これは特別でございます
四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)サロン・ド・アヴリル制作 小緑 一滴納品 2024年04月07日 15時52分33秒
濃赤紫色のメイド服を着こなし、表情は柔らかく、所作は優雅に。
それでいて水月の神経は注意深く張り巡らされていた。
三人の男性客に対応中の若い執事が困っていると、誰よりも先に水月が気づく。三人とも伝統的かつ小洒落た服装の紳士達だ。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「幼馴染を二人連れてきたよ。僕らは腹を空かせた悪ガキどもで、よく厨房に忍び込んで料理長に叱られていたっけな」
「ええ。幼い頃の旦那様方の活発さは料理長からうかがっておりますわ」
ここが生家であるかのようなやりとり。これもおもてなしの一つだ。
イタズラっぽい表情で紳士が水月に難題を出す。
「アフタヌーンティーを。ただし僕らの心を満たす特別なものをね」
それ以上のヒントはなし。サロン・ド・アヴリルのお手並み拝見といった様子だ。
明らかに店を試す目的の注文。若執事は助けを求める顔で水月を見る。
「承りましたわ」
優雅な一礼の後、水月は料理場へ向かう。
実際には厨房に紳士達の幼少期をしる料理長はおらず、難題に応えられるのは水月しかいない。会話後すぐ記したメモを開いてふり返る。紳士が発した言葉の一つ一つを吟味して、その要望の真意を探る。
どういったおもてなしをするか。そのために適任のキャストは誰か。水月は速やかに具体的な計画を立てていく。
「お待たせいたしました」
旦那様方よりも年上に見える、店内で最も年配のメイドが水月と共に給仕につく。各キャストの持ち味を活かしてお客様が満足するサービスを提供する。それが水月の流儀だ。
三段重ねのスタンドを彩る食べ物は、どれも手づかみに向いている。ハムとキュウリのサンドイッチにクリームチーズのカナッペ。スコーンとクッキーは焼き立てだ。一口サイズのチェリーパイと苺のタルト。
お腹を空かせた子供が厨房に忍び込んですることなんて、つまみ喰い以外にない。
夕食前のつまみ喰いを品良く再現したアフタヌーンティーをお出しした。
アフタヌーンティーの支度を整えた後、水月は料理場の方をうかがってから小さな声でこう告げた。
「大丈夫ですわ。料理長にはまだ気づかれておりません。……お夕食が入らなくなっては大変です。これは特別でございます」
老メイドも頷きながら微笑んで元悪童達のつまみ喰いを見守った。
紳士達の顔に満足げな表情が浮かぶ。目尻の端に懐古の涙。
これこそが、水月達がお届けする、最上のおもてなし。
それでいて水月の神経は注意深く張り巡らされていた。
三人の男性客に対応中の若い執事が困っていると、誰よりも先に水月が気づく。三人とも伝統的かつ小洒落た服装の紳士達だ。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「幼馴染を二人連れてきたよ。僕らは腹を空かせた悪ガキどもで、よく厨房に忍び込んで料理長に叱られていたっけな」
「ええ。幼い頃の旦那様方の活発さは料理長からうかがっておりますわ」
ここが生家であるかのようなやりとり。これもおもてなしの一つだ。
イタズラっぽい表情で紳士が水月に難題を出す。
「アフタヌーンティーを。ただし僕らの心を満たす特別なものをね」
それ以上のヒントはなし。サロン・ド・アヴリルのお手並み拝見といった様子だ。
明らかに店を試す目的の注文。若執事は助けを求める顔で水月を見る。
「承りましたわ」
優雅な一礼の後、水月は料理場へ向かう。
実際には厨房に紳士達の幼少期をしる料理長はおらず、難題に応えられるのは水月しかいない。会話後すぐ記したメモを開いてふり返る。紳士が発した言葉の一つ一つを吟味して、その要望の真意を探る。
どういったおもてなしをするか。そのために適任のキャストは誰か。水月は速やかに具体的な計画を立てていく。
「お待たせいたしました」
旦那様方よりも年上に見える、店内で最も年配のメイドが水月と共に給仕につく。各キャストの持ち味を活かしてお客様が満足するサービスを提供する。それが水月の流儀だ。
三段重ねのスタンドを彩る食べ物は、どれも手づかみに向いている。ハムとキュウリのサンドイッチにクリームチーズのカナッペ。スコーンとクッキーは焼き立てだ。一口サイズのチェリーパイと苺のタルト。
お腹を空かせた子供が厨房に忍び込んですることなんて、つまみ喰い以外にない。
夕食前のつまみ喰いを品良く再現したアフタヌーンティーをお出しした。
アフタヌーンティーの支度を整えた後、水月は料理場の方をうかがってから小さな声でこう告げた。
「大丈夫ですわ。料理長にはまだ気づかれておりません。……お夕食が入らなくなっては大変です。これは特別でございます」
老メイドも頷きながら微笑んで元悪童達のつまみ喰いを見守った。
紳士達の顔に満足げな表情が浮かぶ。目尻の端に懐古の涙。
これこそが、水月達がお届けする、最上のおもてなし。