明日への宴
キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2024年02月23日 23時55分40秒
●
新生シルトラース帝国の現在の中心拠点は、今も尚ヴィントにあると見て良い。
新皇帝レイウェスト・バルダスやバルディオン将軍といった帝国首脳部は未だヴィントの太守館での公務に忙しいし、近衛連隊長マクシミリアン・ミルドもヴィント近郊に新たに開設した練兵場で、新兵採用業務や帝国軍基本教練などで頻繁に走り回っている。
人類の最大の苦難は帝都奪還戦でひとつの山場を迎えたが、その後も復興や戦後処理などで多くのひとびとが多忙の中にあった。
しかし忙しいからといって、ひたすら業務にばかり忙殺されていては息が詰まってしまう。
そこでコルネリウス・アーラ、ハヤト=ガラン=ヴォルファング、ディレイン・オールドケイジ、レピド・クロサイトの四人は、久々の連休初日を翌日に控えたマクシミリアンのヴィント内自宅を訪れ、遅ればせではあるが労いの肉パーティ開催を打診してみた。
「おう、やろうやろう。ミルド家秘伝のタレも最近中々使う場面が無くてなぁ。お前さん達が声かけてくれたお陰で、俺も久々に美味い肉料理が披露出来そうだ」
マクシミリアンは突然の来客に嫌な顔を見せるどころか、待ってましたとばかりに腕を撫した。
かくして、四人の冒険者達と近衛連隊長による即席肉パーティが開催される運びとなった。
場所はマクシミリアンのヴィント内自宅。客室がいくつもある結構な邸宅で、バーベキューが可能な広い中庭もある。
冒険者達を客に招いての肉パーティにはうってつけの舞台だろう。
「それじゃあ、私はパンをご用意しますね」
コルネリウスは肉パーティの主食となるパンを沢山焼いて、籠一杯に盛り上げて持参する役回り。パンは味付けやトッピング次第で、意外とエールにも合う。
「じゃ、おじさんはスープだな。こないだ行った食堂のさ、ごろごろ野菜のスープが最高に美味かったから、あれを鍋ごと買ってくるよ」
ディレインはお口直しのスープ担当。肉ばっかりじゃあ、流石に飽きる。爽やかな野菜スープでこってり感を拭い去るのも悪くない。
「なら俺は肉そのものを持ってくる。獣肉になるが、血抜きしたばかりの新鮮な肉を用意しよう」
レピドは今回のメインとなる肉の調達係だ。愛猫のショウガの為に、一部は味付けせずにそのまま捌いて猫専用の皿に用意することも忘れてはいけない。
「んじゃあ、俺は酒だな。シャルガネの美味い銘柄があるんだ。エールはその辺の店から仕入れてくるよ。後は肴もだな。こいつもシャルガネの良いのがあるんだ。珍味らしいから、皆で味見しようぜ」
つい先日、父親が率いる傭兵団が正式に帝国軍傘下となった。その祝いも兼ねて、ハヤトはシャルガネの蔵元から大変珍しい味わいの清酒を取り寄せていた。
エールと呑み比べしながら肉料理を堪能するのも、悪くない。
そしてマックスは宴会場及び調理場となる自宅の提供と、ミルド家秘伝のタレの準備だ。
恐らくこの四人の中でも、マックスが供した肉料理を味見したことがある者は、半分も居ないのではないだろうか。
「まぁ期待しててくれ。実はミルド家秘伝のタレには幾つか種類があるんだけどな。それぞれ肉質に合わせてバリエーションが違うから、レピドが獲ってきてくれる肉に合わせて用意するよ」
かくして、四人の冒険者を客に迎えたミルド家お疲れ様肉パーティの開催となった。
●
ヴィントの冬は当然、寒い。
少しばかり春めいてきたといっても、季節はまだまだ雪がちらつく頃合いだ。肉を捌き、焼くのは中庭だが、料理を堪能するのは中庭に面した大広間で、ということになる。
