暇つぶしは紙とインクの匂いと共に
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年12月27日 19時51分17秒
「ったく、なんで俺がこんなとこに……」
泣き声を上げる腹を摩りながら、ナハシュは紙とインクと若干の埃臭さに包まれた空間を歩く。
ここはパンクリアース学園大図書館。
聖霊節に行われる学生イベントに参加する為、学園を訪れていたのだが……。
「連れてくるだけ連れてきて、放置かよ」
階下の閲覧席で本の山に囲まれる友人を見下ろし、悪態をつく。
このままこっそり抜けてやろうかとも考えたが、後日の報復を考えると割に合わない。
「ったく、どうしろってんだ。ご一緒に本でも読めってか? 俺が本を? うへぇ、似合わねぇ……」
お喋り禁止の大図書館をぶつぶつと文句を垂れながら歩いていたものだから、案の定、声をかけられた。
「すみません」
きっちりそろえられた緑色の髪と眼鏡が印象的な、ヒューマンの女。
学生かと思ったが、腕に腕章付けてるからたぶん司書か何かだな。
「呼んだか?」
別に警戒するものでもないし、暇つぶしになればいいかと、ナハシュは女の声に答える。
「何かお探しですか? よろしければご案内しますが」
「別にそういう訳じゃねぇんだけどな」
やっぱり司書か。それにしても、わざわざ声かけてくるなんて暇してんのか?
「なんか暇をつぶせるものでもありゃ――」
「やっぱり本をお探しだったんですね! ここは沢山の本がありますから、きっと貴方にとって運命の本が埋もれているはずです! どんなジャンルがお好みですか? まだお若くてらっしゃるから冒険譚とかでしょうか……いえ、少し内容が幼すぎますね。うーん、でしたら――」
やたら早口に喋るし、表情がころころ変わるし、なんだこいつ……。
半歩退くナハシュにぐいぐい迫ってくる司書の女史。時折ズレた眼鏡をグイッと持ち上げつつ、本について暑苦しいまでの情熱をもってナハシュに推してくる。
「ちょ、ちょっと待て。俺ぁは本なんか読まねぇし、読めねぇよ」
「読めない! はっ、私とした事が気付きませんでした、すみません! 本を読みたいけれど、字が読めずに困っている。そういう事ですね!」
「ちげぇよ!? どう聞いたらそうなるんだ! 俺はただ連れが本を読んでる間の暇つぶしを探してるだけだ!」
顔先数cmまで迫っていた司書に説明してやると、目をぱちくり。首を傾げやがる。
「……本に興味がない? えっ、そんな、まさか」
信じられないと呟きながら、司書は二歩三歩とじりじりと後退した。
「いやいや……なんで引かれてんだよ……」
まるで怪物でも見る様に、顔をしかめる司書。
「あの……本当に本にご興味ないんですか?」
今度は目を潤ませ見上げてくる。ほんところころとよく表情が変わるもんだ……。
「まぁ、興味はなくねぇよ。ただ、本を読めるような環境に居なかったからな。字に触れる機会がなかったんだ」
「なーんだ、そういう事だったんですね!」
今度は腰に手を当てドヤ顔。一体どういう仕組みで動いてんだ、こいつ。
「それなら、是非触れるべきです! 何か興味のある事はないですか? 大陸広しといえど、ここまでの蔵書を誇る図書館は数える程です! きっと貴方にピッタリな一冊が見つかるはずです!」
「お、おう……」
びしっと人差し指を突きつけてくる司書。
司書がこんなやかましくて……学園の人事大丈夫か?
