故郷への帰り道
キャラクターノベル(グループ)制作 紀藤トキ納品 2024年06月09日 17時24分56秒
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帝都決戦の日、巨大で無慈悲は暴虐を目にしてハリーヌ・ヨツユビの金銭への信仰はへし折れた。金があっても、権力があっても関係なく滅びは訪れるのだ。それに冒険者として活動する中で、今のハリーヌを作り上げた辛い過去も、生まれの不公平も世の中では珍しくない物だと知ってしまった。『金さえあれば』という暗示は解け、後に残ったのは自分のせいで滅びた故郷への罪の意識であった。
彼女の故郷は、ヨツユビハリネズミの一族以外に知る者もなかっただろう隠れ村だ。迷い込んだ行商人も死んでしまったし、ハクビシン族が改心したとも思えない。誰も墓など作らなかっただろう。故郷に帰って、自分の手できちんと弔いたいと思った。問題は、故郷の場所が分からないことだ。ハリーヌは、悪党どもに連れ歩かれていた間の事を余り覚えていない。世話になった商人の娘がいた町こそ分かるが、それ以上の事は思い出せず、一人で調べるにはすぐに手立てが尽きた。
考え方が変わろうとも、急に性格が変わるわけではない。ハリーヌは相変わらず斜に構えたハリネズミのままだ。人に頼るという思考が浮かんだのはしばらくあがいた後であった。過去の後悔のせいもあるだろう。人を利用したいとは思えども、友達を作ることに拒否感があった。学園は交友を深める場だというが、半獣の庶民という異物が自分から動かねば友人などできるはずも無く、頼れる友人の当ては無い。。困った彼女は、友人ではなく学生と教師という関係性を頼った。
「事情は分かった。まず、ハリーヌ嬢の長期不在の間、猫の世話は寮監に頼むのがいいだろう。私からも口添えしておく」
トマス・ダンテは一つ目の頼み事にそう回答を返した。預かれないことも無いのだが、ダンテ家の屋敷に住ませることになればミケは学園に遊びには来れなくなる。どちらが猫的にストレスが多いか分からないが故に、現状維持を良しとしたらしい。
「同室の学友がいれば頼めただろうが、まさか一人とはな。悪い意味で特別扱いを受けていたのだろうが……」
「いえ、それについてはゴリラを厩舎のような場所に預けずとも住んだので、幸いでございました」
「ふむ。それとエメラルドについてだが。おそらくそれは鉱山では無いな」
貴族の鉱山利権の係争を扱うこともあり、トマスにも多少の知識があった。ハリーヌの語る森の中の情景はおかしいという。
「エメラルド鉱は岩の層にそって広い範囲に散らばる。もし、ハリーヌ嬢が言うように大した量で無かったとすれば本来の出所から流されたか飛ばされたかだが、聞いた限りでは大きな河沿いでも無く火山が近かったと言うわけでも無い」
「もしやワタクシに、記憶違いがございましたでしょうか?」
「いや、おそらくエーテル異常の産物だ。例えば、宝石で出来たゴーレムの残骸であるとかな」
故郷がそんなに危険な場所だったようには思えないが、とハリーヌは首をかしげる。一応、トマスは各地の鉱山の公開情報を纏めて冒険者ギルドに預けると約束したが、さして期待はしないようにとも告げた。
「何か、他に調査の宛てはあるのか?」
「両親が、『猿がヒューマンの先祖である』というような話をしていたのでございます。何もない所から出てくる言葉では無いのではと思いまして、リヴァマス先生に心当たりをお伺いしようかと」
「なるほど。確かに聞いたことがない話だ。では、リヴァマス伯に会いにラマスへ行くのならば、ついでに書簡を届けて貰おうか。それでハリーヌ嬢からの依頼と相殺としよう」
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ラマスまでは徒歩で数日。授恵者のハリーヌであれば旅は更に短い。リヴァマス老に面会することは、さして難しくは無かった。
「先生は、お忙しかったのではございませんですか?」
