【呑竜】眠れる竜は王国を呑むか

フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアス
パンクリアース学園生、聴講生の皆さん。夏期休暇はいかがでしたか。
2学期の始業式を終えたばかりですが、大事なお知らせがあります。
皆さんもご存知の通り、今リーンエス王国――そして王都グランスパーダは、とても不安定な情勢下にあります。
本学園では当面の間、全学年を自由登校とする決定をいたしました。
それに伴い、とても残念なことですが……今年度の学園祭と生徒会総選挙も冬期休暇明けに延期いたします。
楽しみにしていた方も多いでしょう。申し訳ございません。
生徒会役員の皆さんには、私から別途ご連絡させていただきますね。
パンクリアース学園が自由登校となり、学園祭と生徒会総選挙の延期が決定しました。
assignment【呑竜】眠れる竜は王国を呑むか 概要
「【呑竜】眠れる竜は王国を呑むか」は、レイウェスト皇子とメアリー王女の婚約が進む中、ヒューマン至上主義という旧来の価値観からくる内部対立に揺れるリーンエス王国を扱います。
assignmentここまでの流れ
アシムベートがレイウェスト皇子の実父であるという知らせが大陸中を駆け回り、それでも王家はメアリー王女との婚約を進めていく。反感を露わにする貴族に対し、王家はウィリアム第二王子の臣籍降下を発表し、第三派閥の形勢を匂わせた。強硬な姿勢を固める貴族派末端の動きを受け、一時の協調を見せていた二大公爵家は再び道を分かつ事となった。
(8月23日追記)
複数の方面で『龍逓架』が持ち込まれている事が判明し、リーンエス王国は『幽界樹』への対処法を知り、婚約の儀に向けて来訪したレイウェストへ協力を呼びかけた。一方、皇帝ヨゼフと決裂したメドゥの右腕、左腕は王国への介入に本腰を入れる。内憂外患で揺れる大国で、貴族派筆頭たる『黒鋼竜』ライゼンナクト家は過激派諸家を糾合する動きを見せつつあった。
person_pin関連NPC
亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われていたが、実際はリザードマンの大酋長アシムベートとイダの間の息子であった。大陸一の美姫と謳われた母譲りの長く、美しい髪と気難しげな真紅の瞳の持ち主。エフレムとともに帝都から脱出して以降、帝国復興のために周囲の協力を得ながら奮闘していた。ヴィント奪還作戦に於いてエフレムに不審を抱き、帝国滅亡の真相を問いただした結果、彼と袂を分かつこととなった。
(8月23日追記)
婚約の儀の準備のために招かれていたリーンエス王国へ『龍挺架』が持ち込まれていたことを受け、クライス・アクバーらを連れて王国入りを果たす。
《本連動での動き》
アシムベート・グリオウにより自身も知らぬ出生の秘密を明かされ、動揺しつつもメアリー王女の身を案じている。
ウィリアム・リーンエス王子の妹にあたるリーンエス王国第一王女。人形のように可憐な容姿からは想像もつかない行動力と気の強さで、周囲を驚かせることもある。現王家唯一の王女であり、国王や王太子、ウィリアム王子の寵愛を一身に受ける影の女王。
《本連動での動き》
レイウェストとの婚約の儀を王都で挙行することを宣言し、ヒューマン至上主義者の憎悪を一身に集めている。
リーンエス王国の第二王子。文武ともに優れた才能を有した《授恵者》であるが、王族らしからぬ軽薄さ故に近親以外の王族からは見下され、対立する貴族からも「毀れ者(こぼれもの)」と揶揄されている。王国の代表として冒険者ギルド本部のあるリブラネスタに派遣されているが、本人はこれ幸いと市井を味わい、自らも依頼をこなす日々であるだとか。