この大広間では暖炉の火が赤く燃え盛り、冷えた外気と熱い炎の双方で室内温度が快適に保たれる。酒と料理を味わうには絶好のロケーションだった。
そして中庭では、空腹を大いに刺激する串焼き肉の香ばしい匂いが漂っている。
今回マクシミリアンが用意したミルド家秘伝のタレは、シャルガネ産の醤油ベースにニンニクと一味を主軸に置いた香辛料の組み合わせで、そこに砂糖を少々加えた甘辛い濃厚な味わい。
鉄串を通した獣肉は、レピドが狩りで仕入れてきた鹿肉や兎肉だったが、しっかりと血抜きをした上で、ハーブで臭みを抜いてある。そこに塩コショウを少々振りかけて軽く下味を付けた上で、ミルド家秘伝のタレにじっくり漬け込んだ後、中庭に組まれた竈上で炭火に炙った。
ニンニクで増強された醤油ベースのタレの風味が、中庭どころか大広間の中にまで漂ってくる。
これはもう、絶対美味い。匂いだけでもその極上の味わいが容易に想像出来る仕上がりだった。
「うぉぉっ! 美味ぇ! 超美味ぇ! 何じゃこりゃあ!」
過去に一度秘伝のタレで焼いた串肉料理を味わったことがある筈のハヤトが、幾分興奮した様子でがつがつと串焼き肉を喰いまくる。
ディレインとコルネリウス、レピドはふわふわに焼き上がったパンをスライスし、間に肉汁とタレがじゅわっと染み出る焼肉の切り身を間に挟んで舌鼓を打った。
「お、このスープ良いな。こりゃあ深みのある味だ」
一方でマクシミリアンはディレインが用意したごろごろ野菜のスープでほっと息をついている。栄養バランスも良く、寒いヴィントで冷えた体を温めるにはとてもマッチしていた。
「さぁて、軽く腹も落ち着いたから、そろそろ乾杯といこうか」
ディレインがエールがなみなみと注がれたカップを掲げた。直前にマクシミリアンに視線を送り、笑顔で、
「いやぁ本当にごめんね、忙しいのに」
と頭を掻いていたが、結局どんちゃん騒ぎになっている。しかしマクシミリアンは気心の知れた仲間達と酒盛りが出来ることにただただ嬉しそうな笑顔を見せるばかりだ。迷惑がっている気配は微塵にも無い。
「コルネリウス、意外とよく食べるんだな」
「え? そ、そうでしょうか?」
愛猫ショウガに肉を喰わせてやりながら、レピドがコンスタントに料理を取り皿に盛り付けているコルネリウスの食いっぷりに感心した様子を見せた。
実はコルネリウス、取り皿に盛る量は常に一定である為に然程に食べている様には見えないのだが、そのペースが全く落ちないのは隠れ大食いの確たる証左だ。その事実に気付いているのがレピドの他に、何人居るのだろうか。
但し彼女の場合、酒には余り強くないから食いに走っているという部分も少なからずあるのだろう。
「まぁ良いか。ともあれ、皆本当にお疲れ様。全員生きていて良かった」
レピドが改めて、一同に労いの声をかける。こういう言葉が出てくること自体、レピドが赤子同然のホムンクルスからひとりの冒険者へと成長し続けてきた証といえるだろう。
その傍らでハヤトが、ふと思い出した様にマクシミリアンの肩をバシバシと叩いた。
「そいやあ、皇帝にとどめを刺したのは偶然にも俺とマックスだったんだよな。まさか同時にキメることになるとは思ってなかったけど」
マクシミリアンは、小さく肩を竦めた。前皇帝には色々と思うところもあったが、打倒が為った今となっては既に過去の話だ。ハヤトは更に他の面々にも最終決戦に於ける活躍をひとつずつ挙げて、それぞれの勲功の素晴らしさを改めて称えた。
と、ここで一瞬妙にしらふに近しい表情で一同の顔を見渡した。
「そいやあさぁ、皆これから、どうすんだ?」
