【泥乱】ディズル内乱

レイウェスト・バルダス

マクシミリアン卿、アシムベート殿から私の話は聞いているだろうか?

マクシミリアン・ミルド

……レイウェスト殿下。いえ、特には……。何か、あったのですか。

レイウェスト・バルダス

そうか。ならば良い。戦いを終えたら卿にも話そう。
リーンエス王国へも危急を知らせているゆえ、いずれ増援は来る。私はそれまでの時間を稼ぎたい。私や帝国の為にとは言わぬ。この地の民草のために、その力を貸して欲しい。

マクシミリアン・ミルド

もとより我ら、帝都滅亡の日に拾った命です。今更、恥がどうなどとは言いはしません。
近衛連隊よ、剣を抜け! まだ俺たちは死んでいない。立っている限り、一匹でも敵を倒し、前を向いて死ぬのだ!

幽界樹を用いた近衛連隊による巣の討滅は失敗に終わり、怒り狂う雲霞鳥の群れが大湿地帯を覆う。恩義あるリザードマンらの危機に駆けつけたレイウェスト皇子へ、大酋長アシムベートは自分こそが皇子の実父であると告げた。
(7月8日より 【泥乱】ディズル内乱 連動シナリオリリース予定!)

assignment【泥乱】ディズル内乱 概要

「【泥乱】ディズル内乱」は第三の征竜の巫女イネス・コンテスティがギシュム族の若者ヴァーロゥムに保護された事に端を発し、大酋長アシムベート・グリオウの求心力低下と相まって生じたリザードマン部族の分断を扱う連動です。巫女イネスとの交流を機に不倶戴天の敵である雲霞鳥と泥血啜る月吸蟲の徹底的な掃討を目論む若手と、それらの脅威を知る古老とが方針を巡り対立します。

assignmentここまでの流れ

ギシュム族の若者ヴァーロゥムが湿地帯で助けた迷い人は、征竜の巫女と付き人と自称し、その言葉と武力で若いリザードマンの尊敬を勝ち得た。征竜からの言葉として、「征竜の数が神代より減っており彼らリザードマンに早く竜となって欲しい」という。巫女らの周囲に帝国の影を感じたアシムベートは、彼女らの周辺を探ることとした。
(6月8日追記)
若きリザードマン達は巫女イネスを素直に歓待するが、イネスと親しい武装商人が帝国近衛連隊長と同じ名を名乗っている事が判明した。イネスは自身がヨゼフ一派とリザードマンの更なる進化という一点で合意し、協力を受けていると認める。彼女の招きを受け、マクシミリアン・ミルドと近衛連隊の生き残りが正式にディズル大湿地帯へ来訪した。アシムベートと古老は雲霞鳥の存在が泥血啜る月吸蟲の封印の一角を担っている事を明かし、自重を促すが……。
(7月7日追記)
帝国近衛連隊の仕掛けた『龍逓架』により出現した幽界樹は、雲霞鳥の物量に押し潰される。イネスは偽巫女である事を明かし、付き人を偽っていた帝国宰相ナサニエル・バルバスティンは、退却してきた近衛連隊へ、皇帝の裏切りを告げた。死を覚悟した大酋長アシムベートは、駆けつけたレイウェスト皇子へ、ヨゼフでは無く自分こそが真の父であると伝える。

person_pin関連NPC

ディズル大湿地帯の最大派閥であるギシュム族の酋長。ギシュム族が泥血啜る月吸蟲を封印している一帯の管理を担うことから、大酋長とも呼ばれる。武威ばった人物ではあるが、人柄は良く義理堅い。帝国近衛騎士になったエフレムの兄貴分でもあり、マナズィールも共にしたことがある。

《本連動での動き》

昨年、独断でシルトラース帝国のリーンエス王国侵攻に加担する密約を結んでいたことを告白して以降、求心力の衰えが見られている。
(6月8日追記)
イネスと近衛連隊の助力を受けて雲霞鳥の巣を攻略しようという若者達に自重を促すが、その言葉は届いていないようだ。
(7月7日追記)
雲霞鳥の氾濫の知らせを聞き、最前線に向かっている。

