魅せます、アヴリルの本気

四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)サロン・ド・アヴリル制作 STANZA納品 2024年05月21日 13時39分54秒

「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
 サロン・ド・アヴリルの店内に足を踏み入れると、シックな装いの執事とメイド達が一糸乱れぬ洗練された所作で出迎えてくれる。
 メイド長の風格漂う水月(ミツキ・アインホルン)を筆頭に、執事のシュウ・ティングスター、ダメックシュ他、キャスト達がまるで誘導灯のように、真っ赤な絨毯の両脇に並んで頭を下げる。
 本当に多くの使用人を抱えた屋敷の主人になった気分だ。

(どうにも落ち着かねーな……)
 不慣れな状況に、ブラックジャック(夜城 黒塚)は居心地が悪そうに鼻の脇を小指の先で掻いた。
 仕事着(あふろでぃあの制服)のままで来ているので、余計に居心地が悪い。
 事の発端は、ジャポネに招かれたとある科学者の気紛れだった。

『そうだ、アヴリル 行こう』

 その一言は、あふろでぃあのキャスト達が誠心誠意、渾身のおもてなしで接待している真っ最中に放たれた。
 もちろんキャスト達は「俺らの接待じゃ物足りねーってのか」とブチ切れ――なかった。
 寧ろ一部キャストからは「接待とか面倒くさい」からの「キャストも経費で遊べるの? それ早く言ってよ」の手のひら返しである。

「いやァゲストが望んでるんだし仕方ないわよね~私達の分も必要経費よね~」
 熱い手のひら返しを披露した筆頭、MMMOON(ムムムーン)(浮月 十附)はメイドがメイドに接待されるというこの一風変わった状況にも動じない。寧ろルンルンでゲスト気分を満喫していた。
「グループのお客様ですね」
 シュウがキャストを代表し、恭しく頭を下げる。
「皆様のかけがえのない大切な時間が素晴らしいひとときとなるように、精一杯おもてなしさせていただきます。どうぞごゆっくりお過ごしください」
 そんな心の籠もった挨拶に、あふろでぃあご一行様は一様に「これが一流のホスピタリティ……!」と感動しきり。
 出発前には「敵状視察ってヤツかぁ? ふん、変わりモンの科学者どもをどうもてなして満足させてくれんのか、アヴリルのお手並み拝見ってとこか」などと思い切り斜に構えていたブラックジャックさえも、感動に震えおののく内心を隠しきれていなかった。
「どうぞ、こちらのお席へ」
 シュウの案内に従って奥へ進むと、真っ白なクロスに花いっぱいの花瓶と燭台が置かれたテーブルに、ゲストの数と同じだけのカトラリーが並べられていた。
 席に着こうとすると、それぞれの椅子の背後に控えた執事とメイドが一斉に動き、絶妙なタイミングで椅子が引かれる。あふろでぃあ御一行様はまるで号令でもかけられたように一糸乱れぬ動きで着席した。

(す、すげーです……!)
 まさかの同伴メンバー選出にひたすら震えて小さくなっている夕依(ゆい)(若松 宵子)は、自他共に認めるドジっ子鈍くさ系キャスト。
 自慢じゃないが何もない所で転ぶどころか、ただ立っているだけでも転ぶし、何なら座った椅子からも転げ落ちる超絶ドジっ子枠である。
 お客様に椅子を引いてあげようとして、椅子引き転倒事故になりかけた事も一度ならず。
 身内からはよく「所作等だけなら、ほんと所作とかだけなら(ここ重要なので二度言いました)、あふろでぃあよりアヴリルっぽいよね」などと言われるし、夕依自身も「もしかしたら、もしかするかも?」なんてドキドキワクワク興味津々で乗り込んで来たのだが。
(いやいやいや、鈍くさすぎて、ここでは絶対にやっていけねーですよ私……!)
 やだむりこわい。早く帰りたい。