「仕事はこれまでやっていた者が大体片付けてくれるでな。回ってくるのは最後の確認くらいじゃよ。それで、その学説じゃが……」
学術都市ヴェルクリエのある学者が唱えていたらしい。リヴァマス老と書簡のやり取りはあったが、20年ほど前に亡くなっているそうだ。いわゆる『証明できようが出来まいが何の役にも立たない学説』であり、一般に流布するような性質の物ではなかったという。
「ご両親がその話を知っていたとすると、我輩同様に生物学に興味があったか、あるいは冒険者だったのかもしれぬのう」
「冒険者、でございますか?」
「うむ。彼が調べておったのは、正確に言えば『獣の魔女や天に溶ける征竜のような存在がヒューマンを生み出したなら、その素体となる生物が何であったか』でな。猿という結論に至るまでに、オークやらゴブリン、コボルドなんぞを捕まえては実験したり解剖したりしておったのじゃ」
「……思ったより実践派でございましたね……」
その学者から、人っぽい亜人や魔獣、動物を捕まえることを冒険者に依頼していたと言うことを聞いたことがあったのが、リヴァマス老が冒険者を雇って探検に行くなどと思いついた遠因かもしれない。
「と言うことは、両親は冒険者だったのでございましょうか……?」
「トマス君もそう推測しておったようじゃよ。魔獣が出てくる程にエーテル異常の近い場所に住まうと言うことは、自衛する力があったのでは無いか、とな」
ハリーヌが届けた書簡を手に、リヴァマス老はそう告げる。彼らが単なる隠れ里の村人でなかったならば、ハクビシンの襲撃に対抗できなかったのはおかしいという疑念も、実力があったとしても奇襲であったならば不覚を取ることもあるという推測が和らげる。
「もしも、ハリーヌ嬢の郷里の皆が、戦う覚悟と力を持つ人々だったのならば、生き延びている事もあるやもしれぬのう」
期待しても良い事は無い。ハリーヌは上向きそうになる気持ちを、押し殺した。その日はラマスに泊まり、翌朝。ヴェルクリエに向かうのであれば、とリヴァマス老はその学者の息子への手紙の配送を冒険者としてのハリーヌに依頼する。
「息子の方はもう少し穏当な鳥の学者じゃよ。蛇と鳥のどちらが強いか、よくやりあったものじゃて。急ぎはせぬが、返事も届けてくれるとありがたいのう」
どうやら往復にビッグオウムを使う為の方便として、トマスが提案したらしい。既存の仕組みを悪用する連中と知恵比べをする役職を目指していると、線引きについても気が回るようになるのだろう。たぶん。
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「父には人には教えてはならぬって言われていましたけれど、まあそういう事情でしたら……」
線の細い男性は、書簡を目にしてそう告げた。が、集落についての覚え書きが遺品の詰まった倉庫のどこにあるのか分からなくなっているらしい。
「父の名で封をされた赤い封筒に入っているはずです。これ位の大きさで、厚さはこの程度かと」
「そのような管理で大丈夫なのでございますか……?」
「代々専門分野が違いすぎるんで、そうして残してるんですよ。同じ分野の先達の研究を見つけたら、助かりますし?」
実はリヴァマス老の研究の幾ばくかも引き取っているそうで、パンクリアース学園の大図書館などに存在しないような文書もあるようだ。というか、大図書館が必要としなかった、というべきか。緊急依頼ということで、ハリーヌとゴリラも倉庫整理にかり出されて数日。
「うほ」
「赤いのを見つけたでございますか。……ん、これは当たりでございますね?」
「どれどれ? おお、おめでとう。お望みの資料だよ」
ハリーヌが署名を確認し、学者氏に開封して貰う。長い戦いであった。もう少し倉庫整理を手伝って欲しいという声を振り払い、ハリーヌはヴェルクリエから西へしばし進み、道無き道を目印に従いを北へ。曖昧な記述に迷ったりしつつ、辺境都市群の荒野地帯にぽつりと小さな森が見えたのは、一週間ほど荒野を彷徨った後であった。