亡国となった帝国の皇族の、唯一と思われていた生き残り。皇位継承順位こそ八位と低いが、皇帝ヨゼフとその子女である第三皇女イダとの間に生まれた生粋の皇族と言われている。帝都から脱出して以降、各国の支援や冒険者達の助力を受けて帝国南部を奪還し、その後も帝国民の安住の地を確保しようと努めている。

《本連動での動き》

恩義のあるアシムベートの苦境を伝え聞くも、ディズル大湿地帯の内政問題である為に介入をためらっているようだ。
(7月7日追記)
帝国近衛連隊の介入と敗退を聞き、少数でディズル大湿地帯へと駆けつけた。自身の父がアシムベートであることを聞かされる。

【蠱毒】ラスリャマスの乱ではアシムベートに従った、ギシュム族の優秀な若手戦士。将来の族長候補として期待されていた中の一人である。

《本連動での動き》

集落の外縁警備を行っていた際に、道に迷ったという『征竜の巫女』と付き人を助けた。
(6月8日追記)
イネスへ迂遠なアプローチを続けているが、今のところ効果は見られていない?
(7月7日追記)
イネスが偽巫女である事を知らされ、ディズル大湿地帯に迫る未曾有の危機に混乱しつつも戦士として剣を取る。

極北からやってきた三人目の征竜の巫女。とても美人のヒューマン女性。南へ進んでいたところ、沼地に遭遇して困っていたらしい。思考はどちらかというと戦士であり、リザードマンの生き様に共感したので彼らが強くなるために協力したいという。

《本連動での動き》

ギシュム族に保護され、疲れを癒やすべく療養している。
(6月8日追記)
ヨゼフ一派との協力関係を明かし、帝国近衛連隊をディズル大湿地帯へ招き入れた。当人は集落で古老の説得を続けるようだ。
(7月7日追記)
これまでの行いは偽りであり、自分が偽の巫女である事を明かす。同じく正体を明かしたバルバスティンと共にディズル大湿地帯を去った。

枯れ木のような長身の老人。鋭い目と隙の無い身ごなしが特徴のヒューマン。偽巫女イネスの付き人を自称していたが、その正体はかつてはエフレム、近衛連隊長と並んで帝国三強の一角と言われた帝国宰相である。文官としての優秀さはもちろん、魔窟と称された帝国宮廷の頂点に立つだけの戦闘力もあわせ持つ怪人。

《本連動での動き》

格闘術を嗜むが現役は引いたと自称し、若いリザードマンがクリーパーを狩る際には師匠や軍師のように振舞う。
(6月8日追記)
状況の変化に際し、稽古を控えて巫女イネスの身辺の守りについているらしい。
(7月7日追記)
自身の正体を明かし、ヨゼフは征竜との交渉に向かっておりこの場には来ないことと近衛連隊を切り捨てたことを明かしてディズル大湿地帯から去る。

40代程のヒューマンの男性。シルトラース帝国近衛連隊長として最強の戦士とされ、滅亡前の帝国では四方将軍の上席にあり、帝国軍人の頂点であった。

《本連動での動き》

配下の近衛連隊の生き残りと共に征竜の巫女イネスと若手リザードマン達へ協力を申し出ており、雲霞鳥の巣を滅ぼすべく先陣を切った。
(7月7日追記)
龍逓架を用いて雲霞鳥の巣へ攻撃を仕掛けるも、失敗。皇帝の裏切りを聞き失意に沈みかけたが、レイウェストの檄を受けて踏みとどまった。

menu_book関連用語・情報

ギシュム族

リザードマンの中で大きな勢力を誇る武闘派一族で、『泥血啜る月吸蟲』の結界の管理や封印強化の儀式の遂行を担ってきた。二年前にラスリャマスの乱を退けた偉大な戦士アシムベートが変わらず大酋長を勤めている。 アシムベートが、滅亡以前のシルトラース帝国が計画していたリーンエス王国侵攻作戦に無断で協力を約束していた事を告白して以降、その求心力には衰えが見られている。

