炎と氷
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年12月22日 19時24分56秒
丘の上に設営された本陣から戦場である森と平原の境界が見える。
「見えるか、エルゼリオ」
「うん、激しい戦いだね」
境界では王国軍とオークによる激しい戦が繰り広げられていた。
「優勢なの?」
戦局は一見どちらが優勢かわからない。エルゼリオ・レイノーラは隣の男に問いかけた。
「どちらだと思う」
しかし、返事は更なる問い。
「王国軍が押しているように見えるけど……」
エルゼリオはじっと眼下の戦場を見つめ、思考を巡らせる。
正解は求められていないとわかっているが、どう答えればこの男を満足させられるのかつい考えてしまう。
エルゼリオの隣で戦場を注視する男。
名をシグルド・レイノーラ。
レイノーラ家の長兄にして、軍の副司令官を拝命するほど才気に溢れた美丈夫である。容姿こそレイノーラ家の血を色濃く映し出してはいるが『どうしたらあの親父からこんな子供が生まれるんだ?』とリーンエス王国軍内でも7不思議の一つに数えられるほど、沈着冷静で生真面目。冗談すらも通じない堅物として知られている。
「形勢は不利だ。平原では押しているが、この戦の主戦場は森の中だ」
「森の中……」
エルゼリオは森を見る。時折木々が揺れ鳥が羽ばたいていくのは、森で戦闘が行われていることの証左なのだろう。
「敵指揮官は狡猾だ。不利な平地には出てこず、自らのテリトリーである森へと誘い込む」
「それでもこっちは国軍でしょ。負けるわけは――」
そう言いかけてエルゼリオは口をつぐんだ。
「気付いたか」
「うん。森の中じゃレイノーラの主力が動けない」
「そうだ。敵はこちらの主力である騎兵を完全に無力化している」
「なんて戦慣れしてる奴なんだ……本当にオークなの?」
エルゼリオの言葉に、シグルドは無言で頷く。
「オークロードだ。これまでも何度か矛を交えた事があるが、一度も勝利をものにできていない」
もちろん負けてもいないがな。と続けるシグルドにエルゼリオは驚く。
シグルドはレイノーラ家きっての秀才で、父であるハスラムとはまた違った戦の天才だ。
『氷の貴公子』や『賢軍氷人』の渾名で呼ばれて父とはまるで対照的な理路整然とした戦い方は、個の戦闘力もさることながら、軍を扱わせれば右に出る者なしとの評判で、数々の戦場を渡り歩いてきたレイノーラ家一党の勝利の影には、このシグルドの功績が大きかったと言われてる。
「父上と兄上を相手にして、持ちこたえるだけでもすごいのに……」
「買いかぶり過ぎだ。我々とて無敵という訳ではない」
驚くエルゼリオに、シグルドは首を振る。
「現にこの膠着状態は一月も続いている」
「ひ、一月も。それじゃボクを呼んだのは、軍に加われっていう事?」
「いや、違う。お前一人加わった所で戦局に大きな影響は出ない」
「む……じゃ、どうしてボクを呼んだの? わざわざギルドを通して依頼までして」
兄の真意が見えず、エルゼリオは不機嫌に問いかける。
「1週間前から父が戻ってきていない」
「…………ええっっ!?」
事もなげにそういう兄に、エルゼリオはつい大声を出してしまう。
「ど、どういう事!? 父上は無事なの!」
「ああ、無事だろう」
と、焦るエルゼリオにシグルドは森の一点を指さす。
と、その瞬間、鳥が羽ばたき、大木ともいえる木が一本倒れた。
「え……あれって父上の仕業だったの?」
「あんなことができる人間がおいそれと存在してもらっては困る」
「でも、あの調子なら心配なさそうだけど……」
「あの調子が続けば、な」
いつもははっきりとモノを言う兄が、言葉を選んで話している。
エルゼリオは姿勢を正し、続く言葉を待った。
「お前は【天眼】が使えたな」
言葉に真剣みを感じエルゼリオは小さく頷く。
「あの森は迷いの魔法がかけられている」
「迷いの魔法……まさか、一度入ると出てこられない的な?」