「えっ、あの、私はキャストとしてお勉強のために来ているので……」
 生まれたてほやほやのアンドロイド、ラミー(ウルハ)は最初、着席を固辞するつもりだった。
 本日の主賓は科学者達、お相伴に与るキャスト陣は後方にひっそり控えているのが筋だと考えていたのだ。
 だが水月が放った一言に、ラミーの蒙は啓かれた。
「お屋敷にお戻りになれば、お嬢様も旦那様も皆平等に私どもの御主人様でございます」
 それはラミーのAIにシンギュラリティが起きた瞬間だったかもしれない。
「そうだな、ゲストとしておもてなしを受ける側になってみれば、色々と新しい発見があるかもしれん」
 自身の創造主(製作者)たるブラックジャックにも背を押され、ラミーはその隣に素直に腰を下ろした。

 全員の着席を確認すると、キャスト達は静かにその場を去った。
 ひとり残ったピンクのフラミンゴ型着ぐるみ(お客様のご要望に百パーセントお応えする為に作りました)執事兼メイドが、翼のような羽毛たっぷりの腕を広げ、恭しく頭を垂れる。
「本日、側仕えとして皆様のお手伝いをさせていただきます、ツバメイ・ド・アヴリル(アルフラミンゴ君)と申します。本日はアヴリルの……そしてマスターズカフェ5全キャストの模範となるべく、より完璧なおもてなしで皆様をお迎えいたしましょう」
 その姿に、USビイ(ユーエス・ビイ)(夷 熊蜂)は驚きと好奇心に満ちた目を輝かせた。
「おおきなとりの姿……!」
 その造形はお世辞にも美麗とは言い難いが、クルクルとよく動く目と独特の愛嬌ある顔立ちには、ついつい見入ってしまう不思議な魅力がある。
 そのふざけた(ようにしか見えない)外見に反した丁寧な言葉遣いや、シックな装い(燕尾服のスマートさとメイド服の瀟洒さを併せ持つクラシカルな衣装)、洗練された立ち居振る舞いにも驚かされた。
「一見異様な風体で、一気に非日常感を演出……!」
 異様と言えば執事のシュウも普通では有り得ない顔色をしている。何だかふわふわした感じの人だな、とも思ったが、実際にふわふわと浮かんでいた。
 もうひとり、異様に顔色が悪くて水っぽい感じの執事も見かけたし。
(アヴリルは格式の高い正統派カフェ、キャストの皆さんも伝統を重んじて選ばれるものとばかり思っていました……)
 着ぐるみや人外もOKなんて、目から鱗だった。ワクワクが止まらない。やはり百聞は一見に如かずだ。
 ビイにとっては、これが初めてのアヴリル訪問。絶好の機会と意気込んでいたが、どうやら予想以上の収穫が得られそうだ。
(アヴリルの接客術をじかに学んで、この経験、名前を付けて保存しなくては)
 どんな名前にしようかと考えていると、ツバメイが声をかけて来た。
「ご所望は執事でしょうか? それともメイドでしょうか? どちらも私がご提供致しましょう」
「データを取りt……いえ、是非ともお手本にさせていただきたいので、メイドさんでお願いします……!」
「かしこまりました、お嬢様」
 エプロンを軽く持ち上げ、膝を折って頭を下げる。
「ツバメイさま、ワタシには執事さんでお願いして良いかしら?」
 ラミーが静かに声を上げた。
(おもてなし、とは、お客様によって千差万別……)
 ブラックジャックから最初に教えられた(書き込まれた)事を心(メモリ)に思い浮かべる(呼び出してみる)。
(お一人お一人を想い、その方にとって良き想い出と寛ぎの時間を)
 けれど具体的にどうすればいいのか、ラミーにはまだまだデータと経験が足りなかった。
「今日はUSビイさまと一緒に、アヴリルの皆様から色々お勉強させていただきたいの。お一人で二役……執事とメイドをどのように切り替えるのか、とても興味があるわ」
「仰せの通りに、お嬢様」
 今度は片手を胸に当て、恭しく頭を下げた。
 声音も口調も変わらないが、纏う空気と所作が違う。よく観察すれば、他にも細かな差異が発見出来るに違いない。

 オーダーはアヴリルのサービスを心ゆくまで満喫してもらう為のスペシャルコース。
 ゲストはただおもてなしの波に身を委ね、流されるままにチヤホヤされるだけでいい。
 だがMMMOONだけは、安易に流される事を良しとしなかった。