泥血啜る月吸蟲

伝説に残る『竜喰らい』などの超大型級に匹敵する強力さを有するとも言われている、ディズル大湿地帯の一角に物理的に封印された大型級のクリーパー。エーテルの乱れた湿原でしか生きられないと目されており、エーテルが清浄化された石垣とその内側を流れる川により形成された封印で閉じ込められている。しかし、月吸蟲が存在することにより周囲の環境は徐々にエーテルが乱れていき、石垣は崩れ、川も湿地で侵食されていくことが分かっている。かつて新暦1044年には封印が破れる事件があり、再封印のためにリザードマンは多大な犠牲を払った。そのため、ギシュム族の主導の下、月吸蟲への攻撃と封印の強化が定期的に行なわれている。
最後の封印強化は二年前。メドゥの指先ラスリャマスによる妨害が行われたが、冒険者の協力によって儀式を成功させた。

封印地帯(7月7日更新)

エーテルが清浄化された石垣と、その内側を流れる川により囲い込むことによって形成されている。月吸蟲によってエーテルの乱れが広がると、封印にも影響が出るため、石垣にはエーテルの清浄化を保つ能力のある石柱が要石のように一定間隔で埋め込まれている。封印地帯の内部に出入りするには、石垣の間に作られた通路を通り、跳ね橋のように門を降ろして内側の川を渡る必要がある。
封印の維持には、泥血啜る月吸蟲と争う雲霞鳥が必要であるとアシムベートの口から明らかにされた。

封印地帯内部の生態(7月7日更新)

乱れたエーテルにより、クリーパーが発生しやすい環境になっている。しかし、それらのクリーパー達は仲間意識があるわけでもなく、互いに共食いを繰り返す、弱肉強食の世界を形成している。無論その頂点にいるのは月吸蟲であり、リザードマンにより加えられている攻撃によって弱まった力を、他のクリーパーを捕食することにより取り戻していると言われている。またリザードマンにとっては皮肉にも、封印地帯を形成する石垣は、雲霞鳥の格好の繁殖地となっているようだ。その他の原生生物も逞しく生きている他、かつて戦場に散ったリザードマンのスケルトンなども封印地帯をうろついている。
ディズル大湿地帯の奥地には一大繁殖地が存在し、常にリザードマンの目に触れている個体とは違う変種や年経た特異個体が多数存在している。

雲霞鳥

生息域はディズル大湿地帯全域。少数であれば比較的楽に討伐可能。超低空を飛翔するものの湿地帯から出ることはない。
一定数以上集まった雲霞鳥は集団で狩りを行うが、その際に雲霞鳥は薄い靄に包まれ、この靄が雲霞鳥たちを強化する役割を担っている。靄を纏った雲霞鳥群は大湿地帯を傍若無人に食い荒らす。そのためリザードマンたちは雲霞鳥を見つけようものなら早期に討伐し、群れの形成を遅らせながら、次の群れに備える――というライフサイクルとなっている。

帝国近衛連隊(7月7日更新)

帝国崩壊以前は授恵者のみ千名程で構成され、かつてのシルトラース帝国における最強の武装集団だった。帝都滅亡に際しては幽界樹の黒い霧に苦戦しながらも、その身を挺して奮闘。ヨゼフ・バルダスら帝国中枢の帝都脱出を助けた。現在まで生存し、ヨゼフに従っているのは100名程。良い意味でも悪い意味でも帝国軍の上澄みなので、征竜は敵であるという思考はぬぐえない。
ディズル大湿地帯に訪れた本隊以外にも皇帝の直衛に残った者がいる。仇敵たる幽界樹を用いてまで雲霞鳥の巣を攻略しようとしたが果たせず、敗退して来たところで征竜との同盟を目論むヨゼフには既に切り捨てられている事を知らされた。

征竜の巫女(7月7日更新)

詳細は不明だが、征竜に何らかの役割を任じられた者たち。その身体のどこかに「征竜の紋章」と呼ばれる模様が浮かび上がる。人類社会の見聞を指示され極北より訪れたヒルルク、彼自身の見極めの為に巫女とされた帝国皇子レイウェスト・バルダスの2名が知られていた。ディズル大湿地帯に第三の巫女としてイネス・コンテスティが現れたが、帝国の手で仕立て上げられた偽物である事が明らかになった。

