機械仕掛けの箱庭
四月カフェ狂想曲 イベントノベル(テーマ)らぼカフェ☆あふろでぃあ制作 阿瀬 春納品 2024年04月06日 12時23分56秒
「いらっしゃい」
薄藤色したシルクのシャツを栗色の髪がひと房さらりと滑り落ちる。
「また来てくれて嬉しいよ」
王侯貴族もかくやはと思わせるほどに優雅なお辞儀のあとには、蜂蜜ほどにも甘い声音と笑顔。
髪と同じ色した馬型つけ耳をふわり、ギャルソン風の制服から垂れる艶やかな尻尾もふわり。
ネオン装飾の回転扉を抑えていた手は、気づけばこちらのコートを脱がせるべくそっと肩に掛かっている。洗練された挙動になされるがままコートを脱ぎ、
「こちらへ」
エスコートのために伸ばされる手を取る。
「今日も俺に――エヴァーグリーンに会いに来てくれたのかい?」
挙動はどこまでも紳士のその癖、時折投げかけてくるまなざしに眩暈をおこすほどの色香を感じてしまう。
くらくらしながらやっとの思いで頷けば、エヴァーグリーンは完璧な笑顔を浮かべてくれた。
息も忘れて見つめるうち、蛍光グリーンの謎液体で満たされたポッド脇のテーブルに案内される。自律AIスライム型ソファがもにもに動き、こちらの身長体格に最適なかたちとなった。
「さあ、どうぞ」
試験管パフェにビーカークリームソーダにホムンクルスゼリー、らぼカフェ☆あふろでぃあロスガリア店おすすめメニューを映すタブレット端末を受け取る。また呼んでね、と去る佇まいの良い背中をうっとり見送っていると、
「おや」
甘くも凛々しい声音が背後に聞こえた。
振り向くより先、彼女の香が鼻先に触れる。香水ではないのに、仄かに微かに、けれど確かに甘く瑞々しい薔薇の香。
「またこの僕に会いにきてくれたのかい?」
馥郁とした風さえ感じさせる足取りで近づいて、お姫さまを迎える王子さまのように傍らに膝をついてくれるのは、この店における己のもうひとりの推し、クリムローズ。
ツインテールに結った薔薇色の長い髪には馬型つけ耳、豊かな胸元につい目がいってしまうデザインながらもキュートなメイド服風制服のヒップからはたおやかに揺れる馬の尻尾。愛らしさ全開の姿のその癖、
「少し顔色が悪いな」
体温も高めだ、とひやりとした細い指先で額に触れるスマートな仕種も甘い言葉も、まるで女子高の王子さまのよう。
「お疲れな君には特製ドリンクを用意しようか」
蜜色の瞳に優しく見つめられるまま、こくこくと頷くことしかできずにいると、クリムローズは鷹揚な笑みを浮かべてくれた。
「……君を誰より思っているのはこの僕なのだから」
耳元に囁かれる言葉に思わず赤面する。くすりとまた笑み、彼女は凛と背を伸ばした。打って変わって鋭いまなざしで見遣るのは、別の客をもてなすエヴァーグリーン。
「あのいやらしい緑の言うことは真に受けない方がいい」
●
近未来サイバー風の内装とケモミミケモ尻尾つきのキャストが魅力のカフェ、らぼカフェ☆あふろでぃあ――その店舗のひとつ、ロスガリア支店には看板キャストがふたり居る。
(エヴァーグリーンとクリムローズ……)
スライムソファに身を沈め、謎ポッドの間のテーブルを優雅に行き来するふたりを見つめる。
お揃いの馬耳に馬尻尾、極めつけはお揃いのチョーカー。ふたりは『公式設定』によれば『ペア運用前提の愛玩用アンドロイド』の片割れ同士だ。
その証拠に、エヴァーグリーンだけがクリムローズを『クリム』と呼ぶ。呼ぶことを許されている。
いつだったか、彼女を『クリムちゃん』と呼んだ勘違い男がクリムローズの絶対零度の視線を受け、エヴァーグリーンに優しくも低い声で、
――そう呼べるのは私だけにございます
表向きはあくまでも紳士的に叱責される現場を目撃したことがある。
クリムローズはエヴァーグリーンのことを『アレ』『あの男』、ひいては『いやらしい緑』などとどこか蔑んだような呼び方をするが、大体の常連は知っている。あれは嫉妬だ。ヤキモチだ。
お客へのおもてなしはしっかり行うものの、その時々に交わるふたりの視線は一見鋭いように見えて、その奥に甘く熱い色が潜んでいる。
――僕の番のくせに、ちやほやされすぎだ
――俺の全てはクリムのものだ、知っているだろう
――エヴァ、私だけのエヴァーグリーン……
もしかしたら、あのチョーカーはどちらかがどちらかの首筋に唇を寄せた痕を隠すものかもしれない。だったらとてもとても滾る――
「お待たせ、特製ドリンクだよ」
「俺と話したくなったらいつでも呼ぶといい」
「いやらしい緑は無視して僕と話そう」
不埒な妄想を繰り広げていたことをおくびにも出さず、アリガトウゴザイマスと口にする。うっかり妄想を口にして出禁にでもされたらたまらない。