ハヤトのこの疑問から端を発し、冒険者達は今後の身の振り方について語り合う時間となった。
●
最初に語り出したのは、コルネリウスだった。
「私は今後、パンクリアース学園で卒業まで勉学に勤しむつもりです」
曰く、王国で力になってあげたいひとが居るとのこと。つまり王国を拠点に於いての活動がメインとなる。その為、ロモズ歩兵団長という肩書と職をどうするのかについては、しばし熟考中だということらしい。
「コルネリウスもか。実は俺もパンクリアースで暫く厄介になる」
レピドのこの表明には一同、少しばかり驚かされた。つい先日、パンクリアース学園への入学を果たしたのだという。一体いつの間に――ディレインとマックスは思わず顔を見合わせた。
余りにさらっと普段通りのトーンでの告白だった為、最初は一同、思わず聞きそびれそうになってしまったのだが、そういう部分も相変わらずのレピドだった。
それは兎も角、コルネリウスと同じ様に当面は王国を拠点にするというレピド。冒険者兼学生という立ち位置となる訳だが、実はレピドには夢があった。
「多くの孤児達が俺の様に闇に堕ちる可能性がある境遇を改善したい。けどその為には、まだまだ知識が不足していることを実感した」
パンクリアースなら、まともな教師の見本にも出会える筈だ。この時レピドの脳裏には、とてもではないが、良い教師とは到底いえない男の顔がちらついていた。
成程なぁ、とマクシミリアンは頷きながら、ディレインの肩をバシバシと叩いた。実はマクシミリアンはディレインとレピドの関係性を知っている。それを踏まえた上での意味深な笑みに、ディレインは苦笑を返すしか無かった。
「しかし、そうか……皆、落ち着くんだな。それじゃあ俺がちょっとふらふらしても大丈夫かな」
「ふらふらって、どこ行くつもりなんだ?」
マクシミリアンに訊き返され、ディレインはどこに行くとも決まってないとかぶりを振った。
「遍歴医さ。まぁ、親父の真似事だけどね」
この時、一瞬だけディレインは孤独感を思わせる笑みを滲ませた。
友人達と離れるのは正直寂しいのだが、しかしここは年長者としての意地も少しはある。大人として、彼ら彼女らの進む道を大いに応援してやりたい。
「まぁでも、偶には土産話を持ってくるから、その時はまたこうして、酒でも飯でも、ね」
と、ここまでは何とか頑張って大人を演じてみせたディレインだが、しかしそれが限界だった。もうこの時点でまるで今生の別れの様に、しんみりとした顔つきになっていた。
何だかんだいって友人達への感情が一番大きいのは、ディレイン自身なのかも知れない。
レピドも、その端正な面が僅かに沈んでいた。彼も寂しさがどの様な感情なのかを、少しずつ学習し、理解する様になっているのだろう。
「まぁそんな顔すんなって。俺だって、傭兵団と一緒にあっちこっち駆け回るんだしさ」
ハヤトが、いつの間にか開けた清酒の壺から自分のお猪口に透明の液体を注ぎ、これを一気に飲み干した。中々に度数が高いが、今のハヤトには丁度良い強さだった。
「あ、そうだマックス。親父のこと、宜しく頼むな。あと、何かあったら俺んとこの傭兵団も宜しく頼むぜ。毎度御贔屓にお引き立て下さり誠にありがとうございます、ってな!」
酒の勢いも借りて豪快に笑うハヤト。
少しばかり、しんみりと落ち着きかけた場の空気が再び明るくなった。
四人の今後の生き方に、じっと耳を傾けていたマクシミリアンは、それぞれの道に、それぞれの未来があると穏やかに微笑んだ。
「コルネリウスとレピドは、パンクリアースに行きゃあ会えるんだよな? 俺もさ、帝国からの留学生の面倒を見なきゃなんねぇから、偶に顔出すことになると思うんだよ。そん時は案内頼めるかな?」
