甘みと甘さ
ディレイン・オールドケイジ更新 2024年03月21日 21時50分06秒
SS
バレンタイン2024:もらったお返しに対するおじさんのお悩み
昼下がりの自宅で、俺はとても悩んでいた。
目の前の机には、いかにもプレゼント然とした包装のものがふたつ。ただしいずれも開封済みで、中身も確認済み。大切な友人たちから、贈り物へのお返しにともらったものだ。
友人たちは今、自分で進むと決めた道を歩き出そうというところだ。俺のほうも、まだ一人と一匹にしか伝えていないが、もう少ししたら旅に出るつもりでいる。親父のように、医者が少ない、あるいはいない地域を巡る旅だ。彼らが無茶をしたり、強くあるがゆえに折れそうになったりしても、俺が支えることはできなくなる。だから少しでも彼らのためになればと、世間が沸くイベントにかこつけて、それぞれに合わせて作った薬茶の素を贈った。完全に俺の都合で贈ったわけだが、だいぶ喜んでくれていたように思う。ただ、今までこういうことと縁遠かったせいか、お返しが来るなんて頭の隅にもなかった。
正直に言うと、そりゃあ嬉しい。長く大事に残しておきたいと思うくらいには。旅のお供として荷物に詰めたい。だけどそれは許されない。なぜなら――
片や、女性の胸部をかたどったチョコレート。荷物を検めでもされた日には、俺の社会的な立場が危うい。
片や、チョコクリームの詰まった巻貝型のパン。綺麗にデコレーションされており、どう考えても日持ちしない。
「はぁ…困った困った」
かけている椅子の背に重心を預けると、前脚が浮いた。後脚が少しだけ悲鳴を上げる。
パンはあきらめて今日の夜食にしよう。荷造りで疲れるだろう頭と体にはちょうどよさそうだ。でもどうしてか、感想をちゃんと伝えないといけない気もするので、しっかり味わって食べることにしよう。そうしよう。
そうなると、残る懸念は女性の胸部もどきだ。これを彼に勧めてくれた店員も店員だが、なんで素直に買うかなぁ。保護者殿には一報を入れておくとして。固形のチョコレートなら日持ちはする。問題なのは形だけなのだから、その形が変わればいい。
椅子ごとコケることもなく立ち上がり、布巾と木槌を手にとる。薬剤調合でいつも使っているものだ。
胸部を覆うように布巾をかける。木槌で小突いてみると、中までちゃんと詰まっている音がした。
「さすがにそのまま食べるのも運ぶのもなんだから…………ごめんね」
少しだけ力を込めて、木槌を振り下ろす。大体一口サイズになるまで複数回。これなら旅にも持っていけるだろう。万が一溶けてもいいように、瓶にでも詰めておこうか。
――やっぱり、パンも持っていきたいな。マジカルポケットに入れておけば腐ることもないんだっけ。習得してないから、まずはそこから…つまり今ここにあるこれはやっぱり夜食なわけだけど。相談してみるのはありかもしれない。となると、旅に出ることは伝えないとならないな。
そうだ。言わないと。そろそろ。
定期的に戻ってくるつもりではいるけど。それでも、何があるかは、本当に、わからないから。
「…おいしいなこれ」
胸部だったものの欠片を口に放り込んだら、しっかりとした甘みが広がった。目が覚める。
お茶を淹れよう。夜食まで待たなくていいや、パンも今食べちゃおう。おやつの時間ってことで。
自分用に調合してる薬茶とともに。
目の前の机には、いかにもプレゼント然とした包装のものがふたつ。ただしいずれも開封済みで、中身も確認済み。大切な友人たちから、贈り物へのお返しにともらったものだ。
友人たちは今、自分で進むと決めた道を歩き出そうというところだ。俺のほうも、まだ一人と一匹にしか伝えていないが、もう少ししたら旅に出るつもりでいる。親父のように、医者が少ない、あるいはいない地域を巡る旅だ。彼らが無茶をしたり、強くあるがゆえに折れそうになったりしても、俺が支えることはできなくなる。だから少しでも彼らのためになればと、世間が沸くイベントにかこつけて、それぞれに合わせて作った薬茶の素を贈った。完全に俺の都合で贈ったわけだが、だいぶ喜んでくれていたように思う。ただ、今までこういうことと縁遠かったせいか、お返しが来るなんて頭の隅にもなかった。
正直に言うと、そりゃあ嬉しい。長く大事に残しておきたいと思うくらいには。旅のお供として荷物に詰めたい。だけどそれは許されない。なぜなら――
片や、女性の胸部をかたどったチョコレート。荷物を検めでもされた日には、俺の社会的な立場が危うい。
片や、チョコクリームの詰まった巻貝型のパン。綺麗にデコレーションされており、どう考えても日持ちしない。
「はぁ…困った困った」
かけている椅子の背に重心を預けると、前脚が浮いた。後脚が少しだけ悲鳴を上げる。
パンはあきらめて今日の夜食にしよう。荷造りで疲れるだろう頭と体にはちょうどよさそうだ。でもどうしてか、感想をちゃんと伝えないといけない気もするので、しっかり味わって食べることにしよう。そうしよう。
そうなると、残る懸念は女性の胸部もどきだ。これを彼に勧めてくれた店員も店員だが、なんで素直に買うかなぁ。保護者殿には一報を入れておくとして。固形のチョコレートなら日持ちはする。問題なのは形だけなのだから、その形が変わればいい。
椅子ごとコケることもなく立ち上がり、布巾と木槌を手にとる。薬剤調合でいつも使っているものだ。
胸部を覆うように布巾をかける。木槌で小突いてみると、中までちゃんと詰まっている音がした。
「さすがにそのまま食べるのも運ぶのもなんだから…………ごめんね」
少しだけ力を込めて、木槌を振り下ろす。大体一口サイズになるまで複数回。これなら旅にも持っていけるだろう。万が一溶けてもいいように、瓶にでも詰めておこうか。
――やっぱり、パンも持っていきたいな。マジカルポケットに入れておけば腐ることもないんだっけ。習得してないから、まずはそこから…つまり今ここにあるこれはやっぱり夜食なわけだけど。相談してみるのはありかもしれない。となると、旅に出ることは伝えないとならないな。
そうだ。言わないと。そろそろ。
定期的に戻ってくるつもりではいるけど。それでも、何があるかは、本当に、わからないから。
「…おいしいなこれ」
胸部だったものの欠片を口に放り込んだら、しっかりとした甘みが広がった。目が覚める。
お茶を淹れよう。夜食まで待たなくていいや、パンも今食べちゃおう。おやつの時間ってことで。
自分用に調合してる薬茶とともに。