「……煙が、見えるでございます」
幾筋か、立ち上る煙は生活の印だ。期待と、不安でハリーヌの身が竦む。故郷の皆が生きているのかもしれない。見知らぬ誰かが村の跡に住み着いたのかもしれない。己の目でそれを見届けねばならないと分かっているのになかなか足が進まず、ゴリラに抱えて貰って進むことにした。
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故郷に辿り着いたハリーヌ・ヨツユビは、あまりに記憶の姿と変わらぬ様子に驚愕した。集落内で死者は出ていたものの、彼女自身の両親は存命であった。むしろ、ハリーヌの生存の方が絶望視されていたらしい。
「あの時は私も含め、重傷を負った村人も多くてね。お前が生きていると知っていたら、這ってでも引き返したのだが」
「這っても何も、あなたも村長も気を失っていたじゃありませんか」
あっけらかんと言う言葉の端々から、当時の惨状が窺い知れてハリーヌは小さくなる。『戦える者』は数名のみで、後は普通の村人であったそうだ。賊から多くが逃げ出せたのは、この地に流れ着くまでにも迫害され、幾度も追われてきた者としての覚悟があったからかもしれない。
「……お話ししましたとおり、あいつらの襲撃は、そもそもワタクシが原因でございます。どのような罰を受けても仕方が無……」
「何を言うんじゃ。儂らはもともと緑石がある事は知っておったし、ハリーヌが余所者に渡したのも聞いて居ったぞ。それで警戒しておったのに、相手が一枚上手だったという事じゃろ」
襲撃で片目になった老村長がそう言うと、ハリーヌは鼻をもそもそさせた。もう、彼女は人前で泣くような年では無いのだ。
「というか、ハリーヌはもう父さんよりも強いんじゃ無いか?」
「ほほう。それは頼もしいのう。よく戻ってきてくれたな」
「ちょっと、大事な事を忘れていません? 男衆はこれだから……。おかえり、ハリーヌ!」
「……ただいまで、ございます」
「そうだな。おかえり。ハリーヌ」
ここへ来るまで、生きる目的を間違えて随分回り道をしたかもしれない。しかし、故郷を護るために使うのならば、手にした力も経験も、無駄ではなかったと思えた。
帝都決戦の日、巨大で無慈悲は暴虐を目にしてハリーヌ・ヨツユビの金銭への信仰はへし折れた。金があっても、権力があっても関係なく滅びは訪れるのだ。それに冒険者として活動する中で、今のハリーヌを作り上げた辛い過去も、生まれの不公平も世の中では珍しくない物だと知ってしまった。『金さえあれば』という暗示は解け、後に残ったのは自分のせいで滅びた故郷への罪の意識であった。
彼女の故郷は、ヨツユビハリネズミの一族以外に知る者もなかっただろう隠れ村だ。迷い込んだ行商人も死んでしまったし、ハクビシン族が改心したとも思えない。誰も墓など作らなかっただろう。故郷に帰って、自分の手できちんと弔いたいと思った。問題は、故郷の場所が分からないことだ。ハリーヌは、悪党どもに連れ歩かれていた間の事を余り覚えていない。世話になった商人の娘がいた町こそ分かるが、それ以上の事は思い出せず、一人で調べるにはすぐに手立てが尽きた。
考え方が変わろうとも、急に性格が変わるわけではない。ハリーヌは相変わらず斜に構えたハリネズミのままだ。人に頼るという思考が浮かんだのはしばらくあがいた後であった。過去の後悔のせいもあるだろう。人を利用したいとは思えども、友達を作ることに拒否感があった。学園は交友を深める場だというが、半獣の庶民という異物が自分から動かねば友人などできるはずも無く、頼れる友人の当ては無い。。困った彼女は、友人ではなく学生と教師という関係性を頼った。
「事情は分かった。まず、ハリーヌ嬢の長期不在の間、猫の世話は寮監に頼むのがいいだろう。私からも口添えしておく」
トマス・ダンテは一つ目の頼み事にそう回答を返した。預かれないことも無いのだが、ダンテ家の屋敷に住ませることになればミケは学園に遊びには来れなくなる。どちらが猫的にストレスが多いか分からないが故に、現状維持を良しとしたらしい。