「概ねその通りだ。父はあの森から出られないでいる」
そこまで聞いてようやく理解した。ボクが求められている役割は――。
「独断専行し罠にかかった指揮官救出の為に、部隊を動かし兵の命を危険にさらすことはできない。だからこれは軍からの要請ではない。私個人が冒険者エルゼリオ・レイノーラに対して行った依頼だ」
そう言うとシグルドはエルゼリオと視線を交えた。
「エルゼリオ、行ってくれるか」
「もちろん!」
即答したエルゼリオはどんと胸と叩き、兄に向かって力強い笑みを向けた。
●
ヒーラーであるエルゼリオは隠密行動に向いていない。それでも【天眼】と【超聴覚】を駆使し薄暗い森の中を慎重に進んでいく。
――丘から見た場所はこの辺りだけど、流石にもう移動してるよね。
数刻前、兄と共に見た場所。【天眼】のおかげで敵の魔法の効力を受けながらも、迷わずにこの場所まで来ることができた。
――居ない。けど、流石というかなんというか。
エルゼリオは声を殺し苦笑する。
目の前の巨木は根元からすっぱりと断たれていた。
「あの人の事だから、迷ったのなら森の木を一本残らず切ってしまえばいいだろうが! とか思ってそう」
「はぁ? 手前ェ、俺を脳筋ゴリラか何かと勘違いしてんだろ」
「う、うわぁっ!?」
突然かけられた声に、エルゼリオは飛び上がる。もちろん声の主は――。
「で、なんで手前ェがこんなとこでうろちょろしてやがる」
「や、やぁ、父上。今日はいい天気だね」
そう、レイノーラ家の最強の遺伝子にして現当主のハスラム・レイノーラだった。
「そんな気の抜けた挨拶はいいんだよ。で、何しに来やがった」
「何しにって……父上が戻ってこないから皆心配してるんだよ?」
「たかだか1日空けただけで何騒いでやがるんだ、シグルドの奴」
「は……?」
父から出た言葉に、エルゼリオは思わず呆気にとられた。
「い、いま、1日って言った……?」
エルゼリオは空耳だったと期待し、父に問いかけるが。
「はぁ? 手前ェ、耳まで遠くなりやがったのか?」
答えは変わらなかった。
「父上、よく聞いて」
この状況はまずい。とても冗談を言い合っていられるような場合じゃない。
エルゼリオは表情を真剣なものへと変え、父に話しかけた。
「ボクが兄上から依頼を受けて森に入ったのは、父上が本営に戻らなくなってから一週間後なんだ」
「……なに?」
ここへきてようやくハスラムの表情が険しくなった。
「ちぃ。感覚誤認の魔法か? いや、こんな大規模な魔法聞いたこともねぇ。まさかオーク如きが神具でも使ってやがるのか……?」
ハスラムはすぐに状況を理解し、思考の海に沈む。
「父上、ここはおかしい。すぐに脱出しないとダメだ」
そんな父に、エルゼリオが声をかけて――。
「……エルゼリオ。手前ェ【天眼】使えたな」
「う、うん。……出口はこっちだよ。早く出ないと外との時間が――って、まさか」
と、そこまで言ってからエルゼリオは、とてもとても嫌な――あの父が放つ傲岸不遜な雰囲気を感じ取り、頬を引きつらせる。
「狙うはただ一つ、大将首だ!」
●
気配を殺し森を行く。後方では父が大暴れしている音が聞こえた。
(もう少し先に――あった!)
鬱蒼と茂る森の中にぽっかりと開いた場所。オーク達の本拠と思しき柵に囲まれた粗末な陣だ。
(無警戒過ぎる。よっぽど自分達の策に自信をもっているんだね)
見張りこそ立っているものの、その数は少ない。本陣を攻められるなど露ほども考えていないのだろう。
(凡将の率いる軍だったらそれでよかったんだろうけど、相手が悪かったね)
そう、相手はレイノーラ軍。王国でも色々な意味で手に負えない精鋭達だ。
――とはいえ、さっきまで苦戦していたんだけど。
(なんだ、あんだけしかいねぇのか)
と、そんな事を考えていると、耳元でいきなり声がした。
(ち、父上! いきなり背後取るのやめてよ!)
(気付かねぇ手前ェが悪い)
横並びに本陣を伺う二人。
(どうするの? 暗くなるのを待って夜襲?)