「あァ、そっちは適当にやっといてよろしく」
 他の面々とは離れて勝手に席に座り、見目麗しい執事キャストを見繕って傍に侍らせる。
「キミとキミ、あ、そこのキミもイケてるじゃない? こっちでお喋りしましょ? お酌もお願いね、お店でいっちばん高いお酒頼んであげるから」
「かしこまりました、お嬢様」
 来る店を間違えているとしか思えないそんな無茶振りにも、笑顔で応える執事達。プロだ。
「遠慮しないで、もっと近くに来て良いのよ?」
 裾をはだけて足を組み、無自覚に胸の谷間を見せつけて来るふしだらなお嬢様。
 それでも執事達は「良家の子女にあるまじき不品行にございます」などとは言わない。嫌な顔ひとつせず、真摯かつ紳士的に対応してくれる。
 だってお客様は神様ですもの。
「流石はアヴリルってとこねェ……上質のオモテナシってぇのは本当気持ちいいわ~」
 MMMOONは調子に乗った。乗りに乗りまくった。
 おつまみを「あーん」で食べさせてもらい、シャンパンタワーを所望し、マッサージを要求し――

「お嬢様、どうぞこちらへ」
 ツバメイが恭しく頭を下げた。
「特別なお客様の為に、特別なお席をご用意させていただきました」
「なに、もしかしてVIPルームにご招待?」
 いいえ、店の裏です。ゴミバケツや瓶ビールのケースが重ねてあったりする、危険な香りのする場所です。

 その少し前。
「ツバメイ、ちょっといい?」
 自らも現場で働きつつ、アヴリルのキャストを束ねるプレイングマネージャーを務める水月が、手書きのメモをツバメイにそっと手渡す。
 そこにはMMMOONの入店から現在に至るまでの、好き勝手な振る舞いの数々がみっちりと書き込まれていた。
 客の我儘や好き勝手にも笑顔で応じるのがキャストの務めであるし、ある程度まではサービスの範囲に含まれる。けれど、それも度を越せばただの迷惑な客――いや、それはもはや客とは呼ばない。
 そしてMMMOONは、その一線を遥かに高く飛び越えていた。
「対応任せるわ。いない間の接待は任せて」

 その指示がなくても、ツバメイは同じ行動に出たことだろう。
「お話がございます」
 壁ドンの勢いで迫るピンクのフラミンゴ。
 被り物が外され、スキンヘッドのコワモテおじさんが現れた。
「残念でなりません。我らアヴリルのキャスト一同が全身全霊を込めた最高のおもてなし、お客様にもお気に召していただけるものと自信を持っておりましたのに」
 腰は低く、物言いは上品かつ丁寧だが、その意味する所は「うちはホスクラじゃねぇんだ姫になりたきゃ他所に行きやがれ」である。
「もしかして私、怒られてるのかしらァ〜?」
 それはMMMOONにも通じた。だが理解はしても、悔い改めるつもりはない。
 腹を抱えてケラケラ笑い飛ばす。
「でも私、お客様だし〜?」
「よろしゅうございます。ではこのまま、当店のサービスを心ゆくまでお楽しみください。アヴリルは如何なる要求にも見事お応えしてみせましょう」
 ツバメイはピンクの頭を被り直し、深々と腰を折った。
「ただし、コース外のオプションは別料金となります事を、ご承知おきくださいませ」
「良いわよ〜、いくらでも払っちゃう。私のお財布ちゃん(科学者)達がポケットマネーでね」

 その後、いつの間にか仲間のテーブルに合流したMMMOONは、借りてきた猫よりも大人しくなっていた。
 これ以上おいたが過ぎると通常のコース料金を含め全額自己負担にすると、お財布達に告げられたのだ。
 反省も後悔もない、あるのはただ「他人の金で飲み食いしたい」の一心のみであった。