「同室の学友がいれば頼めただろうが、まさか一人とはな。悪い意味で特別扱いを受けていたのだろうが……」
「いえ、それについてはゴリラを厩舎のような場所に預けずとも住んだので、幸いでございました」
「ふむ。それとエメラルドについてだが。おそらくそれは鉱山では無いな」
貴族の鉱山利権の係争を扱うこともあり、トマスにも多少の知識があった。ハリーヌの語る森の中の情景はおかしいという。
「エメラルド鉱は岩の層にそって広い範囲に散らばる。もし、ハリーヌ嬢が言うように大した量で無かったとすれば本来の出所から流されたか飛ばされたかだが、聞いた限りでは大きな河沿いでも無く火山が近かったと言うわけでも無い」
「もしやワタクシに、記憶違いがございましたでしょうか?」
「いや、おそらくエーテル異常の産物だ。例えば、宝石で出来たゴーレムの残骸であるとかな」
故郷がそんなに危険な場所だったようには思えないが、とハリーヌは首をかしげる。一応、トマスは各地の鉱山の公開情報を纏めて冒険者ギルドに預けると約束したが、さして期待はしないようにとも告げた。
「何か、他に調査の宛てはあるのか?」
「両親が、『猿がヒューマンの先祖である』というような話をしていたのでございます。何もない所から出てくる言葉では無いのではと思いまして、リヴァマス先生に心当たりをお伺いしようかと」
「なるほど。確かに聞いたことがない話だ。では、リヴァマス伯に会いにラマスへ行くのならば、ついでに書簡を届けて貰おうか。それでハリーヌ嬢からの依頼と相殺としよう」
●
ラマスまでは徒歩で数日。授恵者のハリーヌであれば旅は更に短い。リヴァマス老に面会することは、さして難しくは無かった。
「先生は、お忙しかったのではございませんですか?」
「仕事はこれまでやっていた者が大体片付けてくれるでな。回ってくるのは最後の確認くらいじゃよ。それで、その学説じゃが……」
学術都市ヴェルクリエのある学者が唱えていたらしい。リヴァマス老と書簡のやり取りはあったが、20年ほど前に亡くなっているそうだ。いわゆる『証明できようが出来まいが何の役にも立たない学説』であり、一般に流布するような性質の物ではなかったという。
「ご両親がその話を知っていたとすると、我輩同様に生物学に興味があったか、あるいは冒険者だったのかもしれぬのう」
「冒険者、でございますか?」
「うむ。彼が調べておったのは、正確に言えば『獣の魔女や天に溶ける征竜のような存在がヒューマンを生み出したなら、その素体となる生物が何であったか』でな。猿という結論に至るまでに、オークやらゴブリン、コボルドなんぞを捕まえては実験したり解剖したりしておったのじゃ」
「……思ったより実践派でございましたね……」
その学者から、人っぽい亜人や魔獣、動物を捕まえることを冒険者に依頼していたと言うことを聞いたことがあったのが、リヴァマス老が冒険者を雇って探検に行くなどと思いついた遠因かもしれない。
「と言うことは、両親は冒険者だったのでございましょうか……?」
「トマス君もそう推測しておったようじゃよ。魔獣が出てくる程にエーテル異常の近い場所に住まうと言うことは、自衛する力があったのでは無いか、とな」
ハリーヌが届けた書簡を手に、リヴァマス老はそう告げる。彼らが単なる隠れ里の村人でなかったならば、ハクビシンの襲撃に対抗できなかったのはおかしいという疑念も、実力があったとしても奇襲であったならば不覚を取ることもあるという推測が和らげる。
「もしも、ハリーヌ嬢の郷里の皆が、戦う覚悟と力を持つ人々だったのならば、生き延びている事もあるやもしれぬのう」
期待しても良い事は無い。ハリーヌは上向きそうになる気持ちを、押し殺した。その日はラマスに泊まり、翌朝。ヴェルクリエに向かうのであれば、とリヴァマス老はその学者の息子への手紙の配送を冒険者としてのハリーヌに依頼する。
