辺獄の猟犬と炎の王
キャラクターノベル制作 コースケ納品 2024年05月04日 11時19分53秒
シグモル火山帯。ここは大陸上で最も劣悪な環境の一つと言われる。
その中でも特に過酷な場所があった。火山の内部に広がる空間であり、外界と隔絶され、不安定なエーテルにより変異した原生生物と、多数の這者による独自の生態系が広がる地下空間。
そこは“辺獄”と呼ばれていた。
●縄張り
辺獄に唸り声が響く。その主は鉱質を鎧のように身に纏うアーマーハウンドと呼ばれる魔獣に似ていた。
しかし、通常は体長5メートル程なのに対し、この個体はその倍以上の巨躯を持つ。明らかに尋常ではない存在である。
『グルル……』
その彼――アーマーハウンドの特異個体であるサピラ――は泉を警戒していた。
サピラの青と金の瞳が見つめる先には澄んだ水面が揺蕩っている。だが、彼の鋭敏な感覚はその一部が水ではない何かであり、脅威となることを本能的に見抜いていたのだ。
『ガウッ!』
周囲の石を澱で操作し、巨大な槍としたサピラは、泉の中心を狙ってそれを放つ!
槍は水の中心に突き刺ささって水飛沫を上げ、その直後、水面がうねるように波立つ。それは痛みに踠いている様にも見えた。
『ガウウッ!!』
攻撃が有効と見たサピラは、刃の様に鋭い無数の石片を浮かべ、泉全体に降り注がせる!
するとうねる水の底から眼球の様な器官が浮かび上がり、サピラを凝視する。次の瞬間、超高圧の水が射ち出されサピラを襲った!
『グルッ!』
サピラは前面に石片を集めて水の刃を防ぎ、反撃の石槍を放つ! 槍に目を貫かれたそれは動きを止め、煙の様に消滅していった。
●炎の王
辺獄の奥、地熱により通常の生物が近付かない一角に、一体の魔獣が微睡んでいた。
10メートルを超す蜥蜴の様な巨体は全身に炎を纏い、前傾した姿勢で二本脚で歩くこの魔獣は炎の王と呼ばれる、辺獄に生息する魔獣の中でもとりわけ強力な一体である。
そのフレイムレックスに、複数の影が忍び寄っていた――。
『ゴゥアッ!』
ねぐらで微睡んでいたレックスは、囲まれていることを察知し警告の声を上げる。
それは水の中に浮かぶ目玉を持つ這者達だった。それらは飢えているのか、警告に臆すること無く我先に向かって来る。
『ゴアァァーーッ!!』
彼は咆哮を上げ、身に纏う炎を揺らめかせ駆け出した!
這者は水の刃で迎え撃つが、彼は意に介さず突進し、顎まで裂けた口に並ぶナイフの様な牙で噛み付き振り回す!
這者は身体を沸騰させながら地面にべしゃりと打ち捨てられ、炎を纏う脚に踏み潰された!
通常、水のエーテルの特性を持つ魔物は火に強い。だが、小型這者程度では相性的に有利だろうと彼の相手ではない。
『ゴフー、フー』
脚の下の這者がジュウッと音を立て水蒸気となる。その音を聴きながら、彼は次の獲物へ顔を向けた。
●神徒
サピラの縄張りの泉のほとりで、二人の人物が話をしていた。彼らは神徒と呼ばれるこの地の脅威から人を守る武装集団であり、サピラの様子を見に時折やって来るのだ。
「水の身体の這者?」
「ええ。この泉に湧いて出たのをサピラが気付いて仕止めたのですが、どうやら他にも居る様で……」
「液体の身体なら、どんな隙間にも入り込めるな……」
その様子を、サピラは興味深そうに眺めていた。詳細は分からないが、先日の目玉の事を話していることは把握出来る。どうやら、あれが外に出ることを嫌がっているらしい。
縄張りに這者が居れば自分の餌が横取りされることの想像までも働くサピラは、縄張りを回るついでに駆除してやろうと腰を上げた。
「おや、行くのか?」
『グル……』
かって神徒に追われたこともあり、一時は彼らを警戒していたサピラだったが、二年近い時を辺獄で過ごし、ここにいる限りは危険視されない事を理解してからは、双方多少の緊張感を持ちつつも、こうして友好的に接するようになっていた。
「気をつけてな!」
神徒の声を背にサピラは駆け出した。
●多勢と王
這者を追ったフレイムレックスは、広大な空間に入り込んでいた。そこはエーテルが不安定であり、彼はここが這者達の出現場所であることを察する。
そこには炎や水、岩石と、空中に浮かび風を纏う目の姿をした無数の小型這者と、十数体の中型這者が存在し、彼を獲物と定め動き出した。
『ゴアァァー!!』
フレイムレックスは這者達の不遜に怒ったかの様に咆哮を上げ、溶岩の様に溶けた岩石を吐き出す!
