【鳥使い】唯ひとつの相棒

四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)サロン・ド・アヴリル制作 鍵島納品 2024年05月17日 09時48分32秒

 コンカフェ大会において重要なのは、訪れる客から如何にして支持を集め満足させるか。
 基本的なのはカフェたらしめる食事内容、SNS映えを目指した店内装飾、陣営毎に趣向を凝らす人を呼び込めるだけのエンタメ性……。
 何より重んじられるべきは、コンカフェで直接客へと働きかけるキャスト達。
 ルックスや服飾以上に、接客態度が何よりも人気にモノを言わせると思うのだが……。
 ――この子達は他のキャストと見比べると、どうも接客に向いていないようだ。
 然しそれは個性の範疇に留まる話に過ぎない。では、何で補わせれば良いか?
「それこそ科学技術の出番、サイエンスの力でズバっと問題解決ですよ!」
 しゃらしゃらり。
 翡翠色の耳飾りを揺らし、着込む白衣の裾をはためかせる少女が提言する。
 彼女は翡翠色の瞳をキラキラと輝かせて笑うと、両手を顔の横へ擡げて全指をくの字に曲げた。
「接客に向かないキャストならば、それを補ってあまりある、接客に向くロボットを附かせれば良いのです!」
 どうです、どうです。最適でしょ!
 曲げていた指を ぱっ と広げ、顔の高さに上げていた腕を思い切り真上へと伸ばす。
 ぱちん! 大きい音を伴って手を叩くと、遥か頭上よりバサバサと何かが羽ばたいてやってくる。やがて彼女が被る帽子越しに、頭頂へとそれは止まった。
 ヒトの頭部と同じぐらいの大きさをした、全身が真っ白い羽根で覆われた大型の鳥だ。
「本物みたいでしょ、でもコレね、ロボットなんですよ。私の愛鳥、最初の発明品、接客ロボット『早口くん』!」
 イラッシャイマセ! ナンメイサマデスカ! ゴアンナイデス! 
 人も鳥もぶあっと喋くりだす様子は圧巻だ。ちょっと抑えてと両手を向けられると、彼女はふっと腕を下ろし、胸の前で組んだ。少し偉そうな仕草に見えた。
「普通の人にとって、早口くんはちょっとお喋りですか? でも接客ムリムリ系キャストさんにはぴったりだよ! キャストさんのタイプに応じて調整もするんで、ぜひ!」
 と、いうわけでですね。こほん、こほん。喉を鳴らし、すぅっ。大きく息を吸い込んで。
 ご検討よろしくおねがいしまーす!
 くるくると踊るにも似た所作でステップを踏んだ少女は、頭頂で大きく翼を広げる"ロボット"を両手指で指し示した。

●ちいさな相棒
「……いらっしゃい、ませ。フォースタ、の。アーシャ、だよ」
 誰よりもぎこちない挨拶。笑みが浮かぶ気配のないぽうっとした表情。何処を見ているのかわからない視線。
 緩慢に目を瞬かせて挨拶に臨むキャスト、アーシャ。
 年端もいかない姿と相反し、子どもめく所作など欠片もない、浮世離れした雰囲気のキャスト。
 歌って踊って愛想を振りまく者が多い中で、ミステリアスな雰囲気を持つアーシャは異彩を放っていた。客との交流は、多くない。
 なんてことのない顔をしていながらも、楽しそうに客と話せるキャストのことが、ほんのちょっぴりだけ羨ましかった。
 転機が訪れたのは、ついこの間のこと。
 接客が苦手なキャストのために開発されたロボットと共に、店に出てみないか。そんな誘いを貰ったのがきっかけだ。
 ……どうしよう?
 共に聞いてくれた店長へ視線を移すと、良いじゃないの。人の良い笑顔で勧められ、アーシャは控えめに頷いて承諾する。
 数日と経たずに贈られた箱の中には、ちょこんと座り込む小さなロボットがいた。
 機械と言われても信じ難い柔らかな被毛に、長い尾羽を持つ小型のインコだ。
 薄紫から白色へとグラデーションがかる色味は、アーシャのキャスト衣裳とは程よく浮いて、小さな存在を確りと誇示させていた。
「きみの、名前は?」
 傍らで羽繕いをする姿は、本物と称して良いだろう小鳥そのもので。
 首を傾げながら尋ねてみると、それはちちちと可愛らしい声で鳴いて、箱の中から小さな紙を引っ張り出す。
「……『名前をつけてあげてね!』……だって」
 じっと見上げて来るインコを前にして、アーシャはそっと手を差し伸べた。

●こまった相棒
「イラッシャイマセ! ヨウコソ! ゴキゲンヨゥ!!」
 銀色の兎耳をぴんと立てた侍。ぶっきらぼうな雰囲気を隠さない容姿。客に対しても睨むような視線の持ち主。
 とある卯月茶房にて。腰に差した刀の鞘を撫でて客を出迎えるキャスト、 雪花 (マリィ・スノードロップ)。
 の、上で。
「……気にするな。私も気にしていないから」
 騒がしく声を掛けてくるインコを見て固まっている客に、雪花はそれとなく着席を促す。
 ぴーちくぱーちくの言葉がよく似合うそれは、開発された接客ほう助ロボットのうちの一体だ。
 白から青へとグラデーションがかる見目は雪花のキャスト衣裳に合わせられているらしく、相棒と言わしめるに相応しい。
「雪花、セッカ! アッチノヒトヨンデル!」
「わかった、わかった。御用聞きに行く」
「ハヤクハヤクッ」
 はぁぁ……。
 長ったらしい溜息は少しの疲れを含んでいながらも、満更でもないことが感じられる。
 常に近寄りがたい雰囲気を醸し、客はおろか他のキャストにすら警戒心を抱いている様子もあった雪花。
 いつからか、肩(どちらかで言えば頭の上が多いけれど)に機械のインコを乗せて店に立つようになった。
 自由奔放に飛び回り、押し売りめいて客に接するソレを追い掛ける姿は、客からしても親しみを持てるキャストへと至った。
「え……コレの名前か。コレは……」
 よく見ると間の抜けた顔をしたインコ。右肩に止まる鳥目と視線を合わせると、客からの質問に、彼女はぽつりと言葉を口にした。

