【泥乱】ディズル内乱

レイウェスト・バルダス
よくぞ、御無事で……。
アシムベート・グリオウ
冒険者や一族の戦士達に救われた。まさか、この身が殿下にもう一度お会いできるとはな。
レイウェスト・バルダス
今後も、公の場で父とお呼びすることは致しません。ですが……、あの時の貴方の力に、ヴィントの民と私は救われました。……私は、貴方のお陰でここに立てている。
アシムベート・グリオウ
……何よりの、言葉だ。それが聞けて、良かった。
ディズル大湿地帯を覆う雲霞鳥の大氾濫は、戦士達の挺身により最小限の被害で収束した。しかし、関係者が安堵の息を漏らす間もなく、世界に征竜とヨゼフ・バルダスの声が響き渡る。
assignment【泥乱】ディズル内乱 概要
「【泥乱】ディズル内乱」は第三の征竜の巫女イネス・コンテスティがギシュム族の若者ヴァーロゥムに保護された事に端を発し、大酋長アシムベート・グリオウの求心力低下と相まって生じたリザードマン部族の分断を扱う連動です。巫女イネスとの交流を機に不倶戴天の敵である雲霞鳥と泥血啜る月吸蟲の徹底的な掃討を目論む若手と、それらの脅威を知る古老とが方針を巡り対立します。
assignmentここまでの流れ
ギシュム族の若者ヴァーロゥムが湿地帯で助けた迷い人は、征竜の巫女と付き人と自称し、その言葉と武力で若いリザードマンの尊敬を勝ち得た。征竜からの言葉として、「征竜の数が神代より減っており彼らリザードマンに早く竜となって欲しい」という。巫女らの周囲に帝国の影を感じたアシムベートは、彼女らの周辺を探ることとした。
(6月8日追記)
若きリザードマン達は巫女イネスを素直に歓待するが、イネスと親しい武装商人が帝国近衛連隊長と同じ名を名乗っている事が判明した。イネスは自身がヨゼフ一派とリザードマンの更なる進化という一点で合意し、協力を受けていると認める。彼女の招きを受け、マクシミリアン・ミルドと近衛連隊の生き残りが正式にディズル大湿地帯へ来訪した。アシムベートと古老は雲霞鳥の存在が泥血啜る月吸蟲の封印の一角を担っている事を明かし、自重を促すが……。
(7月7日追記)
帝国近衛連隊の仕掛けた『龍逓架』により出現した幽界樹は、雲霞鳥の物量に押し潰される。イネスは偽巫女である事を明かし、付き人を偽っていた帝国宰相ナサニエル・バルバスティンは、退却してきた近衛連隊へ、皇帝の裏切りを告げた。死を覚悟した大酋長アシムベートは、駆けつけたレイウェスト皇子へ、ヨゼフでは無く自分こそが真の父であると伝える。
assignment結果
雲霞鳥の大氾濫は、決死のリザードマン戦士らと帝国近衛連隊の犠牲、冒険者の尽力もあり、民や集落が受けた被害は最小限に収まった。異なる形と場所ではあるが共に死を覚悟していた近衛連隊長マクシミリアン・ミルドと大酋長アシムベート・グリオウもその生命を拾う。
勝利の余韻を味わう間もなく、世界中の人々の心の中へと征竜とヨゼフ・バルダスの声が響いた。『天霧りに消ゆる幽界樹』の出現に関わるとして皇女イダ・バルダスの罪を鳴らしたヨゼフは、そのままの流れでレイウェスト・バルダス皇子がリザードマン大酋長アシムベート・グリオウの実子である事を述べる。
person_pin関連NPC
ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。ギシュム族が泥血啜る月吸蟲を封印している一帯の管理を担うことから、大酋長とも呼ばれる。武威ばった人物ではあるが、人柄は良く義理堅い。帝国近衛騎士になったエフレムの兄貴分でもあり、マナズィールも共にしたことがある。
《本連動での動き》
昨年、独断でシルトラース帝国のリーンエス王国侵攻に加担する密約を結んでいたことを告白して以降、求心力の衰えが見られている。
(6月8日追記)
イネスと近衛連隊の助力を受けて雲霞鳥の巣を攻略しようという若者達に自重を促すが、その言葉は届いていないようだ。
(7月7日追記)
雲霞鳥の氾濫の知らせを聞き、最前線に向かっている。
(8月5日追記)
決死隊と共に『泥血啜る月吸蟲』の住処へと雲霞鳥の誘導を行う。ギリギリまで退路を確保した冒険者達の助力により生還した。
亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われている。帝都から脱出して以降、各国の支援や冒険者達の助力を受けて帝国南部を奪還し、その後も帝国民の安住の地を確保しようと努めている。
《本連動での動き》
恩義のあるアシムベートの苦境を伝え聞くも、ディズル大湿地帯の内政問題である為に介入をためらっているようだ。
(7月7日追記)
帝国近衛連隊の介入と敗退を聞き、少数でディズル大湿地帯へと駆けつけた。自身の父がアシムベートであることを聞かされる。
【蠱毒】ラスリャマスの乱ではアシムベートに従った、ギシュム族の優秀な若手戦士。将来の族長候補として期待されていた中の一人である。
《本連動での動き》
集落の外縁警備を行っていた際に、道に迷ったという『征竜の巫女』と付き人を助けた。
(6月8日追記)
イネスへ迂遠なアプローチを続けているが、今のところ効果は見られていない?
