誰かのためのお茶

ディレイン・オールドケイジディレイン・オールドケイジ更新 2024年03月21日 21時32分14秒

SS過去

15歳くらい。薬茶の由来。 関連ボイスの納品日:2024.2.1

誰かのためのお茶
 それが登場するのはたいてい、親父の仕事が忙しい時だった。

 昼下がり。夕食の準備をするには早すぎる時間に、おふくろが台所に立っていた。食卓で植物図鑑を眺めていた俺は、ちょこちょこと動いて作業しているお袋が気になって、ついに勉強どころではなくなった。
「母さん、何してるの?」
「ん〜?」
 目を離せないようでこちらを振り向くことはしなかったが、鼻歌でも歌い出しそうな声音だった。
 何だと思う?と。おふくろは俺に問いかけた。
「わかんないよ…。料理の仕込みかと思ったけど、なんか変なにおいしてるし」
「ふふっ、そうねえ、今のところは変なにおいかしらねえ」
 答えをすぐに明かすつもりはないようで、背中を向けたまま手招きをしてきた。俺は椅子から降りておふくろに駆け寄った。
 火の入ったかまど。そろそろ沸騰しそうな、鍋いっぱいのお湯。隣の台では、細かく刻まれた茎や葉、砕かれた実など、複数種類の植物が出番を待っていた。においはどうやら、それら植物に手を加えたがゆえのものらしかった。
「さあディレイン。ここに並ぶ植物の名前がわかるかしら」
「え!?」
 突然の試験開始。慌てて図鑑を取りに戻る俺を見て、おふくろは笑っていた。

 要は、どれも心身の疲労に効く薬草だった。数種類をブレンドして、煮出して、味を整える。薬湯よりも日常的に飲めるものだったから、おふくろは薬茶(くすりちゃ)と呼んでいた。
 仕事が煮詰まると部屋から出てこない、食事もままならなくなる親父のために、おふくろが考えたもの。味も親父好み。その時の俺には少し苦すぎてしかめっつらをしていたが、それすらも笑いながら蜂蜜を足すなどしてさらに調整してくれた。
 火を使う許可が出てから、基本のレシピだけでなく、調整方法もいろいろ教わった。それなりに手間のかかる作業。でも、飲んでほしいと思う相手ができたなら。
「腕によりをかけて頑張りなさいね」
 あの時のおふくろは、俺にどんな将来を見ていたのか。今となっては想像すらも難しいけど、やっぱり笑っていたことだけは覚えている。

はいどーぞ。お菓子は作れないから買ってきたものだけど、お茶はおじさんが調合したもので…そんな顔しないで。大丈夫、苦くないってば。お菓子があるぶん甘味を抑えてあるとはいえ、飲みやすく仕上げたつもりだよ。薬茶っていって、今回は心身の疲労をとる…いや説明はいいか。まず飲んでみて。…どう?結構いけるでしょ?

ボイスの詳細を見る

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0