(はぁ? なんでオーク如きにそんなまどろっこしいことしなきゃなんねぇんだ)
言うと、ハスラムは虚空から身の丈ほどもある大剣を取り出した。
(そ、それって『アビスイレイサー』!?)
幅広の刀身の全てを黒く染める大剣。ハスラムの功績に対し国王直々に下賜された黒の宝剣だ。
(そんな大切な剣使っていいの!?)
(何言ってやがる。剣ってのは斬ってナンボだろうが)
(そ、そうだけど! それは――)
(おら、行くぜ!)
言うなりエルゼリオの返事も待たず、ハスラムは森から飛び出した――。
●
父上が飛び出していった後がどうなったかって?
わざわざ聞かなくてもわかるとは思うけど、それはもう酷い有様だったよ。
狂気に満ちた笑みを浮かべる剣士が突然現れたかと思うと、身の丈ほどの巨大な黒剣を振り回し全てを切り裂いていくんだ。
柵だろうが、盾だろうが、身体だろうが。何でもお構いなしだった。触れたものは尽く両断されていく。
最後に策の要と思われるアイテムを叩き割って――勝負は決したんだ。
まぁ、その頃には辺りに動くモノなんて一つも残っていなかったけどね。
迷いの魔法が解除された後は、流石としか言いようのない速さで全軍突撃の命が下った。森を盾に攻防を続けていた敵はレイノーラ軍の圧力に一瞬にして崩壊。ほとんどの兵士を打ち取って――完勝だったよ。ほんと兄上の戦術眼には感服するほかないね。
戦いが終わって兵士達が祝杯を挙げている中、ボクは本営に呼ばれたんだ。
「エルゼリオ、協力に感謝する」
兄シグルドが深く頭を垂れて。
「ふん、ようやく使い物になる様になってきたじゃねぇか。一兵卒からなら軍に入れてやらねぇでもないぞ」
父ハスラムは不遜な態度を崩さずそう言った。
まったく、素直じゃないね。まぁそこが父上らしいんだけど。
結局、戦は大勝利。またレイノーラ家の名声が高まったんじゃないかな。
その功績に一役買えたのは――まぁ、悪くなかったかな。ふふ。
「見えるか、エルゼリオ」
「うん、激しい戦いだね」
境界では王国軍とオークによる激しい戦が繰り広げられていた。
「優勢なの?」
戦局は一見どちらが優勢かわからない。エルゼリオ・レイノーラは隣の男に問いかけた。
「どちらだと思う」
しかし、返事は更なる問い。
「王国軍が押しているように見えるけど……」
エルゼリオはじっと眼下の戦場を見つめ、思考を巡らせる。
正解は求められていないとわかっているが、どう答えればこの男を満足させられるのかつい考えてしまう。
エルゼリオの隣で戦場を注視する男。
名をシグルド・レイノーラ。
レイノーラ家の長兄にして、軍の副司令官を拝命するほど才気に溢れた美丈夫である。容姿こそレイノーラ家の血を色濃く映し出してはいるが『どうしたらあの親父からこんな子供が生まれるんだ?』とリーンエス王国軍内でも7不思議の一つに数えられるほど、沈着冷静で生真面目。冗談すらも通じない堅物として知られている。
「形勢は不利だ。平原では押しているが、この戦の主戦場は森の中だ」
「森の中……」
エルゼリオは森を見る。時折木々が揺れ鳥が羽ばたいていくのは、森で戦闘が行われていることの証左なのだろう。
「敵指揮官は狡猾だ。不利な平地には出てこず、自らのテリトリーである森へと誘い込む」
「それでもこっちは国軍でしょ。負けるわけは――」
そう言いかけてエルゼリオは口をつぐんだ。
「気付いたか」
「うん。森の中じゃレイノーラの主力が動けない」
「そうだ。敵はこちらの主力である騎兵を完全に無力化している」
「なんて戦慣れしてる奴なんだ……本当にオークなの?」
エルゼリオの言葉に、シグルドは無言で頷く。
「オークロードだ。これまでも何度か矛を交えた事があるが、一度も勝利をものにできていない」
もちろん負けてもいないがな。と続けるシグルドにエルゼリオは驚く。
シグルドはレイノーラ家きっての秀才で、父であるハスラムとはまた違った戦の天才だ。
『氷の貴公子』や『賢軍氷人』の渾名で呼ばれて父とはまるで対照的な理路整然とした戦い方は、個の戦闘力もさることながら、軍を扱わせれば右に出る者なしとの評判で、数々の戦場を渡り歩いてきたレイノーラ家一党の勝利の影には、このシグルドの功績が大きかったと言われてる。
「父上と兄上を相手にして、持ちこたえるだけでもすごいのに……」
「買いかぶり過ぎだ。我々とて無敵という訳ではない」
驚くエルゼリオに、シグルドは首を振る。