その溶岩は地面に着弾すると周囲に弾け、多数の這者を巻き込んで焼き払った!
生き残った這者と周囲の這者が石の礫や水と炎、風の刃を打ち出す! その多くは身体が纏う炎に遮られ有効なダメージを与える事は出来ない。しかし、中型の攻撃は炎を貫いてレックスの身体を傷付けていた。
『フシュー』
浴びれば火傷しそうな呼気が吐き出される。
彼の巨躯からすれ傷は小さい。しかし、傷付けられた事が彼を激昂させ、這者の只中へ突進させる!
噛み付き、踏み、尾を叩き付け、溶岩弾を吐き出す。身に纏う炎に触れた這者は身を焼かれ、小型の這者なら二度、三度と触れるだけで焼滅する。身体を打つ無数の反撃にも怯まず這者の群を削ってゆく様は、まさに“暴君”だった。
『フー、カフー……』
フレイムレックスの荒い息が響く。身体のあちこちに傷を負い、酷い所は骨が露出していた。
それだけの代償を払った結果、数体の中型と、数十体の小型這者が屠られていた。
それでも尚、辺りには多数の這者が存在している。中でも、炎に強い水のエーテルを纏う中型は全てが健在であった。
『ゴアァァッ!!』
それでも彼は牙を突き立て一体を仕止める。だが、その間に複数の水の刃に身体を貫かれ、その身を包む炎が弱まってゆく。
フレイムレックスが弱ったことを察してか、離れていた小型や風を纏う中型も近付いて来る。もはや王の命は文字通り風前の灯火だった。それでも彼は闘う姿勢を崩さない。
『ゴァッ!』
消えかけた炎ごと命を奪うべく水の刃が放たれようとした時、真後ろから飛来した石の槍が、二体の這者の目を貫いた!
●共闘
『ガウッ!』
エーテルの残滓を残すサピラが石刃を放って這者達を追撃する。隠行の能力で近付いたサピラは、好機と見て奇襲をかけたのだ。
(こいつか)
クリーパーを攻撃しながら、サピラはフレイムレックスへ意識を向ける。度々気配を感じてはいたが、対面するのは初めてだった。
負傷しても尚、苛烈に這者に向かっていく所を見れば、その身に纏う炎の様に攻撃的な性質なのだろう。そして、サピラは奇妙な感覚を覚えていた。
(自分に似ている……?)