(7月7日追記)
イネスが偽巫女である事を知らされ、ディズル大湿地帯に迫る未曾有の危機に混乱しつつも戦士として剣を取る。
(8月5日追記)
冒険者や偽名を名乗っているメドゥの指先のロコと共にギシュム族の集落を護り、生還した。
極北からやってきた三人目の征竜の巫女。とても美人のヒューマン女性。南へ進んでいたところ、沼地に遭遇して困っていたらしい。思考はどちらかというと戦士であり、リザードマンの生き様に共感したので彼らが強くなるために協力したいという。
《本連動での動き》
ギシュム族に保護され、疲れを癒やすべく療養している。
(6月8日追記)
ヨゼフ一派との協力関係を明かし、帝国近衛連隊をディズル大湿地帯へ招き入れた。当人は集落で古老の説得を続けるようだ。
(7月7日追記)
これまでの行いは偽りであり、自分が偽の巫女である事を明かす。同じく正体を明かしたバルバスティンと共にディズル大湿地帯を去った。
枯れ木のような長身の老人。鋭い目と隙の無い身ごなしが特徴のヒューマン。偽巫女イネスの付き人を自称していたが、その正体はかつてはエフレム、近衛連隊長と並んで帝国三強の一角と言われた帝国宰相である。文官としての優秀さはもちろん、魔窟と称された帝国宮廷の頂点に立つだけの戦闘力もあわせ持つ怪人。
《本連動での動き》
格闘術を嗜むが現役は引いたと自称し、若いリザードマンがクリーパーを狩る際には師匠や軍師のように振舞う。
(6月8日追記)
状況の変化に際し、稽古を控えて巫女イネスの身辺の守りについているらしい。
(7月7日追記)
自身の正体を明かし、ヨゼフは征竜との交渉に向かっておりこの場には来ないことと近衛連隊を切り捨てたことを明かしてディズル大湿地帯から去る。
40代程のヒューマンの男性。シルトラース帝国近衛連隊長として最強の戦士とされ、滅亡前の帝国では四方将軍の上席にあり、帝国軍人の頂点であった。
《本連動での動き》
配下の近衛連隊の生き残りと共に征竜の巫女イネスと若手リザードマン達へ協力を申し出ており、雲霞鳥の巣を滅ぼすべく先陣を切った。
(7月7日追記)
龍逓架を用いて雲霞鳥の巣へ攻撃を仕掛けるも、失敗。皇帝の裏切りを聞き失意に沈みかけたが、レイウェストの檄を受けて踏みとどまった。
(8月5日追記)
近衛連隊と共に最前線で雲霞鳥を迎撃する。多数の部下を失うが、冒険者達の助力と叱咤を受け、生きる目的を見いだし残余の連隊員と共に生還した。
menu_book関連用語・情報
ギシュム族
リザードマンの中で大きな勢力を誇る武闘派一族で、『泥血啜る月吸蟲』の結界の管理や封印強化の儀式の遂行を担ってきた。二年前にラスリャマスの乱を退けた偉大な戦士アシムベートが変わらず大酋長を勤めている。 アシムベートが、滅亡以前のシルトラース帝国が計画していたリーンエス王国侵攻作戦に無断で協力を約束していた事を告白して以降、その求心力には衰えが見られている。
泥血啜る月吸蟲
伝説に残る『竜喰らい』などの超大型級に匹敵する強力さを有するとも言われている、ディズル大湿地帯の一角に物理的に封印された大型級のクリーパー。エーテルの乱れた湿原でしか生きられないと目されており、エーテルが清浄化された石垣とその内側を流れる川により形成された封印で閉じ込められている。しかし、月吸蟲が存在することにより周囲の環境は徐々にエーテルが乱れていき、石垣は崩れ、川も湿地で侵食されていくことが分かっている。かつて新暦1044年には封印が破れる事件があり、再封印のためにリザードマンは多大な犠牲を払った。そのため、ギシュム族の主導の下、月吸蟲への攻撃と封印の強化が定期的に行なわれている。
最後の封印強化は二年前。メドゥの指先ラスリャマスによる妨害が行われたが、冒険者の協力によって儀式を成功させた。