「それじゃ……骨董の本はある――」
「骨董ですね! なかなか渋い趣味をしてらっしゃる! ええ、もちろんありますとも。こちらです、さささ、お早く!」
かぶせ気味に答えてくる司書に手を引っ張られ階段を駆け下りる。
今日は引きずられてばっかだな……てか、図書館で走るんじゃねぇよ。
「こちらです!」
司書が再び手を腰に当て鼻息荒く本棚を指した。
「お、おう。ありがとよ」
「いえ、これも司書の仕事ですから!」
「……そうか、大変だな」
「そんなことありません! 本を愛する者の為に働けて私は幸せです!」
「そ、そうか。よかったな天職に恵まれて」
「はいっ! ほんと、雇っていただいてる学園には足を向けて寝られません!」
「よっぽど本が好きなんだな」
「それはもう! 三食昼寝を抜いても死にませんが、本が無いと死んでしまいますから!」
「いや、逆だろそれ……」
グッと拳を握る司書を放っておいて、ナハシュは本棚に向かう。
流石、大陸でも屈指の学園の図書館だけあってか、見た事もない本がたくさんある。
ナハシュは、適当な一冊を手に取ると表紙を捲り――。
「なんとお目が高い! 『ヴェルクリエにおける古紋具と技術革新について。著:ヘルブリット・ケストラー』を選ぶとは!」
「……は?」
「それはですね、かの有名な奇人ヘルブリットが晩年に著した名作で、紋具の数々が――」
感極まっているのか瞳に光るものを浮かべながら、滔々と語りだす司書。
「……なぁ」
「――実に独特の切り口で紋具に込める魔法の評をしているのがこの著者の特徴で――」
「おーい」
「はい! 何でしょうか! 他のおすすめですか? この棚の中ででしたら、そうですね……」
「違ぇよ! ちょっと落ち着けって」
「えっ……なんでしょう?」
「お前、人の話聞かないってよく言われねぇか?」
「う゛っ……どうしてそれを」
ギクッと身を竦ませ左胸に手を当てる司書が、恐る恐る聞いてくる。
「あ、やっぱ言われてんだな。まぁ、仕事熱心なのはわかったからよ。あんま字を知らない奴でも読める本を見繕ってくれるか?」
「任せてください! それでしたら、この辺の本がお勧めですね! 絵が多く図鑑の様になっています! これでしたら字を読まなくても雰囲気を感じられますし、おおよその価値も書かれているから、鑑定師の方とかも時折見に来られるんですよ!」
「へぇ、そりゃ面白そうだ」
「そうでしょう! この本は大陸広しといえどもこの図書館にしかない貴重な一品ですからね!」
「そんな大切なもん、よそもんに見せて大丈夫なのか?」
「はい! その為に私がついていますので!」
「なんだ、監視役か」
「あ……あの、ご気分悪くされましたか?」
どこか申し訳なさそうに問いかけてくる司書に、ナハシュは真剣な表情を浮かべる。
「いや、仕事で付き合ってくれてただけだってのが、地味にショックだっただけだ」
「え……」
「本は置いといて。どうだ、これから俺と」
「あの……そんな、困りま――」
司書はもじもじと俯くと、ごにょごにょと何やら呟いている。
その姿があまりにも滑稽で――。
「ぶはっ!」
突然吹き出したナハシュを、司書は呆然と見つめる。
「わりぃわりぃ、冗談が過ぎた」
「じょ、冗談だったんですか!?」
「逆に本気だと思ったほうに驚きだ!?」
目を見開く司書に、ナハシュは悪かったなと謝った。
「おっと、それじゃそろそろ行くわ。面白かったぜ、ありがとな」
「え? あれ……本はお持ちにならないんですか?」
軽く手を上げ棚から離れるナハシュに、司書は首をかしげる。
「言っただろ、暇潰しに来ただけだってよ」
言ってナハシュは閲覧席を指さす。