「あの、ブラックジャックさま?」
 隣に座ったラミーに心配そうな顔を向けられ、ブラックジャックは襟元に突っ込んだ人差し指を慌てて引っ込めた。
「さっきから体温と心拍数、それに血圧が上昇傾向にあるけれど、大丈夫かしら?」
「いや、問題ない……なんつか、テーブルマナーとか言いそうな堅苦しい空気がよ……傅かれんのもどうにも面映ゆいっつーか」
 きっちりと着こなしたシャツの襟元も、僅かな緩みもない蝶ネクタイも、普段は全く気にならないのに、今日はやけに窮屈に感じて仕方がない。
(空気に呑まれるようなガラじゃねえのによ……)
 だがラミーの顔を見て、多少は落ち着いた。
「楽しいか?」
 突然の問いに一瞬だけ驚いた顔をして、ラミーは元気に「はい!」と答える。この笑顔がブラックジャックにとっては唯一無二の万能薬だ。隣よりも正面に座らせた方が良かったか、などと少しだけ後悔してみる。
 それにこうして隣り合っていると、どんなに観察力のない者でも気付くだろう。
 ブラックジャックのモチーフはダイヤとスペード、ラミーはハートとクラブ。対になったトランプ柄は二人の関係を声高に主張しているようで(普段キャストとしては適度に距離を置いている為、このさりげないお揃い感に気付かれる事は滅多にないのだが)、まことに気恥ずかしく、そしてまたちょっぴり嬉しくもあった。

 そこに、シュウがティーセットを乗せたワゴンを押して来る。
「アフタヌーンティーのお時間でございます」
 ポットから注いだばかりの紅茶が入ったティーカップを、音も立てずにテーブルに置いた。
(よし、完璧!)
 心の中でガッツポーズを決める見習い執事、だがその目に映ったのは、さりげなくカップの向きを整える水月の姿だった。
「はっ!」
 今更ながら気付く、全ての席でカップの左右が逆になっていた事に。
(しまった……!)
 どうしよう、間違いを詫びてやり直すべきか。けれど水月は何も言わず、当たり前のようにカップの向きを直している。
 シュウは助けを求めるようにツバメイを見た。
 しかしその顔(フラミンゴマスク)からは何の表情も読み取れない。マスクの下には優しく見守るような笑みがあった事など、シュウには知る由もなかった。
 本人としては「フォローに入る者が他にいる以上、手を出しては野暮ですからね」と思っていたのだが、その不動の姿勢は威嚇と受け取られてしまったようだ。
(ツバメイさんがハシビロコウさんに!?)
 ハシビロさんの不動は威嚇ではない(狩りをしてるだけ)ですけれども。

(こ、これは……っ!)
 目の前に置かれたカップに落とした夕依の目が、不自然に揺れる。
(向きが逆じゃねーですか! もしやあの執事、この私よりドジっ子……!?)
 勝手に親近感を感じてしまい、だからこそさりげなくフォローして(自分のカップは自分で直しますのでお構いなく!)あげたくなってしまったのが運の尽き。
「あっ!」
 ソーサーごとくるりと回そうとしたら、何故かカップがあいきゃんふらい!
 宙に浮き上がったカップは斜めに傾き、たっぷりと注がれたルビー色の液体が真っ白なクロスに――
 だが回避不能と思われた絶望の未来はいつまで経っても訪れない。時間が止まったのかと夕依は思った。
 その耳に、カチャリと微かな音が響く。
 飛んだ筈のカップが静かにソーサーに収まっていた。一滴も零さず、正しい向きで。
 顔を上げると、水月と目が合った。
 そう、彼女が惨劇を防いでくれたのだ、その驚異的な反射神経と動体視力その他諸々の熟練技を駆使して。
「大丈夫、どなたも気付かれていらっしゃいませんよ」
 微笑みなから夕依の耳元で囁き、何事もなかったかのように残りの場を整えた水月は、透明人間のように気配を消してバックヤードに下がって行った。