封印地帯(7月7日更新)
エーテルが清浄化された石垣と、その内側を流れる川により囲い込むことによって形成されている。月吸蟲によってエーテルの乱れが広がると、封印にも影響が出るため、石垣にはエーテルの清浄化を保つ能力のある石柱が要石のように一定間隔で埋め込まれている。封印地帯の内部に出入りするには、石垣の間に作られた通路を通り、跳ね橋のように門を降ろして内側の川を渡る必要がある。
封印の維持には、泥血啜る月吸蟲と争う雲霞鳥が必要であるとアシムベートの口から明らかにされた。
封印地帯内部の生態(7月7日更新)
乱れたエーテルにより、クリーパーが発生しやすい環境になっている。しかし、それらのクリーパー達は仲間意識があるわけでもなく、互いに共食いを繰り返す、弱肉強食の世界を形成している。無論その頂点にいるのは月吸蟲であり、リザードマンにより加えられている攻撃によって弱まった力を、他のクリーパーを捕食することにより取り戻していると言われている。またリザードマンにとっては皮肉にも、封印地帯を形成する石垣は、雲霞鳥の格好の繁殖地となっているようだ。その他の原生生物も逞しく生きている他、かつて戦場に散ったリザードマンのスケルトンなども封印地帯をうろついている。
ディズル大湿地帯の奥地には一大繁殖地が存在し、常にリザードマンの目に触れている個体とは違う変種や年経た特異個体が多数存在している。
雲霞鳥
生息域はディズル大湿地帯全域。少数であれば比較的楽に討伐可能。超低空を飛翔するものの湿地帯から出ることはない。
一定数以上集まった雲霞鳥は集団で狩りを行うが、その際に雲霞鳥は薄い靄に包まれ、この靄が雲霞鳥たちを強化する役割を担っている。靄を纏った雲霞鳥群は大湿地帯を傍若無人に食い荒らす。そのためリザードマンたちは雲霞鳥を見つけようものなら早期に討伐し、群れの形成を遅らせながら、次の群れに備える――というライフサイクルとなっている。
帝国近衛連隊(8月5日更新)
帝国崩壊以前は授恵者のみ千名程で構成され、かつてのシルトラース帝国における最強の武装集団だった。帝都滅亡に際しては幽界樹の黒い霧に苦戦しながらも、その身を挺して奮闘。ヨゼフ・バルダスら帝国中枢の帝都脱出を助けた。現在まで生存し、ヨゼフに従っているのは100名程。良い意味でも悪い意味でも帝国軍の上澄みなので、征竜は敵であるという思考はぬぐえない。
ディズル大湿地帯に訪れた本隊以外にも皇帝の直衛に残った者がいる。仇敵たる幽界樹を用いてまで雲霞鳥の巣を攻略しようとしたが果たせず、敗退して来たところで征竜との同盟を目論むヨゼフには既に切り捨てられている事を知らされた。
リザードマンを救うべく最前線で奮戦し、多数が戦死するも避難中の集落へ向かう特異個体の多数を食い止めた。
征竜の巫女(7月7日更新)
詳細は不明だが、征竜に何らかの役割を任じられた者たち。その身体のどこかに「征竜の紋章」と呼ばれる模様が浮かび上がる。人類社会の見聞を指示され極北より訪れたヒルルク、彼自身の見極めの為に巫女とされた帝国皇子レイウェスト・バルダスの2名が知られていた。ディズル大湿地帯に第三の巫女としてイネス・コンテスティが現れたが、帝国の手で仕立て上げられた偽物である事が明らかになった。
「……終わった、か」
陽光差すディズル大湿地帯で、ヴァーロゥムがそう呟く。歓声を上げるどころか、指一本動かす体力も尽きていた。終わりが無いかに見えた雲霞鳥の大氾濫は、やがて途切れ途切れとなり、リザードマンの集落から見える黒い影は消えていく。広範囲を護ることはリザードマン戦士のみでは不可能で、縦横無尽に駆けつけた冒険者達の助力がなくば、死者も被害も甚だしいものとなったであろう。どのような理由があるのか、メドゥの指先との共闘すら行われていた。