「息子の方はもう少し穏当な鳥の学者じゃよ。蛇と鳥のどちらが強いか、よくやりあったものじゃて。急ぎはせぬが、返事も届けてくれるとありがたいのう」
どうやら往復にビッグオウムを使う為の方便として、トマスが提案したらしい。既存の仕組みを悪用する連中と知恵比べをする役職を目指していると、線引きについても気が回るようになるのだろう。たぶん。
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「父には人には教えてはならぬって言われていましたけれど、まあそういう事情でしたら……」
線の細い男性は、書簡を目にしてそう告げた。が、集落についての覚え書きが遺品の詰まった倉庫のどこにあるのか分からなくなっているらしい。
「父の名で封をされた赤い封筒に入っているはずです。これ位の大きさで、厚さはこの程度かと」
「そのような管理で大丈夫なのでございますか……?」
「代々専門分野が違いすぎるんで、そうして残してるんですよ。同じ分野の先達の研究を見つけたら、助かりますし?」
実はリヴァマス老の研究の幾ばくかも引き取っているそうで、パンクリアース学園の大図書館などに存在しないような文書もあるようだ。というか、大図書館が必要としなかった、というべきか。緊急依頼ということで、ハリーヌとゴリラも倉庫整理にかり出されて数日。
「うほ」
「赤いのを見つけたでございますか。……ん、これは当たりでございますね?」
「どれどれ? おお、おめでとう。お望みの資料だよ」
ハリーヌが署名を確認し、学者氏に開封して貰う。長い戦いであった。もう少し倉庫整理を手伝って欲しいという声を振り払い、ハリーヌはヴェルクリエから西へしばし進み、道無き道を目印に従いを北へ。曖昧な記述に迷ったりしつつ、辺境都市群の荒野地帯にぽつりと小さな森が見えたのは、一週間ほど荒野を彷徨った後であった。
「……煙が、見えるでございます」
幾筋か、立ち上る煙は生活の印だ。期待と、不安でハリーヌの身が竦む。故郷の皆が生きているのかもしれない。見知らぬ誰かが村の跡に住み着いたのかもしれない。己の目でそれを見届けねばならないと分かっているのになかなか足が進まず、ゴリラに抱えて貰って進むことにした。
●
故郷に辿り着いたハリーヌ・ヨツユビは、あまりに記憶の姿と変わらぬ様子に驚愕した。集落内で死者は出ていたものの、彼女自身の両親は存命であった。むしろ、ハリーヌの生存の方が絶望視されていたらしい。
「あの時は私も含め、重傷を負った村人も多くてね。お前が生きていると知っていたら、這ってでも引き返したのだが」
「這っても何も、あなたも村長も気を失っていたじゃありませんか」
あっけらかんと言う言葉の端々から、当時の惨状が窺い知れてハリーヌは小さくなる。『戦える者』は数名のみで、後は普通の村人であったそうだ。賊から多くが逃げ出せたのは、この地に流れ着くまでにも迫害され、幾度も追われてきた者としての覚悟があったからかもしれない。
「……お話ししましたとおり、あいつらの襲撃は、そもそもワタクシが原因でございます。どのような罰を受けても仕方が無……」
「何を言うんじゃ。儂らはもともと緑石がある事は知っておったし、ハリーヌが余所者に渡したのも聞いて居ったぞ。それで警戒しておったのに、相手が一枚上手だったという事じゃろ」
襲撃で片目になった老村長がそう言うと、ハリーヌは鼻をもそもそさせた。もう、彼女は人前で泣くような年では無いのだ。
「というか、ハリーヌはもう父さんよりも強いんじゃ無いか?」
「ほほう。それは頼もしいのう。よく戻ってきてくれたな」
「ちょっと、大事な事を忘れていません? 男衆はこれだから……。おかえり、ハリーヌ!」
「……ただいまで、ございます」
「そうだな。おかえり。ハリーヌ」
ここへ来るまで、生きる目的を間違えて随分回り道をしたかもしれない。しかし、故郷を護るために使うのならば、手にした力も経験も、無駄ではなかったと思えた。