コルネリウスは勿論ですと笑顔を咲かせ、レピドも任せて欲しいと胸を張った。
「けどさぁ、学べるって良いよなぁ。若者の特権だよなぁ」
気を取り直して、おじさんムーブで場を和ませるディレイン。するとマクシミリアンがその隣で、いや俺もまだまだ若いぜ、などと意味不明な若者の主張を声高に叫んでいた。
●
コルネリウスの頬が、ほんのりと桃色の染まっている。
なるべく酔い潰れない様にと酒量をコントロールしていた彼女だが、矢張り場の雰囲気に押されてか、いつもよりは少しばかり杯が進んだ様だ。
「いやー、しっかしこの肉、マジで最高だぜ。レピドにマックス、グッジョブだ!」
ハヤトは尚もがつがつと食いまくり、ぐいぐいと呑みまくっている。
若干ふわふわと酔いが廻り始めて朗らかに笑っているコルネリウスとは、その勢いがまるで雲泥の差だ。
その一方でレピドは相変わらず、青白い顔色のままだ。酒を呑んだのかどうかさえもよく分からない。いや、恐らくは愛猫ショウガの相手と肉料理を堪能するのに時間の大半を割いていた為、エールも清酒もほとんど口にしていないだろう。
ところが、エールと清酒の入っていた壺は結構な勢いで空になっている。
ハヤトもそこそこのペースで呑んでいたが、しかし幾本もの壺が速攻で空いてしまう様な呑み方はしていなかった筈だ。
と、ここディレインはちょっと嫌な予感を覚えた。
まさか、と思ってマクシミリアンに視線を流す。
案の定、近衛連隊長は凄まじいばかりの赤ら顔で、機嫌良さげに意味不明な台詞を口走っていた。
「おいおいマックス、いつの間に……」
ちょっと前までは、ここまでべろんべろんにはなっていなかった筈だ。一体どのタイミングで、マクシミリアン泥酔スイッチが入ってしまったのだろう。
「あ……コルネちゃんは、大丈夫かな? ほろ酔いって感じかな?」
「はぁい、おじさまぁ……全然、大丈夫ですよぉ」
とろんとした目つきが若干怪しいが、呂律はまだ廻っているから心配無いだろう。
レピドは全く酔った素振りも無いから、こちらは放っておいても問題無い。ハヤトも明らかに酔ってはいるものの、潰れる気配は皆無だ。
となると、矢張り一番の心配はマクシミリアンだろうか。
そういえば以前にも一緒に呑んだ際、何故ここまで酔い潰れるんだと不思議に思う程に、べろんべろんになっていた。それこそ千鳥足オブ千鳥足の勢いだった。
帝国近衛連隊長として最前線に立つ時の彼は誰よりも凛々しく、頼もしく、常に力強い存在で仲間達を大いに鼓舞してくれる。
ところが親しい者達だけで集まる酒宴となると、そのイメージが一気に崩れ落ち、当たり前の様に泥酔する姿を連発していた。
否、或いはそれだけ気心の知れた友人達を信頼しているのかも知れない。
そういう意味では、こうして素の姿を見せてくれるのは、決して悪い気分ではなかった。
「マックスってさぁ、親父と呑む時もこんな感じなんかあ?」
「うん、まぁ、前も似た様な光景を見た気がするなぁ」
不思議そうに覗き込むハヤトに、ディレインは苦笑を返した。
ハヤトの父がマクシミリアンの呑み友達だが、その息子とも呑み友達になるというのは、これはこれで感慨深い話だった。
とかいっているうちに、マクシミリアンは鼾を立て始めてしまった。
もう食えないだの、まだまだ呑めるぜだの、矛盾しまくりの寝言のおまけ付だった。
「……お開きにするか?」
ショウガの為に三皿目を用意していたレピドが、小首を傾げた。
既にコルネリウスとハヤトも、眠気が勝ってうつらうつらとしている。その面は揃って笑顔。
良い宴だった。
これからの未来に向けての、良い思い出になるだろう。