「ここは一段落しましたが、巣に近い場所ではまだ戦いが続いているでしょう。ですが、私の助力はここまでです」
メイレと名乗っているメドゥの指先は、そう告げて姿を消した。巣を脅かされたことで種の危機を感知した雲霞鳥は、本能のままに外へ向かう。それが雲霞鳥の大氾濫だ。リザードマン達はディズル大湿地帯に住まう長い歴史の中で、大氾濫をやり過ごすための知恵を得ていた。
「……アシムベート殿、は」
「大酋長は……、今頃はもう……。うぅっ……」
レイウェスト・バルダス皇子が掠れた声で西の地を仰ぎ見ると、リザードマンが悲しみの声を上げた。大氾濫を迎えた一族の戦士達は、雲霞鳥を引きつけながら封印地帯へまっすぐに進む。当代の大酋長アシムベート・グリオウもまた、伝承に従って殉じるつもりであった。雲霞鳥と並び、大湿地帯の危険生物として知られる『泥血啜る月吸蟲』のもとへ、雲霞鳥もろとも突き進むのだ。毒を以て毒を制す。数の暴威と絶大なる個の衝突に巻き込まれれば、例え武を以て知られる大酋長アシムベートといえど嵐の前の葉も同じ。
「我らですら生き残ったのです。彼の命運がこんな時に尽きる道理はありますまい。……殿下のためにも、生きていて欲しいものだ」
雲霞鳥の主力を引き受け、戦い続けた帝国近衛隊はその数を大きく減らした。大湿地帯に散った近衛連隊兵は多数に上り、そのいずれもが雲霞鳥の攻勢を食い止めるために死んでいる。しかし、隊長のマクシミリアン・ミルドを含め、生き残った者もいた。死地において死を覚悟して戦いに挑んだその生命を繋いだのは、冒険者達の助力である。戦力としてのみでは無く、心を繋ぐ言の葉の力も大きい。ある者は死を逃げだと責め、ある者は奮起を促し、ある者は生きる目的を与えた。いずれの言葉にも籠もる『死んで欲しくはない』という心は、斃れた者にも残る者達にも響いたであろう。
●
その日。ロスガリア大陸の知性ある存在はその声を聞いた。耳では無く頭へ、意思が直接に届く思念の声を。
『我は 征竜 世界を護るもの 』
『世界は儚く 壊れゆく 今までも これからも 』
『神に至る萌芽を持つ者どもよ 我は 汝らを 見極めたり 』
『汝らは 神の理を超え されど その願い 世を革めるに値せず なれば 滅ぶべし 』
『汝らの如き者を 生み出した 人の世をこそ 我は憂う 人よ 神の御代へ帰れ 』
頭の中へ二重に、人によってはそれ以上に重なった声が響いていた。それらが一つに収束する。
『そして我が新しき巫女 よ 汝は神に至りし者 を 言の葉にて動かし得る者なり』
『我は汝を 危険視する』
●
『我が名はヨゼフ・バルダス。征竜の同盟者である。この声は征竜の力を借り、お前達へ届いている』
続いて響いた声は、超越者である竜の言葉が引き起こした以上の混乱を、人々にもたらした。征竜のもとへ、皇帝ヨゼフが盟を結ぶべく向かっているという情報自体は、ディズル大湿地帯での異変の際に一部の者が聞いている。それは人の口を介して広がりはしたものの、帝国という国家の有り様を知る全ての者の耳へ届いては居なかった。
「……征竜と、同盟……? 帝国の皇帝が、か? 信じられぬ……」
シルトラース帝国の国是は、征竜から人類を護る盾である。その国是は建国以来の長い時を経て、帝国の民や軍人に刷り込まれていた。帝国という国家の在りようを信じていた者であればこそ、衝撃は大きい。
『我が娘にして、『天霧りに消ゆる幽界樹』をこの世界へと呼び込みし者、イダ・バルダスを討つ。余はその為に積年の思いを捨てて征竜の手を取った。旧都シルトラースに潜む皇女イダを滅ぼすべく、余は世界の全ての者に同盟を呼びかけよう。心ある者よ、余と征竜の下へ集え』