「現にこの膠着状態は一月も続いている」
「ひ、一月も。それじゃボクを呼んだのは、軍に加われっていう事?」
「いや、違う。お前一人加わった所で戦局に大きな影響は出ない」
「む……じゃ、どうしてボクを呼んだの? わざわざギルドを通して依頼までして」
兄の真意が見えず、エルゼリオは不機嫌に問いかける。
「1週間前から父が戻ってきていない」
「…………ええっっ!?」
事もなげにそういう兄に、エルゼリオはつい大声を出してしまう。
「ど、どういう事!? 父上は無事なの!」
「ああ、無事だろう」
と、焦るエルゼリオにシグルドは森の一点を指さす。
と、その瞬間、鳥が羽ばたき、大木ともいえる木が一本倒れた。
「え……あれって父上の仕業だったの?」
「あんなことができる人間がおいそれと存在してもらっては困る」
「でも、あの調子なら心配なさそうだけど……」
「あの調子が続けば、な」
いつもははっきりとモノを言う兄が、言葉を選んで話している。
エルゼリオは姿勢を正し、続く言葉を待った。
「お前は【天眼】が使えたな」
言葉に真剣みを感じエルゼリオは小さく頷く。
「あの森は迷いの魔法がかけられている」
「迷いの魔法……まさか、一度入ると出てこられない的な?」
「概ねその通りだ。父はあの森から出られないでいる」
そこまで聞いてようやく理解した。ボクが求められている役割は――。
「独断専行し罠にかかった指揮官救出の為に、部隊を動かし兵の命を危険にさらすことはできない。だからこれは軍からの要請ではない。私個人が冒険者エルゼリオ・レイノーラに対して行った依頼だ」
そう言うとシグルドはエルゼリオと視線を交えた。
「エルゼリオ、行ってくれるか」
「もちろん!」
即答したエルゼリオはどんと胸と叩き、兄に向かって力強い笑みを向けた。
●
ヒーラーであるエルゼリオは隠密行動に向いていない。それでも【天眼】と【超聴覚】を駆使し薄暗い森の中を慎重に進んでいく。
――丘から見た場所はこの辺りだけど、流石にもう移動してるよね。
数刻前、兄と共に見た場所。【天眼】のおかげで敵の魔法の効力を受けながらも、迷わずにこの場所まで来ることができた。
――居ない。けど、流石というかなんというか。
エルゼリオは声を殺し苦笑する。
目の前の巨木は根元からすっぱりと断たれていた。
「あの人の事だから、迷ったのなら森の木を一本残らず切ってしまえばいいだろうが! とか思ってそう」
「はぁ? 手前ェ、俺を脳筋ゴリラか何かと勘違いしてんだろ」
「う、うわぁっ!?」
突然かけられた声に、エルゼリオは飛び上がる。もちろん声の主は――。
「で、なんで手前ェがこんなとこでうろちょろしてやがる」
「や、やぁ、父上。今日はいい天気だね」
そう、レイノーラ家の最強の遺伝子にして現当主のハスラム・レイノーラだった。
「そんな気の抜けた挨拶はいいんだよ。で、何しに来やがった」
「何しにって……父上が戻ってこないから皆心配してるんだよ?」
「たかだか1日空けただけで何騒いでやがるんだ、シグルドの奴」
「は……?」
父から出た言葉に、エルゼリオは思わず呆気にとられた。
「い、いま、1日って言った……?」
エルゼリオは空耳だったと期待し、父に問いかけるが。
「はぁ? 手前ェ、耳まで遠くなりやがったのか?」
答えは変わらなかった。
「父上、よく聞いて」
この状況はまずい。とても冗談を言い合っていられるような場合じゃない。
エルゼリオは表情を真剣なものへと変え、父に話しかけた。
「ボクが兄上から依頼を受けて森に入ったのは、父上が本営に戻らなくなってから一週間後なんだ」
「……なに?」
ここへきてようやくハスラムの表情が険しくなった。
「ちぃ。感覚誤認の魔法か? いや、こんな大規模な魔法聞いたこともねぇ。まさかオーク如きが神具でも使ってやがるのか……?」
ハスラムはすぐに状況を理解し、思考の海に沈む。
「父上、ここはおかしい。すぐに脱出しないとダメだ」
そんな父に、エルゼリオが声をかけて――。
「……エルゼリオ。手前ェ【天眼】使えたな」
「う、うん。……出口はこっちだよ。早く出ないと外との時間が――って、まさか」
と、そこまで言ってからエルゼリオは、とてもとても嫌な――あの父が放つ傲岸不遜な雰囲気を感じ取り、頬を引きつらせる。
「狙うはただ一つ、大将首だ!」
●
気配を殺し森を行く。後方では父が大暴れしている音が聞こえた。
(もう少し先に――あった!)