新生シルトラース帝国の現在の中心拠点は、今も尚ヴィントにあると見て良い。
新皇帝レイウェスト・バルダスやバルディオン将軍といった帝国首脳部は未だヴィントの太守館での公務に忙しいし、近衛連隊長マクシミリアン・ミルドもヴィント近郊に新たに開設した練兵場で、新兵採用業務や帝国軍基本教練などで頻繁に走り回っている。
人類の最大の苦難は帝都奪還戦でひとつの山場を迎えたが、その後も復興や戦後処理などで多くのひとびとが多忙の中にあった。
しかし忙しいからといって、ひたすら業務にばかり忙殺されていては息が詰まってしまう。
そこでコルネリウス・アーラ、ハヤト=ガラン=ヴォルファング、ディレイン・オールドケイジ、レピド・クロサイトの四人は、久々の連休初日を翌日に控えたマクシミリアンのヴィント内自宅を訪れ、遅ればせではあるが労いの肉パーティ開催を打診してみた。
「おう、やろうやろう。ミルド家秘伝のタレも最近中々使う場面が無くてなぁ。お前さん達が声かけてくれたお陰で、俺も久々に美味い肉料理が披露出来そうだ」
マクシミリアンは突然の来客に嫌な顔を見せるどころか、待ってましたとばかりに腕を撫した。
かくして、四人の冒険者達と近衛連隊長による即席肉パーティが開催される運びとなった。
場所はマクシミリアンのヴィント内自宅。客室がいくつもある結構な邸宅で、バーベキューが可能な広い中庭もある。
冒険者達を客に招いての肉パーティにはうってつけの舞台だろう。
「それじゃあ、私はパンをご用意しますね」
コルネリウスは肉パーティの主食となるパンを沢山焼いて、籠一杯に盛り上げて持参する役回り。パンは味付けやトッピング次第で、意外とエールにも合う。
「じゃ、おじさんはスープだな。こないだ行った食堂のさ、ごろごろ野菜のスープが最高に美味かったから、あれを鍋ごと買ってくるよ」
ディレインはお口直しのスープ担当。肉ばっかりじゃあ、流石に飽きる。爽やかな野菜スープでこってり感を拭い去るのも悪くない。
「なら俺は肉そのものを持ってくる。獣肉になるが、血抜きしたばかりの新鮮な肉を用意しよう」
レピドは今回のメインとなる肉の調達係だ。愛猫のショウガの為に、一部は味付けせずにそのまま捌いて猫専用の皿に用意することも忘れてはいけない。
「んじゃあ、俺は酒だな。シャルガネの美味い銘柄があるんだ。エールはその辺の店から仕入れてくるよ。後は肴もだな。こいつもシャルガネの良いのがあるんだ。珍味らしいから、皆で味見しようぜ」
つい先日、父親が率いる傭兵団が正式に帝国軍傘下となった。その祝いも兼ねて、ハヤトはシャルガネの蔵元から大変珍しい味わいの清酒を取り寄せていた。
エールと呑み比べしながら肉料理を堪能するのも、悪くない。
そしてマックスは宴会場及び調理場となる自宅の提供と、ミルド家秘伝のタレの準備だ。
恐らくこの四人の中でも、マックスが供した肉料理を味見したことがある者は、半分も居ないのではないだろうか。
「まぁ期待しててくれ。実はミルド家秘伝のタレには幾つか種類があるんだけどな。それぞれ肉質に合わせてバリエーションが違うから、レピドが獲ってきてくれる肉に合わせて用意するよ」
かくして、四人の冒険者を客に迎えたミルド家お疲れ様肉パーティの開催となった。
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ヴィントの冬は当然、寒い。
少しばかり春めいてきたといっても、季節はまだまだ雪がちらつく頃合いだ。肉を捌き、焼くのは中庭だが、料理を堪能するのは中庭に面した大広間で、ということになる。