(8月23日追記)
正妻予定:エルヴィラ・バデーニ 側妻予定:パーシア・アイオーラ
《本連動での動き》
国策により、長きにわたる放蕩生活に終止符を打つこととなる。正妻、側妻、愛妾の区別はあれども広い階層から複数の妻を娶る可能性もあり、王国内では玉の輿狙いの女性がざわついているようだ。
貴族派貴族バデーニ公爵家の長女。バデーニ家は始まりの百家ではなく、領地の規模も侯爵並であるが数代前の語られぬ功績により公爵となった。辺境伯や公爵と渡り合うには厳しい身代であるものの、無難に領地運営をこなし敵を作らず今代まで長らえている。なお、当人の体格はぽっちゃりしており、気にはしているがダイエットが苦手である。
《本連動での動き》
エルヴィラの婿は次期公爵となることがほぼ確実であったため、ウィリアムの臣籍降下に際して名乗りをあげた。婚姻の暁にはウィリアムが公爵となり、現公爵は引退する事を宣言している。
シルトラース帝国近衛連隊出身の元軍人で帝国魔導院エスタル支部長。最愛の妻と娘を帝国崩壊時に失って以後しばらくは攻撃性の塊のような時期もあったが、現在は生来の子供好きの性格が復活し、他人の子供の世話を焼いていることが多い。幽界樹の最大の脅威である【黒い霧】への対策【凝黒紋具】を制作した。
《本連動での動き》
暗殺集団『天陽道』の蠢動に気づき、更なる幽界樹封じの方法として新たな仕組みを作ろうとしている。
リーンエス王国二大公爵家の一つ、貴族派の筆頭である『黒鋼竜』ライゼンナクト家の当主。貴族原理主義的思想に染まった、王権を拒む貴族たちのとりまとめ役である。あくまで王家の臣下を演じつつ、自らの権利を守ろうとする穏健派と、王家を廃しいずれは自らが王権を奪おうと画策する過激派が入り混じっていた貴族派の手綱を取りきれず、反乱を起こして鎮圧される高位貴族が複数出るなど、ここ数年に派閥は急速に弱体化を進めた。
《本連動での動き》
王家の中央集権化の動きは理解しており、そこに至るまでの影響力争いで王家に後れを取った敗者であると自認する。一部貴族派の過激な発言に呼応する動きを見せているらしい。
リーンエス王国二大公爵家の一つ、王党派の筆頭である『白薔薇』アルヴァローエン家の当主。臣下としての貴族の役割に徹する貴族たちのとりまとめ役である。中央集権を進める王家のもとにあって王党派貴族に既得権益の全てを奉還する程の覚悟は無い。忠誠と引き換えに、なんとか自分たちの地位と権利を残すべく王家へ働きかけてきた派閥である。
《本連動での動き》
より王家の希望に近い第三派閥の成立を、そこに加わることこそが唯一未来があると看破するもののここまでの王党派筆頭としての立場からそうは動けない。
メドゥの指先足指幹部『青の親指』。死霊術師。魔獣やクリーパー・亜人と人類の死体を縫合して作る改造ゾンビ、『キメラゾンビ』の作成を得意とするゾンビメイカー。
《本連動での動き》
ウィリアムのストーカー。(グリゼルダ製造のものとしては)最強のキメラゾンビ『レミーラ』と共に国境を破って王国に侵入したことが確認された。
メドゥの指先の大幹部。非常に強力な吸血鬼であり、また血を媒体とする混沌魔術の使い手でもある。常に楽しげに振る舞う彼だが、よく見れば作った笑顔であることもわかるだろう。征竜との共闘に反発した左腕と行動を共にし、ヨゼフ一派から距離を取った。左腕とは長い縁であるようで、相互に協力する場合もあるようだ。
《本連動での動き》
王国内の混乱の背後にその影があるらしい。王国へ混乱を招く理由が何かあるようだが?