●
 個を圧倒する物量という物がある。黒い霧によって感覚を喪失すれども、仲間に押されるようにして雲霞鳥はひたすら前へ進んだ。100体が地に落ち、10体が葉に切り裂かれ、仲間の死を踏み台に辿り着いた1体が食らいつく。やがて幽界樹の表面はびっしりとたかった雲霞鳥に覆われ、ボロボロと崩れていった。

『キュイイイイ!』

 雲霞鳥は賢い生き物ではない。しかし、巣の危険にはひときわ敏感だ。これまでディズル大湿地帯の奥地から出てくる事の無かった年経た雲霞鳥たちは、種族の危機に対して立ち上がる。巣へと攻め入った愚か者に報復を。二本足の侵略者に死を。ディズル大湿地帯のリザードマン達に未曾有の危機が迫っていた。

●
 近衛連隊が姿を現した時点で、ヴィントのレイウェスト・バルダスらにとってはディズル大湿地帯の内政問題とは言っていられなくなった。レイウェストはバルディオン将軍を含む少数の供回りのみでいち早く動き出し、結果として今、ディズル大湿地帯に辿り着いた。

「アシムベート殿が戦装束と言うことは、やはり父上(ヨゼフ )らが何かを起こしたのだな。状況を教えて頂きたい」
「レイウェスト殿下……。どうして、ここに? ……この場は危険だ。急ぎ引き返すが良かろう」

 小柄な同盟者の急な来訪に、大酋長アシムベートは驚きを露わにし、それからごく僅かに目を細めた。リザードマンの若者と帝国近衛隊が、ディズル大湿地帯の奥にある雲霞鳥の巣に攻撃を仕掛け失敗したことと、それに対する雲霞鳥からの報復が予想されることを手短に説明する。今も、巣の辺りでは攻勢に備えて雲霞鳥が数を増しているところだろう。例年ならば現れぬような強力な特異個体も巣から姿を現しているという。歴史に残る大氾濫の到来が予測された。

「大丈夫だ、アシムベート殿。時代は変わった。もはやリザードマンが単独で脅威に対することは無い。リーンエス王国と同盟へは、出立前に急を伝えてある。冒険者ギルドも静観はするまい。もちろん私もこれまでの恩義を無かったことにするつもりはない」
「……恩義、か」

 レイウェスト一派へのアシムベートの肩入れは大きく、もしもリザードマンの助力が無ければヴィント奪還から復興までの流れはここまで順調ではなかっただろう。その返しきれぬ恩を返すのだというレイウェストの肩に、アシムベートは太くたくましい腕を置いた。

「レイウェスト殿下。全てを秘めたまま、儂は死すべきだったのかもしれぬ。だが、リーンエス王国と婚姻同盟を結ぶと聞いた」
「アシム、ベート殿……?」
「であれば、知らせておくべき事がある。レイウェスト殿下の父はヨゼフ・バルダスでは無い。……この儂だ」

 びくりと少年が震えるのを感じ、アシムベートは手を引いた。同行していたバルディオンが驚愕を露わにする。

「それは、誠でしょうか。アシムベート殿は冗談など言う方ではありますまいが……。なぜ、今。いや、今だからこそ、か……?」
「やはりバルディオン将軍は知らなかったか。王国では、混血は忌み嫌われよう。明かすにせよ秘すにせよ、当人が知らぬままには出来まい。……当然であるが、ヨゼフはこの事を知っている」

 知っていると言うよりは、ヨゼフこそが仕組んだとも言える。あの頃でさえ人の域を超えていたイダ・バルダスの魅了にアシムベートが抗う術などなかった。アシムベートとイダの間に子を為し、血族としてリザードマンの戦力を取り込む。さらに大陸最強の召喚術士であろうエフレムを傘下に加える事が、当時のヨゼフの狙いであった。

