【我物】あの日の置手紙
キャラクターノベル制作 龍川 那月納品 2024年03月04日 13時12分31秒
あの日、若いディレイン・オールドケイジが目を覚ますと家はもぬけの殻だった。
いつもなら料理や薬湯の温かい空気を含んだダイニングはひんやりと冷えていて、おはようと笑顔を返してくれる養父母もいない。
(どこ行ったんだ……?)
薬草を詰みに行ったのかと畑も覗いてみたが朝露に濡れた草花が風に揺れているだけだった。
「親父? おふくろ?」
何かがおかしい、そう思いながらいそうな場所を探してみたり、近くの村まで行ってみるが養父母の姿を見つけることは出来ない。
「……?」
ふと見たダイニングのテーブルに一通の手紙が置かれているのに気が付いたのはもう日が大分高くなってからだった。
いやな予感がしながらも手紙に伸ばす手が止められない。
『何も説明しないまま出てしまってすまないね。でも、これが最善なんだとおまえなら分かってくれると信じているよ』
そう始まった文面にディレインの目が見開かれる。
何があったかは分からない。
だが、置いて行かれたのだと直感で分かった。
もう読みたくないという気持ちと続きを早く読みたい気持ちがディレインの中で争う。
それでも、彼の目は手紙から目が離せずにいた。
『ある村で流行病が蔓延しているという話を聞いた。昨日話していた薬草から作る薬が唯一効くとされてはいるけど、特効薬ではないから継続して投与する必要があるんだ。その村の傍にも自生しているし、そこまで珍しい薬草ではないから流通もしている、普段なら。だが、あちらは天候不良が続いた影響で植物の生育が上手くいっていないらしい。この病はかなり感染力が強くてね、このままでは村全体が危ない。それにそんな状況だから診る方の手も足りていないと聞く。だから私たちが薬を持って行ってくる。
行ってみないと分からないが、薬が足りなくなるかもしれないし、他にも必要になるものがあるかもしれない。だから、ディレイン。その時はおまえに頼みたいんだ。あぁ、薬の作り方なんかはその時に出す手紙に書くようにしよう。状況によって必要な薬は変わるからね。それまで薬草畑の面倒を頼むよ。それから、2日に一度町に行ってマリーさんの足を見てやっておくれ。あの人はすぐに無理をするからね。それから、アーノルドさんの持病薬は棚に入れてある。明日取りに来るはずだから渡してあげてくれるかい? 作り方はカルテに書いてある。おまえには色々任せてしまって本当にすまないと思っているけど、おまえにしか任せられないんだ。私たちが留守にしている間頼んだよ。それから私がいないからと言ってサボらずに勉強は欠かさずにね。帰るまでに少しかかると思うんだ。その間はおまえだけがみんなの頼りなんだからね。おまえならきっと出来ると信じているよ
本当に、本当にすまない。でも、これだけは分かってくれ。何があっても私たちはおまえを愛している。
愛する息子、ディレインへ ジェイムズ』
「なん、だよ……これ」
視界がぐらぐらする。
いつもまだ未熟だからと言って患者なんて診せてくれないくせに、こういう時だけそう言うことを言うのか。
感染力の強い流行病に陥っている村に行くことがどういうことかディレインは理解しているし、この切羽詰まった筆跡から村の状況もなんとなくだが察することが出来た。
つまりそれは……。
(それなら俺も行って……)
養父母ほどではないが、自分にも医学の知識はあるし、薬学の知識もある。
役に立てることはあるはずだと、ヒントとなるワードを拾い上げる。
凶作が起きている地域……。
流行病が蔓延している村……。
行商人に話を聞けば村の場所は特定できるだろうが診る手が足りないということはその村にいた医師や、近隣の医師たちはもう罹患してしまっているかさじを投げている可能性が高い。
いや、もしかしたらもう……。
彼らもその可能性くらい考えたはずだ。
だから、自分を連れて行かなかった。
「駄目だ……」
自分が行けば薬草畑はどうなる。
折角よくなってきたマリーさんは歩けなくなるだろうし、アーノルドさんも持病薬がなければ仕事が出来なくなる。
(薬草畑のこともそうだけど、マリーさんのこともアーノルドさんのことも体のいい理由になっただろうな)
そう考えてしまう自分が酷く嫌だと思いながらもそうとしか思えなかった。
こんなことなら昨日、様子がおかしいと感じた時にちゃんと聞けばよかった。
喧嘩になったとしても、何も言葉を交わさないよりずっとましだったのに……。
(親父……。おふくろ……。どうか……どうか……)
ディレインは手紙を胸に抱いたまま祈ることしか出来ない自分の無力さに打ちのめされていた。
あの日の置手紙
父から息子に宛てた、ひとり残す経緯と願いが記された手紙。
置いていかれたあの日から、処分しようとした回数は数え切れず。目につかないところに隠してきた。小さく折りたたまれてしわくちゃになっている。
いつもなら料理や薬湯の温かい空気を含んだダイニングはひんやりと冷えていて、おはようと笑顔を返してくれる養父母もいない。
(どこ行ったんだ……?)
