記録 2

ディレイン・オールドケイジディレイン・オールドケイジ更新 2025年01月03日 13時04分25秒

SS

おじさんの旅の記録

記録 2
 闇の広がる森の中。そこだけぽっかりと、焚き火を中心に暖かな光が広がっている。ぱちぱち鳴る音は、傍にひとり座すディレイン・オールドケイジの耳を慰めつつも、欠伸を誘発してやまない。
 味気ない保存食に齧り付く。日持ちの良さを優先して作られたそれは容赦なく口内の水分を奪っていくから、続けて水筒をあおることを余儀なくされる。中身は綺麗な川で汲んだ水。酒が恋しいが旅の途中では叶わぬ要望だ。次の集落に着いたらジョッキいっぱいのエールを煽りたい、そんなことを考えながら地図を開く。
「……そういえば、町を出発してから何日経ったっけ」
 ディレインの旅は、医者にかかることが難しい地域を巡るもの。必然、その道中は険しいものとなりがちであり、集落から集落への移動にかかる時間も比例して長くなる。
 越えた夜の数を、指折り数えていく。改めて確認してみるとだいぶ多いことに気づかされる。
「はは。とっくに年を越してるねえ」
 乾き気味の笑いが漏れた。
「手紙も皆のところに届いてる頃合いかなあ」
 出発前に発送しておいてよかったと、心から思う。一か月、友人たちへの連絡が途切れると、捜索隊を出されてしまうのだ。心配性だなあと肩をすくめてしまうけれど、一方で心配してくれることがありがたくも嬉しくもある。
 友人たちの怒声を懐かしく思い出しつつ、焚き火に数本の枝を放り込んでから、改めて地図に視線を落とす。川を越えたなら、現在地はおそらくこの辺り。であれば、次の目的地まではもう二日ほどだろうか。
 地図をしまい、保存食の残りを口へ放り込む。もちろん水も流し込む。
 木に背中を預ける。寝具としては固すぎるが、気に入りの枕を出せるような場所ではないので仕方ない。
(ちょっと頑張れば、一日半くらいで着けたりしないかなあ)
 屋根のある場所でなら、枕だけでなく高級寝具も広げられる。ちゃんと調理された食事も酒も楽しめるし、手紙だって書けるし出せる。魔物や凶暴な動物なんかと鉢合わせなければいけるんじゃないか?
 早起きできたらして適度に急ぐ。そんな方向で頑張ることに決めた。
 首にかけている鎖がちゃりと鳴る。胸元、服の下に隠れていた標を引っ張り出す。焚き火の灯りを受けてなお黒いそれを握りしめた。
「おやすみ、みんな」
 祈りの言葉を告げるも、応えられるのは今この場に自分のみ。
 標を元の場所に戻してから、毛布を手繰り寄せ、首から下に巻き付けるようにして、目を閉じた。

新年おめでとう! 新しい一年もよろしくねー!! ……って、直接言えたらよかったんだけど。 キミがこの手紙を読んでる頃、おじさんがどこにいるかは――自分でもわからないんだよねぇ。 おじさんがいないからって、食べ過ぎ飲み過ぎ無理無茶無謀は厳禁だよ。 ひと区切りついたら会いに行くから、その時までどうか元気で。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0