メドゥの指先の大幹部。飛行術を用い、また世界の障壁の裂け目を広げる儀式なども知っている無感情な女性。右腕とは長い縁であるようで、相互に協力する場合もあるようだ。その目的は征竜の打倒であるという。
《本連動での動き》
征竜と手を組んだヨゼフ一派の元へわざわざ訪れ、自身がかつて征竜の巫女であった事と征竜が人の味方ではなく御せる存在でも無い事を告げてヨゼフらの決断を罵る。
その後は失意の中、メドゥの右腕と共に行動しているようだ。
崩壊した帝国の皇族の生き残りである皇太子レイウェストの護衛騎士。護衛騎士の中で唯一のリザードマンであること、クリーパーを召喚し支配することを得手とする《召喚術》の達人であること、そして寡黙に過ぎる性格から『語らずの智者』の異名を持つ。亡国の騎士となっても単身で各国の介入からレイウェストを守る忠義の人物……と思われていた。ヴィント奪還作戦における不自然な立ち回りから、レイウェストに帝国崩壊の引き金を引いたのが彼であると看破され、袂を分かつこととなる。
《本連動での動き》
幽界樹の活発化とレイウェストの危地を察し、王都へと助言のために訪れる。クライス・アクバーが『状捜楔』の製造に適した材料の選定で行き詰まっていることを知り、名乗らずに助言を置いていった。
menu_book関連用語・情報
ウィリアムの創る第三派閥【集権派】
王家への中央集権体制の確立を進めたい王家は、権益の拡大を狙う貴族派でも権益の維持を願う王党派でもなく、時が来れば全ての権利を王家へ奉還する事を約した【集権派】を設立する。失う権利のない法衣貴族はともかく、領地貴族の多くにとってその公約に益はなく、彼らの誇りも傷つける選択だ。しかし、そこに早く参画することで領主権は無理でも未来の有力家系としての影響力を保持するべく、既存派閥から集権派へ鞍替えを考える目聡い者もいる。その多くはウィリアムの元へ奥方を送り込む事を画策しているようだ。
王家の中央集権化の動きと、それに伴う貴族の動きについては詳しくはこちら。
龍脈即時通信装置『龍逓架』(8月23日追記)
崩壊前のシルトラース帝国が実用段階直前にまで開発を進めていた通信装置で、帝国内主要都市の魔導院に設置されていた。龍脈を利用した遠隔地同士の即時通信装置であり、リーンエス王国との決戦に備えて設計された。この龍逓架が発する魔法的な信号が龍脈を通じて帝都の幽界樹に感知され、帝国内の各都市に幽界分樹を呼び寄せたと推測されている。その推測は【泥乱】における帝国近衛連隊の行動により実証された。
また、メドゥの指先が一つを確保していたが、それを元に新たに量産している可能性がある。
(8月23日追記)
龍逓架は数多くの部品から構成されるが、中でも発信器、増幅器、分波器、分配器の4つが重要とされている。
龍脈異常探知装置『状捜楔』(8月23日追加)
龍脈の異常が発生した位置を知る為の紋具装置。大型の杭の様な形をしており、頂部には球状の表示部が結合されている。球状表示部には龍脈異常が発生した方角に向けて、おおよその距離が色(青=徒歩で行ける距離、黄=馬を飛ばして行ける距離、赤=ビッグオウムでないと到底行けない様な距離)で示される。
近距離の青と黄の間は十段階ほどに細分化され、細かい距離が判明するが、遠距離の黄と赤の間は三段階ほどでしか判断出来ず、大雑把なものとなる。量産性に優れ、実用化して間もないが十分な数が製造されている。固定式と可搬式の2種類があり、王都の他幾つかの拠点には固定式が設置されている。
この装置はクライス・アクバーが制作したが、完成までには、多くの冒険者やエルフの賢人、元帝国近衛連隊長、謎のフードの男といった多様な面々の協力があったらしい。
龍脈
ロスガリア大陸の地下深くを流れるエーテル地脈。エーテル浄化者はここに働きかけてエーテル浄化儀式を行っている。
幽界分樹
帝都シルトラースに聳える幽界樹を「本体」と見做した場合の、帝国内主要都市に出現した幽界樹の「分樹」。ただし幽界樹については未だ不明点が多く、帝都に出現した幽界樹が本体であるか、それとも地中やアストラル界などに真の「本体」が存在するのかは判明していない。
黒い霧(8月23日追加)
幽界樹周辺にただよう黒い霧は、範囲内の生物の行動や認識を阻害し、方向感覚等を狂わせる。クリーパーへの悪影響は無い。ある程度実力のある授恵者であれば影響を軽減できるが、一般人はそこに存在するクリーパーが見えないことすらあり、黒い霧の除去が奪還作戦には必須事項と言える。