姿や性質は全く違う。しかしその威容にサピラは共感を感じる。彼もまた、自分と同じく同種とかけ離れてしまった特異個体なのだろう。
『ゴアァァッ!』
『!?』
そのフレイムレックスがサピラを向き、溶岩弾を吐き出す! 一瞬身構えたサピラだったが、溶岩弾は彼の頭上から風の刃を撃とうとしていた這者に命中し、刃はサピラをそれ地面を穿つ。
『ゴアッ』
『グルッ!』
先程の借りは返したとばかりに吠えるフレイムレックスに、溶岩弾に巻き込まれ石片の盾でそれを受け止めたサピラは抗議の声を上げるが、レックスは先程の借りは返したとばかりに目の前の這者に襲いかかっていた。
(乱暴な奴だ)
それでも、向こうにとって自分は敵では無いらしい。それに不思議な高揚を覚えつつ、サピラも頭上の這者へ石槍を放った。
その中でも特に過酷な場所があった。火山の内部に広がる空間であり、外界と隔絶され、不安定なエーテルにより変異した原生生物と、多数の這者による独自の生態系が広がる地下空間。
そこは“辺獄”と呼ばれていた。
●縄張り
辺獄に唸り声が響く。その主は鉱質を鎧のように身に纏うアーマーハウンドと呼ばれる魔獣に似ていた。
しかし、通常は体長5メートル程なのに対し、この個体はその倍以上の巨躯を持つ。明らかに尋常ではない存在である。
『グルル……』
その彼――アーマーハウンドの特異個体であるサピラ――は泉を警戒していた。
サピラの青と金の瞳が見つめる先には澄んだ水面が揺蕩っている。だが、彼の鋭敏な感覚はその一部が水ではない何かであり、脅威となることを本能的に見抜いていたのだ。
『ガウッ!』
周囲の石を澱で操作し、巨大な槍としたサピラは、泉の中心を狙ってそれを放つ!
槍は水の中心に突き刺ささって水飛沫を上げ、その直後、水面がうねるように波立つ。それは痛みに踠いている様にも見えた。
『ガウウッ!!』
攻撃が有効と見たサピラは、刃の様に鋭い無数の石片を浮かべ、泉全体に降り注がせる!
するとうねる水の底から眼球の様な器官が浮かび上がり、サピラを凝視する。次の瞬間、超高圧の水が射ち出されサピラを襲った!
『グルッ!』
サピラは前面に石片を集めて水の刃を防ぎ、反撃の石槍を放つ! 槍に目を貫かれたそれは動きを止め、煙の様に消滅していった。
●炎の王
辺獄の奥、地熱により通常の生物が近付かない一角に、一体の魔獣が微睡んでいた。
10メートルを超す蜥蜴の様な巨体は全身に炎を纏い、前傾した姿勢で二本脚で歩くこの魔獣は炎の王と呼ばれる、辺獄に生息する魔獣の中でもとりわけ強力な一体である。
そのフレイムレックスに、複数の影が忍び寄っていた――。
『ゴゥアッ!』
ねぐらで微睡んでいたレックスは、囲まれていることを察知し警告の声を上げる。
それは水の中に浮かぶ目玉を持つ這者達だった。それらは飢えているのか、警告に臆すること無く我先に向かって来る。
『ゴアァァーーッ!!』
彼は咆哮を上げ、身に纏う炎を揺らめかせ駆け出した!
這者は水の刃で迎え撃つが、彼は意に介さず突進し、顎まで裂けた口に並ぶナイフの様な牙で噛み付き振り回す!
這者は身体を沸騰させながら地面にべしゃりと打ち捨てられ、炎を纏う脚に踏み潰された!
通常、水のエーテルの特性を持つ魔物は火に強い。だが、小型這者程度では相性的に有利だろうと彼の相手ではない。
『ゴフー、フー』
脚の下の這者がジュウッと音を立て水蒸気となる。その音を聴きながら、彼は次の獲物へ顔を向けた。
●神徒
サピラの縄張りの泉のほとりで、二人の人物が話をしていた。彼らは神徒と呼ばれるこの地の脅威から人を守る武装集団であり、サピラの様子を見に時折やって来るのだ。
「水の身体の這者?」
「ええ。この泉に湧いて出たのをサピラが気付いて仕止めたのですが、どうやら他にも居る様で……」
「液体の身体なら、どんな隙間にも入り込めるな……」
その様子を、サピラは興味深そうに眺めていた。詳細は分からないが、先日の目玉の事を話していることは把握出来る。どうやら、あれが外に出ることを嫌がっているらしい。
縄張りに這者が居れば自分の餌が横取りされることの想像までも働くサピラは、縄張りを回るついでに駆除してやろうと腰を上げた。
「おや、行くのか?」
『グル……』
かって神徒に追われたこともあり、一時は彼らを警戒していたサピラだったが、二年近い時を辺獄で過ごし、ここにいる限りは危険視されない事を理解してからは、双方多少の緊張感を持ちつつも、こうして友好的に接するようになっていた。
「気をつけてな!」
神徒の声を背にサピラは駆け出した。
●多勢と王
這者を追ったフレイムレックスは、広大な空間に入り込んでいた。そこはエーテルが不安定であり、彼はここが這者達の出現場所であることを察する。
そこには炎や水、岩石と、空中に浮かび風を纏う目の姿をした無数の小型這者と、十数体の中型這者が存在し、彼を獲物と定め動き出した。
『ゴアァァー!!』
フレイムレックスは這者達の不遜に怒ったかの様に咆哮を上げ、溶岩の様に溶けた岩石を吐き出す!
