SS:レピド君のミドスタ体験記 #四月カフェ狂想曲

ディレイン・オールドケイジディレイン・オールドケイジ更新 2024年04月08日 19時21分22秒

SSエイプリルフール

ある日、親戚のおじさんからフォースタの割引券を貰ったレピド君。さっそく遊びに行った先で、ディーというキャストとチェキ撮影。和気藹々な様子に、実は同じミドスタ支店に勤務しているティーチャーは、柱の陰でハンカチを噛んでいた。

SS:レピド君のミドスタ体験記 #四月カフェ狂想曲
 The 4th Stage Cafe、通称フォースタ。今をときめくアイドルたちが、歌って踊っておもてなし!――がコンセプトだが、ここ、支店Middle Aged Stars、通称ミドスタはそのなかでも一風変わっている。キャスト全員が中年男性、いわゆるおじさんであり、熟年の経験を漂わせる彼らにこそ心惹かれる者が足繫く通う。華やかかつ包容力もある、そんな店である。

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「なんだこれは」
 首をかしげると赤毛が揺れた。レピドというその青年が手に持っているのは一枚の長方形の紙きれ。
「私の勤務先で使えるサービス券だよ、レピド。初回来店に限り、全会計の合計金額から1割引きだ、すごいだろう」
 対するのは灰色の髪、ロマンスグレーと言えなくもない男性。ティーチャーと自称する彼は妙に芝居がかった口調で、親戚の子であるレピドに向けて両手を広げている。あまり家の中でやる仕草ではないが、共に暮らしているレピドはもう慣れたもので無反応。サービス券のほうがよほど興味をいだける。
「…ライバル店を視察できるなんて、貴重な機会だと思うがね?」
 ティーチャーも無視されることに慣れていた。自身の提示した券に惹かれているならそれで十分。ただ確実にするため、追撃をかけた。
 うさぎ大王とやらの降臨に伴い、5種のコンセプトカフェによるおもてなし大会が開かれている昨今。フォースタももちろん名を連ねているが、ライバルカフェである卯月浪漫茶房、実はレピドの勤務が決まっている。今は制服の出来上がり待ちとはいえ、研修はすでに始まっているし、実際に自分がおもてなしを受けて得られる経験は大きいに違いない。
「シフトを教えろ」
「おおっ!その気になってくれたようだね!」
 ティーチャーは満面のうさんくさい笑顔で革表紙の手帳を取り出すと、メモしてあった自身のシフト直近2週間くらいを述べていく。おとなしく聞いていたレピドは最後に、覚えた、と頷いた。