そこでは連れがナハシュの姿を探していた。
「また機会があれば寄らせてもらうぜ。あと、図書館では静かにな?」
「う゛っ……」
ナハシュは人差し指を口に当て、両手で口元を押さえる司書に別れを告げる。
「さて、何を奢らせてやるかな。散々待たせたぶん、たっぷり搾り取ってやるぜ」
悪戯な笑みを浮かべたナハシュは、足取り軽く連れの待つ閲覧席に向かっていった――。
泣き声を上げる腹を摩りながら、ナハシュは紙とインクと若干の埃臭さに包まれた空間を歩く。
ここはパンクリアース学園大図書館。
聖霊節に行われる学生イベントに参加する為、学園を訪れていたのだが……。
「連れてくるだけ連れてきて、放置かよ」
階下の閲覧席で本の山に囲まれる友人を見下ろし、悪態をつく。
このままこっそり抜けてやろうかとも考えたが、後日の報復を考えると割に合わない。
「ったく、どうしろってんだ。ご一緒に本でも読めってか? 俺が本を? うへぇ、似合わねぇ……」
お喋り禁止の大図書館をぶつぶつと文句を垂れながら歩いていたものだから、案の定、声をかけられた。
「すみません」
きっちりそろえられた緑色の髪と眼鏡が印象的な、ヒューマンの女。
学生かと思ったが、腕に腕章付けてるからたぶん司書か何かだな。
「呼んだか?」
別に警戒するものでもないし、暇つぶしになればいいかと、ナハシュは女の声に答える。
「何かお探しですか? よろしければご案内しますが」
「別にそういう訳じゃねぇんだけどな」
やっぱり司書か。それにしても、わざわざ声かけてくるなんて暇してんのか?
「なんか暇をつぶせるものでもありゃ――」
「やっぱり本をお探しだったんですね! ここは沢山の本がありますから、きっと貴方にとって運命の本が埋もれているはずです! どんなジャンルがお好みですか? まだお若くてらっしゃるから冒険譚とかでしょうか……いえ、少し内容が幼すぎますね。うーん、でしたら――」
やたら早口に喋るし、表情がころころ変わるし、なんだこいつ……。
半歩退くナハシュにぐいぐい迫ってくる司書の女史。時折ズレた眼鏡をグイッと持ち上げつつ、本について暑苦しいまでの情熱をもってナハシュに推してくる。
「ちょ、ちょっと待て。俺ぁは本なんか読まねぇし、読めねぇよ」
「読めない! はっ、私とした事が気付きませんでした、すみません! 本を読みたいけれど、字が読めずに困っている。そういう事ですね!」
「ちげぇよ!? どう聞いたらそうなるんだ! 俺はただ連れが本を読んでる間の暇つぶしを探してるだけだ!」
顔先数cmまで迫っていた司書に説明してやると、目をぱちくり。首を傾げやがる。
「……本に興味がない? えっ、そんな、まさか」
信じられないと呟きながら、司書は二歩三歩とじりじりと後退した。
「いやいや……なんで引かれてんだよ……」
まるで怪物でも見る様に、顔をしかめる司書。
「あの……本当に本にご興味ないんですか?」
今度は目を潤ませ見上げてくる。ほんところころとよく表情が変わるもんだ……。
「まぁ、興味はなくねぇよ。ただ、本を読めるような環境に居なかったからな。字に触れる機会がなかったんだ」
「なーんだ、そういう事だったんですね!」
今度は腰に手を当てドヤ顔。一体どういう仕組みで動いてんだ、こいつ。
「それなら、是非触れるべきです! 何か興味のある事はないですか? 大陸広しといえど、ここまでの蔵書を誇る図書館は数える程です! きっと貴方にピッタリな一冊が見つかるはずです!」
「お、おう……」
びしっと人差し指を突きつけてくる司書。
司書がこんなやかましくて……学園の人事大丈夫か?
