可憐なうさぎのあるひと頃
キャラクターノベル制作 鍵島納品 2024年03月06日 15時27分41秒
なんてふしぎな街並みだろうか。
ふわふわとした兎耳をぴくりと動かして、マリィ・スノードロップは紫の瞳を今一度大きく瞬かせる。
陽の下で輝く宝石めく光彩へ映し出す辺境都市郡は、修繕を繰り返す古めかしい様相とは裏腹に、高度な技術を有している。
"郡"に漏れず多様な文化や価値観のもと今日まで発展してきたこの地は、かつてシルトラース帝国から出たことのなかったマリィにとって驚きと発見ばかりだ。
ロスガリア大陸において、ちょっとそこまでの距離でこうも景色が変わるなんて。
あぁ、やっぱりふしぎだなぁ、と思う。
特に此処、シャルガネ居住区はとても神秘的な雰囲気を漂わせている。
人々は悠然として美しい模様を描いた服飾を身に着け、闊歩する所作すらまた美しい。
外国の文化とされるそれは、着物、と呼ばれるそう。伝統的な服なのだろう。
冒険者ギルドから出たマリィの視界を横切る女性の後ろ姿に、ついつい視線が向かってゆく。
陽だまりのような黄色地にたくさんの小さな花が咲く生地や、黒から新緑へ移り変わる生地に飛ぶ鳥と蔦、ハっと目を惹かれる華やかな色に特徴的な格子の柄が走る生地など……。
「……とっても」
「すてきでしょう?」
「!」
ぽうっと見知らぬ人の後ろ背を眺めるばかりのマリィへ、聞き覚えのない声が掛かる。
平静を装ったつもりの耳が、左右へパタっと跳ねた一寸。
きょろきょろと顔を左右へ向け、観念した風に恐る恐ると顔を声のした方へ向ける。
「初春のお月見祭りにむけて! 着物、記念に着こなしてみたくありませんか?」
自分よりもひとつかふたつ歳下と思しき女性が、人好きの良さそうな笑みを浮かべてマリィへ告ぐ。
御多分に漏れず、彼女もまた美しい着物を着てめかしこんでいる。
淡いネモフィラ色の生地に、雪の結晶の模様を散りばめた洒落た柄。季節に合わせた着物は、とても綺麗だった。
「……え、っと。あの。お月見祭り、って。いうのは……?」
「はい! 綺麗なお月様を見てまったりしたり、美味しいご飯を食べたりするお祭りです!」
観光向けのゆるいお祭りなので、居住区のなかでも小ぢんまりした催しではありますが!
念押しするように告げられる。
なるほ、ど? 小首をかしげるマリィに、女性がちょいちょいと手招いた。
「甘くて美味しいお菓子も出ますよ!」
「甘くて美味しいお菓子!」
復唱まで早い。瞳の紫がきらきらと輝いた。
あからさまに反応を示した靴先が、流れるように女性の後を追って着物屋へ運ばれてゆく。
見聞きしない物珍し気な文化を持つふしぎな街とて、住まう人間の性質はそうそう他の地域と変わらないようだ。
●
うすらと深い色合いで青みがかる暗色の生地に、控えめな七色の椿の柄が淑やかな着物。
それは銀白色の豊かな髪によく映えて、右の肩に下げる三つ編みの存在をより引き立たせてくれた。
あえて彩度を抑えた南天と山茶花の花飾りは、愛らしさよりも慎ましさや儚さを想起させる。
控えめなレースの付いた羽織りは淡い色が主体であるので、一枚羽織ると見る者の視界を華やがせた。
本来ならサービスでその人に見合う薄化粧を施すつもりだったのだが……。
「……紅化粧も必要なさそうですね……」
「?」
まじまじと覗き込む女性の呟きに、されるがまま椅子に座るマリィは再度小首を傾げる。
整った肌はきめ細かく、ほんのりと桃色に滲む頬、それはさておき挙動の都度揺れるうさぎ耳は愛嬌がある。
艶々さらりとした髪の毛先が若干癖付いているようだが、動く度にぴょんと跳ねて、正しくうさぎさん、と。
斯様に観察されて幾何か。久方ぶりの熱視線を受けて、無駄に照れを覚える。
不思議がるばかりでいた表情だったが、ついに耐え兼ね。マリィはふにゃりと笑みを零れさせた。
「あの……そろそろ甘いお菓子を食べに……」
はッとした顔をする女性が、こくこく、慌ただしく頷いて店の出入り口を示す。
表に出て右へ、真っ直ぐ歩いて暫くするとお祭り屋台が出ていますよ。夜になったら、お祭りの本番ですよ!
冬に嬉しい暖かなお菓子はもちろん、変わった串焼きや甘いスープも出回るのでぜひ!