「あのような形で帝国が滅び、殿下が唯一の継承者として残ったことは、ヨゼフの想定外であっただろうな。しかし、殿下が敵として対するのであれば、あの男は殿下が儂の子だという情報を必ず使う」
「……アシムベート殿が、私の父なのか……?」
「そうだ。古老達には既に伝えた。我らリザードマンは同胞を裏切ることは無い。ヨゼフと対する際は、彼らがきっと力になるであろう」

 情報を噛み砕けずにいるレイウェストだが、アシムベートが語る言葉が微かに引っかかった。彼ら。まるでその時、そこに自分はいないかのような物言いだ。

「待って欲しい。アシムベート殿はどうされるおつもりか」
「儂はこれより最前線に出る。大酋長として、一族を守らねばならぬのだ。おそらく、生きて殿下にお会いするのはこれが最後であろう」
「……っ」
「殿下とバルディオン将軍には集落の守備をお願いしたい。この地には各部族の女子供を集めている。到着次第、大湿地帯から逃がしては居るが、多くの者の避難が間に合うまい。……殿下に、我が民を託しますぞ」

 返事を告げることが出来ぬレイウェストを優しい目で一瞥し、アシムベートは彼の代名詞である大斧を手に広場へと向かった。大酋長の元へ、戦士達が集う。

「もはや若き者も老いし者も、言葉を戦わせる時では無い。敵が来るのだ。戦士達よ、気勢を上げよ! 儂はこれより雲霞鳥の主力を攻撃し、泥血啜る月吸蟲のもとへと引きずり込む。若き者は集落を守れ!」
「オオオッ」

 冒険者たちの手でイネスに傾倒していた者たちが考え直す機会を得ていたこともあり、以前のように感情的にアシムベートに反発する声はない。雄叫びを遠くに聞きながら、レイウェストは瞑目した。ぶつけられたばかりの事を咀嚼し、波立つ心を静めようと息を吐いた。

「……アシムベート殿。……いま、私に出来ることは……」

 心揺らぐも倒れずに立つレイウェストに、忠臣バルディオンが歩むべき方向を示す。

「この地には、近衛連隊長ミルド殿がいると聞きました。ヨゼフに与しているとは言え、彼は義侠の御仁です。助力を請いましょう。彼を動かすことは、殿下にしかできますまい」

●
「……面目次第もない。まさか、雲霞鳥というのがあれほどの化け物であろうとは」

 巫女イネス・コンテスティらのいる天幕へ辿り着いた帝国近衛連隊は、隊長のマクシミリアン・ミルドを含め満身創痍であった。これまでヨゼフが善神ボルガニスクや世界樹を狙った時には、近衛連隊は前線に出されなかった。民の盾たらんとする帝国軍人の矜持に配慮した皇帝が出撃を命じなかったのだ。しかし此度は人に害為す魔獣やクリーパーである。戦士としての誇りを捨て、帝国を滅ぼした仇敵たる幽界樹すら用いたのに、敗れた彼らの表情は暗い。古老らの決断を待たずして加勢したヴァーロゥムら若きギシュム族も、意気消沈していた。

「手強い変種もいたが……。陛下のお力を借りることが出来れば、勝てる。イネス殿、陛下はいずこにおられるか。敵が数を回復させぬうちに、叩かねばならん」

 マクシミリアンの言葉に、征竜の巫女イネスは、自身の付き人と言うことになっている老人へ目を向けた。

「バルバス。いえ、バルバスティン様。どういたしますか」
「バルバスさんに、様……? イネス様、どういうことですか」
「……ヴァーロゥム。私は本当は征竜の巫女では無いのよ」

 聞きとがめたヴァーロゥムに、イネスは憂い顔で真実を告げる。巫女の付き人とは偽りの姿、帝国宰相ナサニエル・バルバスティンは喉奥に引っかかるような笑い声を上げた。

「クク、陛下はお出でにならぬよ。陛下は今頃は遠い極北を旅しておられような」
「冗談はよせ、ナサニエル殿。悪名高いかの怪物どもの力を喰らってからでなくば、征竜に勝てぬと陛下は仰せだったではないか。この地で戦い、その後に極北へ向かう計画であろうに」

