春の風に香る手紙
ディレイン・オールドケイジ更新 2025年03月04日 23時08分59秒
SS
おじさんが受け取ったお手紙の話。
春の訪れを感じる、暖かく晴れた日。逗留する集落で借り受けた家の一室にて、ディレイン・オールドケイジは机に向かって一通の手紙に目を通していた。
冒険者ギルド経由でいくつかの薬の材料を依頼していたのだが、昨日届いた荷の中に混じっていた手紙だ。白い封筒に書かれた宛名――自分の名前。その筆跡にはもちろん覚えがある。1ヶ月に一度の定期連絡が滞りがちなことへのお小言かと冷や汗をかきながら開封したのだが、完全に彼の取り越し苦労だった。
先だって彼が手紙の主に送っていた贈り物、その礼が記された手紙だった。
「こういうところ、やっぱりしっかりしてるんだよなあ。おじさんとは大違いだ」
背もたれに体重を預けられた椅子が、ギッと小さな悲鳴を上げる。ディレインが借りているこの家はまさにあばら家といった風体で、家具も年季の入ったものが必要最低限あるばかり。とはいえ旅先で贅沢ことは言えないし、賃料は破格のうえ食事の面倒も見てくれるし、野宿に比べればそれこそ天と地ほどの差だ。
最後まで読み終わって、もう一度最初から読み直す。友人の顔を思い浮かべながら。喜んでくれたようでよかった、と。
「何ニヤケてんだよ、おっさん」
「わぁ!?」
開けていた窓の外から声がかかる。驚いたディレインは危うく椅子から転げ落ちるところだった。
声をかけたのは村の住人である少年で、家主の子だ。ディレインの様子を面白そうにけらけら笑っている。彼が食事時だと知らせに来ることはもはや日常風景になりつつあった。
「おっさんの顔、でれでれだったぞ。なんだ、女か」
「あのねえ、そういうこと言わないの。友人だよ。友人」
「友達からの手紙にあんな顔しねぇだろ」
「いやいや、あんな顔ってどんな顔よ……」
便箋を元のように折り畳み、封筒に戻す。ふわりと花の香りがした気がした。
机の上にそのまま置くことも考えたが、窓から入る風で万が一にも飛んで行ってしまってはかなわないと、分厚い植物図鑑を手繰り寄せた。栞を挟んでいたページを開き、封筒を追加で挟み、また閉じる。
「友人は友人だよ。とても大切な、ね」
少年は「ふーん」と返事をしたが、おそらくよくわかっていないだろう。
「お父さんの具合はどう?」
「今朝は体起こして飯食ってたな。顔色も悪くなかったんじゃね」
「それはよかった。じゃあ往診もしちゃおうかな。準備できたら行くから、お母さんにそう言っておいてくれるかい?」
「りょーかーい」
言うが早いか、少年は窓から離れて駆け出していった。
伝言を頼んだとはいえ、すでに食事の支度ができているのならあまり遅くなってもいけないだろう。ディレインの手が寝台に乗せていた緑色の上着に伸びる。頭の中では、ギルドから届いた荷の中身リストを反芻しつつ、これから行う診察の手順を組み立てていた。
冒険者ギルド経由でいくつかの薬の材料を依頼していたのだが、昨日届いた荷の中に混じっていた手紙だ。白い封筒に書かれた宛名――自分の名前。その筆跡にはもちろん覚えがある。1ヶ月に一度の定期連絡が滞りがちなことへのお小言かと冷や汗をかきながら開封したのだが、完全に彼の取り越し苦労だった。
先だって彼が手紙の主に送っていた贈り物、その礼が記された手紙だった。
「こういうところ、やっぱりしっかりしてるんだよなあ。おじさんとは大違いだ」
背もたれに体重を預けられた椅子が、ギッと小さな悲鳴を上げる。ディレインが借りているこの家はまさにあばら家といった風体で、家具も年季の入ったものが必要最低限あるばかり。とはいえ旅先で贅沢ことは言えないし、賃料は破格のうえ食事の面倒も見てくれるし、野宿に比べればそれこそ天と地ほどの差だ。
最後まで読み終わって、もう一度最初から読み直す。友人の顔を思い浮かべながら。喜んでくれたようでよかった、と。
「何ニヤケてんだよ、おっさん」
「わぁ!?」
開けていた窓の外から声がかかる。驚いたディレインは危うく椅子から転げ落ちるところだった。
声をかけたのは村の住人である少年で、家主の子だ。ディレインの様子を面白そうにけらけら笑っている。彼が食事時だと知らせに来ることはもはや日常風景になりつつあった。
「おっさんの顔、でれでれだったぞ。なんだ、女か」
「あのねえ、そういうこと言わないの。友人だよ。友人」
「友達からの手紙にあんな顔しねぇだろ」
「いやいや、あんな顔ってどんな顔よ……」
便箋を元のように折り畳み、封筒に戻す。ふわりと花の香りがした気がした。
机の上にそのまま置くことも考えたが、窓から入る風で万が一にも飛んで行ってしまってはかなわないと、分厚い植物図鑑を手繰り寄せた。栞を挟んでいたページを開き、封筒を追加で挟み、また閉じる。
「友人は友人だよ。とても大切な、ね」
少年は「ふーん」と返事をしたが、おそらくよくわかっていないだろう。
「お父さんの具合はどう?」
「今朝は体起こして飯食ってたな。顔色も悪くなかったんじゃね」
「それはよかった。じゃあ往診もしちゃおうかな。準備できたら行くから、お母さんにそう言っておいてくれるかい?」
「りょーかーい」
言うが早いか、少年は窓から離れて駆け出していった。
伝言を頼んだとはいえ、すでに食事の支度ができているのならあまり遅くなってもいけないだろう。ディレインの手が寝台に乗せていた緑色の上着に伸びる。頭の中では、ギルドから届いた荷の中身リストを反芻しつつ、これから行う診察の手順を組み立てていた。