……早口でまくしたてられて、マリィのうさぎ耳がパタパタっと左右へ揺れる。
大きい声だなぁ、とか。此処を出て右っていったっけ? とか。ふわふわした顔で、間の抜けたことを考える。
「わかりました! 着替えさせていただいてありがとうございます! お祭り、楽しんできます!」
椅子から立ち上がり、改めて礼を述べて外へ飛び出る。
ちょっとだけ冷たい風が頬を撫でたが、確りと羽織りを着込めば寒くはない。
冬毛でよりふわふわとしたうさぎの耳が物音を拾おうとぴこぴこ動く。美味しいお菓子を食べるべく、だ。
そうだ、どうせなら串焼きやスープだって食べてしまおう。
いつの日か誰かと此処へ来られたその時に、きちんとおススメを教えられるように。
ふわふわとした兎耳をぴくりと動かして、マリィ・スノードロップは紫の瞳を今一度大きく瞬かせる。
陽の下で輝く宝石めく光彩へ映し出す辺境都市郡は、修繕を繰り返す古めかしい様相とは裏腹に、高度な技術を有している。
"郡"に漏れず多様な文化や価値観のもと今日まで発展してきたこの地は、かつてシルトラース帝国から出たことのなかったマリィにとって驚きと発見ばかりだ。
ロスガリア大陸において、ちょっとそこまでの距離でこうも景色が変わるなんて。
あぁ、やっぱりふしぎだなぁ、と思う。
特に此処、シャルガネ居住区はとても神秘的な雰囲気を漂わせている。
人々は悠然として美しい模様を描いた服飾を身に着け、闊歩する所作すらまた美しい。
外国の文化とされるそれは、着物、と呼ばれるそう。伝統的な服なのだろう。
冒険者ギルドから出たマリィの視界を横切る女性の後ろ姿に、ついつい視線が向かってゆく。
陽だまりのような黄色地にたくさんの小さな花が咲く生地や、黒から新緑へ移り変わる生地に飛ぶ鳥と蔦、ハっと目を惹かれる華やかな色に特徴的な格子の柄が走る生地など……。
「……とっても」
「すてきでしょう?」
「!」
ぽうっと見知らぬ人の後ろ背を眺めるばかりのマリィへ、聞き覚えのない声が掛かる。
平静を装ったつもりの耳が、左右へパタっと跳ねた一寸。
きょろきょろと顔を左右へ向け、観念した風に恐る恐ると顔を声のした方へ向ける。
「初春のお月見祭りにむけて! 着物、記念に着こなしてみたくありませんか?」
自分よりもひとつかふたつ歳下と思しき女性が、人好きの良さそうな笑みを浮かべてマリィへ告ぐ。
御多分に漏れず、彼女もまた美しい着物を着てめかしこんでいる。
淡いネモフィラ色の生地に、雪の結晶の模様を散りばめた洒落た柄。季節に合わせた着物は、とても綺麗だった。
「……え、っと。あの。お月見祭り、って。いうのは……?」
「はい! 綺麗なお月様を見てまったりしたり、美味しいご飯を食べたりするお祭りです!」
観光向けのゆるいお祭りなので、居住区のなかでも小ぢんまりした催しではありますが!
念押しするように告げられる。
なるほ、ど? 小首をかしげるマリィに、女性がちょいちょいと手招いた。
「甘くて美味しいお菓子も出ますよ!」
「甘くて美味しいお菓子!」
復唱まで早い。瞳の紫がきらきらと輝いた。
あからさまに反応を示した靴先が、流れるように女性の後を追って着物屋へ運ばれてゆく。
見聞きしない物珍し気な文化を持つふしぎな街とて、住まう人間の性質はそうそう他の地域と変わらないようだ。
●
うすらと深い色合いで青みがかる暗色の生地に、控えめな七色の椿の柄が淑やかな着物。
それは銀白色の豊かな髪によく映えて、右の肩に下げる三つ編みの存在をより引き立たせてくれた。
あえて彩度を抑えた南天と山茶花の花飾りは、愛らしさよりも慎ましさや儚さを想起させる。
控えめなレースの付いた羽織りは淡い色が主体であるので、一枚羽織ると見る者の視界を華やがせた。
本来ならサービスでその人に見合う薄化粧を施すつもりだったのだが……。
「……紅化粧も必要なさそうですね……」
「?」
まじまじと覗き込む女性の呟きに、されるがまま椅子に座るマリィは再度小首を傾げる。
整った肌はきめ細かく、ほんのりと桃色に滲む頬、それはさておき挙動の都度揺れるうさぎ耳は愛嬌がある。
艶々さらりとした髪の毛先が若干癖付いているようだが、動く度にぴょんと跳ねて、正しくうさぎさん、と。
斯様に観察されて幾何か。久方ぶりの熱視線を受けて、無駄に照れを覚える。
不思議がるばかりでいた表情だったが、ついに耐え兼ね。マリィはふにゃりと笑みを零れさせた。
「あの……そろそろ甘いお菓子を食べに……」
はッとした顔をする女性が、こくこく、慌ただしく頷いて店の出入り口を示す。
表に出て右へ、真っ直ぐ歩いて暫くするとお祭り屋台が出ていますよ。夜になったら、お祭りの本番ですよ!
冬に嬉しい暖かなお菓子はもちろん、変わった串焼きや甘いスープも出回るのでぜひ!
……早口でまくしたてられて、マリィのうさぎ耳がパタパタっと左右へ揺れる。
大きい声だなぁ、とか。此処を出て右っていったっけ? とか。ふわふわした顔で、間の抜けたことを考える。
「わかりました! 着替えさせていただいてありがとうございます! お祭り、楽しんできます!」
椅子から立ち上がり、改めて礼を述べて外へ飛び出る。
ちょっとだけ冷たい風が頬を撫でたが、確りと羽織りを着込めば寒くはない。
冬毛でよりふわふわとしたうさぎの耳が物音を拾おうとぴこぴこ動く。美味しいお菓子を食べるべく、だ。
そうだ、どうせなら串焼きやスープだって食べてしまおう。
いつの日か誰かと此処へ来られたその時に、きちんとおススメを教えられるように。