かつてはレイウェストの持つ宝剣を用いた儀式魔術で散らすことしか出来なかったが、クライス・アクバーが制作した【凝黒紋具】により一定範囲の霧を結晶化し、戦闘等に支障が無い程度まで空気中から除去できるようになった。
この日2学期を迎えたパンクリアース学園では、例年通り始業式が行われた。
寮、教室、食堂、黄金の王子像が聳える中庭。夏期休暇を終えて帰省から戻った生徒たちが学園内の至る所で土産話に花を咲かせ、久しぶりの再会を喜び合う。
――例年通りであれば。
「始業式の出席率は――約半数といったところですな」
昨年にはなかった静けさを窓の外に感じながら、学園校長ジルワード・ファルゲンは、各学年主任から受け取った出席簿を机の上に置いた。
「帰寮しなかった生徒のうち、休学届が提出されたのは約2割……今後も増えるのでしょう。致し方ないこととは言え、学生が勉学に集中できない時勢となってしまうのは悲しむべきことですね」
憂いを帯びた、しかし凛とした声音でそう告げて、溜息をひとつ。学園長フォルトゥナ・アルヴァ・クラティアスは、欠席の印が多数つけられた出席簿の中身に目を通した。
夏期休暇が終わり、始業式が行われたこの日になっても、多数の生徒が帰省から戻らず自領に留まることを選んでいる。
それも領地貴族だけに留まらず、王都に居を構える法衣貴族の子女ですら、休学や欠席の届が一定数出されている状況だった。
王家がウィリアム王子の臣籍降下と『集権派』設立の意向を示し、異種族を父にもつレイウェスト皇子とメアリー王女の婚約の儀を強行する中で、リーンエス王国の貴族はほぼ例外なく自家の立ち位置と振舞いを見直さざるを得ない状況にある。短期的視点と長期的視点、いずれの視点でも損を被らぬよう、慎重に、時には大胆に、時勢を見極めて賢く立ち回らねばならない。
気心の知れた家同士であっても何時その均衡が崩れるかわからず、知らず知らずのうちに敵を生むやも知れぬ不安定さが、今の貴族社会を覆っている。
親が子を、それも自家の存続や婚姻に必要不可欠 となる子らを、今は目の届かぬ場所 へは遣らぬと判断したとしても、それは何ら不思議なことではなかった。
まして、今の王都に漂う空気は、平時のそれではない。
表面上は何事も無く人々の営みが続いていても、街角に立つ衛兵の数は増し、事あるごとに武装した王国騎士たちが通りを行き交う。貴族の動揺は庶民に伝わり、王都全体が只ならぬ緊張感に包まれていた。
「一度は帰寮したものの、やはり自領や家に帰るよう書簡を受け取った生徒もいるようです。生徒だけではない、一部の教職員にも自家に呼び出され、カリキュラム通りの授業が困難となった者もおります」
「ええ、それらも別途、教務主任らより相談を受けております。……決断しなければなりませんね、校長」
学業は、何にも阻まれるべきではない。
その信念はあれど、二人は多数の生徒たちを預かる学園の長だ。
帰寮した者、家に留まらざるを得なかった者、帰寮すべきか決めかねている者。どの立場の生徒に対しても、誠意ある対応を返す義務がある。
「情勢が落ち着き、生徒たちが安心して出席できる状況になるまで、本校は全学年において自由登校 とします。教師がいる限り授業は行いますが、この期間の欠席や休学に対しては出席扱いとし、3学期に十分な補習授業を行います。例え出席できなくとも、単位取得や進級への影響が出ないよう取り計らいましょう」
「承知いたしました。しかし学園長、2学期中に予定されている学園祭や生徒会総選挙については、どのように」
同意を示しながらのジルワードの問いに、フォルトゥナは表情に苦渋の色を浮かべて、決断する。
「……そうですね。限られた人数の生徒たちのみで推し進めるべきことではありません。いずれも、冬期休暇明けに延期とします」
学園祭も選挙も、学園生あっての行事だ。参加できない生徒が大勢いる状況での実施は出来ないと言うフォルトゥナに、ジルワードもまた、深く頷きを返した。
「わかりました。1222年度の生徒会役員には、任期延長の打診をしておきましょう」
「いえ、私が書簡を送ります。校長、まずは教務主任と各学年主任に自由登校の決定を通達し、生徒と保護者への連絡を急いでください」
教育者として、この時期に生徒たちの華やぎに満ちた顔が見られないのは悲しむべきことだ。
しかし今、王国 は変わろうとしている。善き物も悪しき物も内に抱えた暗雲が今は垂れこめていても、『学園』は未来ある子どもたちを支え、守る場所でありたい。
確固たる想いを胸に、フォルトゥナは筆 を取った。
執筆:桃谷かな