●たよりの相棒
 ふと客の来店を報せるベルが鳴り響く。
 入口近くのテーブルへ紅茶を運んでいたキャスト、カハトラが偶然通り掛かる。歩めていた足を止め、彼はピシっと硬直し、時間を食いながら顔を客へと向けた。
「イラッシャイマセ!」
「……ませ」
 真っ先に声を上げたのは、左肩に止まる中型のインコだ。
 やや中型と大きなサイズをした鳥は、キャストの髪色に合わせてか、漆黒から青色の被毛。
 動植物が深く眠り込んだ時刻の夜空に見ることが出来るであろう、そんな美しい空の色をしていた。
 ……して。案内の声も出ないまま、カハトラがじっと客と睨めっこを続けて幾何の頃。綺麗な翼が彼の頬をべしべし叩く。
 あッ。思い出したようにカハトラは客へと体を向けた。
「当サロン、へ、ようこそ」
「ヨーコソ!」
 一寸だけでも僅かな静寂の訪れを許してしまったが、許容範囲の中で納まるだろう。
 すぐ案内の者が参りますので、お待ちを。
 物静かに客へ挨拶してぺこりと頭を軽く下げると、彼は目当てのテーブルまでの給仕へと戻る。
 淡々と客の前に紅茶一式を並べ、恙なく紅茶を注ぎ、砂糖ミルクの有無を尋ね、必要ならば並べて。
「……それと、」
「ゴイリヨウ!」
 あ。それだ。納得いったように横を見ると、カハトラが続ける。
「ご、入用の際は。お気軽に、お呼びください」
「マセ!」
「……ませ」
 そうしてテーブルの客へと頭を下げ、壁際にさがり周囲の様子に目を凝らす。
 愛想笑いは変わらず出来ないが、アヴリルにおける客への接し方は随分と良くなった。
 格調高い接客を求められるこの場所で、無口且つ希薄な表情を持つキャストはそう多くない。けれど。
 相棒のインコと共に懸命に仕事へ従事する彼は、日々を追うごとに客から着実な評価を得ていた。

●賑やかな相棒
 店内イチ愛想の悪いキャスト。
 あるらぼカフェにおいて、不名誉な呼び声高く名を馳せるキャストがいる。ロビンだ。
 機械機械しい耳をつけ、不機嫌を押し出した顔で客のテーブルへ着く人物。
 そんな不愛想なロビンの左肩に、中型ほどの大きさをしたインコが止まっていた。
 黄色の体に黄緑の翼を持つ、どこか剽軽な雰囲気を持つ鳥だ。他のキャストでは見ない光景に、客は必ず言及する。
 それはなに? と。
「あー。あー、コレは何かって? 見たまんま、愛想係だよ」
「アイソガカリ!」
 尋ねられたロビンはと言えば、慣れた風に肩を竦めて、客相手にも関わらずぶっきらぼうに応えた。
 続けて復唱するインコの素っ頓狂な声色を聞いて、客は必ずくすっと笑う。
「注文は? 特にねぇなら一旦締め切んぞ」
 バサ、バサバサ。
 豪快に羽繕いを始められようと、左頬を足蹴にされようと、髪を嘴で引っ張られようと。
 気にする素振りもなく、彼は手持ちの端末に客からの注文内容を放り込む。
「また必要なら呼んでくれ。でっかい声で。めんどくさけりゃ」
「アイソガカリ! アイソ!」
「こんな風に呼んでくれ、一目散に来るぞ。これが」
 肩を右往左往するインコに目もくれず、ロビンは淡々と接客を続ける。
「ロビン!」
「あんだよ」
「ヤカラ! ヤカラ!」
 ぶッ、くく。
 突拍子もないインコの発言に堪らずテーブルの客が噴き出した。
 気怠そうな顔つきでいたロビンも黙ってはいない。鋭い眼を大きく瞠ったかと思えば、秒の速さでヤカラを連呼する嘴を鷲掴みにして黙らせた。
 あまりにもコミカルなやり取りは、新手のギャップとしてそこはかとなく客受けの良いファンサとして認識されているとの話だ。

●
 ねぇねぇ。
 不意に呼び止められる。そちらに視線を向ければ、翡翠色の瞳が印象的な客が席に着いていた。
 左右を見渡す。彼女の瞳はこちらへと真っ直ぐ向けられているようだった。
 緩慢に近寄って窺うと、何もいない自らの肩をぽんと叩いて見せられた。何となく自分の肩を見ると、そこには大好きな相棒の姿があって。
「どう? きみの相棒、気に入ったでしょ!」
 少し偉そうな仕草で言ってのけたその客は、よく観察すると科学者であることが判る。
 あぁ。そっか、この子の。肩のインコに目配せをして、再び彼女へ視線を合わせた。
「……うん。大事な子だよ」
 遠くのステージから、呼ぶ声が聞こえる。
 僅かな笑みを浮かべるアーシャは、ひらりと手を振って客に背中を向けた。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0