 慌ててそれを追いかけようとしたシュウの耳に、ラミーとビイが囁き交わす楽しげな声が飛び込んで来る。
「ちょっぴりドジっ子なシュウさま、癒やされるわね。ツバメイさまの見た目はコミカルながら卆のない給仕、そのギャップによる癒し枠ぶりは、格調高くも窮屈さを感じさせない絶妙さ……」
「そうですね、でも何か引っかかります……もしや、それさえも計算の上で……?」
「待ってUSビイさま。それじゃ、今の一連の動きも……ワタシ、あれはミスを修正しているものと解釈したけれど、まさか敢えての……?」
「はい。本来は一人で行うべき配膳を敢えて二人で……このサービスの手厚さと、両脇に人を侍らせる両手に花的なお大尽気分……!」
「素晴らしいわ、これが一流のおもてなしなのね!」
 もしかして、あふろでぃあの皆さん(約2名)誰もミスに気付いてない?
 だったらこのまま黙っていても……いやいや、指導役の水月にだけはきちんと謝っておかなければ。
 見習い執事は自分に厳しい、とても真面目な少年だった。

「水月さん、すみません、ありがとうございます!」
 謝罪とフォローの礼を伝えたシュウに、水月は一瞬だけ厳しい指導員の顔を見せた。
「左右の間違いも気を配ってね。小さな事だけど、そこからすら意識するのがアヴリルのおもてなしよ」
「はい、気を付けます」
 シュウが答えると、水月は真面目な堅物の仮面をポイッと脱ぎ捨てた。
「でもそこまでは完璧だったわ」
 客の反応を訂正しなかったのも正解だ。
「いっそアヴリル発の新しいおもてなしスタイルとして、正式に採用しても良いかも? うさぎ大王には何が受けるかわからないし、何でも試してみるのはアリよね」
 少し悪戯っぽく笑いながら、水月はメモ帳に何かを書き込んでいる。
(失敗を完璧にフォローした上に負い目も感じさせず、そればかりか新たな展開に繋げて行くその柔軟性……水月さんはやっぱりすごいや!)
 その姿を、シュウはキラキラと尊敬の眼差しで見つめるのだった。

 シュウが次に運んで来たのは、5段重ねのマカロンタワー。
 腕によりをかけて作った白と淡いピンクのマカロンを重ね、スポンジケーキの土台や砂糖細工の花はもちろん飴細工のリボンまで全て美味しく食べられる自信作だ。
「マカロンタワー……だと?」
 ブラックジャックが感嘆の声を上げた。
「上品な色艶と統一された大きさのマカロンを丁寧に積み重ね……あまつさえ精緻なデコレーションを加えた上に全てが食べられる……しかも美味い、食べなくてもわかる! 正に高貴な存在感……! これがアヴリルの本気……ッ!」
 あの「態度と物言いに難はあるが中身は裏表なく嘘も吐かず、忖度なく公正に評する」と言われる男がベタ褒めしている。
「このマカロン、テイクアウトは可能か?!」
 手放しで褒められ、シュウはキャストに許される限りの(嬉しそうに誇らしそうに)笑顔で応えた。

「マカロンタワーすげーです……!」
 夕依もキラキラと瞳を輝かせている。もっとよく見ようと身を乗り出し――
「あっ」
 バランスを崩してマカロンタワーに顔面ダイブ、と思いきやシュウの手が素早く伸びてタワーを救い、水月が倒れ込む夕依の身体をすかさず支える。
「お嬢様、ご無事で何よりです」
「あわ、あわわわわ……」
 もはや顔を青くして体をぷるぷる震わせるだけの生き物と化す夕依。
 だが目の前に綺麗にカットされたタワーの一角を差し出されれば、忽ち頬に血の気が戻る。
 トラブルの間も、他のキャスト達は何事もなかったように粛々とお茶会を遂行していたのだ。
(アヴリルのキャストさん達もはや神では……?)
 ゲストに対するフォローはもちろん、キャスト同士のフォローも完璧だ。
(もしかして私、ここなら輝けるんじゃねーです……?)
 後でちょっと相談してみようか、マジで。