笑止、と吐き捨てたのはこれまでにヨゼフの手によって多くの被害を受けていた者達だ。フィルエス大森林のエルフ達やシグモル火山帯の神徒達はヨゼフの手を取ることはあり得まい。帝都の『天霧りに消ゆる幽界樹』を彼女がエフレムに命じて呼び出させたというのが事実かは分からぬが、現在の幽界樹がイダの制御下にあるらしい事は判明している。その意味では、その呼びかけには驚愕こそあれど、情報としての目新しい要素は無かった。
『我が孫、レイウェストよ。帝国の後継者足らんとするならば、余と共に母を討て。大森林で交わした約定の通り、イダを討つまでは休戦である。征竜もそれには同意している』
「……征竜も? ヨゼフは、人の身でかの竜を動かしたのか。私には、できぬ事であろうな……」
先の征竜の一方的な宣言により、血の気の引いていたレイウェストが更に顔色を無くす。直接対面した者なれば分かる、征竜の威。征竜は深く静かに思考に沈んでいたが、ひとたび考えを定めれば定命の者の都合など飛び越えていくと、思っていた。シルトラース帝国の皇帝の座を己の力で手に入れたヨゼフと、ただ一人生き残ったが故に手に入れてしまったレイウェストの、差だというのか。
「わざわざ『孫』と口にしましたわね、お父様」
「最も効果的なのは、王国が更に荒れた後だろう。だが、全ての人間に語りかけることができると言う絶好の場を得たのならば、多少の時期がずれたとしても今、口にするだろうな」
この後に続くであろうレイウェストへの語りかけを予測して、リーンエス王家の者達は覚悟を決める。知る人ぞ知るだけであったあの情報が明るみに出るだろう。それも、世界全ての人間へ直接という最悪の形で以て。
『汝が血を分けた父たるリザードマン大酋長アシムベートも、共に兵を並べるべし。かの者は汝の妻にして大罪人なれば、それを討つは義務であろう』
「あのレイウェスト皇子の、父親はヨゼフ帝では!? こともあろうに、リザードマンだと……? まさか、混血の分際で栄えあるリーンエス王族の姫を奪おうというのか!?」
リーンエス王国の有力貴族は、既にその情報を独自で掴んでいたかもしれない。しかし、血統を誇るだけの愚かな貴族らの中には、これで初めて耳にしたと言う者も居るだろう。そして火事場では、愚か者の方がよく踊るというものだ。
「……こうなっちまったか。さて、アタシはどう動いたものかねえ……? その前に、こっちは海から来る怪物で手一杯なんだけどさ」
エラトゥーン都市同盟では、女狐等と呼ばれることもあるヴィルジニア・テレーザ・セルッティが、常には見せない心配げな顔で西方を見ていた。
●
アシムベートが集落を出る時に帯同していた古参兵は、その殆どが再び家族に会うこと無く斃れた。大酋長として彼らを死地へ率いた己が、生きて還ることに思うところはある。しかし、駆けつけた冒険者達は、名乗りをあげた我が子の前から一度は立ち去ったアシムベートを、生きて再び会わせる為に死力を尽くしたのだ。戦士として、その意気を無にすることこそ、許されぬと思った。
「……レイウェスト、殿下」
「アシムベート、殿。ご無事でしたか」
姿形は異なれど、父と、子だ。アシムベートを慕う者達と、レイウェストを慕う者達とが願い、勝ち取った再会。彼らを見る周囲の視線には万の言葉を超える想いが乗り、されど直接に交わされた言葉は短い。それで良いのだろう。急がずとも、焦らずとも、生きてさえ居れば、二人の会話の機会はこれから幾度でも作れるのだから。
――かくして、ディズル大湿地帯の歴史に残るであろう雲霞鳥の大氾濫は、考え得る最小限の被害で収束する。後年に間違いなく激動の年として知られるであろう新暦1223年は、まだ前半を終えたばかりであった。
執筆:アルパカコネクト運営