この大広間では暖炉の火が赤く燃え盛り、冷えた外気と熱い炎の双方で室内温度が快適に保たれる。酒と料理を味わうには絶好のロケーションだった。
そして中庭では、空腹を大いに刺激する串焼き肉の香ばしい匂いが漂っている。
今回マクシミリアンが用意したミルド家秘伝のタレは、シャルガネ産の醤油ベースにニンニクと一味を主軸に置いた香辛料の組み合わせで、そこに砂糖を少々加えた甘辛い濃厚な味わい。
鉄串を通した獣肉は、レピドが狩りで仕入れてきた鹿肉や兎肉だったが、しっかりと血抜きをした上で、ハーブで臭みを抜いてある。そこに塩コショウを少々振りかけて軽く下味を付けた上で、ミルド家秘伝のタレにじっくり漬け込んだ後、中庭に組まれた竈上で炭火に炙った。
ニンニクで増強された醤油ベースのタレの風味が、中庭どころか大広間の中にまで漂ってくる。
これはもう、絶対美味い。匂いだけでもその極上の味わいが容易に想像出来る仕上がりだった。
「うぉぉっ! 美味ぇ! 超美味ぇ! 何じゃこりゃあ!」
過去に一度秘伝のタレで焼いた串肉料理を味わったことがある筈のハヤトが、幾分興奮した様子でがつがつと串焼き肉を喰いまくる。
ディレインとコルネリウス、レピドはふわふわに焼き上がったパンをスライスし、間に肉汁とタレがじゅわっと染み出る焼肉の切り身を間に挟んで舌鼓を打った。
「お、このスープ良いな。こりゃあ深みのある味だ」
一方でマクシミリアンはディレインが用意したごろごろ野菜のスープでほっと息をついている。栄養バランスも良く、寒いヴィントで冷えた体を温めるにはとてもマッチしていた。
「さぁて、軽く腹も落ち着いたから、そろそろ乾杯といこうか」
ディレインがエールがなみなみと注がれたカップを掲げた。直前にマクシミリアンに視線を送り、笑顔で、
「いやぁ本当にごめんね、忙しいのに」
と頭を掻いていたが、結局どんちゃん騒ぎになっている。しかしマクシミリアンは気心の知れた仲間達と酒盛りが出来ることにただただ嬉しそうな笑顔を見せるばかりだ。迷惑がっている気配は微塵にも無い。
「コルネリウス、意外とよく食べるんだな」
「え? そ、そうでしょうか?」
愛猫ショウガに肉を喰わせてやりながら、レピドがコンスタントに料理を取り皿に盛り付けているコルネリウスの食いっぷりに感心した様子を見せた。
実はコルネリウス、取り皿に盛る量は常に一定である為に然程に食べている様には見えないのだが、そのペースが全く落ちないのは隠れ大食いの確たる証左だ。その事実に気付いているのがレピドの他に、何人居るのだろうか。
但し彼女の場合、酒には余り強くないから食いに走っているという部分も少なからずあるのだろう。
「まぁ良いか。ともあれ、皆本当にお疲れ様。全員生きていて良かった」
レピドが改めて、一同に労いの声をかける。こういう言葉が出てくること自体、レピドが赤子同然のホムンクルスからひとりの冒険者へと成長し続けてきた証といえるだろう。
その傍らでハヤトが、ふと思い出した様にマクシミリアンの肩をバシバシと叩いた。
「そいやあ、皇帝にとどめを刺したのは偶然にも俺とマックスだったんだよな。まさか同時にキメることになるとは思ってなかったけど」
マクシミリアンは、小さく肩を竦めた。前皇帝には色々と思うところもあったが、打倒が為った今となっては既に過去の話だ。ハヤトは更に他の面々にも最終決戦に於ける活躍をひとつずつ挙げて、それぞれの勲功の素晴らしさを改めて称えた。
と、ここで一瞬妙にしらふに近しい表情で一同の顔を見渡した。
「そいやあさぁ、皆これから、どうすんだ?」
ハヤトのこの疑問から端を発し、冒険者達は今後の身の振り方について語り合う時間となった。
●
最初に語り出したのは、コルネリウスだった。
