、彼の手元にある書類に向けられていた。フェクダは首を振り、ぺらぺらと捲ってみせてくれる。
「図書館で借りた本で、領内で有用になりそうな箇所をまとめていたんです……っと、お話をするなら、場所を移動しましょうか。ここを長々と占拠するのも申し訳ありませんから」
「それなら、一緒にお茶でもいかがかな? ちょうどそんな時間だしね」
シルヴィアの誘いに、喜んでと穏やかに返った。
「ドゥーベの血は濃い」
容姿はそっくり、背丈もフェクダの方が少し低いくらいで背格好も似ている。よく知るルーンスたちでさえ、遠目に見たらカインと声をかけてしまうかもしれない。
そうルーンスが楽しげに言うと、フェクダはほんの少し戸惑ったように瞳を揺らした。
「変な感じです。カインを知る人からそう声をかけてもらうことが多いし、俺が思うよりも短い期間で親しい目を向けてくれる」
「君にとって歓迎はできないかな」
「そういうことでは。言葉にするのは難しいですが……彼のものを勝手に借りている気分になります」
カインが築き上げ、繋がりを作ってきたものの一端を覗き見ているような、そんな感覚らしい。提供された紅茶を飲みながら、フェクダは頷いた。
「美味しいですね」
「気に入ってくれてよかった。この部屋の過ごし心地もどうかな?」
「そうですね……俺には過ごしやすい場所だと思います」
シルヴィアの問いに、フェクダは真摯に答えていく。まだ部員でもないが、真剣に考えてくれるのは彼の性格からだろうか。レイアウトや置いてある物についての賛辞を一通りフェクダがしたところで、アルドが問いかける。
「フェクダさんは、カイン兄ちゃんとあれから会ったんですか?」
「いえ。ひいおじい様が亡くなってからは会っていません。せっかく繋がった縁ですし、俺も仲良く出来ればと思っていますが……いきなり手紙を送っても良いものでしょうか」
フェクダの一族は、天涯孤独だと考えられていたカインの血縁者だ。その彼が真剣に悩み、仲良くなりたいと考えているのは、傍から見て微笑ましく思える。シルヴィアも瞳を細めた。
「ぜひ送ってほしい。カインもきっと喜ぶだろうから」
「カインは友人ですが、僕たち兄弟の恩人でもあります。僕の兄、それから僕と僕の妻、そしてアーダベルト商会の従業員一同で感謝しているんです。きっと彼がいなかったら、兄は商人に戻っていませんでしたから」
それはまるで母親のようにかいがいしかったとルーンスは話し、小さく笑う。
「俺はママじゃねえ、と言われてしまいましたが」
「人が好きなんですね、彼は。困っている者を放っておけない」
フェクダも同じように笑う。そうして、居住まいを正した。
「ドゥーベは、先々代から慈善事業に積極的に関わってきました。それは領内に目を配り、民たちのやりたいことを助け、支えていく。そうした地道な活動が産業を支え、今のドゥーベを作っています。俺も、俺の妹弟も幼い頃からその考えの中育ってきているので、困っている者を助けるということを当然のように思っています」
現伯爵である彼の父親も、事業を拡大しながらも基本とした慈善事業には力を入れているらしい。
「もし彼が興味を持ってくれたなら、ドゥーベにも力を貸してほしいところです。もちろん本人の気持ちもありますし、まだその時期ではないのでしょうが……ですよね、シルヴィア」
「おや、バレていたか」
「王国で貴領を知らない人はいませんよ。……もっとも、俺も貴方がそうだと最初から分かってはいませんでしたが」
確認を求めるような視線にシルヴィアは頷く。カインがカペル領で療養しているというのはフェクダ自身も知っていた。治る見込みが立ったとはいえ、安定している今を崩すことは得策ではないだろう。
「彼に会ってから、俺に会う前はどんな人だったのだろうと、よく想像します。もう少し……彼についてお話を聞かせてもらえませんか? 俺は彼のことを何も知らないので。話せる範囲でいいので、……ぜひ」
それは切実な言葉に思えた。シルヴィアは頷く。
「いいだろう。あくまで私たちから見た彼、という話になるけれどね」
