『是非無きモノよ、悉く鉄の如き冷め給うならば』

スーヴェンシー・ハートソード・デュマ更新 2023年07月15日 02時04分03秒

スーヴェンシー・ハートソード・デュマにおける原点。 如何にして彼女が家、故郷より出奔したのか。 始まりを告げたのは、くだらない評論に掛けられ、 その誕生から終わりまでが歴代最速であった哀れな芸術の墓標。 或いは歪なる芸術的機械「デウス・エクス・マキナの写し身なりしテツのセカイキョウコウ装置」なるものの破滅からであった。

「ふむ、これは――何でしょうな、歯車の偉丈夫でありましょうか。いやぁ、実に不細工なものですねえ」


――――それは余りにも可哀想な芸術であった。
下から上へ見上げていけば、逆三角形の歪な総体である。悲しきかな、歯車という歯車の仕事を成す事は、少なくとも地面にめり込む様に取り付けられてしまった以上永遠に回転を知る事もないのである。
だというのに、歯車同士の部分においてはきっちり黄金色の油(機械油)によってその緩衝も施されていては、永遠に授与される事無き叙勲式(アコレード)のようなものだ。

何を隠そう、こんなものが父の偉大なる作品であるというならば、果たしてそれを見上げた評論家共の、
嘆息とも呆息ともいえるこの反応は、痛切な、辛うじて絞り出した感想であった。

我がデュマ家の父、総髪左右に激しく突き出す中々に前衛的な銀色の髪。我が眼を与えたであろう灰色の瞳。
手も衣服も油と鉄粉に汚れ切ってしまったというのに誇らしげだったのは、つい先程、除幕した瞬間までである。
この反応はきっと、父の望み、願い、描いたそれではなかったのだろう。

酷評された我が父の作品。
歪なる芸術的機械「デウス・エクス・マキナの写し身なりし(歯車と油と鉄で出来た)
テツのセカイキョウコウ装置」(巨大なガラクタの山)

これを作り上げるのに、父がどれだけの時間を、費用を、人生を、命を、血と汗と涙を賭けてきたのだとしても、
評論家たちからすれば「ゴミ」である。堆く積もった「鉄くず」である。
哀しきかな、そんなもの、娘である私にだって理解が及んでしまうのだ。
規則性がない歯車の山、回る役目を失ってしまったのに油なぞ差されて、鉄の一つ一つを動かじと溶接されてしまって。
これは何なのか?……いや、本当に何なのか?そんなものである。
私からしてさえ、父の独特たる感性は余りにも常人のそれから掛け離れていた。
実に、溜息が出る。感動ではない、感嘆でもない。本当に、ただただ、呆れた。
意味ある物を作らんとした父の夢の成就が、こんなにもあっさりと踏み躙られてしまう。
何が悪かったのか、何がダメだったのか。評論家共が酷評の後に立ち去った後、
――――作品を前に膝を抱えて座り込む、小さくなってしまった父の背中を見ながら、
私は父の絶望を他所に眺め、考えた。


「……理解が出来たならば、これは果たして評価されたんだろうか?」

結局、芸術とは何なのか。人々がそれを、それであると認識するプロセスにおいては、
必ずいくつかの要素があってこそだ。
「テーマである」「思想である」「具現である」「私である」
その全てが、この作品には無かった。
デウスエクスマキナを驕った名前は、無力の才無き父には似つかわしくない。
その思想は結合か、はたまた停止か、終わりを示すならばそれもいいが、
歯車の未練であるかのごとく、油を差され回転を待ち望んでありながら、
これを機械の神たる名を驕り産まれた鉄くず以外の何物でもなければ、何を具現としたか?

こんなものが、父なのか?私の栄えあるデュマ家の芸術家の父であるというのだろうか。

――――否。否である。

偉大ならば名を知らしめれば良い。本当に、デュマ家とは藝術者の一端とあらば。
父の積憤こそは、娘たる私が晴らさねばならん。

では、同じ歯車か、油か、鉄か。残念ながら、これを芸術とする事は出来ない。
理解の及ばない、こんなゴミで、人の心は動かない。揺らせない。
もっと、もっと私が、私として世界に訴えるためには、何ができようか。




「……嗚呼、そうか」



父の芸術の馬舎――いと聖なる芸術の種は、紙の上にあったものだ。
簡単な話だ、何故形にしてから伝えるものか。形としながら伝えればいい。

元より何を伝えたいか直接叩きつけてしまえばいいのである。

筆があった。インクがあった。紙があった。

我が心の鉄は此処に鼓動した、今動き出した。
火を掻き抱く、打たれ鍛えられしはデュマ家の誇り。
油は不要――紙がダメになる。
そう、今こそ私は書け、駆け、進むのである。


「父よ!僕は貴方とは違う道を選ぶ!だが安心してほしい!僕は、決して、この血を、デュマを裏切りはしない!必ずやその積憤、未来の藝術者となった僕こそが証明せんと!ここに誓う!」


――それこそ原点、我が心の炉の礎。

我が心、人に、心に突き刺す鉄の刃。
スーヴェンシー・ハートソード(心の剣)・デュマの二度目の誕生日であったのだ。
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0