「私は今後、パンクリアース学園で卒業まで勉学に勤しむつもりです」
曰く、王国で力になってあげたいひとが居るとのこと。つまり王国を拠点に於いての活動がメインとなる。その為、ロモズ歩兵団長という肩書と職をどうするのかについては、しばし熟考中だということらしい。
「コルネリウスもか。実は俺もパンクリアースで暫く厄介になる」
レピドのこの表明には一同、少しばかり驚かされた。つい先日、パンクリアース学園への入学を果たしたのだという。一体いつの間に――ディレインとマックスは思わず顔を見合わせた。
余りにさらっと普段通りのトーンでの告白だった為、最初は一同、思わず聞きそびれそうになってしまったのだが、そういう部分も相変わらずのレピドだった。
それは兎も角、コルネリウスと同じ様に当面は王国を拠点にするというレピド。冒険者兼学生という立ち位置となる訳だが、実はレピドには夢があった。
「多くの孤児達が俺の様に闇に堕ちる可能性がある境遇を改善したい。けどその為には、まだまだ知識が不足していることを実感した」
パンクリアースなら、まともな教師の見本にも出会える筈だ。この時レピドの脳裏には、とてもではないが、良い教師とは到底いえない男の顔がちらついていた。
成程なぁ、とマクシミリアンは頷きながら、ディレインの肩をバシバシと叩いた。実はマクシミリアンはディレインとレピドの関係性を知っている。それを踏まえた上での意味深な笑みに、ディレインは苦笑を返すしか無かった。
「しかし、そうか……皆、落ち着くんだな。それじゃあ俺がちょっとふらふらしても大丈夫かな」
「ふらふらって、どこ行くつもりなんだ?」
マクシミリアンに訊き返され、ディレインはどこに行くとも決まってないとかぶりを振った。
「遍歴医さ。まぁ、親父の真似事だけどね」
この時、一瞬だけディレインは孤独感を思わせる笑みを滲ませた。
友人達と離れるのは正直寂しいのだが、しかしここは年長者としての意地も少しはある。大人として、彼ら彼女らの進む道を大いに応援してやりたい。
「まぁでも、偶には土産話を持ってくるから、その時はまたこうして、酒でも飯でも、ね」
と、ここまでは何とか頑張って大人を演じてみせたディレインだが、しかしそれが限界だった。もうこの時点でまるで今生の別れの様に、しんみりとした顔つきになっていた。
何だかんだいって友人達への感情が一番大きいのは、ディレイン自身なのかも知れない。
レピドも、その端正な面が僅かに沈んでいた。彼も寂しさがどの様な感情なのかを、少しずつ学習し、理解する様になっているのだろう。
「まぁそんな顔すんなって。俺だって、傭兵団と一緒にあっちこっち駆け回るんだしさ」
ハヤトが、いつの間にか開けた清酒の壺から自分のお猪口に透明の液体を注ぎ、これを一気に飲み干した。中々に度数が高いが、今のハヤトには丁度良い強さだった。
「あ、そうだマックス。親父のこと、宜しく頼むな。あと、何かあったら俺んとこの傭兵団も宜しく頼むぜ。毎度御贔屓にお引き立て下さり誠にありがとうございます、ってな!」
酒の勢いも借りて豪快に笑うハヤト。
少しばかり、しんみりと落ち着きかけた場の空気が再び明るくなった。
四人の今後の生き方に、じっと耳を傾けていたマクシミリアンは、それぞれの道に、それぞれの未来があると穏やかに微笑んだ。
「コルネリウスとレピドは、パンクリアースに行きゃあ会えるんだよな? 俺もさ、帝国からの留学生の面倒を見なきゃなんねぇから、偶に顔出すことになると思うんだよ。そん時は案内頼めるかな?」
コルネリウスは勿論ですと笑顔を咲かせ、レピドも任せて欲しいと胸を張った。