鬱蒼と茂る森の中にぽっかりと開いた場所。オーク達の本拠と思しき柵に囲まれた粗末な陣だ。
(無警戒過ぎる。よっぽど自分達の策に自信をもっているんだね)
見張りこそ立っているものの、その数は少ない。本陣を攻められるなど露ほども考えていないのだろう。
(凡将の率いる軍だったらそれでよかったんだろうけど、相手が悪かったね)
そう、相手はレイノーラ軍。王国でも色々な意味で手に負えない精鋭達だ。
――とはいえ、さっきまで苦戦していたんだけど。
(なんだ、あんだけしかいねぇのか)
と、そんな事を考えていると、耳元でいきなり声がした。
(ち、父上! いきなり背後取るのやめてよ!)
(気付かねぇ手前ェが悪い)
横並びに本陣を伺う二人。
(どうするの? 暗くなるのを待って夜襲?)
(はぁ? なんでオーク如きにそんなまどろっこしいことしなきゃなんねぇんだ)
言うと、ハスラムは虚空から身の丈ほどもある大剣を取り出した。
(そ、それって『アビスイレイサー』!?)
幅広の刀身の全てを黒く染める大剣。ハスラムの功績に対し国王直々に下賜された黒の宝剣だ。
(そんな大切な剣使っていいの!?)
(何言ってやがる。剣ってのは斬ってナンボだろうが)
(そ、そうだけど! それは――)
(おら、行くぜ!)
言うなりエルゼリオの返事も待たず、ハスラムは森から飛び出した――。
●
父上が飛び出していった後がどうなったかって?
わざわざ聞かなくてもわかるとは思うけど、それはもう酷い有様だったよ。
狂気に満ちた笑みを浮かべる剣士が突然現れたかと思うと、身の丈ほどの巨大な黒剣を振り回し全てを切り裂いていくんだ。
柵だろうが、盾だろうが、身体だろうが。何でもお構いなしだった。触れたものは尽く両断されていく。
最後に策の要と思われるアイテムを叩き割って――勝負は決したんだ。
まぁ、その頃には辺りに動くモノなんて一つも残っていなかったけどね。
迷いの魔法が解除された後は、流石としか言いようのない速さで全軍突撃の命が下った。森を盾に攻防を続けていた敵はレイノーラ軍の圧力に一瞬にして崩壊。ほとんどの兵士を打ち取って――完勝だったよ。ほんと兄上の戦術眼には感服するほかないね。
戦いが終わって兵士達が祝杯を挙げている中、ボクは本営に呼ばれたんだ。
「エルゼリオ、協力に感謝する」
兄シグルドが深く頭を垂れて。
「ふん、ようやく使い物になる様になってきたじゃねぇか。一兵卒からなら軍に入れてやらねぇでもないぞ」
父ハスラムは不遜な態度を崩さずそう言った。
まったく、素直じゃないね。まぁそこが父上らしいんだけど。
結局、戦は大勝利。またレイノーラ家の名声が高まったんじゃないかな。
その功績に一役買えたのは――まぁ、悪くなかったかな。ふふ。