だってまだまだ、あのふたりを見つめていたい。
薄藤色したシルクのシャツを栗色の髪がひと房さらりと滑り落ちる。
「また来てくれて嬉しいよ」
王侯貴族もかくやはと思わせるほどに優雅なお辞儀のあとには、蜂蜜ほどにも甘い声音と笑顔。
髪と同じ色した馬型つけ耳をふわり、ギャルソン風の制服から垂れる艶やかな尻尾もふわり。
ネオン装飾の回転扉を抑えていた手は、気づけばこちらのコートを脱がせるべくそっと肩に掛かっている。洗練された挙動になされるがままコートを脱ぎ、
「こちらへ」
エスコートのために伸ばされる手を取る。
「今日も俺に――エヴァーグリーンに会いに来てくれたのかい?」
挙動はどこまでも紳士のその癖、時折投げかけてくるまなざしに眩暈をおこすほどの色香を感じてしまう。
くらくらしながらやっとの思いで頷けば、エヴァーグリーンは完璧な笑顔を浮かべてくれた。
息も忘れて見つめるうち、蛍光グリーンの謎液体で満たされたポッド脇のテーブルに案内される。自律AIスライム型ソファがもにもに動き、こちらの身長体格に最適なかたちとなった。
「さあ、どうぞ」
試験管パフェにビーカークリームソーダにホムンクルスゼリー、らぼカフェ☆あふろでぃあロスガリア店おすすめメニューを映すタブレット端末を受け取る。また呼んでね、と去る佇まいの良い背中をうっとり見送っていると、
「おや」
甘くも凛々しい声音が背後に聞こえた。
振り向くより先、彼女の香が鼻先に触れる。香水ではないのに、仄かに微かに、けれど確かに甘く瑞々しい薔薇の香。
「またこの僕に会いにきてくれたのかい?」
馥郁とした風さえ感じさせる足取りで近づいて、お姫さまを迎える王子さまのように傍らに膝をついてくれるのは、この店における己のもうひとりの推し、クリムローズ。
ツインテールに結った薔薇色の長い髪には馬型つけ耳、豊かな胸元につい目がいってしまうデザインながらもキュートなメイド服風制服のヒップからはたおやかに揺れる馬の尻尾。愛らしさ全開の姿のその癖、
「少し顔色が悪いな」
体温も高めだ、とひやりとした細い指先で額に触れるスマートな仕種も甘い言葉も、まるで女子高の王子さまのよう。
「お疲れな君には特製ドリンクを用意しようか」
蜜色の瞳に優しく見つめられるまま、こくこくと頷くことしかできずにいると、クリムローズは鷹揚な笑みを浮かべてくれた。
「……君を誰より思っているのはこの僕なのだから」
耳元に囁かれる言葉に思わず赤面する。くすりとまた笑み、彼女は凛と背を伸ばした。打って変わって鋭いまなざしで見遣るのは、別の客をもてなすエヴァーグリーン。
「あのいやらしい緑の言うことは真に受けない方がいい」
●
近未来サイバー風の内装とケモミミケモ尻尾つきのキャストが魅力のカフェ、らぼカフェ☆あふろでぃあ――その店舗のひとつ、ロスガリア支店には看板キャストがふたり居る。
(エヴァーグリーンとクリムローズ……)
スライムソファに身を沈め、謎ポッドの間のテーブルを優雅に行き来するふたりを見つめる。
お揃いの馬耳に馬尻尾、極めつけはお揃いのチョーカー。ふたりは『公式設定』によれば『ペア運用前提の愛玩用アンドロイド』の片割れ同士だ。
その証拠に、エヴァーグリーンだけがクリムローズを『クリム』と呼ぶ。呼ぶことを許されている。
いつだったか、彼女を『クリムちゃん』と呼んだ勘違い男がクリムローズの絶対零度の視線を受け、エヴァーグリーンに優しくも低い声で、
――そう呼べるのは私だけにございます
表向きはあくまでも紳士的に叱責される現場を目撃したことがある。
クリムローズはエヴァーグリーンのことを『アレ』『あの男』、ひいては『いやらしい緑』などとどこか蔑んだような呼び方をするが、大体の常連は知っている。あれは嫉妬だ。ヤキモチだ。
お客へのおもてなしはしっかり行うものの、その時々に交わるふたりの視線は一見鋭いように見えて、その奥に甘く熱い色が潜んでいる。
――僕の番のくせに、ちやほやされすぎだ
――俺の全てはクリムのものだ、知っているだろう
――エヴァ、私だけのエヴァーグリーン……
もしかしたら、あのチョーカーはどちらかがどちらかの首筋に唇を寄せた痕を隠すものかもしれない。だったらとてもとても滾る――
「お待たせ、特製ドリンクだよ」
「俺と話したくなったらいつでも呼ぶといい」
「いやらしい緑は無視して僕と話そう」
不埒な妄想を繰り広げていたことをおくびにも出さず、アリガトウゴザイマスと口にする。うっかり妄想を口にして出禁にでもされたらたまらない。
だってまだまだ、あのふたりを見つめていたい。