そこからは、しばらくカインの話でもちきりとなった。冒険の話、料理の話、教会を助けた話、シルヴィアの結婚式で料理を振る舞った話――三者三様に持つ思い出が色鮮やかに語られる。それを、フェクダは楽しそうに聞いていた。
●
「――それでね、兄ちゃんが色々教えてくれたんだ。僕にも何かできるんだって思えたのは、兄ちゃんが切欠なんだと思う」
「そうなんですね。俺もよく孤児院には顔を出しますが、そう思ってもらえたら幸せに思います」
アルドは誇らしげにカインについて語る。彼との出会いから今まで、カインに感謝する言葉ばかりだ。
「ここには、すごくて、優しくて、強い人がたくさんいるよ。ルーンスさんは全体のことを考えて何が必要か、そうでないかを冷静に分析してくれるし、シルヴィアさんは人をまとめる力がすごいんだ。言葉を聞いてるだけで勇気を貰えて、頑張ろうって気持ちになる」
「皆さんがお好きなんですね、アルドは」
そう聞かれると、目をぱちぱちと瞬かせてから嬉しそうに大きく頷く。
「僕、学園に来れて、皆と会えてよかった。もっともっと出来ることを増やして、皆の役に立ちたい」
「アルドの知識も行動力も、俺はすごいと思います。よかったらまたドゥーベにきてくださいね」
「おっと、その話はここまでにしておこうか」
「ああすみません。不躾でしたね」
遮るシルヴィアに、フェクダは笑顔を作る。抜け目もない人物らしい。ルーンスがカップを置き、改めて言葉にする。
「学園交流部はどうでしょうか」
「僕たち、フェクダさんも部員になってくれたら嬉しいな、という話をしてたんだ」
きらきらとした瞳を向けるアルドに、ルーンスも続けた。
「この部は、あなたがカインへ行き着いたように、誰かにとって大切な縁も見つける場所であってほしいと願っております。もっとも僕が商人ですので、縁という血流が滞れば、いずれ経済という肉体が破綻することも憂慮していますが」
人の流れ、物の流れ、時代の流れ。留まることのない世界の中で、誰かと出会うことは奇跡といっても過言ではない。ここは人と人とが出会い、優しい縁を結ぶ場所。そうであってほしいとルーンスは願う。
「もし君が入部したいと思ってくれるなら、心から歓迎するよ。後継ともなると忙しいのは身に染みているが、ぜひ後世を見守ってほしい」
シルヴィアも期待を込めて続ける。卒業している身ではあるが、だからこそ自身の目で見極めた人材は貴重だ。
フェクダはそれぞれの顔を見回し――しばらくして頷いた。
「わかりました、入部します。何が出来るかは、これから模索していければと」
三人は顔を見合わせ、表情を明るくする。
「一番心を動かされたのは、やはりさまざまな方と出会える面です。その中で得難い縁も期待してしまいます。後継を見守れることも、俺自身の意欲に繋がりますから」
僅かに表情を緩め、フェクダは続ける。
「実を言うと、ドゥーベの教えにも似たところがあるんです。『繋がることは創造の第一歩だ』、と」
一人では出来ないことも、誰かと手を取り合うことで開ける道があるのだ、と。
「すごく素敵な言葉だね」
「ありがとう。そうだ、ひとつお願いが」
「何だろうか」
シルヴィアが首を傾げた。
「……早速、制度を利用できれば、と」
「兄妹姉妹制度ですか?」
「それです。いえ、本当に結ばなくともよいのですが……出来れば力を貸していただきたく」
「僕でよければ力になるよ! それで、どうしたらいいのかな」
すっかり敬語が抜けたアルド、そして二人に、フェクダは申し訳なさそうに告げた。
「学園内の案内を。そして出来れば、俺を寮の近くまで連れて行っていただけますか」
――フェクダはまだ学園に来て日が浅く、学園内の設備や施設について疎い。それでいて少し道に迷いやすいらしく道案内を欲していた。喜んで、と引き受けたアルドとフェクダが話す様子を見ながら、シルヴィアは口元を緩める。
「お互いに助け合いが出来るという光景は、いつ見ても良いものだね」
「そうだね。交流部ももっと賑やかになりそう」
次の催しは何にしようか。縁が作りだすきらめく未来を考えると、自然と頬が緩んだ。