「けどさぁ、学べるって良いよなぁ。若者の特権だよなぁ」
気を取り直して、おじさんムーブで場を和ませるディレイン。するとマクシミリアンがその隣で、いや俺もまだまだ若いぜ、などと意味不明な若者の主張を声高に叫んでいた。
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コルネリウスの頬が、ほんのりと桃色の染まっている。
なるべく酔い潰れない様にと酒量をコントロールしていた彼女だが、矢張り場の雰囲気に押されてか、いつもよりは少しばかり杯が進んだ様だ。
「いやー、しっかしこの肉、マジで最高だぜ。レピドにマックス、グッジョブだ!」
ハヤトは尚もがつがつと食いまくり、ぐいぐいと呑みまくっている。
若干ふわふわと酔いが廻り始めて朗らかに笑っているコルネリウスとは、その勢いがまるで雲泥の差だ。
その一方でレピドは相変わらず、青白い顔色のままだ。酒を呑んだのかどうかさえもよく分からない。いや、恐らくは愛猫ショウガの相手と肉料理を堪能するのに時間の大半を割いていた為、エールも清酒もほとんど口にしていないだろう。
ところが、エールと清酒の入っていた壺は結構な勢いで空になっている。
ハヤトもそこそこのペースで呑んでいたが、しかし幾本もの壺が速攻で空いてしまう様な呑み方はしていなかった筈だ。
と、ここディレインはちょっと嫌な予感を覚えた。
まさか、と思ってマクシミリアンに視線を流す。
案の定、近衛連隊長は凄まじいばかりの赤ら顔で、機嫌良さげに意味不明な台詞を口走っていた。
「おいおいマックス、いつの間に……」
ちょっと前までは、ここまでべろんべろんにはなっていなかった筈だ。一体どのタイミングで、マクシミリアン泥酔スイッチが入ってしまったのだろう。
「あ……コルネちゃんは、大丈夫かな? ほろ酔いって感じかな?」
「はぁい、おじさまぁ……全然、大丈夫ですよぉ」
とろんとした目つきが若干怪しいが、呂律はまだ廻っているから心配無いだろう。
レピドは全く酔った素振りも無いから、こちらは放っておいても問題無い。ハヤトも明らかに酔ってはいるものの、潰れる気配は皆無だ。
となると、矢張り一番の心配はマクシミリアンだろうか。
そういえば以前にも一緒に呑んだ際、何故ここまで酔い潰れるんだと不思議に思う程に、べろんべろんになっていた。それこそ千鳥足オブ千鳥足の勢いだった。
帝国近衛連隊長として最前線に立つ時の彼は誰よりも凛々しく、頼もしく、常に力強い存在で仲間達を大いに鼓舞してくれる。
ところが親しい者達だけで集まる酒宴となると、そのイメージが一気に崩れ落ち、当たり前の様に泥酔する姿を連発していた。
否、或いはそれだけ気心の知れた友人達を信頼しているのかも知れない。
そういう意味では、こうして素の姿を見せてくれるのは、決して悪い気分ではなかった。
「マックスってさぁ、親父と呑む時もこんな感じなんかあ?」
「うん、まぁ、前も似た様な光景を見た気がするなぁ」
不思議そうに覗き込むハヤトに、ディレインは苦笑を返した。
ハヤトの父がマクシミリアンの呑み友達だが、その息子とも呑み友達になるというのは、これはこれで感慨深い話だった。
とかいっているうちに、マクシミリアンは鼾を立て始めてしまった。
もう食えないだの、まだまだ呑めるぜだの、矛盾しまくりの寝言のおまけ付だった。
「……お開きにするか?」
ショウガの為に三皿目を用意していたレピドが、小首を傾げた。
既にコルネリウスとハヤトも、眠気が勝ってうつらうつらとしている。その面は揃って笑顔。
良い宴だった。
これからの未来に向けての、良い思い出になるだろう。