 そうしてレピドはミドスタの入口に立つことになった。テンションの上がるBGM、盛り上がる店内。女性が多いものの男性の姿もちらほら、なかには親に連れられた子どももいるようで、キャストが男性のみならば客も女性ばかりなのではと覚悟を決めていただけに、そのあてが外れたことで多少は気が楽になった。
 案内されたテーブルにつき、とりあえず飲み物を頼むかとメニュー表をめくっていると、
「いらっしゃーい」
 背中側から声が降ってきた。
 顔だけ振り向けば眼鏡の中年男性がにっこりしている。キラキラした制服を見に纏っているところからしてキャストのひとりなのだろう。
 あいつのうさんくさい笑顔とは段違いだ、とレピドは思う。同じアイドルでこんなにも違うものなのか。
 お邪魔するね、とその男性はレピドの隣に腰掛けた。
「おじさんはね、ディーっていうんだ。ミドスタは初めて?」
「そうだ」
「そっかあ。んー…じゃあ、もしよければ名前を教えてもらってもいいかな。それで、おじさんの友人になってくれると嬉しいなあ」
 頬杖をつきながらレピドをまっすぐに見てくるその目には、慈愛すら感じられる。
 アイドルと客との関係を友人と呼称するのは通常ではないことくらい、レピドにもわかる。だが、隣に座るアイドル本人がそれを確かに望んでいるのだろうとも感じとれた。
「…レピドだ」
「ん?」
「俺の名前。レピド。アンタの友人になってもいい」
 それはとても無愛想な物言いだった。
 アイドルがもてなす店に来る客は基本的に、アイドルの挙動に一喜一憂してキャッキャするものだ。であるのに、レピドの表情筋はほぼ仕事をしていない。声に抑揚もあまり感じられない。
 だが差し出された右手は何かを雄弁に語っている。
「この手は?」
「友人なら握手くらいしてもいいだろう」
 まじまじと十数秒間。ディーはレピドの右手と顔とを見比べた。それから、もう耐えられないといった様子で破顔した。自分も右手を差し出――そうとして、一度止まって手袋を外してから、改めて、ぎゅっとレピドの手を握った。
「ありがとう、レピド君。これで、おじさんと君とは友人。これからよろしくね?」
「わかった。よろしく頼む」
 こくりと頷くレピド。その口元がやや上向いていることに、ディーは果たして気づけたか。
「そうだ、まだ飲み物も頼んでないよね?」
「メニューは見たがよくわからなかった」
「あー、それね。そう。おしゃれな名前はおじさんも苦手で。まずお酒かノンアルかを決めるといいよ」
 飲み物の名前ではなく、何が入っているかを説明して、注文を決めていく。新しい友人たちはメニューを指さし合い、自然と顔を寄せ合っていた。

「ちぇき?」
 花火が刺さったパフェにどう立ち向かったものか、思案するレピドにディーが尋ねたのは、チェキ撮影希望の有無だった。
「記念写真、かな。レピド君がミドスタに来て、おじさんと友人になってくれて、いっぱいおしゃべりした、その記念」
「なるほど」
 実際のところ、喋っていたのは8〜9割がたがディーのほうだ。ミドスタどころかフォースタも初めてだったレピドに店の仕組みを説明し、世間話を投げかけ、出番だからちょっと行ってくると席を立ったかと思えば舞台で歌って踊り、戻ってきたかと思えば感想を求めた。
 レピドはおいしいものを飲んで食べて、初めての体験に瞳孔が開いたり、拍手を送ったり、レンタルのペンライトを振ったりして、楽しかった、と応えた。
「土産はあってもいいな」
「でしょ? あ、オプションにはなるけどサインも入れられるよ」
「サインか…。かわりに今日の日付を書いてもらうことはできるだろうか。記念ならそのほうがいい」
 火の消えた花火をバニラアイスから抜きながら、レピドが言う。やっとパフェが食べられることに夢中で、ディーのほうなど見ていない。
「日付ね、大丈夫!それくらい書いちゃう!」
 ディーはうっきうきで快諾した。
 柄の長いスプーンをくわえたレピドの、膨らんだ頬に自分の頬を寄せて、カメラを斜め上にかまえる。あっち見て、と声をかけ、素直に従ってくれたその瞬間に、フラッシュが輝いた。

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 柱に隠れるようにして、その光景を眺める者がひとり。
「どおおおして私がオフの日に来てるのかなあああ!!しかもディレイン君とあんなに楽しそうにしてえええ!!!」
 嫉妬の叫びを垂れ流していたのは、非番のはずのティーチャーだ。周囲に溶け込むよう私服姿だが、絹のハンカチの端っこを噛んで食いしばる姿はまったく隠れられておらず、近いテーブルの客からは困惑した視線が向けられている。
 そのテーブルについていたキャストが、はあ…とため息をついた。客に断りを入れて席を立ち、ティーチャーに近づいていく。
「ちょっと裏でお話ししようねー」
「はっ、店長!?いや、離してくれたまえ、いま私はとても大事な、ああっ!レピド!ディレインくぅ〜ん!!」
 羽交締めにされたティーチャーは未練がましく手を伸ばしたが、その手からはハンカチすらも離れていった。
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0