薬草を詰みに行ったのかと畑も覗いてみたが朝露に濡れた草花が風に揺れているだけだった。
「親父? おふくろ?」
何かがおかしい、そう思いながらいそうな場所を探してみたり、近くの村まで行ってみるが養父母の姿を見つけることは出来ない。
「……?」
ふと見たダイニングのテーブルに一通の手紙が置かれているのに気が付いたのはもう日が大分高くなってからだった。
いやな予感がしながらも手紙に伸ばす手が止められない。
『何も説明しないまま出てしまってすまないね。でも、これが最善なんだとおまえなら分かってくれると信じているよ』
そう始まった文面にディレインの目が見開かれる。
何があったかは分からない。
だが、置いて行かれたのだと直感で分かった。
もう読みたくないという気持ちと続きを早く読みたい気持ちがディレインの中で争う。
それでも、彼の目は手紙から目が離せずにいた。
『ある村で流行病が蔓延しているという話を聞いた。昨日話していた薬草から作る薬が唯一効くとされてはいるけど、特効薬ではないから継続して投与する必要があるんだ。その村の傍にも自生しているし、そこまで珍しい薬草ではないから流通もしている、普段なら。だが、あちらは天候不良が続いた影響で植物の生育が上手くいっていないらしい。この病はかなり感染力が強くてね、このままでは村全体が危ない。それにそんな状況だから診る方の手も足りていないと聞く。だから私たちが薬を持って行ってくる。
行ってみないと分からないが、薬が足りなくなるかもしれないし、他にも必要になるものがあるかもしれない。だから、ディレイン。その時はおまえに頼みたいんだ。あぁ、薬の作り方なんかはその時に出す手紙に書くようにしよう。状況によって必要な薬は変わるからね。それまで薬草畑の面倒を頼むよ。それから、2日に一度町に行ってマリーさんの足を見てやっておくれ。あの人はすぐに無理をするからね。それから、アーノルドさんの持病薬は棚に入れてある。明日取りに来るはずだから渡してあげてくれるかい? 作り方はカルテに書いてある。おまえには色々任せてしまって本当にすまないと思っているけど、おまえにしか任せられないんだ。私たちが留守にしている間頼んだよ。それから私がいないからと言ってサボらずに勉強は欠かさずにね。帰るまでに少しかかると思うんだ。その間はおまえだけがみんなの頼りなんだからね。おまえならきっと出来ると信じているよ
本当に、本当にすまない。でも、これだけは分かってくれ。何があっても私たちはおまえを愛している。
愛する息子、ディレインへ ジェイムズ』
「なん、だよ……これ」
視界がぐらぐらする。
いつもまだ未熟だからと言って患者なんて診せてくれないくせに、こういう時だけそう言うことを言うのか。
感染力の強い流行病に陥っている村に行くことがどういうことかディレインは理解しているし、この切羽詰まった筆跡から村の状況もなんとなくだが察することが出来た。
つまりそれは……。
(それなら俺も行って……)
養父母ほどではないが、自分にも医学の知識はあるし、薬学の知識もある。
役に立てることはあるはずだと、ヒントとなるワードを拾い上げる。
凶作が起きている地域……。
流行病が蔓延している村……。
行商人に話を聞けば村の場所は特定できるだろうが診る手が足りないということはその村にいた医師や、近隣の医師たちはもう罹患してしまっているかさじを投げている可能性が高い。
いや、もしかしたらもう……。
彼らもその可能性くらい考えたはずだ。
だから、自分を連れて行かなかった。
「駄目だ……」
自分が行けば薬草畑はどうなる。
折角よくなってきたマリーさんは歩けなくなるだろうし、アーノルドさんも持病薬がなければ仕事が出来なくなる。
(薬草畑のこともそうだけど、マリーさんのこともアーノルドさんのことも体のいい理由になっただろうな)
そう考えてしまう自分が酷く嫌だと思いながらもそうとしか思えなかった。
こんなことなら昨日、様子がおかしいと感じた時にちゃんと聞けばよかった。
喧嘩になったとしても、何も言葉を交わさないよりずっとましだったのに……。
(親父……。おふくろ……。どうか……どうか……)
ディレインは手紙を胸に抱いたまま祈ることしか出来ない自分の無力さに打ちのめされていた。
あの日の置手紙
父から息子に宛てた、ひとり残す経緯と願いが記された手紙。
置いていかれたあの日から、処分しようとした回数は数え切れず。目につかないところに隠してきた。小さく折りたたまれてしわくちゃになっている。