その溶岩は地面に着弾すると周囲に弾け、多数の這者を巻き込んで焼き払った!
生き残った這者と周囲の這者が石の礫や水と炎、風の刃を打ち出す! その多くは身体が纏う炎に遮られ有効なダメージを与える事は出来ない。しかし、中型の攻撃は炎を貫いてレックスの身体を傷付けていた。
『フシュー』
浴びれば火傷しそうな呼気が吐き出される。
彼の巨躯からすれ傷は小さい。しかし、傷付けられた事が彼を激昂させ、這者の只中へ突進させる!
噛み付き、踏み、尾を叩き付け、溶岩弾を吐き出す。身に纏う炎に触れた這者は身を焼かれ、小型の這者なら二度、三度と触れるだけで焼滅する。身体を打つ無数の反撃にも怯まず這者の群を削ってゆく様は、まさに“暴君”だった。
『フー、カフー……』
フレイムレックスの荒い息が響く。身体のあちこちに傷を負い、酷い所は骨が露出していた。
それだけの代償を払った結果、数体の中型と、数十体の小型這者が屠られていた。
それでも尚、辺りには多数の這者が存在している。中でも、炎に強い水のエーテルを纏う中型は全てが健在であった。
『ゴアァァッ!!』
それでも彼は牙を突き立て一体を仕止める。だが、その間に複数の水の刃に身体を貫かれ、その身を包む炎が弱まってゆく。
フレイムレックスが弱ったことを察してか、離れていた小型や風を纏う中型も近付いて来る。もはや王の命は文字通り風前の灯火だった。それでも彼は闘う姿勢を崩さない。
『ゴァッ!』
消えかけた炎ごと命を奪うべく水の刃が放たれようとした時、真後ろから飛来した石の槍が、二体の這者の目を貫いた!
●共闘
『ガウッ!』
エーテルの残滓を残すサピラが石刃を放って這者達を追撃する。隠行の能力で近付いたサピラは、好機と見て奇襲をかけたのだ。
(こいつか)
クリーパーを攻撃しながら、サピラはフレイムレックスへ意識を向ける。度々気配を感じてはいたが、対面するのは初めてだった。
負傷しても尚、苛烈に這者に向かっていく所を見れば、その身に纏う炎の様に攻撃的な性質なのだろう。そして、サピラは奇妙な感覚を覚えていた。
(自分に似ている……?)
姿や性質は全く違う。しかしその威容にサピラは共感を感じる。彼もまた、自分と同じく同種とかけ離れてしまった特異個体なのだろう。
『ゴアァァッ!』
『!?』
そのフレイムレックスがサピラを向き、溶岩弾を吐き出す! 一瞬身構えたサピラだったが、溶岩弾は彼の頭上から風の刃を撃とうとしていた這者に命中し、刃はサピラをそれ地面を穿つ。
『ゴアッ』
『グルッ!』
先程の借りは返したとばかりに吠えるフレイムレックスに、溶岩弾に巻き込まれ石片の盾でそれを受け止めたサピラは抗議の声を上げるが、レックスは先程の借りは返したとばかりに目の前の這者に襲いかかっていた。
(乱暴な奴だ)
それでも、向こうにとって自分は敵では無いらしい。それに不思議な高揚を覚えつつ、サピラも頭上の這者へ石槍を放った。