「それじゃ……骨董の本はある――」
「骨董ですね! なかなか渋い趣味をしてらっしゃる! ええ、もちろんありますとも。こちらです、さささ、お早く!」
かぶせ気味に答えてくる司書に手を引っ張られ階段を駆け下りる。
今日は引きずられてばっかだな……てか、図書館で走るんじゃねぇよ。
「こちらです!」
司書が再び手を腰に当て鼻息荒く本棚を指した。
「お、おう。ありがとよ」
「いえ、これも司書の仕事ですから!」
「……そうか、大変だな」
「そんなことありません! 本を愛する者の為に働けて私は幸せです!」
「そ、そうか。よかったな天職に恵まれて」
「はいっ! ほんと、雇っていただいてる学園には足を向けて寝られません!」
「よっぽど本が好きなんだな」
「それはもう! 三食昼寝を抜いても死にませんが、本が無いと死んでしまいますから!」
「いや、逆だろそれ……」
グッと拳を握る司書を放っておいて、ナハシュは本棚に向かう。
流石、大陸でも屈指の学園の図書館だけあってか、見た事もない本がたくさんある。
ナハシュは、適当な一冊を手に取ると表紙を捲り――。
「なんとお目が高い! 『ヴェルクリエにおける古紋具と技術革新について。著:ヘルブリット・ケストラー』を選ぶとは!」
「……は?」
「それはですね、かの有名な奇人ヘルブリットが晩年に著した名作で、紋具の数々が――」
感極まっているのか瞳に光るものを浮かべながら、滔々と語りだす司書。
「……なぁ」
「――実に独特の切り口で紋具に込める魔法の評をしているのがこの著者の特徴で――」
「おーい」
「はい! 何でしょうか! 他のおすすめですか? この棚の中ででしたら、そうですね……」
「違ぇよ! ちょっと落ち着けって」
「えっ……なんでしょう?」
「お前、人の話聞かないってよく言われねぇか?」
「う゛っ……どうしてそれを」
ギクッと身を竦ませ左胸に手を当てる司書が、恐る恐る聞いてくる。
「あ、やっぱ言われてんだな。まぁ、仕事熱心なのはわかったからよ。あんま字を知らない奴でも読める本を見繕ってくれるか?」
「任せてください! それでしたら、この辺の本がお勧めですね! 絵が多く図鑑の様になっています! これでしたら字を読まなくても雰囲気を感じられますし、おおよその価値も書かれているから、鑑定師の方とかも時折見に来られるんですよ!」
「へぇ、そりゃ面白そうだ」
「そうでしょう! この本は大陸広しといえどもこの図書館にしかない貴重な一品ですからね!」
「そんな大切なもん、よそもんに見せて大丈夫なのか?」
「はい! その為に私がついていますので!」
「なんだ、監視役か」
「あ……あの、ご気分悪くされましたか?」
どこか申し訳なさそうに問いかけてくる司書に、ナハシュは真剣な表情を浮かべる。
「いや、仕事で付き合ってくれてただけだってのが、地味にショックだっただけだ」
「え……」
「本は置いといて。どうだ、これから俺と」
「あの……そんな、困りま――」
司書はもじもじと俯くと、ごにょごにょと何やら呟いている。
その姿があまりにも滑稽で――。
「ぶはっ!」
突然吹き出したナハシュを、司書は呆然と見つめる。
「わりぃわりぃ、冗談が過ぎた」
「じょ、冗談だったんですか!?」
「逆に本気だと思ったほうに驚きだ!?」
目を見開く司書に、ナハシュは悪かったなと謝った。
「おっと、それじゃそろそろ行くわ。面白かったぜ、ありがとな」
「え? あれ……本はお持ちにならないんですか?」
軽く手を上げ棚から離れるナハシュに、司書は首をかしげる。
「言っただろ、暇潰しに来ただけだってよ」
言ってナハシュは閲覧席を指さす。
そこでは連れがナハシュの姿を探していた。
「また機会があれば寄らせてもらうぜ。あと、図書館では静かにな?」
「う゛っ……」
ナハシュは人差し指を口に当て、両手で口元を押さえる司書に別れを告げる。
「さて、何を奢らせてやるかな。散々待たせたぶん、たっぷり搾り取ってやるぜ」
悪戯な笑みを浮かべたナハシュは、足取り軽く連れの待つ閲覧席に向かっていった――。