 幽界樹が敗れた今、この場に皇帝が居ないのならば、広がりゆく雲霞鳥の暴威を防ぐ手段がない。事前の作戦では、群れる雲霞鳥の自己強化に対し、皇帝のエーテル収奪の力であれば対抗できると考えられていたのだ。もし、正面から雲霞鳥の大群と戦わねばならぬとしたら、マクシミリアンや近衛連隊の力があろうとも、ディズル大湿地帯のリザードマン集落は壊滅的な打撃を受けるだろう。

「……陛下は、反逆の姫、イダ・バルダスを討つべく征竜と手を組む事を選ばれた。頭の固いお前達近衛連隊はな、切り捨てられたのだ」
「な……!?」

 ナサニエルは聞き分けのない子供に向けるような目を、マクシミリアンとヴァーロゥムへ等分に向ける。

「ば、馬鹿な。陛下は、帝国の、人類の盾たる矜持を捨てるというのか。それも我らに一言の相談もなく……」
「そ、そうだ。嘘ですよね、イネス様。嘘だと言ってください」
「……ごめんなさい、ヴァーロゥム。けれどもつけた稽古は本物よ。約束通り、貴方たちはちゃんと強くなったわ」

 ナサニエル程には割り切れていないのか、罪悪感のにじむ声ではあるが、イネスはナサニエルの側に立つ。さらに言葉を続けようとしたところで、天幕の外が騒がしくなった。

●
 レイウェストはマクシミリアンの所在を聞き、イネスの天幕へと辿り着いた。ちょうど、ナサニエルがマクシミリアンに皇帝の裏切りを告げたところである。

「バルバスティン宰相か、久しいな。先の発言は、誠か。征竜と手を結ぶと」
「殿下。無論でございますとも。陛下からはイダ討滅までの間の不戦の約定、くれぐれもお忘れ無くと」
「そうか。では、近衛連隊を見捨てたのも、誠か。そちらの女性が偽の巫女であったというのも」
「イネス・コンテスティと申します、殿下。帝国宮廷の女官でございました」
「……本当に、巫女ではなかったのか……。なら、俺は、何を……」

 今まで騙されていたと理解できても、今更イネスへ剣を向けることはできなかったのだろう。怒りよりも失望が大きい様子でヴァーロゥムが悄然としている。

「バルディオン。若きリザードマン達に目配りを。悪いことを考えなければ良いのだが……」
「は。彼らとの会談が終われば、手配しましょう」

 盟を交わしているとはいえ、レイウェストを単独で相対させるには、ヨゼフ一派は信用ならぬ。バルディオンは当然のことながらこの場を離れるつもりは無い。ナサニエルが眺める中、レイウェストは項垂れたマクシミリアンへ手を延べる。

「……ヨゼフが付き従う人々をすら捨てて進むというのならば、私は拾う者でありたい。ミルド、この地を守るべく、卿らの力が必要だ。私に仕えよとは言わない。一時で良い、その剣を共に振るっては貰えまいか」
「……無論。これは我らの失態です。民草を守るに、否はありません。我らが剣も、共に」

 命ずるのでは無くただ助力を願った。その若さはマクシミリアンには眩しい物であったが、決して不快な輝きでは無い。その問答に、かつてヴィントの奪還をなしえた時のことを思い出したバルディオンは、ナサニエルに油断なく目を向けたまま、問う。

「バルバスティン卿、貴殿らにリザードマンへ助勢する用意はあるのか。無いのであれば、殿下の御前より去るが良い」
「残念ですが、我らはそのような命令は受けておりませんね、将軍。行くぞ、イネス。この場に我らの為すべき事はもはや無い」
「……はい、バルバスティン様」

 正体を明らかにしたナサニエルとイネスは気配を消し、慌ただしくなったリザードマンの集落を誰に見とがめられることもなく、誰の目に留まることすらなく抜け出していく。魔窟と言われた帝国宮廷の長である宰相ナサニエルと、帝国軍人の頂点たる近衛連隊長マクシミリアン、最強の近衛騎士エフレム。かつて帝国三強と称えられた者達は、かくして全てが道を違えることとなった。

 執筆:アルパカコネクト運営
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0