関係性の呼び方
ディレイン・オールドケイジ更新 2024年03月21日 21時30分02秒
SS過去
14歳くらい。養父母を父母として受け入れたとき。
拾われて、2年くらい経つという頃だっただろうか。あの頃は親父がまだ遍歴医を続けていて、小さな町や村を転々とする生活だった。医者が常駐しているはずもない地域で、親父の来訪はとても喜ばれていた。
気温が低くなれば、雪が降るほどでなくとも体調を崩す人は増える。ひっぱりだこの親父とその助手たるおふくろは腰を落ち着ける暇もなく、俺はひとり、宿代わりにあてがわれた空き家で待っていた。
やりたいことは特になかったが、やったほうがいいことはあった。文章の読み書きだ。
文字は覚え終わっていたから、次の段階として子ども向けの物語を書き写すよう指示されていた。これがまた王子様とお姫様の素敵な物語で、まったく興味がわかず、ペンの動きも鈍かった。
寒い外には出たくない。かといって琴線に触れない物語を綴り続ける苦行からは逃れたくてしかたなかった。世話になっている恩を感じていたとしても、つらいものはつらい。
椅子に座ったまま、足をぶらぶらさせる。机に突っ伏す。適当にペンを動かして文字にならない線を引く。早く帰ってこないかな、と。
そう、俺はふたりの帰りを待ちわびていた。
気づいた瞬間に跳ね起きて、その勢いのまま椅子ごと床に転がった。
後頭部と背中の痛みにもだえながら、星の飛び交う視界に目を瞬かせ、そうしてひとしきり騒いでいるところへ、
「ただいまぁ。いい子にしてたかなー?」
ふたりが帰ってきた。
ふたりは床の上の俺を見下ろして、状況を一瞬で理解した。
「この前も気をつけろといったばかりだろう?頭は守らなくちゃダメじゃないか。――布を濡らしてきて――他にぶつけたところは?ああ、肘がすりむいてる」
帰還の挨拶に答える間もなく、ぺたぺたと体じゅうを触診された。遠慮のない触り方だが、その頃にはもう慣れたものだった。すっかり、嫌ではなくなっていた。触り方が患者に対するものとは少し違うことも気づいていた。慌て気味なのも、過保護っぽいのも。
「ほら、これで冷やして。大丈夫かい?あんまり痛みが強いなら薬を」
俺だから、この人たちはこんなにも心配しているのだと。
「大丈夫。…大丈夫だから。父さん。母さん」
「そうか、それなら…………え?」
「ちょっと、ディレイン、いまなんて」
俺の発した呼称に、2人は目を丸くして詰め寄ってきた。その時まで頑なに呼ばなかったから。
「…おかえり、父さん。母さんも」
二回も言うのはさすがに照れた。顔が熱かった。逃げ出したかった。
けれど親父の腕がそれを許してはくれなかった。きつく、両腕で、抱きしめられていた。肩が震えていたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。おふくろは傍で放心しながらぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
「ねえ父さん、頼みがあるんだけど」
親父の腕を軽く叩くと、ようやく拘束が緩んだ。
「…なんだい」
「物語より図鑑がいいな。あの、植物の絵がたくさん載ってるやつ」
ふーっ、と息を吐いてから、親父が離れた。高熱が出た時のように目が潤んでいた。
「そうだね、ディレインが興味を持てるもののほうがいいだろう。他にも気になる本があればどんどん言いなさい」
「うん。…ありがとう」
笑顔で快諾して俺の頭を撫でる親父の手はとことん優しかったし。おふくろが作った夕食はいつもより豪華だった気がする。
その日の夜は、ベッドをくっつけて三人で並んで寝るのだと言い張るふたりを宥めるのが、ちょっと大変だった。
気温が低くなれば、雪が降るほどでなくとも体調を崩す人は増える。ひっぱりだこの親父とその助手たるおふくろは腰を落ち着ける暇もなく、俺はひとり、宿代わりにあてがわれた空き家で待っていた。
やりたいことは特になかったが、やったほうがいいことはあった。文章の読み書きだ。
文字は覚え終わっていたから、次の段階として子ども向けの物語を書き写すよう指示されていた。これがまた王子様とお姫様の素敵な物語で、まったく興味がわかず、ペンの動きも鈍かった。
寒い外には出たくない。かといって琴線に触れない物語を綴り続ける苦行からは逃れたくてしかたなかった。世話になっている恩を感じていたとしても、つらいものはつらい。
椅子に座ったまま、足をぶらぶらさせる。机に突っ伏す。適当にペンを動かして文字にならない線を引く。早く帰ってこないかな、と。
そう、俺はふたりの帰りを待ちわびていた。
気づいた瞬間に跳ね起きて、その勢いのまま椅子ごと床に転がった。
後頭部と背中の痛みにもだえながら、星の飛び交う視界に目を瞬かせ、そうしてひとしきり騒いでいるところへ、
「ただいまぁ。いい子にしてたかなー?」
ふたりが帰ってきた。
ふたりは床の上の俺を見下ろして、状況を一瞬で理解した。
「この前も気をつけろといったばかりだろう?頭は守らなくちゃダメじゃないか。――布を濡らしてきて――他にぶつけたところは?ああ、肘がすりむいてる」
帰還の挨拶に答える間もなく、ぺたぺたと体じゅうを触診された。遠慮のない触り方だが、その頃にはもう慣れたものだった。すっかり、嫌ではなくなっていた。触り方が患者に対するものとは少し違うことも気づいていた。慌て気味なのも、過保護っぽいのも。
「ほら、これで冷やして。大丈夫かい?あんまり痛みが強いなら薬を」
俺だから、この人たちはこんなにも心配しているのだと。
「大丈夫。…大丈夫だから。父さん。母さん」
「そうか、それなら…………え?」
「ちょっと、ディレイン、いまなんて」
俺の発した呼称に、2人は目を丸くして詰め寄ってきた。その時まで頑なに呼ばなかったから。
「…おかえり、父さん。母さんも」
二回も言うのはさすがに照れた。顔が熱かった。逃げ出したかった。
けれど親父の腕がそれを許してはくれなかった。きつく、両腕で、抱きしめられていた。肩が震えていたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。おふくろは傍で放心しながらぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
「ねえ父さん、頼みがあるんだけど」
親父の腕を軽く叩くと、ようやく拘束が緩んだ。
「…なんだい」
「物語より図鑑がいいな。あの、植物の絵がたくさん載ってるやつ」
ふーっ、と息を吐いてから、親父が離れた。高熱が出た時のように目が潤んでいた。
「そうだね、ディレインが興味を持てるもののほうがいいだろう。他にも気になる本があればどんどん言いなさい」
「うん。…ありがとう」
笑顔で快諾して俺の頭を撫でる親父の手はとことん優しかったし。おふくろが作った夕食はいつもより豪華だった気がする。
その日の夜は、ベッドをくっつけて三人で並んで寝るのだと言い張るふたりを宥めるのが、ちょっと大変だった。