 そして遂に、真打ちの登場である。
「さて、旦那様方、お嬢様方、おもてなしの時間ですよ」
 ダメックシュの言葉に、ゲスト達は一様に首を傾げた(既に充分なおもてなしを受けているのでは? これ以上何が?)。
「マッサージのご提供でございます」
 その疑問に、傍らの水月がにこやかに答えた。
「このダメックシュは職人気質ですので、自分の口からは多くを語りませんが……その腕前は私の他、アヴリルの全キャストが保証いたします」
 太鼓判を押された。
 うん、マッサージがすごいのはわかった。でも何でカフェでマッサージ?
「その答えは、どうぞご自身で体感なさってくださいませ」

 最初の生贄(違)は、MMMOONだった。
「技術に関わる方はどうしても疲れが溜まりやすい。きっちりと癒やさねばいけないね」
 ダメックシュが人間ならば、ポキポキと指の骨を鳴らす音が聞こえることだろう。だがその身体に骨はない。あるのは美容液の如き透明な青い液体のみ。
 その液体に、MMMOONの身体が沈んで行く。
「おやおや、研究に没頭するあまり自分のお手入れは疎かになっているようだね。札束のお風呂じゃ汚れが落ちないのはもちろん、心に汚れが溜まるばかりだよ?」
 普段なら、MMMOONはここで「余計なお世話」と反論するに違いない。
 だが全身丸ごと(衣装含めて)ツヤツヤピカピカになった今、中身も洗い流されて綺麗なMMMOONに生まれ変わっていた。

「次は髪の長い人がいいな」
 粘性の高い液体が夕依の全身をたぷんと包み込む。
「ロングヘアは頭皮に負荷がかかるものだよ。だからこそ頭をきっちりほぐしてあげると体にも良いんだ」
 水のように頭をほぐし、通常の洗髪では落としきれない汚れも落としつつ、同時に全身を揉みほぐして行く。
「はぁ……マッサージ極楽です……」
 相手がアンドロイドでも基本は同じ、ただ少し汚れや疲れの種類が異なるだけだ。
「頭から足先まで、疲れは凝りとして現れていくもの。だから全身しっかりやろう……!」
「もしやこのまま、ドジっ子属性も洗い流されたりしねーですか……?」
「ごめん、そこは無理(キミの個性)だし、洗い流したらダメなところだよね」
 綺麗になったMMMOONも、自分の店に戻る頃にはすっかり元通りになっているだろう。
「だから遠慮なく解されてよね。それでダメになるのは大歓迎だよ」
 このマッサージ師、またの名を「人をダメにする液体」という。

 その名の通り、あふろでぃあご一行様は次々とダメになっていった。
 カフェが癒やしを求めて訪れる場所であるなら、これは究極の癒やしだ。
 ブラックジャックが不安げに見守る中、ラミーの全身が液体に包み込まれる。
「ダメックシュさまのリラクゼーションは、おもてなしの新機軸ね! カフェでマッサージなんて、考えもつかなかったわ!」
 続いて施術を受けたビイも感嘆の声を上げた。
「種族の特性を生かしたおもてなし……これはエンパワメント!」
 もしや、これがオーナー様(人間)の言う「ととのう」という感覚なのだろうか。
 この記憶は是非とも別名で保存し、全USビイと共有しなければ。

 やがて一行は、カフェに来たとは思えないツルピカお肌と漲る気力、溢れる体力と共に帰途に就く。
「今回は世話になった、楽しませてもらったぜ」
 マカロンタワーの箱を大事に抱えたブラックジャックが、別人のように爽やかな(激レア)笑顔を見せる。
「今度はウチの店にも寄ってくれよ。あふろでぃあ流のもてなしで満足させてやるからよ」
 ラミーとビイも二人できゃっきゃしながら随分勉強になったと喜んでいるし、きっとアヴリルに負けないおもてなしが出来るだろう。
 いつかオフでゆっくり訪れてみるのも良い――もちろんラミーを誘って。
 そんな内心を窺い知る事は出来ないが、視線を向けられたラミーは嬉しそうに笑みを返す。
 彼の笑顔は、お客様の笑顔を超える一番の幸せなのだ。

「あの、あのあのあの、あのっ、ささささささサイン、してください」
 一行の背後では、アヴリルのキャスト達にサインやツーショットをねだる(強請る)夕依の声がいつまでも聞こえていたとか――

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0